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[・] yadda-yadda-yadda

「ヤダヤダヤダ」とまるで子供が駄々をこねている感じですが、"no-no-no"という意味ではありません。"blah-blah-blah"と同じで、「などなど、等々、うんぬん」という意味です。どうでもいいような細部の事柄を並べ立てて、うんざりしている気分を表現します。

これはYiddish(欧米のユダヤ人やLondonのEast Endで用いられる言葉)から来たものだそうで、TVドラマの 'Seinfeld'『サインフェルド』シリーズ(1989〜1998)が広めたものです。主人公Seinfeldはユダヤ人。私はこのシリーズで"yadda-yadda-yadda"が使われたエピソードを観ていましたが、当時は全く意味が分りませんでした。

ある英語サイト(http://www.urbandictionary.com/define.php?term=yadda%20yadda%20yadda)に次のような例文が載っていました。

1) "Our history teacher told us about the Civil War, the shoelace tax of 1876, the election of 1880, yadda yadda yadda."

2) "Jenna told me every single detail about her trip - how big her room was, where she sat on the plane, yadda yadda yadda."

なお、『リーダーズ英和』では"yadda-yadda-yadda"とハイフンで繋いでいますが、ハイフン無し、カンマで繋ぐ、"y"の字を全て大文字にする…等々、様々に綴られています。

(November 20, 2011)

[・] "man"について

以前、日本から当地にやって来た留学生(高校生)が、「スクール・バスに乗る時、みなが運転手に向かって"Hi, man."、"Hey, man."と挨拶するので、自分もそうしている」と云っていたことに触れ、私の「それはぞんざいな云い方だからやめた方がいい」というリアクションも書きました。

その後、私自身の体験からこれについて考えさせられました。英米人は会話の中で原則的に相手の名前を連呼します。そういう環境では、挨拶でも"Hello!"や"Hi!"だけだとかなりよそよそしい感じになってしまいます。常に"Hi. Jim!"とか"Hello, Amy!"という風に相手の名を付け足すのが親愛の情の表現です。

しかし、相手の名前を知らない場合は困ります。"Hello, mister!"とは云えますが、持って回った感じと、相手を上位に置き過ぎる感じや、逆に軽蔑しているニュアンスにもなります。そこで"Hi, man."になるのかも知れません。しかし、スクール・バスの場合、経路によって運転手は固定しているでしょうから、名前は分っている筈です。 やはり、"Hi, John!"などと呼ぶのが正しいと思います。

"man"自体には「野郎」とか「おい!」という乱暴な感じはないようです。辞書では「【間投詞】驚き・熱狂の表現」とあります。ある映画の会話で、定年前の古株の言葉に新入社員が"Man!"と驚いていました。不遜な言葉でないことが解ります。

ある時、公道から私のアパートに入る前に、もの凄くのろのろ走っている車がありました。多分携帯電話で話しながら運転していたのでしょう。苛々した私はその車ををすり抜けました。運転手の黒人が"Hey man!"と大きな声で云いました。これはまさに「驚きの表現」だったでしょう:-)。

なお、間投詞としては女性に対して"Man!"と云うのもよく聞きます。性別は関係ないようです。

(September 20, 2011)

[・] I hear you.

私が通っているゴルフ場にパートタイムでレジ係を勤めているHarold(ハロルド)という男がいます。彼は常連ゴルファーの一人で、私とあるトーナメントで一緒にラウンドしたこともあります。気のいい、賑やかな男です。

恒例のシニア・トーナメントが近づいたある時、カウンターの上にそのトーナメントのチラシ券ポスターが置いてありました。その日のレジ係だったHaroldに、私は「このイラストは私が描いたんだよ」と云い、伝説的ゴルフ名人Sam Snead(サム・スニード)の絵を指でぽんぽんと叩きました。Haroldは何も云いません。飲み物の代金を払った私は、彼がよく聞こえなかったのだろうと思い、もう一度「このイラストは私が描いたんだ」と云いました。私は陽気なHaroldから「へえ!凄いじゃないか」とか、「あんた、ゴルフ以外にも達者なものがあるんだね」などの言葉を期待していました。彼が云ったのは"I hear you."でした。

私はがっかりし、彼の"I hear you."の意味を考えました。状況からして「分かったよ」であり、彼が私のイラストに何の関心も抱いていないのは確かでした。

別な時、ゴル友Richard(リチャード)と話していました。われわれはシニア・グループの大勢と一緒にチーム対抗のプレイをしています。チームのメンバーは日替わりで、勝てば負けた連中から2ドルずつ徴収し、(人数次第で)一人当たり4ドルとか10ドルとかの賞金を得ます。その頃負け続けだったRichardは、「あんた、また今日も勝つのかね?」と私に声をかけて来ました。私は笑いながら"I'm ready."(金を貰う準備は出来てる)と答えました。Richardは"I hear you."と笑いました。

カミさんに"I hear you."の意味を聞くと、「普通は"I understand."だけど、"Shut up."の場合もある」と云いました。「失礼な云い方なんだね?」と云うと、「そうとも云い切れない」とのこと。

レジ係のHaroldの"I hear you."は、私の云うことは聞いたが「だからどうなんだ?」という意味が濃厚です。大袈裟に云えば「何度も云うな」と云い変えることも出来るでしょう。彼はイラストなどに何の関心もないのです。

Richardの場合は日本語なら「よく云うよ」という感じでしょうね。

英語版サイトに「What does it mean when a guy says "I hear you".」というQ&Aがありました。多くの人間が回答していますが、概ねカミさんの答えと同じです。面白い回答に、「意味が解らなかったら"What do you mean 'I hear you'?"と聞き返しなさい。それ以外に相手の真の気持を知る方法はない」というのがありました。確かにそうですね:-)。

(August 30, 2011)

[・] 省略英語

映画を英語字幕付きで観ていると、色々発見があります。最近、いくつかの映画で、アメリカ人の定番の挨拶"How are you doing?"が、実際には"How you doing?"と云っていることを発見しました。

日本語でも「こんにちは」は「こんちわ」というくだけた挨拶に変化しますが、英語の場合もそれに近い感じ。調べると、この云い方はどうもTV番組の影響のようです。

ついでですので、"How are you doing?"の応答にも触れておきます。"Fine, thanks. And you?"などと紋切り型で応じる人にはお目にかかったことがありません。"Good. You?"と、上の応答を省略して骨格だけ用いる人が多い。

"Doing OK."という返事や、"I'm alright."、"Just fine."などという応答もよく聞かれます。絶好調でない人は"Not bad."などと云います。

儀礼的には「あなたはどう?」と聞き返すべきなのでしょうが、これを省略する人の数もかなり多い。ということは、"How are you doing?"に対して"How about you?"と聞かなくても失礼には当たらないと考えていいようです。よく知らない同士が出会った時、最初の人物が"How are you doing?"と云った場合、それへの応答が"Hi!"や"Hello!"であっても問題ありません。この場合、"How about you?"を云う必要はなくなります。

別な省略の例。"See you on Friday."が正しい英語の筈ですが、多くのアメリカ人が"See you Friday."と書いたり云ったりします。日本人も「じゃ、月曜日に会いましょうね」と必ず云う訳ではなく、「じゃ月曜ね」と云ったりします。言語というのは、どんどん省略される宿命があるようです。

では、われわれも省略英語を話し・書くべきか?というと、それはちと疑問です。教育のある年配の英米人の中には"How you doing?"を毛嫌いする人もいるかも知れません。映画の人物がやたら"fuck"を使うからおれも使おう…という誘惑は撥ね返すべきです。正しい英語は伝家の宝刀なのですから、われわれにとっては訳も分らずに付け焼き刃の当世風英語を使うより、ずっと安全です。

(August 10, 2011)

[・] Let me double-check.

カミさんがよく電話で使う表現。多分、彼女が額縁屋に勤めていた頃云い慣れた言葉だと思います。顧客から「私の注文したものはいつ出来るの?」と聞かれ、「それでしたら、もう出来ていると思います」などと云った後、"Let me double-check. Please hold on."(再度確認します。切らないでお待ち下さい)と受話器を置いてブツや伝票を調べるわけです。

可笑しいのは、初めて調べるくせに"double-check"と云うこと。既にチェック済みの事柄をもう一度確認するのが"double-check"の筈ですが、こういう云い廻しをすると入念にチェックしている感じになります。本当は一度もチェックしていなかった場合も、その不手際を覆い隠し、あたかも二度目のチェックであるかのように誤魔化す効果があります。

(July 20, 2011)

[・] 又貸し

カミさんの本を借り、それを他の人に又貸ししていいかどうか尋ねました。

私は家を借りた人が、家賃の負担軽減のため同居者(ルームメイト)を募る又貸しを"sublet"と云うことを知っていましたので、"Can I sublet the book to one of my friends?"と云ったら、カミさんに笑われました。"sublet"は不動産に限る言葉なのだそうです。

確かに『研究社 英和中辞典』にも「(不動産を)sublet、sublease」とあり、他の場合は"lend 《to Mr. A》what one has borrowed 《from Mr. B》"となっていますが、これはちとややこしい。私のケースでは、単純にCan I lend your book to one of my friends?でいいようです。どうしても“又貸し”と表現したい場合、『ライトハウス和英』の例では、"Don't lend which you borrowed from the library to your friends."(図書館の本を又貸ししてはいけない)ですが、簡単に"Don't lend library books to your friends."とする例も載っています。

(July 20, 2011)

[・] どこかでは…

私のゴル友J.B.(今年92歳)は、毎日午後5時に白ワインを夫婦で飲む慣例です。彼は気に入った相手に気軽に「ワイン飲みに来なさい」と誘います。そのワイン、実は格安の値段の代物なのですが、結構美味しく、誰もがいいワインだところっと騙されてしまいます。私はそのワインの正体を知っている上に、彼の家が私のところからかなり離れているせいもあって、滅多に招待に応じません。

それでも、彼のMacintoshコンピュータが不調になった時など、どうしても助けに行く必要が生じ、それが午後遅くなら彼は「ワインを一緒に飲もう」と云い出します。彼のワイン・タイムが5時であることを知っている私が、「まだ4時半だ。早過ぎるよ」と云うと、彼は"It's five somewhere."(どこかでは5時さ)と笑いながら云います。

日本を離れたことがない人には理解しにくいでしょうが、これは時差を使った冗談なのです。アメリカ大陸は東部標準時(Washinton D.C., New York, Georgiaなど)、中部標準時(Michigan, Texasなど)、山岳部標準時(Colorado, Arizonaなど)、太平洋標準時(California, Nevadaなど)の四つの時間帯に分かれています。

私の住むMississippi州は中部標準時帯ですから、ここの4時半は東部標準時では5時半になります。J.B.が「どこかでは5時だよ」と云ったのは、アメリカ東部ならもう5時過ぎだから飲んでいいいんだという意味です。私はこのJ.B.の言葉は彼の発明かと思っていたのですが、そうではなかったことが判りました。

Kellogg(ケロッグ)のシリアルの新製品のTV CMに次のようなものが登場しました。

若い男性が就寝時間前にKelloggの新製品の箱を見つめながら悩んでいます。食べたい!しかし、今は夜だから朝迄待たねばならない。彼は突如シリアルの箱とスプーンを引っ掴むと、タクシーで空港に行き、飛行機に乗り、見知らぬ老人のオートバイに乗せて貰って海岸に到着します。夜明けです。彼は堂々とシリアルを食べ出します。このCMの最後に現われるメッセージは"It's morning somewhere."(どこかでは朝である)というもの。

彼の居住地は明らかにされていませんが、いずれにせよ中部標準時以西に住んでいて、東に向かうことによって彼は強引に朝を迎えたわけです。

日本では使えないユーモアです。

(June 30, 2011)

[・] And you.

『英語の冒険』正篇に"Back to you!"という記事を書きました。

それは、"Merry Christmas!"という挨拶に"Back to you!"あるいは"The same to you!"と応じる表現や、"(It was) Nice meeting you."(お会い出来てよかった)に対して、ものぐさに"You, too."だの"Likewise."と応じる表現に呆れたという内容でした。

ベストセラー作家Robert B. Parker(ロバート・B・パーカー)の私立探偵Spenser(スペンサー)シリーズの最新作'Sixkill'を読んでいたら、次のようなやりとりが出て来ました。SpenserのガールフレンドSusan(スーザン)が、アメリカン・インディアンのSixkill(シックスキル)という男と初対面の会話を交わし、別れ際に挨拶し合う場面。

Sixkill:"Nice meeting you."(お会い出来てよかったです)
Susan:"And you."(私もよ)

SusanはHarvard(ハーヴァード大)を出て博士号を持つ精神分析医ですから、インテリなのです。その彼女が"Nice meeting you, too."でなく、"You, too."でさえなく、"And you."と云っているのに驚きました。多分、"You, too."の変種であって、"and"が"too"の意味を果たしているのだと思いますが(確かではありません)。

Spenserシリーズは全39冊の大河小説で、同時代の口語表現の宝庫と云えるものです。2010年に作者Robert B. Parkerが亡くなってしまったので、この'Sixkill'が遺作です。もう新作が読めないと思うと悲しいです。

(May 30, 2011)

[・] My bad.

TVコマーシャルで、若い女優が「あら、いけない私」というニュアンスの場面で"My bad."と云っていました。妙な表現なので気になって、ある日ゴルフ友達で詩も書き素人俳優でもある元大学教授Mike(マイク)に尋ねました。
「これって最近の表現なの?」
「いや。そうでもない。古くもないけどね」
「云い換えるとどういう風?」
「"My mistake."、"My fault."とかだね」

私が日本語を教えている高校生にも聞きました。
「学生たちは"My bad."ってよく云うの?」
「云いますよ」
「キミも?」
「ええ」

カミさんに聞くと「そんな表現はない」と云いました。Mikeと高校生の話をしたらびっくりしていました。

英語版Wikipedia(http://en.wikipedia.org/wiki/My_bad)を見ると、この表現は既にあったものの、スーダン生まれで後にアメリカに移住して来たバスケットの名選手が多用し、アメリカ映画'Clueless'『クルーレス』(1995)内の台詞がさらに広めた表現とされています。

WikipediaにはMikeの説明に加えて、「"I apologize."(御免なさい)の意味もある」と書かれていました。また「"bad"は名詞ではないので、これは俗語と看做される」とも書かれています。つまり、教養ある成人たちが聞けば眉を顰める表現というわけです。しかし、そういう人たちも"Drive safe."と云うのではないか?というのが私の印象ですが。【「文法・表現」の「動詞+形容詞?」の項を参照】

上記の高校生は二週間後の授業で、彼が何か勘違いをした際、実際に"My bad."と云いました。

(March 20, 2011)

【追記】

allcinema.onlineのコメントを読むと'Clueless'『クルーレス』という映画を褒めている人が多いので、Netflixのレンタルで取り寄せて見てみました。下らない映画でした。問題の"My bad."ですが、自動車運転免許の路上試験でサイクリングの男とぶつかりそうになった主人公の女子高校生が、"Oops, my bad."(おーっと、いけね)と一回云うだけでした。これで世間に広まるなんて信じられません。

(March 30, 2011)

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[・] change

"Keep the change."(お釣りは取っときなさい)という表現は誰でも知っていることと思います。タクシー料金が17ドルの場合に、20ドル札を渡して3ドルをチップとして上げる時などに使います。

私がよく参加するゴルフの集まりは好天の平日なら毎日行なわれるもので、集まったシニアたちが公平な腕前になるようにチームを分けて18ホールのスコアを競い、負けたら一人2ドルを払うという方式。四人のチームが三組出来れば、買ったチームは一人4ドルの賞金が貰えます。2ドルの参加料というのはみみっちい金額ですが、毎日プレイする人には負担にならずに丁度いい額なのです。

その日集まった人数によっては四人のチームが二組、三人のチームが一組になったりします。すると、賞金を分ける場合に半端が出ます。ある日の優勝チームの一人は"I don't need the change."と云いました。この場合、彼の"change"が意味したものは「お釣り」ではなく、明らかに「小銭」です。「おれは小銭は要らない」と辞退したわけです。

「小銭」を"small change"と云うこともありますが、"change"だけでも「小銭」の意味があるのです。

『ライトハウス和英』には「小銭入れ small-change purse」という表現が出ていますが、実際に耳にしたことはありません。

なお、余談ですが、レストラン等のチップに小銭(バラ銭)を沢山置くのは、ウェイター(ウェイトレス)を愚弄する行為だそうですのでやってはいけません。

(February 28, 2011)

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[・] 二度あることは…

カミさんがたまたま私の車を運転して、走行中にガタガタすることに気づき、「後ろのタイヤはいいけど前の二本のタイヤは交換すべきだわ」と云いました。後ろのタイヤ二本は一昨年交換し、一番安いグレードでも合計124ドルしました。私は「又か!」とうんざりしました。しかし、そう云われるとガタガタが気になり、前のタイヤもいつパンクするか分らないような不安に駆られました。

仕方なくスーパーWalmartの自動車修理部門へ行き、タイヤを交換。

その数日後、またWalmartへ買い物に行ったのですが、駐車場でバッテリーが死んでしまいました。Walmartの自動車修理部門の店員を引っ張り出し、充電器兼バッテリーを繋いで貰いましたが駄目。バッテリーが完全にお陀仏だとのことでした。仕方なく新品を購入し、彼に交換して貰いました。92ドル。

この顛末をカミさんに話したら、"Bad luck comes in threes."(悪いことは三度続く)と云い、「だから注意して」と付け加えました。彼女は日本で数年過ごしましたから「二度あることは三度ある」を引用したのかと思いました。違いました。もともと英語に「悪いことは三度続く」という表現があるのでした。

『ライトハウス和英』の「二度」の項を見ると、次のような例が出ていました。
・"Misfortune always comes in threes."(諺:不幸は常に三度続く)
・"Misfortunes never come singly."(諺:不幸は一つではやって来ない)

カミさんは「二個のタイヤとバッテリーで、悪いことは三つ続いたと云えるわ」と慰めのようなことを云いました。しかし、タイヤもバッテリーも寿命だったとしか云いようがないので、アクシデントという範疇ではありません。数百ドルの支払が続いた私にとっては「不幸」には違いないのですが、いつか訪れる寿命は不幸とは云えません。つまり、私のケースには"Bad luck comes in threes."は該当しないと思うのです。

(January 30, 2011)

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[・] Yes way

"No way!"は「とんでもない」、「駄目です」、「見込みなし」などという意味の表現です。

最近目立つのが以下のようなやりとりです。

・ある生命保険

街頭で、TVの黒人男優Dennis Haysebert(デニス・ヘイズバート)がうま過ぎるような保険の宣伝をする。通行人がそれを聞いて"No way!"(そんなのあり得ない)と云う。Dennis Haysebertはカメラに向かって"Way!"(あるんです!)と応じる。

・ある映画の一場面

ある女優がうま過ぎる話をする。それを聞いた別の女優が"No way!"(ウッソー!)と云う。最初の女優が"Yes, way!"(でもホントなの!)と応じる。

http://www.subzin.com/s/no+way+yes+way/1 という映画の台詞のコレクション・サイトで"No way! ―Yes way!"というやり取りを探すと、九つほど見つかりました。その中で一番古いのは'The Monster Squad'『ドラキュリアン』(1987)という映画です。つまり、"No way! ―Yes way!"は左程新しい表現ではないことが分ります。

上のサイトに掲載されているやり取りで最も多いのは"No way! ―Yes!"というものです。これも意味は"No way! ―Yes way!"と同じで、"No way!"(ウッソー!)を"Yes!"(ほんとなのよ!)と否定しているわけです。

urbandictionary.com というサイトは、辞書に載っていないナウな表現を(Wikipediaのように)一般参加型で集めている辞書です。これに"Yes way"という項目が出ています。【http://www.urbandictionary.com/define.php?term=yes%20way】

"Used as a confirmative, denoting the non-impossibility or existence of something somebody said 'no way' to."(「可能である」、「あり得る」ということを示す確言)

"No way!"に対し、生命保険のCMのように"Way!"と応じている表現はあまりありません。唯一、http://www.urbandictionary.com/define.php?term=Way&page=2 のページに、

"a witty response to the commonly uttered phrase 'no way'
* as seen in the blockbuster movies Wayne's World parts 1 & 2(1992年と1993年に公開された映画'Wayne's World'『ウェインズ・ワールド』で見られるように、一般的に発せられる"No way!"に対する気の利いた応答)として、"Way!"の例が掲載されています。

You: Dude, I won $100 in the lottery.(おい、宝くじで100ドル当たったぜ)
Your Friend: No Way!!(ウッソー!)
You: Way!!(ホントなんだ!)

(December 20, 2010)

【増補】

'New in Town'(未)(2009)という、Renée Zellweger主演の映画に次のようなやり取りがありました。

A: What do they want?
B: To rent a house for the new plant manager they're sending here.
A: No way.
B: Yes way.

(January 20, 2011)

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[・] Sharpshooter

私のゴルフ・ショットが結構正確に打てていた日、ゴルフ仲間の一人が「エイジはsharpshooterだ」と云いました。私は面映い思いはしながらも、狙撃手が的のド真ん中を射ち抜くイメージを抱いて嬉しい思いをしました。

[gun]

で、ある日一緒にラウンドした友人のMike(マイク)が素晴らしいショットを連発した時、私は「あんたはsharpshooterだね」と云いました。褒めたつもりでしたが、Mikeはさほど嬉しそうではありませんでした。彼は銃やピストルを何挺も持っていて、腕が落ちないように定期的に射撃の練習もしています。で、「sharpshooterって凄いんじゃないの?」と聞いてみました。意外な答えが返って来ました。

射撃の腕前のランキングには軍隊内のものと民間人のコンテスト用のものと二通りあるそうですが、そのコンテスト用のランキングは以下のようになっています(後のものほど偉くなる)。

1) Marksman
2) Sharpshooter
3) Expert
4) Master
5) High Master

軍隊の場合も訓練を経て射撃が出来るようになると先ず"marksman"(狙撃兵)になり、さらに上達すると"sharpshooter"になります。軍隊では"expert"が最高のランク。民間人のコンテストではまだその上に三つもランクがあるわけで、"sharpshooter"は「中の下」程度でしかありません。そういう事情を知ってみると、"sharpshooter"が大した褒め言葉になっていないことが分ります。

この例の場合、別にMikeに気を悪くされたわけではないのが救いですが、よく知らない分野で知ったかぶりをすると危ないこともある…という教訓になりました。

(November 20, 2010)

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[・] 句動詞

英語にphrasal verbs(句動詞、熟語動詞)と呼ばれるものがあります。主に話し言葉で用いられます。"care for"(〜を好む)や"put up with"(〜を我慢する)のように動詞+[前置詞 or 副詞]の組み合わせで、一つ一つの単語からは想像もつかないような意味になる表現です。

あるアメリカ映画を観ていたら。こっそりと行動している最中の少年が弟に"Stay put!"と云いました。場面の状況から云って、これは「じっとしてろ」という意味だと解りました。

私は日本で出版されたphrasal verbsの本を何冊か持っていますが、それらには"stay put"は載っていませんでした。僅かに『新クラウン英語熟語辞典 第三版』だけに「stay put《口語》(人・物が)動かずにいる;変わらぬ」とあるだけでした。

"Freeze!"(動くな!)を知らないで撃たれた日本人の話はよく知られていますが、"Stay put."(じっとしてろ)が命に関わる場面がないとも云えません。例えば、道路を走行中に青と白のライトを明滅させたパトカーに追尾されたとします。同乗のアメリカ人が”Pull over."と云うでしょう。これも重要なphrasal verbsの一つで、「(車を)路肩に寄せろ」という意味です。そして、あなたがベルトを外したりドアの外へ出ようとしたら"Stay put!"と云われる筈です。

アメリカでは、車を停めたら警官が近寄って来るまでじっとしていなければなりません。警官は無線かコンピュータでこちらの車のナンバーから、犯罪歴や盗難車ではないかなどを調べるらしく、これに結構時間がかかります。その間じっとしているのは拷問に近い感じです。もし、同乗のアメリカ人の"Stay put!"が理解出来ず、警官が歩み寄って来る前にこちらが外に出たりすると、凶器を持って警官に立ち向かう態度と誤解され、警官から"Freeze!"(動くな!)と云われ、それも分らないと撃たれる場合もあるでしょう。

その他、災害や事故の際、銀行強盗や追い剥ぎに襲われた場合、都市や森林、公園などで迷子になった時の電話の指示にも"Stay put."が登場する可能性大です。

"pull over"、"stay put"、"freeze"は覚えておいた方が身のためです。出来ることなら、「句動詞」や「熟語動詞」のリストに目を通しておかれることをお勧めします。

(October 30, 2010)

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[・] カメヤ騒動

NHK-TV「英語会話 I」の講師を勤めたこともある石山輝夫氏の本の一つに、次のような逸話が紹介されています。「明治初期には西洋犬のことを“カメ”あるいは“カメヤ”と称していたという。英米人が犬を呼ぶ時、"Come here!"と呼ぶのを聞いた当時の日本人は、犬=カメヤだと思ったようだ」

アパートで私の隣りに住む黒人男性(56歳)は、私が通りかかると"Come here!"とよく云います。私より年下だし、何かいいものをくれるのならともかく、常に何か私に頼み事をするだけなのです。頼み事なら、自分からこっちへやって来るべきではありませんか。

彼は脳卒中を患ったとかで、片手・片足が不自由なので、皆が彼を甘やかしているので図に乗っているような気もします。片足を引き摺りながらでも、彼はちゃんと歩けるし、車も運転出来るのです。

私にとっては「カメヤ」が忘れられない要素です。"Come here!"と呼びつけ出来るのは犬・猫など動物相手か、軍隊で上官が兵隊に、警官が容疑者に、大工の棟梁が新米に…という感じで、紛れもなく相手を見下した態度が濃厚です。対等な間柄や礼儀正しい場合は"Please come here."、"Could you come here?"、あるいは"Come here, sir."などと云うべきでしょう。

ある時、その黒人男性がまたもや私に"Come here!"と云いました。私は"What?"(何なの?)と問い返しました。彼がケーキでもくれるというのなら行かないでもないという構えです(さもしい)。彼は尚も"Come here!"を繰り返しました。あくまでも犬・猫のように「カメヤ」で呼びつけようというわけです。頭に来た私は"No!"と云って、すたすたと部屋に入ってしまいました。「No!と云える日本人」:-)。

その後、隣りの男は私に口をきかなくなりました。これまで、彼が何か私に頼みに来ることはあっても、私が彼に何か頼んだことは皆無なので、私は何ら痛痒を感じません。ただ、私の「カメヤ」への反感が正しかったかどうか、一寸気になりました。

私のカミさんは、「"Come here!"は別に失礼じゃないわ。私も"Come here a minute."などと云うわよ」と云いました。しかし、それは親しい同士の間であって、顔を知っているだけの相手に"Come here!"とは云わないそうです。

ゴルフ仲間の一人で、オクラホマ州やルイジアナ州、テネシー州などを点々とした男に聞くと、「"Come here!"と云われても別に何とも思わない」とのことでした。私は「自分の過剰反応だったろうか?」といささか心配になりました。

ある日、隣りの男が外で"Come here!"と怒鳴っているのを聞きつけ、窓から覗いて驚きました。相手はこのアパートのマネジャー(雇われ管理人)の女性だったのです。この女性も隣りの男よりずっと年上です。御婦人相手にも「カメヤ」をやっているとは!後でマネジャーのオフィスでお喋りした時、「あなたは彼から"Come here!"と云われて何とも思わないのですか?」と訊いてみました。彼女は怪訝な顔をしていましたが、私の彼との経緯を話すに及び、「イエス!彼は礼儀知らずだわよ。どんな話だったと思う?アパートの部屋の壁にフラットTVを取り付けていいか?って質問だったのよ」 私が「そんなことは"Come here!"と呼びつけるんじゃなくて、彼がオフィスへ来て尋ねるべきことだと思いますけど」と云うと、「その通りよ」と彼女。

私が私の"Come here!"論(主人→犬・猫、将校→兵士、警官→容疑者など)を展開すると、彼女はそこまでシビアには考えておらず、「腹を立てるかどうかは相手によるわ」と云いました。説明を聞くと、相手が教養もなく礼儀も弁えていない人物なら腹を立てても仕方がない…ということでした。このマネジャーはミシシッピ州の生まれ・育ちで、アラバマ州にも住んだことがあり(どちらも学力の低い州)、礼儀知らずには慣れているのでした。

「彼は、脳卒中になる前はSears(シアーズ;金物に力を入れているデパート)のマネジャーだったと云ってましたが、信じますか?」と私。「うっそーっ!」とマネジャー。「でもはっきりそう云いました。しかし、Searsのマネジャーになれる位なら、丁寧な云い方が出来る筈ですけどね」と私。「そうですとも。信じられないわ」とマネジャー。

ゴルフだけでなく色んな分野で付き合っているMike(マイク)にも聞いてみました。彼はオクラホマ州出身ですが、フロリダ州に住んだこともあり、現在はアラバマ州に住んでいます。彼はアラバマ州西部にある小さな大学の名誉教授です。「"Come here!"は失礼だ」と彼は直ちに云いました。「ま、ミシシッピで生まれ育った人間が"Please come here."とは云わないだろうが、『話したいことがある』とかいう云い方もある筈だ」

東部から来て南部に落ち着いた元眼科医にも聞いてみました。「ドクターは尊敬されるでしょうから、"Come here!"などと云われたことはないでしょうけど」と私。彼は「どんな状況であれ、"Come here!"は無礼だというしかない。そういう場合は"What is it?"と、どういう話なのか聞き返すといい」と云いました。私はそうしましたけどね。

今回の私の狭い範囲の調査では2対3で"Come here!"は失礼だという結果になっていますが、これがアメリカにおける大勢かどうかは何とも云えません。しかし、私の拒否反応もあながち的外れではなかったようで安心した次第です。

(September 30, 2010)

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[・] 商売繁盛

店は開けたものの、全然客が寄り付かない(あるいは極めて少ない)場合、英語では"Business is slow today."(今日は客足が遅い)と云います。あるいは"Business is slow on Wednesday."(水曜日は客足が落ちる)などとも云います。接客業を経験した人たちに聞くと、閑古鳥が鳴いている悲惨な場合、"Business is dead today."などとも云うそうです。

では、結構お客が来て忙しい時はどう云うのか?"slow"の反対は"fast"ですが、"Business is fast today."などという表現は聞いたことがありません。

上の接客業経験者たちに聞いてみましたが、単に"It's busy today."と云うだけで、"slow"に対応する表現は無いとのこと。もの凄く忙しい時は"We are swamped today." (目が廻るほど忙しい)と云うそうです。

"swamp"は名詞では「湿地」ですが、他動詞には「水浸しにする」という意味があり、『研究社 英和中辞典』では「(手紙・仕事・困難などが)どっと押し寄せる《しばしば受け身で用い、前置詞はwith、by》」とあり、"I'm swamped with work."(私は仕事に忙殺されている)という文例が載っています。

(September 10, 2010)

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[・] situation

映画で例えばテロリストが建物を占拠したとか、銀行強盗が人質を取って立てこもったというような場合、警官やガードマンがトランシーバーや携帯電話で本部に連絡を取ろうとします。"We have a problem here."と云うのかと思うと、彼らは"We have a situation here."と云います。私の“脳内”の辞書(非常に薄い辞書ですが)には「situation:状況」とあるだけで、それがいい状況か悪い状況かは形容詞をつけなければいけないことになっています。「ここに状況がある」では意味をなしません。

脳内辞書だけではナンですので、手元の辞書を引っくり返してみましたが、"problem"あるいは"trouble"に該当する語義は出ていませんでした。'Longman Dictionary of American English'(1983)にさえありません。僅かに『研究社 リーダーズ英和 第二版』(1999)に「難局、難問」というのが見つかりました。上に述べた警官の台詞に近いですが、ぴったりというわけではなく、まだすっきりしません。

インターネットのMerriam-Webster Online (http://www.m-w.com/)という辞書サイトがありますので、そこで"situation"を調べると、何と語義の五番目のbとして"problem"がありました。いつの間にか、"situation"には"problem"という語義が侵入していたわけです。インターネットの辞書が一番新しい筈ですから、やはり紙の辞書だけに頼っていてはいけないようです。

(August 20, 2010)

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[・] beat

LDOCEによる"beat"の最初の定義は"to hit again and again esp. with a stick or other hard instrument"(棒切れや何か固いもので何度も何度も打つ)ですから、「連打する」、「叩きのめす」という意味です。試合や対人関係の場合であれば「徹底的にやっつける」という感じだと思っていました。

私がアメリカ人からこの言葉を聞いたのは、ゴルフ場で練習していた時でした。かなり前のことですが、当時現役の医師だったMike Nicholson(マイク・ニコルスン)と親しくなり、時折ゴルフをするようになりました。ゴルフ狂のお父さんからゴルフを仕込まれたMikeは、私より数段上の腕前です。ラウンド前に並んで練習していて、私が何発かいいショットをした時、彼が"Eiji, you'll beat me easily today."と云いました。私は驚きました。

Mikeと私のゴルフは単に友好的なもので、お金を賭けたりはしていませんでした。彼の方が巧いので、スコアを競ってもいませんでした。そこに"beat"が出て来るのは場違いのように思えたのです。単に「調子良さそうだね」という場合に、"beat"という言葉は大袈裟な感じでした。

ある日曜の早朝、スーパーWalmartに買い物に出掛けました。アパートのマネジャー(60代の女性)を見掛けて挨拶したら"I thought I beat all of them."と云いました。「(私が)誰よりも早く来たと思ったのに…」という意味ですが、ここでも"beat"が出て来るのは大袈裟に感じられました。

LDOCEの"beat"の四番目の定義に"to defeat; do better than"というのがあります。"defeat"は「(敵・相手を)負かす、破る」という意味です。Mikeの場合は「徹底的にやっつける」ではなく、この「相手を凌ぐ」という軽いニュアンスで云ったのでしょう。マネジャーの場合は、別にわれわれが「早起き競争」をしているわけでもないのに、勝手に自分の早起きを自慢し、あたかも競争が行なわれているようにユーモラスに表現したわけです。

それとも、アメリカ人には常に勝ち負けを競う意識が根底にあるのでしょうか?

(July 20, 2010)

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[・] 挨拶のインフレ

"Have a nice day!"が一般的な別れの挨拶であることはよく知られています。午後になると"Have a good evening!"、夕方になると"Have a nice night!"と変化します。

以上の挨拶は商店のレジ係の挨拶の定番でもありますが、彼らは商品でも他に競合して安売りをするせいか、挨拶もエスカレートして行く傾向があります(口はタダですから)。

ある大規模食料品店の女性レジ係が"Have a great day!"と云いました。どうすれば"great day"に出来るのか分りませんし、日常というものは普通"great"とはほど遠いものです。"Have a great day!"という挨拶は何か空疎な感じがします。

あるガソリン・スタンドで買い物をしたら、女性レジ係が"Have a wonderful day!"と云いました。驚きました。"wonderful"は"great"ほど大仰ではなく、意味も曖昧ですが、一寸芝居がかっています。誰かから何かプレゼントを貰っても"wonderful"の範疇ですし、凄く美味しい食事にありついても"wonderful"と云えます。ですから、"great day"よりは"wonderful day"の方があり得る可能性は高いと云えますが、どちらも虚飾の匂いがすることには変わりはありません。

よく知りもしない相手に"Have a wonderful day!"と云うのは、いかにも大袈裟なのです。お婆ちゃんが孫に云う台詞としてなら最高です。目に入れても痛くない孫がディズニィ・ランドへ行く際に"Have a wonderful day!"と声を掛けるのは、心が篭っていますし、微笑ましいものです。見知らぬ他人であるレジ係の挨拶は、表現をエスカレートすればするほど空虚に響きます。月並みでも"Have a nice day!"が妥当でしょう。

(June 20, 2010)

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[・] 気を悪くしないで?

'Up In The Air'『マイレージ、マイライフ』(2009)という映画を観ていたら、興味深い会話が出て来ました。

解雇通告請負人George Clooney(ジョージ・クルーニィ)は年がら年中旅客機で飛びまわっているビジネス旅行の達人。彼はビジネス・ウーマンVera Farmiga(ヴェラ・ファーミガ)と知り合います。彼女も全米を飛びまわる忙しい身体。お互いに会いたくなったら出張の合間に、アメリカのどこかで出会ってセックスするという仲です。

George Clooneyは新人女性社員Anna Kendrick(アナ・ケンドリック)に解雇通告の実際の場面を見せる研修を仰せつかります。その出張の途中、ある都市にVera Farmigaを呼び寄せ、彼女をAnna Kendrickに紹介します。

若いAnna Kendrickは、中年の男女が深い交際をしていながら結婚など考えていないことに驚き、結婚を賛美する意見を述べます。しかし、彼女はちと押し付けがましい感じだったか?と反省します。
Anna:"No offense."(気を悪くしないで?)
George:"None taken."(全然)
Vera:"That's all right."(だいじょぶよ)

この"No offense."は何か単刀直入に指摘する場合、その指摘の前か後、どちらかにつけます。丁寧な云い方をする場合は、"Please don't be offended."(気を悪くなさらないで下さい)です。LDOCEの"offend"の項に次のような例文が出ています。"I hope you won't be offended if I don't finish this cake."(私がこのケーキを食べ切れなくても悪く思わないで下さい)

ただ"No offense."と云ったからといって、相手が気を悪くしない保証はありませんので御注意。

George Clooneyの"None taken."という表現を、私は初めて聞きました。何故"taken"なのか?その謎はLDOCEの"offense"の項の例文が教えてくれます。"I hope you won't take offense (=feel offended) if I ask you not to smoke."(煙草を吸わないで…とお願いしても気を悪くなさらないで下さい)"take offense"という熟語で「気を悪くする」なので、"No offense was taken."→"None taken."(全然気を悪くしないよ)と変化するようです。

余談ですが、若い女性社員を演ずるAnna Kendrickの喋り方は凄く早口ですが、私が知っている20代のアメリカ女性(大学生)の話し方とほとんどそっくりです。聴き取るのが凄く大変。性格もあるのでしょうが、断定的なものの云い方もそっくり。アメリカの大学に留学しようとしている方は、一度この映画を御覧になり、Anna Kendrickの英語を聴くことをお勧めします。

(May 30, 2010)

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【追記】

'She's out of my league'(2010)というアメリカ映画では、次のようなやりとりがありました。
女性:"Honestly I'm not interested, no offense."(正直云って興味ないの。悪く思わないで)
男性:"No offense taken."(ゼーンゼン!)

(July 13, 2010)

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[・] 銀行振込み

銀行の出納係に"Last week, I transfered some amount of money to my account."と云いました。すると、係の女性は"You wired."と云い直しました。

彼女は意味が分ったわけですから、別に云い直さなくてもいいようなものですが、専門家としては正しい表現を使わないと満足出来なかったようです。

私の日本の口座からアメリカの口座にお金を移しただけなので、私の気持としては"transfer"(移す)という行為だったわけですが、銀行員はそんなディテールは知らないので、(彼女にとって日本のことなどどうでもいい)「つまり電信送金した(振り込んだ)わけですね」と念を押したのでしょう。

確かに"wire"には「電送する、電信で送金する」という意味があり、今回の場合、これが正しい表現でした。電信という意味抜きで単なる送金の場合、

送金する:remit [send] money 《to》

…という言葉があります。名詞は"remittance"。"send"で済むのなら、sendの方が簡単ですが。

件の銀行員に「外国人に正しい表現を教えてやろう」という意識はなかったでしょうが、おかげで正しい表現を覚えることが出来ました。

(April 30, 2010)

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[・] houseとhomeの違い

私の町の家具屋さんのTV-CMの歌に、"We make your house a home"という一節があります。「当店の家具はあなたの家を家庭にします」というわけです。つまり、家は容れ物に過ぎず、そこに家具がなければ家庭にはならないと云っているのです。

「じゃ、人間は要らないのか?」と目くじらを立てるのは大人気ない。家具屋の宣伝なんですから。

ところで、このCMはもう十年近くやっているのですが、私の耳ではずっと正確に聞き取れませんでした。実は引用したフレーズは"So-and-so Furniture"(某家具店)と店名が入るので、"So-and-so Furniture makes your house a home."なのだろうかとか、自信がなかったのです。最近、この家具店の看板に同じフレーズが書いてあるのを見つけ、間違いのない引用が出来ることになりました。

しかし、この"We make your house a home"はうまく出来過ぎた文句なので、この店のオリジナルではなく、かなり言い古されたフレーズかも知れません。あるいは、どこかの大都市から盗んで来たとか:-)。

(March 30, 2010)

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[・] パンパカパーン!

これは日本人特有の表現ですね。ファンファーレのラッパの音をそのまま模しているわけです。電子レンジを「チンする」と似たようなもので、日本人の音感の良さと表現力がよく出ていると思います。英米では"dingdong"の、鐘が「キンコン」あるいは「ゴーンゴーン」と鳴る音が代表でしょうか。

パンパカパーン!という状況では、英米人は「タラーッ!」という言葉を発するのに気づいていましたが、どう綴るのか分りませんでした。最近になって、ある映画のDVDの字幕で"Ta-da!"というのにお目にかかり、『研究社 リーダーズ英和』を見たところ、「ta-da(h):ジャジャーン《人や物を発表・示すとき》」となっていました。ジャジャーンはシンバルの音ですね。これまた、楽器音です。

こういう音や動物の鳴き声を網羅した本があります。
『漫画で楽しむ 英語擬音語辞典』
改田昌直★クロイワ・カズ 画『リーダーズ英和辞典』編集部編(研究社刊、1985)

“漫画”とは云っても滑稽なものではなく、音の出る状況を示しているだけです。残念ながら、カテゴリー別になっていないので、擬音語を探す時に223ページにわたるイラストを全部見なくてはならず、厄介です。

(February 20, 2010)

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[・] 「サー」の諸相

"sir"は年上、上司、顧客など、丁寧にものを云う場合に使われると思われていますが、そうとも限りません。見知らぬ人にものを尋ねる際、相手が男性であれば"Sir?"と呼びかけます(女性なら"Ma'am?"です)。相手が自分より年下であっても、"Sir?"です。この"sir"は、日本語の「さあ、出掛けよう!」の「さあ」のように明るい開放的な発音ではなく、口の中で押し殺したようなくぐもった発音です。

私が後に続く人のためにドアを押さえていると、白髪の老紳士が"Thank you, sir!"と云って通り過ぎて行きます。年上の人から"sir"をつけられると、非常に嬉しいものです。女性の場合は、"sir"抜きで単に"Thank you!"とだけ云う人が多いようです。

80歳とか83歳の老人たちとゴルフをしていて、彼らがパットしたボールを拾って上げると、ここでも"Thank you, sir!"と云われることがあります。相当親しいにもかかわらずです。一寸ふざけて慇懃に「忝(かたじけな)い」と云っている気配無きにしもあらずですが、間違いなく感謝の気持も70%以上はあると思います。高齢になると屈むのが大変ですからね。

1986年のマスターズ・トーナメントは、当時46歳で最高齢の優勝者となったJack Nicklaus(ジャック・ニクラス)のトーナメントとして有名です。トップ・グループの一人となったJack Nicklausは、最終日17番ホールで下りの難しいパットに直面しました。そのパットがカップに沈んだ時、CBS-TVのアナウンサーの一人は声高に"Yes, sir!"と叫びました。ゴルフの名場面を集めた番組が企画されると、この"Yes, sir!"は常に登場するほど有名な言葉です。これは明らかに「ハイ、そうです」ではなく、「お見事!」、「さすが!」、「参りました」というような意味合いです。

私はアメリカで客商売を経験したことがないせいで、なかなか"sir"や"ma'am"が口から出ませんでした。十年以上経って、やっと最近頻繁に出るようになったところです。

私が日本食材を買いに行く韓国系の店の女主人(二世ではなく移民)は、とても流暢で達者な英語を喋るのですが、主なお客が女性であるせいか、あるいは直前に電話していた相手が女性だったのか、私に"Yes, ma'am."と返事して"Sorry. Yes, sir."と云い直すことが時々あります。"sir"とか"ma'am"のような表現がアジア系の言語にないせいで、なかなか慣れないものなんでしょうね。

'Thieves Like Us'『ボウイ&キーチ』(1974)という映画を観ていたら、若い銀行強盗が若い女性にクイズを出し、彼女の答えに"No, sir!"と応じていました。"sir"と"ma'am"の使い分けが出来ないことによって、彼が南部の教養の無い男であることを表現したという見方も可能ですが、彼は"sir"と"sirree"(「サァリー」と発音)を混同していたとも考えられます。これは"Yes, sirree."あるいは"No, sirree."という風に使われ、"yes"、"no"を強調する言葉ですが、この場合相手の性別は関係ありません。彼が"No, sirree."と云えば何も問題なかったのですが。

(January 30, 2010)

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[・] Enjoy your movie

映画館の廊下での出来事。切符を買い、いくつもあるauditorium(映写室+観客席)の中から、私が見たい映画がかかっているauditoriumに向かった時、目指すドアから私の知っている人が出て来ました。前の上映はかなり前に終わっているので、上映開始前にポップコーンを買いに行くかトイレに用事があるのでしょう。声を掛けようかと思った矢先、彼は入れ違いに入って行く人物に"Enjoy your movie!"と声を掛けて、私には気づかずに去って行きました。

私は彼が大金持ちであり大の映画ファンであることを知っていました。何しろ、自家用機で近くの大都市へ映画を観に行くんだそうですから凄いでしょ。しかし、彼がこの映画館を所有しちゃったという話は聞いたことがありません。

何故私がそんなことを考えたかというと、彼の"Enjoy your movie!"という挨拶が映画館の支配人の台詞のように聞こえたからです。これから自分も観客として一緒に観るロードショーの映画について、友人に"Enjoy your movie!"なんて云うだろうかと思ったのです。"Enjoy your trip!"とは云うし、"Enjoy your dinner!"とも云います。しかし、それは話者と相手が一緒に旅行するわけではなく、相手と一緒の食事でもありません。完全に別個のものです。

この映画館チェーンが上映開始前に映写する「まだポップコーンやコークを買いに行く時間はある」、「携帯電話はオフに」、「お喋りはやめて」、「ゴミはくずかごに」などのメッセージ・フィルムの最後で色っぽい女性の声が"Enjoy the show!"とアナウンスします。これでさえ"the show"であり、"your show"ではありません。一緒に観る映画について"your movie"などと云うのは、劇場関係者(オーナー、支配人、もぎり)などが発するお世辞っぽい云い方のようにしか思えませんでした。

しかし、私のアメリカ人の友人に聞いてみると、"Enjoy your movie!"は全然おかしくないと云うのです。日米の感覚の違いですね。われわれは「私の本」、「あなたの本」とは云うものの(これらは所有物である)、「私の映画」、「あなたの映画」なんて云いませんもんね。

(January 10, 2010)

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[・] league

"league"(リーグ)と聞けば「同盟」、「連盟」、「大リーグ」などという日本語が浮かぶのが普通です。

以前定期的にゴルフを一緒にしていた老人たち三人のグループの一人から「最近の調子はどうかね?」と聞かれ、当時好調だった何回かのラウンドのスコアを告げました。すると、彼は"Then, you are out of our league."と云いました。なぜ連盟なんて言葉が出て来るのか分らず、「どういう意味?」と聞きました。「"league"は同じレヴェルということだ。あんたの腕前は、われわれの手の届かないところへ到達してしまったようだと云ったんだ」と教えてくれました。

LDOCE(Longman's Dictionary of Contemporary English)の"league"を見ると、定義の三番目に"(informal) a level of quality; class"とあります。『研究社 リーダーズ英和』の例文には"He is hardly in your league.(彼は到底あなたには及ばない)、"He is not in the same league with you.(彼はあなたには及ばない)、"The matter's out of my league.(私の領分[実力の範囲]ではない)などが載っています。

つまり、"league"と云っても必ずしも団体である必要はなく、同種として漠然と括られるグループであることもあり、さらに同品質(階級、腕前など)のグループを指すことが分ります。

ついでですが、日本でも人気のMLB(Major League Baseball、大リーグ)の正式発音は「メイジャー・リーグ」であって「メジャー」ではありませんので御注意。メジャー(measure)は「物差し」です。

(November 20, 2009)

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[・] Coolのニュアンス

われわれが最初に出会う"cool"は「涼しい」という気候の表現です。次に「カッコいい」というナウな表現ではないでしょうか?

私に印象的だった"cool"は、ミュージカル映画'West Side Story'で、白人不良少年団のボスRuss Tambryn(ラス・タンブリン)がプエルトリコ系不良少年団に殺された時、復讐の殴り込みをかけようとする一同を諌めて長身のTucker Smith(タッカー・スミス)が歌う"Cool"でした。これは「落ち着け」という意味でした。彼の台詞の一つ"Play it cool."は、英英辞典'LDOCE'(Longman Dictionary of Contemporary English)にも"to behave in a calm and unexcited way; not lose one's temper"とあります。

ところでその英英辞典で驚いたのですが、「カッコいい」に当たる用例"You look really cool in that new dress."の"cool"は「very good"という意味だがold-fash sl、つまり「時代遅れのスラング」と位置づけられていることです。実際にはこの意味でアメリカの青少年が"Cool!"を連発するのを知っているので、“時代遅れ”というのは信じられない思いです。私の住んでいる州がアメリカでも“時代遅れ”の地域とも云えますが:-)、TV CMや番組内でも「カッコいい」に当たる"Cool!"は現在でも結構耳にします。

ある時、50代の白人男性に「明日、一緒にゴルフしない?」と電話しました。彼の返事は"That's cool."でした。私はゴルフの約束が「カッコいい」とは思えなかったのですが、いずれにせよ彼の返事は"Yes."であると思って、時間などについて話を進めました。彼は電話中、何度も"Cool."を連発しました。

その後、カミさんと60代の白人男性と三人で英語についての話題をする機会がありました。そこで私が上の電話の一件を話すと、その男性は「それは"Yes."という意味だ」と断言しました。私が「"It suits me."と似たような表現だろうか?」と云うと、カミさんが「意味は同じだけど、"It suits me."は落ち着いた表現。"That's cool."は結構興奮している感じ」と説明してくれました。

"cool"に「冷静」と「興奮気味のYes」と、温度的に相反するニュアンスがあるとは知りませんでした。

(October 10, 2009)

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[・] Your fly is open.

"Your fly is undone."とも云うそうですが、私は聞いたことはありません。この"fly"とは何かというと、ファスナーなんですね。「ズボンの前が開いていますよ」と注意する際の言葉です。「ファスナー」と「チャック」という言葉しか知らないと、「エ?」、「何ですって?」と聞き返すことになり、相手は仕方なく指差して教えてくれることになります。向こうも本当は指差したりしたくないし、こちらも指差された場所が場所なので恥ずかしいことこの上もありません。

アメリカ映画'Definitely, Maybe'『ラブ・ダイアリーズ』(2008)の中で主人公Ryan Reynolds(ライアン・レイノルズ)は"Your fly is down."と云っていました。

では「シミちょろ」はどうか?『研究社英和中辞典』には「あの女、シミちょろだ」として"Her slip is showing."という表現が載っています。"her"(彼女)であって「あなた」ではないところが留意点でしょう。日本でも男性が女性に「あなた、シミちょろですよ」とは云いません。女性を赤面させるだけで感謝はされないからです。女性同士で、「一寸あなた、シミちょろよ」というのは感謝されるでしょう。男性は、英語は知っていても使わない方がいいようです。

(September 10, 2009)

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[・] I mean it.

かなり前のことです。私がカミさんに何か軽い話題を口にし、カミさんが「信じられない。冗談でしょ?」というようなリアクションをしました。私が"I mean it."と云うと、彼女は一瞬沈黙し、「"I mean it."というのは、もっと深刻な場合に使うものだ」と説明しました。

私は「嘘じゃない。ほんとだよ」程度の気持で"I mean it."と云ったのですが、これはその場合過剰な表現だったようです。

正しいTPOは次のような場合でしょう。
1) 拳銃を振りかざした男が、相手に"I'll shoot you. I mean it."
2) 荒れ狂う夫に妻が、"I'll call the police. I mean it."
3) 真剣に詫びる人が、"I'm terribly sorry. I mean it."

いずれも口先だけの脅しや詫びではなく、「本心で云っているんだ!」、「本気だよ!」と主張しているわけです。この台詞は日常会話の"You are kidding!"に対する応答としては深刻過ぎ、もっと切羽詰まった非常時のためにとっておくべきもののようです。

「冗談でしょ?」に対しては"That's true."とか"I'm not kidding."が相応しいでしょう。

(August 20, 2009)

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[・] ビールのお代わりは?

もう20年以上前になりますが、マレーシアのボルネオ島にオラウンウータンを撮影に行った時のことです。熱帯のジャングルの中で汗だくになって一日の撮影を終え、宿の風呂で汗を流すと、スタッフ四人の楽しみは夕食です。たまにマレーシア風の食事にも行きましたが、大抵は中華料理店でした。

注文した食事が運ばれて来るまで、われわれはささやかにビールで乾杯し、お風呂の後の乾いた喉を潤しました。数分経つと中国系のウェイトレスがやって来て、"Some more beer?"と聞きます。彼女は英語は達者ではないのですが、これだけは云い慣れていて流暢でした。

当時まだそれほど海外取材を経験していなかった私は、「?」と思いました。紅茶、コーフィー、ミルクなどは不可算名詞であり、"a cup of"とか"a glass of"をつけないといけないと教わっていました。数えられないものに"some"をつけていいのだろうか?一行の中にアメリカ留学したことのある若いアシスタント・ディレクターがいたので、私の疑問をぶつけてみましたが、彼にも明確な答えは出せませんでした。私は「ここはマレーシアの田舎だから、現地人の英語なんて滅茶苦茶なんだろう」と決めつけてしまいました。

しかし、後になって液体としてのビールは"a glass of beer"とか"a pint of beer"であるが、現実的には瓶詰めのビールは"a beer"、"two beers"と云う場合もあることが解りました。正しくは"two bottles of beer"ですが、バーやレストランの客が"Two more beers, please."とか"Three beers!"などと注文し、ウェイターも"Two beers?"、"Three beers?"と云いたがるのは成り行きとして理解出来るところです。

Oxford出版局が出した英文法の本'Basic English Usage'にも、ちゃんと次のような例が載っていました。

"Would you like some more beer?"

この本によれば、この表現はもっと興味深い内容を含んでいたのでした。《平叙文では"some"、疑問文や否定文では"any"を使うのが文法的に正しいものの、質問者が相手の"yes"という返事を期待する場合は"some"を使う》のだそうです。

"Could I have some brown rice, please?"
"Have you got some glasses that I could borrow?"

マレーシアの中国系ウェイトレスは、ちゃんとOxfordでも通じる英語で話していたのでした。

(July 30, 2009)

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[・] Be my guest.

私のゴルフ友達の一人はゴルフ場の隣りに住んでいます。彼の裏庭(大木が茂る広い庭)にボンボンとゴルフ・ボールが飛び込んで来るということは聞いていました。

ある日、彼とゴルフ場で一緒になった時、彼は車のトランクを開けて見せました。ゴルフ・ボールがトランクを埋め尽くしていました。せっせと拾い集めた直後だったのでしょう。彼は"Be my guest."と私に云いました。その表現を聞いたのは初めてでしたが、「欲しけりゃ取りなさい」と云っているのは明らかでした。私はボールなら何でもいいというタイプのゴルファーではないのと、風雨にさらされたボールはあまり飛ばないということを知っていたので、"Thanks. But, no thanks."と答え、彼をがっかりさせました。

『研究社英和中辞典』で"Be my guest."を見ると、「(電話やペンなどを)どうぞ、御自由にお使い下さい」、「お召し上がり下さい」と出ていました。

イギリスの作家Dick Francis(ディック・フランシス)の“競馬ミステリ”の一つ'Under Orders'(2006)を読んでいたら、面白い箇所がありました。主人公は探偵で八百長事件と殺人事件を調べています。彼の元・義父(退役提督)に調べものを頼んで予想外の成果を得た時、主人公は「今度アシスタントが必要になったら、あなたを雇いますよ」と冗談を云います。元提督が「わしは人に使われるのには慣れておらん」と応じると、主人公が"Then, be my boss."と云うのです。「(使われるのが嫌なら)私のボスになりなさい」と云うわけです。

"Be my..."という表現は色々に使えるんだと悟らされました("Be my baby."という古い歌もありましたね)。

(July 10, 2009)

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[・] 差別語

人種を軽蔑する言葉は沢山ありますが、ここではアメリカ国内の差別語に限定します。

アメリカ映画を観て誤解する向きがあるかも知れません。最近の映画には“黒ん坊”とでも云うべき"nigger"という言葉が溢れています。黒人自身が使っていますので、「別に差別語でもないんじゃないの?」と思ってしまう人が出て来ても不思議ではありません。

黒人同士で"nigger"と云っている場合は慣れ合いなので問題ないのです。お互いに罵り合う時にも使っているようですが、大半はふざけて使っています。日本でも地方出身者がお互いに「田舎者」と云うのは許されるでしょうが、都会の人間が地方出身者を「田舎者」呼ばわりしたら事情は一変します。"nigger"の場合はそんな程度ではなく、殴り倒されるか、下手をしたら殺されます。それほどひどい差別語なのです。

黒人を軽蔑する言葉には"coon"というのもあります。"Racoon"(アライグマ)の略称です。これも黒人に向かって使ってはいけません。また、黒人たちは長い間白人から"boy"あるいは"girl"と呼ばれて来ました。老人や老婆であっても、"boy"、"girl"でした。これほど屈辱的な呼びかけはないでしょう。'Driving Miss Daisy'『ドライビング・MISS・デイジー』(1989)という映画で、老黒人運転手Morgan Freeman(モーガン・フリーマン)も南部の白人たちから"Hey boy!"と呼ばれていました。

白人を罵る言葉は"white trash"(白人のクズ)です。奴隷制があった時代に、奴隷である黒人と同じような貧しい生活をしていた白人も多数存在しました。彼らを指す言葉が"white trash"でした。"nigger"が単に皮膚の色を指すのに較べ、"white trash"はどん底の身分、経済状態、教育の程度など全てを包含しますので、白人にとってこれほどきつい一撃はないでしょう。

南部の頑迷固陋・無知蒙昧な白人を指す言葉に"redneck"があります。もともとはsharecropper(畑、種、肥料、生活費などを農園主から前借りし、収穫物で借金を返済した貧しい農民)の首が赤く日焼けしていたことに由来すると云われています。現在では首が赤いかどうかに関わらず、無学・無教養・不躾・傲慢・男尊女卑・人種差別などの特徴を持つ人物を指す差別語です。"nigger"同様、南部人同士がふざけてお互いに"redneck"と云い合うことはありますが、だからと云って北部や外国の人間が彼らを"redneck"と云ったらコチンと来るでしょう。「田舎者」の例と同じです。南部生まれの私のカミさんでさえ「私は"redneck"ではない」と云っています。

これらの言葉は知っておくだけにとどめ、自分では使わない方が身のためです。

(June 10, 2009)

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[・] Come on!

"Come on!"は口語的表現ではしばしば"C'mon!"と短縮されます。日本人の誰もが、これは「こっちへ来なさい!」という表現だと知っていますが、実は様々な意味で使われます。

例えば恥ずかしがって歌を歌おうとしない人、発言しない人、写真を撮ろうとするのに顔を伏せている人…などに対して"C'mon!"と云えば、それは「さあ、勇気を出して歌いなさい(意見を云いなさい、こっちを向いて)」という激励、示唆、勧誘の意味になります。

「宝くじに当たったんだ」と云う人に"C'mon!"と云えば、「またあ!(冗談でしょ?)」、「ウッソー!」、「ふざけるのもいい加減にしてよ」という意味です。

私の友人がある男と立ち話をした後、私に「あんたの友達に会ったぜ」というので、「誰?」と聞くと「名前は忘れたが、前に一緒にゴルフした男」と云います。その男は私に友達甲斐のない行いをしたので絶交していました。私が「あいつなら、絶交したからおれの友達じゃないよ」と云うと、"C'mon!"と云われました。「そんなあ!」という感じでしょうか。

文字通りの解釈にならない表現は多数存在しますが、「来なさい」の反対の"Get out here!"(ゲラルヒアと発音)もその一つ。字面は「出て行け!」ですが、これも「ウッソー!」、「いい加減にしてよ」、「冗談でしょ!」という意味で使われることがあります。「出てけ!」と云われたと思って腹を立ててはいけません。

(April 30, 2009)

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[・] PCとは何ぞや?【ヒント:コンピュータではありません】

私はアメリカ人に日本語を教えていますので、色々な教材を自主制作しています。そのうちの一つは"Basic Japanese Verbs"というもので、基本的な動詞の動き(歩く、見るなど)100種類を網羅したDVDです。なぜDVDかと云うと、一つ一つの動詞に映画の1シーンが数10秒表示され、そこに"walk"とか"see"などと英単語をスーパーする趣向だからです。生徒は数10秒後に日本語が表示される前に、即座に日本語の動詞を口にしなければなりません。授業が高度になると、素早く動詞の活用を暗唱することになります。

[Phoebe Cates]

ある日、もう他州の大学へ行くことが決まっていたアメリカ人の娘さんが訪ねて来ました。彼女は日本のアニメが入り口となって日本贔屓になり、日本語を独学していたそうです。「もっと早く知っていたら、あなた(筆者)から日本語を教われたのに…」と残念がっていました。私は自主制作の教材を色々見せ、例のDVDも見せました。すると、ある場面で彼女が「きゃああ!」と叫んで目を覆いました。

当時の私の生徒は20代の独身青年たちでしたから、彼らの興味を惹くためにある単語のところで女性の上半身ヌードの場面を使っていました。娘さんが眼を覆ったのはそこでした。私は呆れました。小学生の男の子にこのDVDを見せたら、付き添いの母親が凄い剣幕で怒るでしょう。しかし、彼女はもう19か二十歳になるのだし、性に開放的なアメリカで育っていれば「まあ!」ぐらいは云うかもしれないが、そんな大騒ぎすることもあるまいと思ったのです。彼女は「ひどい!わたしにこんなもの見せるなんて!」と抗議しました。「わたし、まだvirginなんですよ!」とまで云いました。私は、とにかく彼女に詫びてDVDは引っ込めました。その後、私はそのDVDは編集し直し、上半身ヌードは消滅させました。

現在の日本語の生徒は70歳の元医師です。彼にこの顛末を話したら、彼は「現代はPCでなきゃいかん時代だ」と云いました。「PC?」と私が聞き返すと、「PCすなわち"politically correct"でないと糾弾されるということです」と教えてくれました。

"politically correct"(形容詞)、"politically correctness"(名詞)、どちらも"PC"と略されます。これは「政治的公正さ」を意味し、人種差別、性差別、同性愛者差別などを排除しようという観念です。“政治的”という形容詞がついていますが、われわれ庶民のレヴェルでは“政治的”というより、“道徳的”という形容詞が相応しいでしょう。

上の元医師は「私が大学生だった頃、教授はどんな冗談も云えたし、抗議されることなど皆無だった。政治、宗教、人種、性別、“馬鹿なブロンド”ジョークなど、何でも口に出来た。今や、もうそういうことは許されない。大学教授たちも冗談のネタに困っているらしい」と云いました。

TVで映画が放送されると、時々「ピン!」とか云って台詞が途切れることがありますね。あれは差別用語が消されているわけで、これも放送局が"politically correctness"を保とうとしている努力の一端と云えます(私は古典落語などの言葉を消す日本の放送局の自主規制には反対ですが)。

【おことわり】画像はhttps://68.media.tumblr.com/にリンクして表示させて頂いています。

(April 10, 2009)

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[・] Why don't you?

『英語の冒険』(正篇)の「文法・表現」に"Why don't you...?"という記事を書きました。突き詰めれば根源的にはそれと同じなのかも知れませんが、前のは疑問文であるのに対し、こちらは応答表現なのです。

“南部もの”映画の一つ'Bright Road'(1953年、本邦未公開)を観ていました。これは新米の黒人女教師Drothy Dundridge(ドロシー・ダンドリッジ)がHarry Belafonte(ハリィ・ベラフォンテ)が校長を務める黒人用小学校に赴任し、落第坊主の黒人少年を相手にアメリカ版“熱中時代”を展開するというお話。

[Bright Road]

ある日の夕刻、生徒たちの成績表作りにあれこれ悩んだDrothy Dundridgeが帰りかけると、校長室でHarry Belafonteがギターを弾き語りしています。聞き惚れた彼女は「素晴らしいバラードですね」と褒め、「ではさようなら」と去りかけます。Harry Belafonteはギターをケースにしまい、「あ、一寸待って!」と彼女を呼び止め、「すごく疲れてるみたいだね」と云います。彼女は素直に「ええ、疲れてます」と答えます。

そこでHarry Belafonteが何か云い、Drothy Dundridgeが"Why don't you?"と応え、二人は一緒に学校を出て行きます。彼女の発音は"Why not?"と同じように尻下がりでした。

明らかにHarry Belafonteは、Drothy Dundridgeを慰めるために「アイスクリーム・ソーダを御馳走しましょう」と云い、彼女は「いいですね」と応じたのです。"Why not?"ならよく聞くのですが、"Why don't you?"は初めてでした。Harry Belafonteの台詞が聞き取れないのも口惜しい。そこで、その部分のヴィデオを友人のMike(マイク)に聞いて貰いました。

"Why don't I walk you down for an ice cream soda?"

これがHarry Belafonteの台詞なんだそうです。日本人の私には随分持って回った云い方に思えましたが、Mikeに云わせればそんなことはないそうです。「あまり字義通りに考えちゃいけない」と云われました。

試みに辞書を引くと、"Why don't you?"という応答は正式な云い方で、"Why not?"はその省略形と出ていました。つまり、意味は同じで「いいですね」と相手の提案に同意する表現です。研究社の新英和中辞典第6版には「親しい間柄で用い、目上の人には用いない」とありますが、新米教師が校長に対して云ってるんですから、この説明が正しいとは思えません。

"Why don't you?"のもう一つの用法を見つけました。

'Common American Phrases in Everyday Contexts'
by Richard A. Spears (National Textbook Company, 1992, $9.95)

これに"Why don't you?"という見出しがあり、「命令形の最後につける疑問形の句」で、
・"Make a lap, why don't you?"(腰掛けてくれよ=何で立ってるんだ?)
 "Sorry. I didn't know I was in the way."(ご免。邪魔だったね)

・"Try it again, why don't you?"(もう一度やってみりゃいいだろ)
 "I hope I get it right this time."(今度はちゃんとやるわよ)

最初のDrothy Dundridgeの台詞も"Treat me, why don't you?"(奢って下さいな)の命令形の部分が省略されているということなのでしょう。

【おことわり】画像はhttp://i.cdn.turner.com/にリンクして表示させて頂いています。

(March 10, 2009)

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[・] I love you.

私の階下に黒人女性が住んでいた時のこと。彼女には孫や曾孫がわんさといます。時々、そういう子供たちが親に連れられてやって来ます。彼らが帰る時、黒人女性は"I love you!"と云いながら見送り、子供たちは"I love you!"とお祖母ちゃんに云いながら車へ向かいます。黒人女性は再度"I love you!"と云います。

私にはこれが"I love you!"の大安売りのように思えました。まるで「さよなら」か「またね!」と同じ感覚で"I love you!"という言葉が発せられています。私には欧米における「愛」、あるいはクリスチャンの「愛」はもっと深いものだという先入観がありました。アメリカ人の夫婦はことあるごとに"I love you!"を口にしてお互いの愛情を再確認したがるということは知っていましたが、あまりにも軽々と口にすると本来の意味が薄れるような気がします。

『大草原の小さな家』のヴィデオを観ていましたら、主人公の白人娘Laura(ローラ、この回では18歳ぐらい)が家を出て行きながら(振り向きもせずに)"I love you!"と母親に云い、母親も"I love you!"と返していました。これも「行って来ます」、「行っといで」というやりとりに近い。まともに「愛してるわ」などと字幕を入れる雰囲気ではありません(英語版なので、日本語字幕はなかったのですが)。

『大草原の小さな家』は古いですが、2008年公開のアメリカ映画'Untraceable'『ブラックサイト』は、Diane Lane(ダイアン・レイン)演ずる白人FBIエージェントの物語。彼女が一人娘(小学生)を学校に送って行くと、娘は"I love you!"と云いながら門をくぐって行き、Diane Laneも"I love you!"と応じていました。

まさに、'I love you."は「またね!」に変貌していたのです。

【付記】

他の映画をDVDで観ていて、英語字幕を表示させていたら、主語抜きで単に"Love you!"と母娘で云い交わすケースがありました。形骸化の極ですね。

(January 20, 2009)、付記(April 30, 2010)

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[・] 卑語・俗語

私がゴルフをする老人の一人は、自分を含めたゴルフ仲間のことを"old fart"と呼びます。'fart"は「屁」ですので、ひどく下品に聞こえますが、『リーダーズ英和辞典』では“卑語”ではなく《俗》に分類されていますので、公の席のスピーチでもなければ問題ないようです。

何か気の利いた行動を取った時とか、羨まれるような結果を得た時、"smart ass"と云われることがあります。"ass"は「尻」で大体いい意味には使われません。しかしこれも『リーダーズ英和辞典』では《俗》に分類されているので、使っていけない言葉ではないようです。「生意気なやつ、小賢しいやつ」というような意味。私の場合、面と向かって云われて"ass"の語感からムッとしたのですが、まあ妬まれてもいいようなシチュエーションだったので怒りはしませんでした。後で意味を調べ、やはり怒らなくて正解だったと思いました。

ある教会役員(聖職者ではない)とゴルフした時のこと。彼がミスすると罵り声を挙げます。"God damn it!"と云ってるのだと思って、彼に「教会役員がそんな言葉を発していいのか?」とからかったら、「"God"とは云ってない。"Dog"と云ってるんだ」という返事。"Dog damn it!"だったのです。「神」を引っくり返すと「犬」になるんですね。しかし、どっちであろうと傍で聞いている者は"God"と翻訳して聞いてますから、結果は同じなんですが。

これもゴルフ仲間の台詞で、ショットに失敗した時に"Son of a gun!"と云う連中がいます。私は"Son of a bitch!"とボールを罵っているのかと思いました。『研究社・英和中辞典』には「Son of a gun!:《口語》おやおや、しまった、ちぇっ」とあるので、これが正しければ何も問題はないのですが、'Word and Phrase Origins' by Robert Hendrickson(Checkmark Books, 1997)を見ると大違い。「"Son of a gun"は"Son of a bitch"のもっと強烈な意味あいの婉曲語法。ただし、友人同士では"You old son of a gun!"と親愛の情を表す場合もある」とのこと。私の経験では、『英和中辞典』の云うように「しまった!」という場面で発せられているには違いないのですが、結局"Son of a bitch!"と罵っているのと変わりないわけです。

次もゴルフの例で恐縮なのですが、ブリジストン・スポーツがアメリカで最近まで流していたTV CMに、"Tobu Ball"シリーズというのがあります("Tobu"=飛ぶ)。これは日本人研究者役が"Holy Shi…!"と云うヴァージョンと、アメリカ人リポーター役が"Holy Shi…!"と云う、二種類があります(どちらも最後まで発音しない)。この台詞はいかに短縮しようが"Holy Shit!"と云っているのは明白で、欧米でこんなものを公開する日本企業のセンスを疑いました。ひょっとして物知らずの日本の広告代理店が作ったCMかと思って調べてみましたら、世界的スケールの広告代理店JWTが手掛けたものでした。日系企業の評判を落とさないCMを作ってほしいものです。

(December 30, 2008)

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[・] Let's face it.

これはあるスポーツ心理学者が多用する言葉ですが、他のゴルフ・コーチ(心理学者ではない)なども使っているのを見掛けました。どういう状況で使われているかと云いますと、自分の実力を無視して上級者やプロの真似をしようとして失敗を繰り返す人々に、何らかの指摘・助言を与えようとする直前の言葉です。

「(事態を)直視しようではないか」という意味で、ゴルフで云えば自分の実力を直視しようということですが、普段の生活で云えば、収入以上の買い物をしようと考えている楽天的な人に対してとか、数々の障害を考慮しないで物事に取り組もうとする人などに対して使える言葉です。

なぜ"Face it."(直視しなさい)ではないかというと、これは医師や看護婦は患者と一体となって病気や障害と取り組むものだという観点から、医師や看護婦が手当の方法や経過について語る時、患者に自分を含めた"we"や"us"を使う習慣があるからです。患者一人の闘いではなく、医師や看護婦と共闘しているのだという意識ですね。患者にとっては大きな支えとなる考え方です。"Let's face it."と云う心理学者やコーチも同じ立場なのでしょう。第三者的に"Face it."(直視しなさい)と説教するのではなく、"Let's face it."と「一緒に直視しよう」と促しているわけです。

(December 10, 2008)

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[・] Thank you much.

アパートの管理人の事務所へ、アパート代の小切手を持って行きました。70代後半の彼女は一寸変わっていて、こちらが定番の"How are you doing?"と云うと、"I'm here."と返すような人。彼女は太り気味の人にありがちな弱い脚が悩みで、「事務所に出られるくらいだから、そこそこ元気よ」というのが"I'm here."の心なのです。

彼女に小切手を渡すと、領収書をくれながら"Thank you much."と云いました。私の耳には"Thank you very much."あるいは"Thank you so much."が馴染んでいるので、"Thank you much."という云い方は何か大事なものが抜けているように感じられ、日本語だと「ありやとあんした」に近いぞんざいな印象を受けました。

アパート代は管理会社へ行くものであって管理人の懐に入るものではありません。ですから、管理人が"Thank you very much."(どうもありがとう)と深く感謝する気持になれないのは理解出来ます。しかし、デパートの店員だって自分の懐に入るわけではない代金を受け取って"Thank you very much, sir."と云うのですから、管理人も「ありやとあんした」はないだろうと思いました。

ふざけて云ったのかと思いましたが、その後も"Thank you much."は続きました。もう冗談とは思えませんでした。Googleの「フレーズを含む」で言語は「英語のみ」、地域を「アメリカ合衆国」限定で調べてみました。

Thank you much. 2, 950,000件
Thank you so much. 22,200,000件
Thank you very much. 26,800,000件

つまり、(正しい、正しくないに関わらず)"Thank you very much."の11%程度ですが"Thank you much."もアメリカでは結構使われているということです。なお、私が受け取ったメールの中には"Thank you so very much for..."というのがありました。これは最も感謝されているケースです:-)。

(November 20, 2008)

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[・] check in、sign in、log in

どれも似たような感じですが、ではどう違うのか?もともとは会社・工場などでタイムレコーダーに出勤を記録する際の言葉"clock in"あるいは"clock on"が語源だという説があります。

clock in (on):タイムレコーダーで「出勤」を記録する。
clock out (off):タイムレコーダーで「退勤」を記録する。

タイムレコーダーの場合は、タイムカードを差し込んでガチャンと時刻を印刷すればいいだけですが、訪問者名簿のように、自分で名前と時刻を記入する場合には"sign in”が使われます。

sign in:署名して「到着」を記録する。
sign out:署名して「退出」を記録する。
辞書によれば、"sign on"は「就業契約をする」という意味で、到着・退出とは関係ありません。

ホテルなどで記帳したり、搭乗手続きをするのは"check in"です。

check in:署名して「到着」を記録する。
check out:勘定を済ませて出て行く。

コンピュータの使用を開始することを"log in"と云います。

log in:(所定の手続きを経て)コンピュータの使用を開始する。
log out:コンピュータの使用を終了する。
もともと"log"とは「航海(航空)日誌」や「業務記録」を指す言葉でした。

アメリカのウェブサイトのTV CMなどでは"log in"の意味で"log on"が使われることがあります。「オンライン」という言葉で分るように、インターネットは電話回線、ケーブルなどの回線の上で情報が行き来するわけですから、感覚的に"on"と云いたくなるのでしょう。

なお、Wikipedia(http://ja.wikipedia.org/wiki/ログオン)によれば、Microsoft社は"log in"、"log out"の代わりに"log on"、"log off"を使う傾向があり、UNIXやLinuxシステムでは"log in"、"log out"が使われるそうです。

(September 20, 2008)

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[・] pull over

これは非常に重要な言葉です。

一語の"pullover"ですと、それは頭からひっかぶるタイプのセーターを意味します。要するに、チョッキ、ヴェスト、カーディガン以外のセーターは"pullover"だと思います。この言葉がポピュラーなのでパトカーに捕まって"Pull over"と云われた時に、「おれ、セーターなんか着てないけど…」とぐずぐずしていると、どんどんお巡りさんの心証が悪くなって行きます。

実はこの言葉は運転免許を得るためのテキストに何度か登場し、私が面食らった唯一のものでした。易しく書いてある本なのですが、この熟語だけ知らなかったのです。文脈から「救急車が近づいて来たら、可能である限り道路の右端に寄せること。交差点に差し掛かっている場合は通過してから右端に寄せる」と判断出来たのですが。

つまり"pull over"は「路肩に寄せる」という意味です。道路で救急車の音が聞こえたら、即座に"pull over"しなくてはなりません。法律ではありませんが、葬送の車の列にも儀礼上"pull over"せよとあります。パトカーの場合、サイレンを鳴らしていれば当然ですが、無音でもランプを点滅させてあなたの車にぴったりついて来たら"pull over"しなくてはなりません。その状況は、あなたがスピード違反か酔っ払い運転の兆候か何かを示したため警官の注意を喚起したか、あなたの車が指名手配中の逃亡犯人の車に符号するタイプであるか、どれかでしょう。

「あなたは…」なんて人ごとみたいに書いていますが、実は私が捕まったことがあるのです。パトカーがランプだけ点滅させてついて来ました。スピード違反であることは自明でしたが、私は内側の路線(追い越し車線)を走っていたため、「"pull over"は外側へ行くべきだろう」と考え、外側の走行車線の車が途絶えるのを待ちながらゆっくり走っていました。

運転席の私を覗き込んだ警官は「ミシシッピ州の法律は、ポリス・カーが停止を命じたら直ちに"pull over"するよう求めている」と何度も繰り返しました。私がすぐ停止しなかったのが気に入らなかったようです。「罰金はいくらです?」と聞いたら、「知らない。署で聞いてくれ」と云いました。罰金はスピードの割合で決まっているので、知らない筈はないのです。とぼけやがって。

(July 20, 2008)

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[・] 大切な日常表現

エレヴェーターの奥に押し込められてしまったのに、目指す階はもうすぐ。ドアの傍まで進み出て待ちたいが、満員でぎゅう詰め。さあ、どうする?"Excuse me/ us."と云う?それも悪くはないのですが、何をしたいのかがハッキリしません。「通して下さい!」と云いたいところです。

次の本を見ると、実に様々な表現があります。私は「云う立場」よりも「聞く立場」から、これらを大切な表現だと思いました。何故なら、発話者は「済みません、通して下さい」と云っているのに、これらの表現の意味を知らないと、外国人のわれわれは微動だにしないで立ち塞がっている場合もあり得るからです。「東洋人は礼儀を知らない」とか「東洋人は不親切である」と思わせてしまう恐れがあります。

'Common American Phrases in Everyday Contexts'
by Richard A. Spears (National Textbook Company, 1992, $9.95)

・Clear the way! 「(道を)空けて下さ〜い!」担架で運ばれている人や車椅子の人、あるいは大きな荷物を乗せたカートが後ろにいるようです。

・Coming through(, please). ?「通りま〜す!」

・Gangway! こんなこと云われても解りませんよね。「道を開けろ!」

・Could I get by, please? 「通して下さい、お願い」"Could I"だけで充分に丁寧な表現なのに、"please"までついています。これで通して上げなかったら、後ろからふくらはぎを蹴飛ばされるかも。

・Keep out of my way. (廊下などで)「どいてくれ〜」

・Out, please. (エレヴェーターで)「出して下さい」例:"Out, please. This is my floor."

・Stay out of my way. (廊下などで)「どいてくれ〜」

・Step aside. 「空けて」

・This is my floor. 「ここで下ります」

似たような表現に次のようなものがあります。

"(DO) you want to step outside?"

これは「外へ出たいですか?」ではなく、「表へ出ろ、この野郎」と云われてるんですから間違えてはいけません。こういう事態にはならないようにしましょう:-)。

(May 30, 2008)

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[・] トイレ

「お手洗い」というのは、いくら言葉を変えても時間が経つとその言葉に臭いが染み付いてしまうようです。また、排泄行為を含む言葉を発すると(例えば「便所に行って来ます」と云った場合)、言葉の臭いだけでなくその発話者が個室内でしゃがんでいる姿も視覚化させてしまうという弊害があります。そこで「便所」→「厠(かわや)」→「手水」→「洗面所」→「お手洗い」などと、排泄行為を連想させない間接的表現が選ばれるようになったのだと思います。仕舞いに「トイレ」と外来語まで動員されました。フランス語の"toilette"は「化粧台」、「洗面台」という意味で、これが英語に輸入された頃は洒落た言葉だったのでしょうが、もはや英語圏でも日本でも「トイレ」という言葉には臭気が漂っています。

英語圏の人々も同じ悩みを抱えているようです。実に多くの言葉があります。先ず『研究社 新和英中辞典』の言葉、そして後の方にそういう辞書にないがよく聞かれる表現を付記します。

lavatory これは日本で出版された本などによく出ていますが、私が実際にアメリカで見掛けたことはありません。

toilet これは"toilet paper"として耳に入ることはありますが、全く見掛けません。'Charmin'という大手トイレット・ペーパー・メーカーの12個入りの袋のどこにも"toilet"という文字はありません。"bathroom tissue"という言葉が一ヶ所で使われているだけ。話し言葉でも、toiletと云うと「便器」を指すと考えた方がよさそうです。

W.C. これも、この十年で聞いたことも見たこともありません。死語に近いようです。

john これは話し言葉で男性が使うのをたまに聞きますが、《卑語》に近い感じ。

bathroom アメリカの一般家庭のお手洗いを指すにはこの言葉が標準ですね。日本でもバス・トイレのユニットが普及して、やっと"bathroom"の語源が分る時代になったと思われますが、私のようにバス・トイレが離れていた昔の日本家屋に馴染んでいた者には、「何で『浴室』が『トイレ』を指すのだろう?」とずっと不思議でした。

latrine 『新和英中辞典』では「《軍隊・学校などの》」とあります。私は軍隊は知りませんが、アメリカ、カナダの大学のいくつかを取材した時、この言葉は全く見掛けませんでした。

men's/ ladies' room 話し言葉で出て来ることはあっても、こういう表記は見掛けません。普通、両方が隣り合っているか、近くに揃っているものなので、単独で表現する意味合いがないのだと思います。ドアに"Men"、"Ladies"とは書いてありますが。

rest room 一般家庭においては"bathroom"でいいのですが、会社やショッピング・モール、駅や空港などには浴室はありませんから"bathroom"は妙です。そこで"rest room"。これも標準です。

以上が『研究社 新和英中辞典』に載っていた言葉です。次の言葉は'Roget's International Thesaurus' 4th Editionに載っていたもの。

comfort station これは『研究社 リーダーズ英和』に「公衆便所」という訳語がありますから、家庭やビル内の設備に使う言葉ではないようです。

次は私の発見。

washroom これはカナダの大学やアメリカ北部の空港で見掛けました。そのものずばり「お手洗い」ですね。

powder room これは'Common American Phrases in Everyday Contexts'という本に載っていたもの。「化粧室」。その本の用例では男性も"Where is your powder room?"と云っていますから、男女両方が使っていいようです。その用例の男性はゲイではないと思います:-)。

(April 30, 2008)

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[・] もうお暇しなくては…

'Common American Phrases in Everyday Contexts'
by Richard A. Spears (National Textbook Company, 1992, $9.95)

この本はもう十年以上も前にカミさんからプレゼントされた本ですが、最初の10ページぐらい読んだだけで、ずっとほっぽらかしにしていました。今度、一念発起して最初から全部目を通してみました。「ああ、この文句はこういう意味だったのか!」と気づかされたものがいくつもありました。この本のいいところは、副題の"A Detailed Guide to Real-life Conversation and Small Talk"にあるように、短い会話例が付記されていることです。それによって、適切な場面や応答が分ります。

全体を通して驚いたのは、「もう帰らないと…」という表現の多彩さです。ベラボーに多い。ま、日本語でも「もう時間ですので…」、「そろそろ失礼します」、「もうお暇しなくては…」、「とんだ長居をしまして…」など沢山ありますが、英語も引けを取りません。

(I'd) better be going.
(I'd) better be off.
(I'd) better get moving.
(I'd) better get my horse. (Casual and folksy)
(I'd) better hit the road.
(I) have to be moving along.
(I) have to go now.
(I) have to move along.
(I) have to push off.
(I) have to run along.
(I) have to shove off.
(It's) time to move along.
(It's) time to push along.
(It's) time to push off.
(It's) time to run.
(It's) time to shove off.
(It's) time to split.
(I've) got to be shoving off.
(I've) got to be hit the road.
(I've) got to fly.
(I've) got to get moving.
(I've) got to go.
(I've) got to go home and get my beauty sleep.
(I've) got to hit the road.
(I've) got to push off.
(I've) got to run.
(I've) got to shove off.
(I've) got to split.
I hate to eat and run, but...
I'm gone.
I'm off. (Slang)
I'm outta (=out of) here. (Slang)
I must be off.
I must say good night.【夜の挨拶】
I really must go.
It's been. (Slang or familiar colloquial)【パーティや会合の際に、本来は"It's been lovely."などと云うべきところを極端に省いている】
It's time to go.
It's time to hit the road.
It's time we should be going.【パーティなどで、夫婦やカップルの一人が(片方への合図を兼ねて)ホストあるいは他の参加者に告げる台詞】
(My,) how time flies.(もうこんな時間?)
Thanks for a lovely/ nice evening.
Thanks for a lovely/ nice time.
Thank you for having me/ us.
Thank you for inviting me/ us.

この本には1,700のフレーズや表現が収められているそうですが、以上の43表現は全体の2.5%でしかありません。そして、それも大別すれば go、move、push、run、shoveなどを主としたヴァリエーションとも云えるものですが、私は「もうお暇しなくては…」に43も表現があるというのに呆れました。多岐にわたる表現なので、一応知っていないと何を云われているのか分らずに戸惑うという事態もありそうです。

(March 30, 2008)

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[・] 猿が背中にござる時

ある老人が"When I monkey around with Photoshop..."という表現をした時、私は最初面くらいました。しかし、話の流れからすると「グラフィック・ソフトの'Photoshop'をいじくっていると」であることは明白でした。猿が好奇心で何でもひねくり回すことから来ているのでしょう。私もその昔自然番組撮影の最中に、16mmフィルムを一缶猿に盗まれたことがあります。撮影済みフィルムではなかったので、その猿を追いかけ回す必要はなかったのですが。あるソースによれば、"monkey around"には「遊び耄けて時間を費やす」という意味もあるそうです。

TVのゴルフ中継を観ていると、時々プロ・ゴルファーがインタヴューで"I have a monkey on my back..."と云うのにぶつかります。一般の英和辞書を見ると"have a monkey on one's back"は「《米俗》麻薬中毒になっている」とあります。「うっそーっ!」TVカメラの前で堂々と「私は麻薬中毒になっている」などというプロがいる筈はありません。プロゴルフ協会から除名されるのはもちろん、刑務所行きになるのは必定です。一般人でさえ、麻薬使用について公言したりしません。

『研究社 リーダーズ英和 第二版』で"have a monkey on one's back"は、「《俗》薬(やく)におぼれる; 《俗》ひどく困ったこと(悪い癖)がある」とあり、その後者がふさわしいようです。'A Dictionary of American Idioms'には"An unsolved or nagging problem"となっていて、これだと「難問、難題」となるべきところです。

つまり、"I have a monkey on my back..."と云ったプロ・ゴルファーは、彼の最近のスウィングに何か問題を抱えていて、まだ解決を見ていない状態であると説明していたのでした。

(February 20, 2008)

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[・] Break a leg!

[Junir Miss]

アメリカには“ミス高校生”とも云うべき「ジュニア・ミス」というコンテストがあります。1920年代から別名の前身が開催され続けていましたが、1957年に正式に「アメリカ・ジュニア・ミス大会」となったものです。対象が高校生ですから、容姿を競うのでなく、彼女たちの日頃の活動(チア・リーダーとかスポーツ、生徒会活動、ヴォランティア活動の有無など)が先ず採点されます。その結果各カウンティ(郡)代表が選ばれ、州大会の舞台で意見発表能力、特技(ダンス、楽器演奏、歌唱、その他)や運動能力(ジャズ・ダンス風フィットネス課題曲による実技。かなり過酷)などがテストされます。ここで選ばれた州代表一名が全国大会に進出出来ます。州代表、全国代表には本人が希望する大学への奨学金(授業料、住居費、生活費を含む)が賞として授与されます。

私は2005年の州大会を見物しました。初日のチケット代は12ドル、二日目は16ドル、最終日は18ドルでした。この年だけの趣向か毎年そうなのか不明ですが、一人一人の特技披露の演目紹介は、開催地のホスト・ファミリィ宅に一緒に泊まっているルームメイトが舞台袖に立ってアナウンスします。その紹介の最後の殆どで聞かれたのが、”○○(名前)、break a leg!"というフレーズでした。仮に舞台中央のピアノの前で待機しているジュニア・ミス候補の一人の名前を"Kelly"としますと、"Kelly, break a leg!"と呼びかけて引っ込むわけです。

私はこの表現の意味を知りませんでした。ルームメイトとはいえライヴァル同士ですから、褒めるばかりでは芸が無いので、「(見事に演じられるとあたしが困るから)脚を折っちゃいな、Kelly!」と茶目っ気たっぷりの冗談を云っているのかと思いました。それにしては観客の誰も笑いません。また、出て来る紹介者のほとんどが同じ冗談を云うというのも解せません。

初日を観て家に戻った私は直ちに"break a leg"という表現を調べました。これは主に舞台俳優たちが舞台に出る共演者に用いる言葉で「成功を祈る」という意味なのだそうです。18〜19歳の彼女たちはライヴァルでもあるルームメイトに「頑張って!」とエールを送っていたのでした。その意味が解った二日目から、私は嘘でも(?)ライヴァルに「頑張って!」と呼びかける女の子たちのフェアな精神に、涙がこみ上げる思いをしたことでした。

では、なぜ「脚を折れ!」が「成功を祈る」になるのか?こういう時は『語源辞典』に限ります。私も一冊頼りになる本を持っています。"break a leg!"、ありました!見出しはあったのですが、その内容は「(語源について)確かなことは誰も云えない。私(編纂者)も満足出来る説明を見つけられない」ですと。頼りにならないじゃないの!金返せ!

Wikipedia英語版を見ると(http://en.wikipedia.org/wiki/Break_a_leg)、なんと十種類もの語源説が紹介されており、そのどれも正しいことが証明されていないそうです。その中の「伝統的語源説」という項を見ますと、「シェイクスピア時代の英国では、俳優にとって給料の他にカーテンコールで観客から投げ与えられる小銭も大事な収入の一つであった。観客の声援に感謝しながら脚を折ってお辞儀しつつ小銭を拾う。つまり、脚を折ることは舞台の成功・人気の証しだったので、『脚を折れ!』が『成功を祈る』になった」というもの。確かにこじつけ臭いですね。

ジュニア・ミス全国大会は資金難(メイジャーTV局が全国大会中継をやめたため、広告収入が得られなくなった)で、私が見物した年を最後に閉幕される予定でした。しかし、多数のジュニア・ミスOB(正しくはOG)たちの努力によって全国大会は今も継続されています。

(January 10, 2008)

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[・] 婉曲表現に御注意

カミさんがまだ私の英会話の先生だった頃、私が猿カニ合戦のお話のあらすじを話してあげたことがあります。私が「○○と□□は親しかったので…」のつもりで"They were intimate."と云ったところ、カミさんが「それは性的にということ?」と聞きました。お伽話に性的な要素が出て来るわけがありません。日本語で“インティメートな雰囲気”などという表現が通用していましたので、そこに性的な意味合いがあるなどとは思ってもみませんでした。

しかし、辞書を見ると「intimate:親密な、くつろげる、(男女が)肉体関係にある」などとなっていて、確かにこれは要注意の表現でした。

要注意ではありますが、それは日本人の場合だけでなくアメリカ人にとっても同じであるという実例を採集しました。'Sex, Lies, and Videotape'『セックスと嘘とビデオテープ』(1989)というアメリカ映画に次のようなやりとりが出て来たのです。男女が精神療法の是非について話し合っている場面。
男:"I formed my own theory that you should never take advice from someone who doesn't know you intimately."
女:"Well, I know my therapist intimately."
男:"You've had sex with your therapist?"
女:"No! No!"
"intimately"という言葉が、両者によって異なる意味で使われていて、女性が慌てる羽目になってしまいました。

英会話の授業で"They had relations."(彼らは関係があった)と云ったら、当時の先生だったカミさんが「それは性的に?」と問い返しました。私は「この先生はちと性的表現に神経過敏なんじゃないか?」と呆れました。

しかし、日本語でもあからさまに性的な表現をせず、「二人は“関係”してる」などと云います。"They had relations."がまさにこれで、「性的関係を持つ」になってしまうんですね。"They had good relationship."にすべきだったようです。"intimate"の場合も「懇(ねんご)ろな間柄だった」という表現とも取れます。

英会話の先生は生徒が紛らわしい表現をしないように…という配慮で聞き返してくれますが、単なる知り合いの場合は口には出さないであれこれ推測するに留まるでしょう。ひょっとすると、潔白な間柄の人々に“性的な”濡れ衣を着せてしまう恐れもあるわけです。辞書の一番目の訳語だけに目を走らせて、後を素っ飛ばしているとこういうことになるという実例でした。

(December 10, 2007)

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[・] お尻は一つか二つか、どっち?

現在私は別居してアパートで暮らしています。数年前、さして深刻とも云えない口喧嘩をした際、カミさんが「一人で暮したらどう?」と云ったので売り言葉に買い言葉で、家を出たのです。当時はカミさんの母親がナーシング・ホーム(完全看護の養老院)に入っていたので、母親の家に二人で住んでいました。云わばカミさんの家でもありますから、私が飛び出すほかはなかったのです。

しばらくは腹が立って、カミさんとも没交渉でしたが、最近はメールのやり取りをしたり会いに行ったり、一緒に食事もするようになっています。ある日のメールで私は、"A few years ago, you kicked my butts."と書きました。「数年前、あんたは私を蹴飛ばした=追い出した」という意味を込めたのです。すると、カミさんから「あなたには二つの"butt"はない。私が蹴飛ばしたのは一つである」と返事がありました。

私は「英語は数にうるさい言語で、二つに分かれているものは"pants"(ズボン)とか"glasses"(眼鏡)、"headphones"(ヘッドフォン)、"earrings"(イアリング)、"shoes"(靴)と必ず複数にするではないか?お尻だって二つある。なお、"butt"は"buttock"の短縮形で、ちゃんと"buttocks"という複数形もある。どうして"butt"だけ特別扱いするのか?」と聞きました。彼女の答えは「"You kicked my buttocks."はOKだが、"You kicked my butts."は駄目」というものでした。

やはり言葉の専門家に聞かねばなりません。で、元高校英語教師Diane(ダイアン)にカミさんとのやりとりを伝え、「説明して貰えますか?」と尋ねました。

「"Kicking butt"は慣用句で、誰かを徹底的に打ちのめすという意味で使われる。慣用句としては"butt"は常に単数。昔、悪いことをした子供が学校でお尻を三回ぶたれた頃のことを、"A rule stated that a child could receive three strikes of the paddle on his buttocks."と複数で云われ、これは正しい表現である。しかし、カジュアルな表現では"three strikes on his butt (which means both buttocks)"と単数になる。どうしてこうなるかは分らない」

私は'A Dictionary of American Idioms'や'Longman Dictionary of American English'などを見てみましたが、"kick somebody's butt"という慣用句は載っていませんでした。'Longman Dictionary of American English'には"buttock"の項に"either of the two fleshy parts on which a person sits: the left/ right buttock"とありますので、"buttock"の場合、お尻は二つあると認識されていることが分ります。『研究社 英和中辞典』でも「buttock:【通例複数形で】尻、臀部」となっています。

『研究社 リーダーズ英和辞典』の"ass"の項に、"kick somebody's ass (butt)"がありました。「人を蹴飛ばす、人を打ち負かす、びっくり仰天させる」などの意味が載っています。ここでも単数です。

試みに'Longman Dictionary of American English'の"ass"を見てみると、"[American English] informal for buttocks"とありました。つまり"ass"はもともと左右両方のお尻全体を指すことが分ります。"butt"についての同じような記述を探したのですが見つかりません。で、これは私の個人的解釈ですが、"butt"も"ass"同様左右両方のお尻全体を指す言葉になっているのではないでしょうか?もともと複数であれば、それに更に"s"を付けるのは“蛇足”ということになるわけです。

なお、Dianeは「あなたの挙げた例の中で"headphones"、"earrings"、"shoes"などは単数になり得る。片方を失くした場合、残りは単数だからだ。しかし、"pants、glasses、scissors"などは絶対に単数にならない」と説明してくれました。ズボンの片脚分、眼鏡の半分、鋏の半分だけ失くすということはあり得ないからでしょう。

(October 30, 2007)

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[・] 黒い目

私の姉妹サイト『アメリカ映画・南部もの大全集』のために'Ray'『Ray/レイ』(2004)という映画を観ました。1961年にジョージア州オーガスタで、黒人を差別する興行主に抗議するためミュージシャンRay Charles(レイ・チャールズ)がコンサートをボイコットするという事件が描かれていました。興行主は損害賠償請求訴訟に勝っただけでなく(これは当然)、Ray Charlesの存命中はジョージア州で演奏活動を認めないという判決まで勝ち得たことになっています。

オーガスタの町の地元紙'The Augusta Chronicle'がその映画の内容にショックを受け調査を開始しましたが、州の公文書にも、新聞のバックナンバーにもジョージア州がRay Charlesを永久追放したという事実は発見出来ませんでした。'The Augusta Chronicle'は何回かの新聞記事を特集しましたが、そのうちの一つは次のような見出しになっていました。

'Ray' gives state black eye

私は"black eye"って何だろうと思いました。「'Ray'(という映画)が州に"black eye"を与えた」?意味が解りません。いずれにせよ、記事の趣旨から云って映画を非難しているのは間違いないのですが、それにしても"black eye"が悪い意味になるものだろうか?黒い目(焦げ茶色?)を持つ日本人の一人として、気になりました。

辞書を引くと簡単に答が出ました。"black eye"は「(打たれて出来た)目の周りの黒い痣」だそうで、口語では「ひどい打撃、不名誉、悪評」という意味になるそうです。"give somebody a black eye"は「人を殴って目の周りに痣を作る」とあります。この意味の場合、単数である点が要注意です。

日本人の「黒い目」は"dark eyes"であって"black eyes"ではないんですね(こちらは複数)。ロシア民謡には『黒い目』というのと『黒い瞳の』という二曲があります。これは原題はどうなのでしょうか?"dark"か"black"か知りたいところです。

というわけで、上記の見出しは「'Ray'が州に手痛い打撃(=不名誉)を与えた」ということになります。件の新聞社は、ありもしない事件を捏造した脚本家と映画会社を非難し、ジョージア州オーガスタの町の名誉を回復しようと努めたのでした。

(September 30, 2007)

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[・] throughの諸相

"through"に「通る」、「を通して」、「端から端まで」などの意味があることは誰でも知っています。「試験にパスする」も「通る」の一種なので、"I'm through the exam."(試験に通った)という云い方も理解出来ます。

'Ladder 49'『炎のメモリー』(2004)という消防士の映画を観ていたら、"through"の表現がいくつか出て来ました。燃え盛るビルに突入した消防士たちが行く手を阻む鉄パイプを電動ノコギリで切断し、指令長に無線で報告します。 "We're through."(切断を終了した)

高所から落下し脚を痛めた消防士が、指令長から「レンガ壁を壊して隣室に移動し、救出を待て」と指示され、必死でレンガを外して通り抜け、報告します。 "I'm through the wall."(壁を通り抜けた)

『英語の冒険』正篇の「食事」の項で、ウェイトレス(ウェイター)の質問について書きました。
"Are you through?"(済みましたか?)
お皿が空なら済んだのは明白ですが、料理が載ったままだとまだ食べている最中なのか、お腹一杯で止めたのか分りませんから、ウェイトレスが聞くわけです。
答えは"Yes, I'm through."(済みました)あるいは"No, I'm not through."(="No, not yet.")です。

Connie Francis(コニィ・フランシス)の50年代のヒット曲'Lipstick On Your Collar'『カラーに口紅』の歌詞には、自分のではない口紅を襟に付けて来たボーイフレンドに怒って"You and I are through"(あたしたちの仲は終ったわ)と宣告する部分がありました。

'Thieves Like Us'『ボウイ&キーチ』(1974)という映画でも、恋人が怒って荷造りを始めると、男が"All right. You and me are through."(分った。おれたちの仲は終ったわけだ)と云います。

"I'm through with her."(彼女とは手を切った=別れた)と云う云い方もあります。

ところで、上のどの例も英文は現在形で、日本文は過去形なのです。面白いと思いません?

(August 30, 2007)

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[・] Too bad と Not too bad

"Too bad."あるいは"That's too bad!"と云えば語感からして「そりゃひどい!」という相槌だと思いますわね。表情や語調でそういう意味に取って貰える場合もあるでしょうが、辞書では"I'm sorry."と同じと出ていますから要注意です。"I'm sorry."も「お気の毒様」という突っ放した云い方になり得るわけで、"Too bad."も同じなのです。

私がカミさんの知人の訃報に接した時"Too bad."と云って「随分冷たいのね」と白い目で見られました。そういうつもりではなかったのです…。普通、「リンゴ、腐ってた」と云われたような時に応じるのが"Too bad."で、「困ったもんだね」、「仕方ないね」、「あれまあ」程度の表現のようです。相手が怪我をしたなどという時に、心を込めて同情の意を表する場合は"So bad!"なのだそうです。

今回Intenetで傍証を探そうと試みましたが、あまり見当たらず、一件「"Too bad."は"I'm sorry."と共に"I don't care."という意味でも使われる」というオンライン辞書(英語サイト)が見つかりました。これですと「どうでもいいよ」であり、極力好意的に解釈しても「ほう、そうかね」ぐらいの応答ということになります。

似たような表現に"Not too bad."というのがあります。TVのゴルフ中継などでプロのショットやパットが「上出来」とも云えず「ひどい!」と云う範疇でもない場合、解説者が"Not too bad."とよく云います。ひどい失敗ではないので、次打をうまく処理すれば問題ないというようなケースです。この文句を覚えたので、カミさんと話している時に使ったら、「それは真っ当な英語ではない」と指摘されました。しかし、大ネットワークTVの放送で使われている表現ですし、元高校英語教師Diane(ダイアン)に聞いても「別に変ではない」とのことでした。「良い」とは云えないが、「ひど過ぎる」とも云えない…という、日本の表現だと「まあまあですね」、「まずまずです」程度の語感でしょうか。

(August 10, 2007)

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[・] 『ネイティブの英語』

久し振りに下記の本を通読しました。忘れていたことが沢山あり、勉強になりました。

『ネイティブの英語 The Way I Say It』(C.A.エディントン著、安藤ちか子訳、1987年、The Japan Times刊、1,240円)

これは残念ながら絶版のようですが、Googleで検索すると古書サイトやオークションで入手可能なようです。見つけられたら、是非購入をお薦めします。

著者C.A. Edington(エディントン)女史はアメリカの高校で教鞭を取った後、来日して「札幌朝日カルチャー・センター」の英語専任講師になられました。その五年間に集めた日本人生徒の“不思議な”英語と、「私ならこう表現する」(The Way I Say It)という正解を、単語のABC順に並べたものです。

他に類書はあるものの、それらの多くはヨーロッパの生徒を教えた英米人教師による本であったり、日本人相手ではあるが教師も日本人だったりします。この『ネイティブの英語』はアメリカ人教師が日本人を教えた記録として貴重なものです。

印象的なところをざっと拾っても、以下のようにわれわれが間違え易いものがあります。

・「今日から三日後」
 "three days after"(誤)→"three days from now"(正)

・「恥ずかしい」
 a) 良心の呵責を感じるような失敗:"I'm ashamed."
 b) 人間なら誰でも冒すような失敗:"I'm embarrassed,"

・「信じる」
 a) 誰かの言葉を信じる:"I believe you."
 b) 形の無いものの存在を信じる:"I believe in God." "I believe in ghost."

・「美味しい」
 a) 普通に美味しい:"It's really good."
 b) 信じられないほど美味しい:"Delicious."(これは“究極の味”に取っておくべきだそうです)

・「手作り」
 a) 服や飾り物:"handmade"
 b) お菓子や料理:"homemade"

・「希望」
 a) 恐らく実現しないようなこと:"wish"
 b) まだ可能性のあること:"hope"

・"popular" 「人気のある」
 "common" 「一般的な、ありふれた」"Suzuki is a common name in Japan."

・"souvenir":自分の思い出のために持ち帰る品物
 "gift":お土産

・"sunburn":皮膚が赤くなり触ると痛い症状
 "suntan":時間をかけて焼いた小麦色の肌

なお、この邦訳書名は出版社のセンスで付けられたものだと確信します。著者が付けたタイトルは'The Way I Say It'でしかなく、"native"という表現は全くありません。「英語を母国語とする人」を指す英語は"native speakers of English"であり(著者も英文の「はしがき」でそう書いています)、アメリカで単に"native"と云うと「アメリカ・インディアン」を指していると誤解される恐れがあります。

(July 10, 2007)

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[・] I don't care.

ある日一人でゴルフしていましたら、やはり一人で廻っている顔見知りの男性Gary(ゲアリ、60数歳)に追いつきました。彼の前の組が遅いようですが彼をパスさせてくれず、仕方なく一定の距離が空くまで待っているようです。私も先へ進めない以上、Garyと私が一緒に廻るのが時間的にも精神的にもいいようです。

私はGaryに"Can I play with you?"と尋ねました。顔見知りだし、こういう状況下なら黙っていても一緒に廻ることになるのですが、一応聞いたのです。

"I don't care." これが彼の答えでした。

"Of course! I love to play with you."(一緒にプレイ出来ればもちろん嬉しいよ)とか、"You bet. I'm glad to have a buddy."(もちろん。仲間が出来てありがたい)などという返事が返って来るかと思いきや、"I don't care."(どうでもいいよ)ですと。呆れました。

この一件を、オクラホマ州出身で長くアラバマ州に住んでいる友人Mike Reekie(マイク・リーキィ、元大学教授、65歳)に話しました。彼は「エイジ、彼の言葉を悪く解釈しちゃいけない。彼は"Yes."と云ったんだ。確かに、もっと愛想のいい返事もあるわけだが、"I don't care."も失礼な云い方ではない」と説明してくれました。

例えば、「お昼、ハンバーガーにする?スパゲティにする?」と聞かれた場合に"I don't care."と云えば、「どっちでもいい」という答えになります。しかし、上のゴルフの一件のような場合の"I don't care."は「構わんよ」、つまり"Yes."と解釈すべきなんだそうです。

「そういう"I don't care."の用法は南部の特徴なの?」とMikeに聞きましたら、「別に南部に限ったことではない」とのことでした。私は南部の"redneck"の、人を馬鹿にした表現と勘違いしてGaryに内心腹を立てていました。聞いてみるものですね。

(June 10, 2007)

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[・] アメリカ人も知らないアメリカ英語

『日本人が知らないアメリカ英語』(ジャパン タイムズ社)という本があります。もう絶版ですが、日本のamazon.comでは中古書として売られています。久し振りに手に取ってみたのですが、スラングでもないのに知らない言葉が沢山ありました。ここ十年のアメリカ暮らしの中で、ほとんど読んだことも聞いたこともない言葉ばかり。「さすが、言葉の世界は奥が深いなあ」と思いました。

続いて、こうも思いました。「待てよ?これらは著者たち(日本人女性講師とアメリカ人女性講師)が選りすぐった非常に稀な表現で、日本人が知らないのも当然、ひょっとしたらアメリカ人も知らないのではないだろうか?」そうだったら面白いと思いました。

私が日本語を教えている二人の青年で試すことにしました。「言葉の意味が解らない場合は正直に云ってほしい。テストではないので、知ってるふりはしないように。意味が説明出来るか類語を知っている場合にだけ挙手すること」こう前置きして単語を読み上げ始めました。「例文を知りたい」というリクエストがある時は、それを読みました。

この本は三部に分かれています。1) 日本人が安心して使える日常表現、2) ちょっと注意して使うこなれた表現、3) 知っていればより便利な表現…などです。私は(2)の部分の言葉を最初から順に読んでみました。著者たちによれば、「ここには“要注意”の表現を集めてある。なぜ要注意かというと、かなりこなれた、しかもアメリカ的表現だから」だそうです。

25歳の青年にとってはほとんど聞いたことがある言葉で、意味も80%は正解でした。しかし、20歳の青年は「聞いたこともない」というのが大半で、意味も大半解りませんでした。どういう言葉かと云いますと、cheeky, crosspatch, devil-may-care, dither, dressing-down, elbow grease, finagle, fish story, flak, floor, gumption, hellion, hightail, jiffy, kibitz, miff...などです。「"floor"なら知ってる!」という方もおられるでしょうが、「床」という名詞ではなく、ここでは「(人を)閉口させる」という動詞で、英和辞書でも最後の最後になって出て来る定義です。

20歳の青年が「いつ出版された本?」と聞くので、奥付を点検しました。1991年でした。彼はやっぱりという顔で「古い言葉ばっかしだよ」と云います。二人は「70年代?60年代かな?」と話し合っています。「そんなに古いの?」と聞くと、「もうほとんど使わない」とのこと。

著者紹介を読むと、日本人講師はアメリカのいくつかの大学に留学し、1965年に日本に戻り、日本の大学で博士課程を修了後某私立大学の講師となったとあります。つまり、この方が留学中に英語のデータを収集したのは主に1965年以前で、青年たちの指摘とぴったり符合します。また共著者の米人講師もアメリカのカレッジを卒業後、直ちに日本にやって来て日本の大学を卒業し、日本のあちこちの高校、大学で講師を勤めたそうです。つまり、二人とも1970年頃から1991年にこの本を出版するまでの期間アメリカで生活しておらず、26年も前の知識・経験で本を書いていたわけです。もちろん、英語の新聞・雑誌などで新知識は随時仕入れていたことでしょうが、本の基礎データはかなり古い体験に基づくものだったわけです。

それを2007年現在で読むとすると、何と42年前の“新語”、“流行語”ということになります。こりゃ古いですわな。こんな言葉を持ち出せば、「洒落にもならん」、「時代錯誤」、「親父ギャグ?」と云われても仕方がありません。

完全に“アメリカ人も知らないアメリカ英語”とはなりませんでしたが、「アメリカの現代青年が知らないアメリカ英語」ではありました。これから英語本を買おうとする時は、著者がいつ頃留学したのか調べるべきですね。文法などは問題ないでしょうが、新語・口語とかイディオム、表現などに関する本であれば、“昔の”留学生が書いたものは避ける方が賢明です。

(April 30, 2007)

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[・] アメリカの丑三つ時は朝なの?

英語の"midnight"は午前零時で、これは真夜中。イギリスの冒険小説に'Midnight Plus One'(邦題『深夜プラス・ワン』)というのがありますが、午前零時を一分でも過ぎたらどうなるのでしょう?英米では「朝」なんですね。

"I woke up in the middle of the night."(深夜に目覚めた)とは云えますが、"I woke up at one o'clock at night."(夜の一時に目覚めた)とは云えません。"I woke up at one o'clock in the morning."でなくてはなりません("I woke up at one a.m."なら問題ありませんが)。

日本人の感覚からすれば、午前四時ぐらいまでは“夜明け前”で、文字通り“夜”なのです。夜だからこそ「草木も眠る丑三つ時」なのであって、“朝”だとなると草木もおちおち眠ってられないじゃないですか:-)。「丑三つ」は午前二時〜二時半に相当するので、まさに日本人にとっての深夜です。

英米人がなぜ午前零時を境に「朝」とするのか定かではありません。けったいな話ですが、英語を喋ろうとする限り彼らの流儀に従わなくてはなりません。困ったものです。

(April 10, 2007)

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[・] 便利な口語表現小物集

一項を立てるほどのものではない“小物”を集めてみました。

・take a look

 「ちょっと見てくれます?」と云いたい時の表現。写真や雑誌を差し出して"Please take a look."とか、「私のウェブサイトを見て下さい」と云う時に"Take a look at my web page, please."という風に使えます。

・come over

 「じゃ、すぐ伺います」という場合、"I'll come over (to your office) ASAP."という風に使います。日本人には、ここで"over"を付けるという感覚は普通ないですよね?この"over"には、何やらA点からB点にぴょんと“飛んで行く”ニュアンスがあります。

・Long time no see.

 これは"pidgin English"(華僑たちのブロークンに近い英語)をからかう言葉として流布したものでしたが、いまや“市民権”を得て生粋のアメリカ人も使っています。「お久しぶり!」です。

・Good to see you.

 久し振りに出会った場合の単純な喜びで、上の"Long time no see. "よりはまともな表現です。こう云われたら"Good to see you, too."で受けます。"Nice to meet you."は初めて出会った場合の言葉で、二回目からは"see"でなくてはなりません。なお、手紙や電子メールで「じきにお会いしたいものです」と云う場合は"Hope to see you soon."です。

・Where have you been?

 しょっちゅう会っていた人と数ヶ月も会わないと、Where have you been?(どこへ行ってたの?)と聞かれます。ヴァケーションか精神病院か刑務所か、どこへ行っていたのかと詰問している感じですが、実際には質問というより「随分お見限りだったねえ」と多少抗議の意を含めながら再会を喜んでいる表現。冗談で「刑務所へ行ってた」と答えたい誘惑にかられますが、本気にされて云い触らされると困るので試していません。

・Sayonara.

 これは通じます。便利です:-)

・No rush.

 「急がなくていいよ」と云う時の台詞。何か物を貸した時に「慌てて返さなくていいからね」とか、相手が「約束の時間に遅れそうなんだけど」と電話して来た場合に、「急ぐ必要はないよ」と云って上げる言葉。

・Take your time.

 "No rush."には、本当は相手に常識的に行動して貰いたいという前提があります。貸した物はちゃんと常識的な期限で返して貰いたいし、「急ぐ必要はない」とは云いつつも頑張って急いで貰いたいのが本音です。"rush"は“突っ走る”、“突進する”ですから、「突進してくれなくてもいいけど、走っては貰いたい」わけです。そこへいくと"Take your time."は「どうぞ、ごゆっくり」ですから、相手のペースに任せる表現。泊まりに来たお客がお風呂に入る前とか、食べるのが遅くて恐縮している人などに云う場面が相応しい。出発時間を過ぎてるのに鏡台の前を離れようとしない奥さんにこの台詞を云う旦那はいないでしょうけどね。

・Depends.

 「明日、ひま?」と聞かれて、"Depends."と云えば「芝刈りの手伝いならお断りだけど、ピクニックなら行くよ」というように、“事と次第によるね”という表現。「明日、ゴルフに行かないか?」と誘われて"Depends."なら、一緒にプレイするメンバー次第だとか、どこそこのコースなら嫌だとか、妻が許してくれれば…など、条件付きで行ってもいいし、行かないかも知れないというケース。

・No offence, but...

 相手が気を損ねるかも知れないことを云う場合、「個人攻撃ではないからね」、「あなたを侮辱しようというわけじゃないよ」と、前もって断る表現。相手の母国や支持政党、宗教法人などのスキャンダルに言及するとか、相手の出身校のフットボール・チームが負けた理由を分析する場合とか…。北極にもペンギンがいると思い込んでる無知な人に真実を説明する場合などには、わざわざこの表現を使わなくてもいいでしょう:-)

・Just between you and me. OK?

「他言無用」、「絶対秘密だからね」と念を押して、何か相談するなり、その場にいない人の悪口を云う:-)

・No way!

 「飛んでもない!」と何かを拒否・拒絶したり、認めたがらない表現。それが本心かどうかはシチュエーション次第。カラオケで「歌いなさい!」と勧めても"No way!"を繰り返していた人が、いざ歌い出したら結構うまかったなどという場合もあります。この場合は照れですね。

・After you.

 「お先にどうぞ」建物の中などを案内される場合、廊下を横に並んで歩くと他の人々の邪魔になりますから、一列になるしかありません。案内してくれる人が先頭に立つのが正しいあり方なので"After you."「ついて行きます」、「どうぞ、お先へ」。

・Please let me know.

 これはよく聞かれますし、自分でもよく使います。相手のスケジュールを聞く時とか、感想を求める時、何かの結果を教えて貰う時など。「お知らせ下さい」、「お教え下さい」という感じ。電子メールでも会話でもよく出ます。

・Sounds good!

 「今度コンサートの只券貰えるから、一緒に行かない?」などと云われた時に「いいねえ!」と応じる時に"Sounds good!"。"Sound"に"s"が付くのは冒頭の"It"が省略されているから。何かプランを持ちかけられたり、万事順調の報告を受けた場合にも使えます。"Sounds odd."なら「妙な話だ」。見せられたものに満足の意を表したり、相手の仕事ぶり(作品やペンキ塗り、料理の見映えなど)を賞賛する際は"Looks good."、お料理のいい匂いは"Smells good!"で、味を誉める時は"Tastes good."です。

(March 10, 2007)

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[・] eveningとは何時から何時までか?

知人のJim(ジム)の家で物を受け取ることになりました。Jimは「一週間休みなので、取りに来れるかどうか家に電話してくれ。休みではあるが"evening"には職場で行なわれる催しに参加する予定だ」とメールして来ました。私はJimに電話し、翌日の午後4時に受け取りに行くことになりました。

当日の3時半頃、私はJimに再度電話し予定通り訪ねていいかどうか確認しました。OKとのことで、4時丁度にはJimの家に到着しました。しかし、家は閉まっていて誰もいません。ドアに私あてのメッセージもありません。「急病にでもなったのか?」と心配したりしながら、30分ほど待っていましたが、諦めて帰って来ました。

午後6時過ぎ、Jimから電話があり、「"evening"には職場にいると云ったではないか。渡す場所は職場だったのだ」とのこと。私の英語の理解力を疑問に思われてしまいました。

私の脳には「この人が職場に行くのは"evening"である」と刷り込まれていたのです。午後4時なら家にいて当然だと思っていました。『研究社 英和中辞典』で"evening"を引くと「日没から就寝時まで」とあります。これが私の考える"evening"です。大体「イヴニング・ドレス」なんて日が暮れてから着るものじゃありませんか、普通は。LDOCEを見ると、"evening"は”the end of the day and early part of the night, between sunset or the end of the day's work and bedtime"で、ほぼ『中辞典』と同じです。

ところで、私の住むアメリカ南部は夏ですと午後8時でも明るいのです。カナダやイギリスなどは9時でも明るかったと思います。これだと「日没から就寝時まで」という定義の"evening"の時間はベラボーに短いことになります。妙です。

『リーダーズ英和辞典』を見てぶったまげました。「夕暮れ、晩【日没から就寝時まで】」と、これはお馴染みの定義なのですが、その後に「【米南部・英方言】午後【正午から日没まで】」とあるのです。つまり、アメリカ南部の"evening"は「午後」であり、当然午後4時も含まれているというわけです。しかし、こちらに住む人々数人に聞いたところ、彼らが考える"evening"は「午後」ではありませんでした。一人は「勤務が終ってから寝るまで」、一人は「午後6時から8時半まで。それ以降は"night"を使う」とのことでした。

Wikipedia(http://en.wikipedia.org/wiki/Evening)を見ると、次のように記されていました。

In the rural American South, "evening" ["e'enin"] is often used to describe the entire late afternoon, especially when the main meal of the day, dinner, is taken in the early afternoon; then "e'enin" is anytime after dinner.(南部の田舎における"evening"["e'enin"と発音]は、しばしば午後遅い時間帯全体を指して使われる。特に、その日のメインの食事であるディナーが午後早くに摂られた場合、そのディナーの後の時間帯はおしなべて"e'enin"となる)

この“事件”で学んだことは、「約束の時間と場所は必ず復唱する」というものです。時間は"evening"などという人によって定義が異なる曖昧な言葉でなく、数字で確認すること(「午後1時から6時の間ですね?」とか)。勝手に思い込んではいけないのです。

(February 10, 2007)、追補(June 26, 2007)

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[・] 敬語の初歩

"please"の役割が以下のようなものであることは、誰でも知っています。

"Fill this form."(この書式に記入して)
"Fill this form, please."(この書式に記入して 下さい)

これには次のようなヴァリエーションがあります。
"Open your mouth."(口を開けて)
"Open your mouth for me."(口を開けて 下さい)
この例は医師や看護婦(特に歯科系統)が頻繁に使います。

上の表現はいずれも命令形に何かを付け足して、敬語に変換している例です。では、元の文が命令形でない場合はどうか?簡単な例が返事です。

"Yes."(そう)
"Yes, sir."(そう です)
"Yes, ma'am."(そう です)

"No."(違う)
"No, sir."(違い ます)
"No, ma'am."(違い ます)

つまり、"sir"や"ma'am"はセールスマンや店員がお客に云うだけのものではないんですね。実は私も誤解していました。「平等で対等な関係なんだから、何も"sir"をつける必要はあるまい」と。しかし、上で見たように、"Yes."や"No."はそのまま裸で投げ出すと、非常にブッキラボーであることが分ります。表情で和らげることは可能でしょうが、それにも限界があります。

アメリカの裁判で裁判長に答える場合、
"Yes, your honor." (最も相応しい表現。裁判長が男性でも女性でも可)
"Yes, sir."(裁判長が男性のとき)
"Yes, ma'am."(裁判長が女性のとき)
…のどれかが必須です。単に"Yes."あるいは"No."だけで答えると、裁判長の心証を害し"You should respect your judge."(判事に敬意を払うように)と注意されたりします。裁判長が偉いというのではなく、国会議員が国民の何%かの代表ゆえ敬意を払うべき存在であるように、判事も選挙で選ばれるので市民の代表であるということでしょう。

アメリカの軍隊映画を観ていると、憎たらしい上官に対して下級兵士が"Yes,"と答え、1秒ほど間を空けてから"sir."を付け足すというシーンに時々ぶつかります。これは明らかに「そう」と不敬な表現をしておいて渋々「です」を付け足してお咎めを回避しているわけです。上官はその1秒の間で、明白にメッセージを受け取り、相手をギロリと睨むことになります。

日本語も「それを取って」に「下さい」を付けるか付けないか、「そう」に「です」を付けるか付けないかで丁寧な云い方かどうかが変わります。英語も同じなんですね。つい"Yes."あるいは"No."だけで答えていることに気づいたら、自分は結構偉そうな態度で応答してるんだと思う必要があるようです。この場合、相手が顧客であるとか組織やビジネスで上位にいるとか、年上であるとかは一切関係ありません。日本語で「そうです」と云うのが正しい状況なら、"Yes."や"No."だけでは不十分だと考えるべきでしょう。

(January 10, 2007)

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[・] なぜクリスマスだけ"Merry"なのか?

Happy New Year!
Happy Easter!(復活祭)
Happy Fourth of July!(独立記念日)
Happy Thanksgiving!(感謝祭)

祝日、行事(母の日やハロウィーンなど)、あるいは誕生日などのお祝いの言葉は全て"Happy"で始めますが、唯一クリスマスだけ"Merry"で始めます。どうして、これだけ特別扱いなのか不思議でした。

LDOCEを見ると"Merry Christmas!=Have a happy time at Christmas!"とあり、どっちでも良さそうな気配です。

これだけが宗教起源の祝日だからだろうか?とか、何か深い仔細があるのでは?と、この謎解きに取り組もうとしたところ、http://en.wikipedia.org/wiki/Merry_Christmas で一気に解決してしまいました。

クリスマスを祝う習慣は四世紀から始まったそうですが、"Merry Christmas!"という表現は17世紀から使われた記録があるとのこと。19世紀になって"Happy Christmas!"の勢いが強くなり、いまだに英国とアイルランドではこの方が一般的だそうです。

しかし、アメリカでは"Merry Christmas!"が圧倒的に優勢で、Clement Moorという詩人の"A Visit from St. Nicholas"という1823年に作られた詩の最後の行、"Happy Christmas to all, and to all a good night"という部分は、その後のアメリカの多くの版で"Merry Christmas to all"に勝手に書き換えられているほどだそうです。

英国とアイルランドでは"Happy"だとすれば、英語としては結局どちらでも間違いではないようです。なぜアメリカでだけ"Merry"なのかは依然謎ですが、Wikipediaにも載っていないということは、多分詳細不明なのでしょう。

ユダヤ人はChristmasではなく"Hanukkah"(ハヌカ)ですが、彼らは英語では"Happy Hanukkah!"と云います。スペイン語の"Feliz Navidad!"(フェリス・ナヴィダ)は、歌のヒットにより世界中でポピュラーな表現になっています。この"feliz"は「幸せな」という意味だそうですから、英国、アイルランドの"Happy"組に入ります。イタリア語ではBuon Natale!(ブオン・ナターレ)「良いクリスマスを!」で中立ですが、フランス語では"Joyeux Noel!"「楽しいクリスマスを!」、ドイツ語でも"Frohe Weihnachten!"は「喜ばしい(楽しい)クリスマスを!」だそうなので、"Merry"組としてアメリカと同盟関係を築いています。

なお、"Merry Christmas and a Happy New Year!"と対になる時は"Happy New Year"に"a"が付くものの、単独の場合は"a"をつけてはいけないそうです。年賀状では要注意ですね。

(December 10, 2006)

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[・] 山口百恵に騙されないで

山口百恵の“引退ソング”として阿木燿子の作詞、宇崎竜堂の作曲で作られた『さよならの向こう側』。実際にはこの歌は彼女の最後のシングルではありませんが、ラスト・コンサートの最後の曲はこれでした。詩もメロディも、ただの歌として考えれば大したことはないのですが、山口百恵の「白鳥の歌」だと思うと感慨深いものがあります。

[Momoe]

この歌は一番は恋人に別れを告げる風の「あなたの口づけ」、「あなたのぬくもり」を忘れないという表現なのですが、二番になると「あなたの呼びかけ」、「あなたの喝采」を忘れないと、一転して山口百恵ファンへの告別となります。まあ、そういう構成の無理も気になるのですが、ここではこの曲の中の英語について触れたいと思います。

"Thank you for your kindness
Thank you for your tenderness
Thank you for your smile
Thank you for your love"

ここまでは問題ありません。しかし、最後の

"Thank you for your everything"

こういう表現を私は聞いたことがありません。普通は"Thank you for everything."と"your"無しです。「色々ありがとう」ですから、「あなたの色々をありがとう」とはならないのだと思います。

しかし、ひょっとすると"Thank you for your everything"とも云うのか?と、例によってGoogleで検索してみました。文の前後を引用符で括らないとthankとかyouやeverythingなども検索してしまうので、完全に"Thank you for your everything"(引用符付き)で検索しないといけません。

普通に検索すると、引っ掛かるのはほとんど日本のサイトばかり。それも山口百恵のこの唄に関連するページでした。これが502件。"your"無しだと55,600件と桁外れに増大します。

しかし、私は日本のサイトの英文を信用しませんので、Googleのオプションで「英語サイトのみ検索」を選びました。すると、"your"付きはたった143件ですが(日本語の検索結果よりかなり少ない)、"your"無しだと何と890,000件というベラボーな違いとなります。つまり、"your"付きはたったの0.016%に過ぎないのです。これは「無い」に等しく、乱暴に決めつければ英語として間違いであるか、百歩譲っても非常に稀な表現ということになります。

この表現について元高校英語教師Diane(ダイアン)に尋ねました。彼女は言下に「"Thank you for your everything"という表現は無い」と断言しましたが、私が歌の由来と"Thank you for your kindness"や"Thank you for your tenderness"などの後にこのフレーズが続くと説明しますと、「そのコンテキストなら、どの行にも"your"を入れたいという気持ちは解るし、間違いではない」と態度を変更しました。ただし、「そのコンテキストを離れて、日常会話として"Thank you for your everything"と云うのは間違いである」そうです。

私が心配なのは、この歌を聞いた日本の青年男女が阿木燿子の歌詞を覚えてしまい、留学先や駐在先で"Thank you for YOUR everything"を繰り返しているのではないかということです。流行歌の影響は恐ろしいものですからね。

【おことわり】画像はhttps://i.ytimg.com/にリンクして表示させて頂いています。

(November 20, 2006)

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