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The Night of the Hunter

『狩人の夜』


[Poster]


・原題をクリックするとamazon.comのInternet Movie Databaseの詳細データが見られます。邦題をクリックすると「allcinema」のデータが見られます。

・Part 2は普段は隠れていて、クリックするとJavaScriptによるウィンドウにて表示されます。取り扱いには十分お気をつけ下さい。

公開:1955
監督:Charles Laughton
地域:ウェスト・ヴァージニア州
出演:Robert Mitchum、Shelley Winters、Lillian Gish、Peter Graves、Billy Chapin、Sally Jane Bruceほか
範疇:原作もの/説教師/後家殺し/大金/少年少女/逃避行/スリラー

私の評価 :☆

【Part 1】

この映画は、その原作でも、映画中で言及される地名でも舞台はウェスト・ヴァージニア州であり、『南部もの大全集』に含めるには地域的にはちと無理があります。しかし、この映画は"Southern Gothic"(南部ゴシック)の一本として紹介されることが多く、英語版Wikipediaの"Southern Gothic"という項の「映画作品」代表作の13本にも、この映画が含まれています。

"Southern Gothic"というジャンルは、通常怪奇映画、ホラー映画と称されるものが多いようですが、Wikipediaの13本はそれらに限定されていません。

'A Street Car Named Desire'  『欲望という名の電車』(1951)
・'The Night of the Hunter'『狩人の夜』(1955) 本作
'The Defiant Ones'  『手錠のまゝの脱獄』(1958)
'A Cat on a Hot Tin Roof'  『熱いトタン屋根の猫』(1958)
・'Wise Blood' (1979)(本邦未公開)
'Angel Heart'  『エンゼル・ハート』(1987)
'Sling Blade'  『スリング・ブレイド』(1996)
'Eve's Bayou'  『プレイヤー/死の祈り』(1997)
'The Green Mile'  『グリーンマイル』(1999)  
'O Brother, Where Art Thou?'  『オー・ブラザー!』(2000)
'The Gift'  『ギフト』 (2000)
'The Skeleton Key'『スケルトン・キー』(2005)
'Black Snake Moan'『ブラック・スネーク・モーン』(2006)

『欲望という名の電車』や『熱いトタン屋根の猫』をホラーとか怪奇映画と考える人はいないでしょう。この'The Night of the Hunter'『狩人の夜』もスリラーではあっても、ホラー映画と呼ぶには相応しくありません。こういう風に並ぶと、「では"Southern Gothic"って何?」という気になりますが:-)。

この映画は"Southern Gothic"の一本としてばかりでなく、名優Charles Laughton(チャールズ・ロートン)が唯一監督した作品としても有名です。脚本はピューリッツァー賞作家James Agee(ジェイムズ・エイジー)が手掛けましたが、彼との契約を変更してまでCharles Laughtonが大幅に手を入れたとか。

大恐慌(1930年代)の頃のウェスト・ヴァージニア州のオハイオ川流域。かくれんぼする少年たちが、納屋の中で中年女性の死体を見つける。

車を走らせる説教師Robert Mitchum(ロバート・ミッチャム)。黒の上下に、黒ネクタイ、黒の帽子、黒い靴。彼は天を仰いで語りかける、「主よ、寡婦の数は6人でしたか?12人?もう覚えておりません。彼女たちはみな砂糖壺の中に金を隠しています。あなたは殺人はお嫌いかも知れないが、聖書に殺人は満ち溢れています。またいいカモにお導き下さい」そして、彼は女性嫌悪の言葉を吐く。踊り子のショーを観に行った彼は、憤激してポケットの飛び出しナイフを握りしめ、「殺すには相手が多過ぎる」と口走る。そこへ警官がやって来て、「お前を自動車泥棒の罪で逮捕する」と宣告する。彼は一ヶ月の刑務所行きとなる。

やや下流の田舎町。9歳の少年Billy Chapin(ビリー・チャピン)と4歳の妹Sally Jane Bruce(サリィ・ジェイン・ブルース)が屋外で遊んでいると、二人の父Peter Graves(ピーター・グレイヴス)が傷ついて駆け込んで来る。彼は強盗殺人を犯して得た約10,000ドルの大金を隠し、少年に「妹の面倒をみろ。金のありかは誰にも云うな。ママにも云うんじゃない」と、兄妹に誓わせる。彼は追って来た警官たちに組み伏せられ、逮捕されて裁判で絞首刑を宣告される。

Robert MitchumはPeter Gravesと同房となり、Peter Gravesの寝言によって10,000ドルの行方は彼の子供たちが知っていることを察知する。Peter Gravesが処刑された後、刑期を終えたRobert Mitchumは直ちにPeter Gravesの未亡人Shelley Winters(シェリィ・ウインタース)を訪ねる。少女Sally Jane BruceはRobert Mitchumを好きになるが、兄Billy Chapinは得体の知れぬ男を警戒してよそよそしく振る舞う。

Shelley Wintersを雇っているアイスクリーム・パーラーの老夫妻は、聖書の言葉をふんだんに使うRobert Mitchumにころりと騙される。Robert Mitchumは左手の四本の指(の第二関節と指の付け根の間)に一文字ずつ"H"、"A"、"T"、"E"、右手の指に同じく"L"、"O"、"V"、"E"と入れ墨しており(上のポスターでは左手を見せている)、みんなの前で指同士の格闘を演じ、"Love"の勝利を見せる。(少年以外の)みんなが彼を説教師として認知する。老夫妻が彼を日曜のピクニックに招待し、未亡人となったShelley Wintersを再婚させようと画策する。彼女は「彼が夫が奪った金目当てでなければいいけど」と老婦人に云う。Robert Mitchumは疑いを避けるため、「Peter Gravesは死ぬ前、『金は重しをつけて川に沈めた』と云った」(だから、金目当てではない)と伝え、Shelley Wintersを喜ばせる。

ついにShelley WintersはRobert Mitchumと結婚することになった。ハネムーンの一夜、わくわくしてRobert Mitchumに抱かれようとした彼女は、彼から「おれは、結婚は魂と魂の融合であると思う。また、この結婚は子供たち二人の精神のための筈だ。女の身体は子供を作るためのものであって、男の欲望を満たすためのものではない。キミはもっと子供が欲しいのか?」と聞かれ、「ノー」と答える。Robert Mitchumは彼女に背を向けて寝る。

Robert Mitchumは少年Billy Chapinに「金はどこに隠した?」と問い質す。少年は教えない。Robert Mitchumは自分を慕っている少女Sally Jane Bruceを標的にするが、彼女が素直に答えないのでカッとなって少女を苛めようとする。丁度帰宅したShelley Wintersが一部始終を聞いてしまい愕然とする。Shelley Wintersは、金が目的の偽装結婚だったのではない筈だと思いたがるが、下心がバレたRobert Mitchumは飛び出しナイフを振りかざして彼女を殺し、古いT型フォードに縛り付けて川に沈め、老夫妻には「妻が失踪した」と伝える。

Robert Mitchumが正体を現したことを知った少年Billy Chapinは妹とボートで下流へと逃げ出す。もう一歩のところで二人に逃げられたRobert Mitchumは野獣のような吠え声を挙げる。彼は「子供たちを連れて親戚のところへ行く」と置き手紙し、農家の馬を強奪して兄妹を追跡し始める…。

こうして題名通り“狩人の夜”となって、Robert Mitchumは馬に乗り、彼の好きな『主の御手(みて)に頼る日は』(聖歌503番)を歌いながら、夜も昼も兄妹を追います。「聖職者が、なぜ?」と思われるかも知れませんが、ある宗派の本部から派遣され、教会と教区の信徒に責任を持つ牧師とは違うんですね。南部に最も多いバプティスト系の宗派の場合、説教師(伝道師)には聖職者のような資格はなく、布教に熱心で弁舌が巧みであれば誰でも説教師を自称出来、教区や信徒に対する責任もありません(他の宗派では学問とトレーニングが必須だそうですが)。私の『公民権運動・史跡めぐり』の「フリーダム・サマー活動家三人の暗殺」の首謀者も蔭でK.K.K.に属する説教師でした。説教師は牧師から招かれてゲストとして教会で説教することもあるし、牧師が一時的に不在の場合、会衆の一人が説教師となって講話をすることもあります。また、この映画のように流れ者の場合もあるわけです。

この映画の白黒撮影の美しさは絶品です。また、1920年代に始まって世界の映画界に影響を与えたドイツ表現派的な技巧を多用している点も特徴です(全編そういうあしらいではありませんが)。

Robert Mitchumは悪漢には見えない悪漢を巧みに演じています。邪悪な本心を、誠実そうな顔と敬虔な言葉で覆い隠した“悪”(わる)と、正体がバレた時の憎々しい物言いと吠え声の演じ分けが見事。後年の'Cape Fear'『恐怖の岬』(1962)とはひと味違います。

Shelley Wintersが、説教師である夫Robert Mitchumの背広のポケットにナイフが入っているのを発見した時、彼女は驚きもせず"Men!"と云います。「男ってしようがないわね」という感じ。南部の男性の多くは常時ナイフを携帯しています。サイズは様々で、小指大の小さなナイフのこともあります。南部では狩猟や川や湖での釣りを趣味にしている男が多いので、ピックアップ・トラックと銃やナイフは必需品であると同時に、南部の男性のシンボルでもあります。彼らは「何かあった場合に備えて」ナイフを携帯しているわけです。武器というわけではなく、便利な小道具として。ナイフ一丁も持っていないのは男じゃないという感じです。ですから、アメリカ南部の田舎の男が対象であれば、Shelley Wintersの反応はしごく当然ということになります。

Shelley Wintersは薄幸な女性ばかり演じますね。'A Place in the Sun'『陽の当たる場所』(1951) では恋人にボートから湖に投げ込まれて殺され、'Lorita'『ロリータ』(1962)では再婚相手の目的が娘に近づくことだったと知って自殺します。彼女に果たしてハッピー・エンドの映画があったのかどうか疑わしいほど。ここでも、再婚した夫との禁欲的生活を信仰で乗り切ろうとする健気な姿がいじらしい。自動車に縛り付けられて川床に沈められた彼女の姿も美しい。ゆらゆらと揺れる川藻と彼女の髪。不幸な筈の彼女の安らかな顔。このワン・カットだけでも、この映画を観る価値はあるでしょう。

サイレント映画からの生き残り女優Lillian Gish(リリアン・ギッシュ)も見もの。彼女は貧しい家の子供や孤児を引き取って育てていて、偶然Robert Mitchumに追われる兄妹の面倒を見ることになります。彼女はRobert Mitchumの攻撃から猟銃を手に子供たちを守るという役を、力まず、さらりと演じています。

この映画の映像やディテールはその後数々の映画で引用(模倣)されているそうです。特に指の入れ墨のアイデアは数え切れないほど映画や音楽の題材になっているとか。

(May 27, 2007)



Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。




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