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公開:1962
監督:Robert Mulligan
地域:アラバマ州
出演:Gregory Peck、 Mary Badham、Philip Alfordほか
範疇:ドラマ/人種問題/法廷
私の評価 :☆☆☆
【Part 1】
この映画は大恐慌時代の南部の生活を描いたホームドラマであり、裁判劇であり、人種差別に抗議するドラマであり、アメリカの“父親礼賛”の映画であり、知恵遅れの人間にあたたかい目を注いだ映画であり、その全てでありますが、どれか一つではありません。
原作はNelle Harper Lee(通称ハーパー・リー)という作家のピューリッツァー賞を受賞した小説です。映画'Finding Forrester'『小説家を見つけたら』の主人公同様、Harper Leeはこれを発表後隠遁し、世界から隔絶しています。彼女(そうです、女性なのです)はアラバマ州の出身。その原作を得たこの映画は、公民権が確立される前の"Deep South"の状況、小さな町の市民感情、当時の南部の生活などを活写している作品と云えましょう。
1932年頃のアラバマ州の小さな町。Gregory Peck(グレゴリィ・ペック)演ずる弁護士は、妻を亡くして二人の子持ちです。Philip Alford(フィリップ・アルフォード)演ずる10歳の少年Jem(ジェム)と、Mary Badham(メアリ・バダム)演ずる6歳の少女Scout(スカウト)。物語は一貫して子供達が体験することとして綴られ、彼等が不在の場面は最少限に抑えられています。
少女の手で開けられた“宝物”の箱に始まるメイン・タイトルが素晴らしい。折れたクレヨン、人形、壊れた懐中時計など。クレヨンを塗ると、タイトルが白抜きで浮かび上がって来ます。タイトル・デザインの名手Saul Bass(ソウル・バス)も口惜しがったのではないかと思われる、巧妙な“手口”です(担当デザイナーはStephen Frankfurt)。成長したScoutが回想するナレーションで始まるように、子供の中でも、主に少女時代のScoutが中心で物語が展開します。
Scoutはいつも兄にくっついて歩いているお転婆娘。大木の上に作られたターザンの家のような小屋にもスルスルと上がれるし、タイヤの中に丸くなって道を転がるのも平気です。喧嘩もめっぽう強い。そうした子供の行動が導入部で懐古的に、しかも丹念に描かれます。John Megna(ジョン・マグナ)演ずる隣家に二週間遊びに来ていたDill(ディル)という7歳の少年が二人に加わります。Dillは「ぼく、ミシシッピ州のメリディアンから来たんだ」と自己紹介します。メリディアンは、これを書いている私の住んでいる町です。メリディアンは昔は栄えていた町ですし、アラバマ州に非常に近い位置関係ですので、偶然挙がった名前ではありません。なお、いくつかの情報を総合すると、この少年のモデルは、作者の少女時代の友達で隣人だったTruman Capote(トルーマン・カポーティ)だそうです。ただし、Truman Capoteはメリディアン出身ではありませんが。
この映画には二つの縦糸があり、一つは彼等の家の近くの知恵遅れの青年Boo(ブー)に関するもの。Booは終盤まで姿を見せません。何故かというと、彼の親が世間体から息子を家に閉じ込め、夜間にしか外出を許さないのです。子供達は好奇心でBooを一目見ようとしますが、恐くていつも失敗します。Booを演ずるのは、これが映画デビューのRobert Duvall(ロバート・デュヴァル)。
南部の家にはたいていポーチにブランコ式の椅子があります。今は子供専用のようですが、エアコンが普及する前は、夏に涼む場所として最高の場所だったと思われます。その南部の平和の象徴のようなブランコですが、夜間にBooの家のポーチで風に揺れる様が非常に不気味に描かれます。これから始まる悲劇を予告するかのように。
もう一つの筋は白人の娘を強姦したとして逮捕された黒人を弁護するGregory Peckの話です。公民権運動が始まるずっと前のことですから、差別も偏見も根強く、裁判所内での傍聴席も別れています。白人は一階、黒人は二階です。また、黒人には選挙権も無い時代なので、陪審員は全部白人です。明らかに無実の罪で逮捕された黒人ですが、住民の誰もが彼を有罪視し、裁判を待たずにリンチにかけようとします。被告の生命はGregory Peck一人にかかっているわけですが、黒人を弁護する彼を大人は"nigger lover"(黒ん坊に味方する奴)と呼び、彼の子供たちも学校で白い目で見られ始めます…。
裁判劇が終るとハロウィーンの季節になり、また子供達が主役になります。裁判のしこりを引き摺った事件が起り、知恵遅れの青年Booもついに姿を現わします…。
うちのカミさん(Barbara)は、「Scoutは私だ」と公言してはばかりません。彼女も少女時代はお転婆で、姉にくっついてそこらじゅうで“冒険”をしていたようです。メリディアンはこの映画の町よりはずっと大きいですし、彼女が生まれたのは映画が描いている時期のずっと後です。しかし、変化がゆったりとしている南部ですから、映画の持つ雰囲気はそっくり残っていて、施設の白人用、黒人用もまだあったそうです。
Gregory Peckは、この映画でアカデミー主演男優賞を獲得。Scout役のMary Badhamも助演女優賞候補になりました。受賞は出来ませんでしたが、彼女の自然で純真な演技は見ものです。他の二人の少年もよくやっています。監督はこれら名子役達を得て、演出するのが楽しくてしようがなかったであろうことが伝わって来ます。
胸に染み入る、いい映画です。白黒のしっかりした画調と構図も見事です。
(February 21, 2001)
【人種問題関連】
・The Defiant Ones『手錠のまゝの脱獄』 (1958)
・Black Like Me(未公開)(1964)
・In the Heat of the Night『夜の大捜査線』 (1967)
・A Soldier's Story『ソルジャー・ストーリー』 (1984)
・Sudie and Simpson(未公開)(1990)
・The Tuskegee Airmen『ブラインド・ヒル』 (1995)
・A Family Thing『ファミリー/再会のとき』 (1996)
・Once Upon a Time...When We Were Colored(未公開) (1996)
・Nightjohn(未公開)(1996)
・Miss Evers' Boys(未公開)(1997)
・Rosewood『ローズウッド』 (1997)
・Remember the Titans『タイタンズを忘れない』 (2000)
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