新宿に中村屋というレストランがあります。これを、単に「中村」とだけ云ったら、すぐにはレストランのことを話しているとは通じません。「中村」はありふれた姓ですし、「新宿の中村」と云ってもまだレストランと理解するには時間がかかります。「中村屋」と云った場合にのみ、ナノセカンドのタイムラグも無くレストランと分ります。この場合、“新宿の”という形容詞すら不必要です。 つまり、 ついでですが、アクセントは「マク・↑ダ・↓ヌルズ」と「ダ」を強く発音します。 TVで「ソバ、ソバ」と連呼しているのが聞こえました。「へえ、アメリカでもついにソバを売り出したのだろうか?」と思ったら、これは光沢を失った古い銀器をピカピカにする新案の道具の宣伝で、"silver"を連発していたのでした。"l"(エル)が聞こえず、ソバだと勘違いしたわけです。 "Cool"(カッコいい、頭がいい、洒落ている)というのもTVに出てくる頻度が高いのですが、これも「クー、クー」とハトが鳴いているようにしか聞こえません。ある人と話していたら、「ロコ」という語が何度も出て来て、私が知っていたのは「機関車」のlocomotiveの略でしたから、「何で急に機関車が出てくるのだろう?」と不思議でした。話の内容から"local"(ローカル=地域の)と云っていることが分りました。NHK勤務時代、日常的に「ローカル放送」とか喋っていたので、「ロコ」=「ローカル」とはすぐには見当がつかなかったのです。 ついでですが、"local"には「田舎の」という意味は無く、会話の中で話題になっている「地域の」ということを指します。電話の"long distance call"(市外通話)に対応するものは"local call"(市内通話)です。大都会New Yorkの市内でも"local call"であって、“田舎で掛ける電話”ではありません。全国ネットのTV CMなどで、最後に"See your local dealer."などと云います。これは「お近くの販売店でどうぞ」という意味であって、「田舎の販売店でどうぞ」ではありません:-)。 アメリカでは"R"の発音をかなり誇張します。語尾にあって消えても良さそうな"R"も、実に几帳面に発音します。"R"を楽しんでいるように思えるほど。しかし、たまには次のようなことも起ります。当家で"garage sale"(ガラージ・セール:自宅の駐車場で不用品を売る)を催した時のことです。カミさんが地元紙に二日間$15.00で三行広告を依頼しました。当日、いくら待っても客が来ません。たまたま新聞の広告欄を見たら、"Royal Road"であるべき住所が"Willow Road"として掲載されていました。これで誰か来たら奇跡です。電話で申し込んだので、"Royal"が"Willow"と聞き間違えられたのでした。英語の“本場”の人達でもこれですから、我々日本人が間違えても不思議はありません。次の日のための訂正を依頼しましたが、今度はFaxを使いました:-)。 私は冗談が好きなので、カミさんに脚のマッサージを頼まれた時など、"I rub you."("I love you."のもじり)と云ったり、ドライヴ中に"It's a wrong way to Tipperary..."と歌ったりします。本当は"long way"なのですが、"Wrong way"(進入禁止)という交通標識に引っ掛けているわけです。わざと混同していることを察知してくれる相手でないと冗談になりません。完全な駄洒落ですけどね:-)。 アメリカの知人、友人達でInternet経由でジョークを回覧するのが流行っています。2000年のアメリカ大統領選挙結果が集計問題で数週間立ち往生した時、次のジョークが色んな人間から送られて来て、仕舞いにうんざりしました。 "International News Alert 日本人が"Election"(選挙)と"erection"(勃起)を誤解し、勃起不全治療薬ヴァイアグラを沢山送って来たというお話で、日本人がLとRを判別出来ないことを茶化しているジョークです。。ヴァイアグラはアメリカで製造・販売されている薬ですから、そんなものを日本から送ることはあり得ません。無茶苦茶なストーリイを仕立てて、単に日本人をからかっているわけです。「馬鹿にするな!」と怒るのも結構ですが、この間違いは誰にでも起りがちなので、非常に気をつけないといけません。 "Yes."の代りにカジュアルに使われるのが"Uh-huh."で、これは「アハ↑」と尻上がりに発音されます。「ハ」は澄んだ音ではなく、鼻に抜ける音です。"Yes."だけでなく、会話の最中に「それで?」と先を促す相槌としても使われます。 これに対応する"No."は"Uh-uh."で「アッ↑ア↓」と二番目を尻下がりに云います。この場合は、どちらも鼻に抜ける音です。「アハ」と「アッア」は聞き分けにくいかも知れませんが、語尾の上がり下がりで見当がつくはずです。 “キャリア・ウーマン”とか云う場合の“キャリア”は全くの日本式発音で、これでは"carrier"と受け止められて「運搬人」、「運送業者」、「保菌者」等の意味に誤解されます。“キャリア・ウーマン”が、只の“女性運搬人”になってしまっては可哀相です:-)。 「経歴」、「履歴」を指す"career"は“クリア”という風に発音します。"R"ですから、"clear"とは明瞭に違います。“リ”にアクセントがあります。“リ”を伸ばして“クリーア”と云うと、これは"Korea"「韓国」になります。 同じ“クリア”と発音する言葉に"Courier"「特使、添乗員」というのもありますが、こちらは頭の“ク”にアクセントを置きます。 まあ、こちらが使う場合は文脈で解って貰える言葉だとは思いますが、本当の発音を知らないと相手の喋っていることが判りませんので、結構苦労します。 これについて、どう発音してもカミさんに通じませんでした。「モーテル」という言葉に馴染んでいると、どうしても「モ」を強く発音したくなります。実は、これが"motor"と"hotel"を合成した言葉だということは知っていました。であれば、"hotel"は「テ」にアクセントがあって「ホーテル」などと云わないわけですから、「モテル」(テにアクセント)とすべきだったわけです。お粗末でした。
そうそう、Alfred Hitchcock(アルフレッド・ヒッチコック)の映画"Psycho"『サイコ』で、Anthony Perkins(アンソニイ・パーキンス)が演じたNorman Bates(ノーマン・ベイツ)が経営していたのが、"Bates' Motel"です。あれは一階建てでしたね。普通は、何の心配もなくシャワーを使えます:-)。 "Internet"を英米人は「イナネット」という風に発音します。「インター」とハッキリ云わないのです。もっと云えば、語尾が消えて「イナネッ」のように聞こえます。ついでですが、"International"は「イナナショナル」。 アメリカに住む日本人数人と仕事をした時に、私が考えた冗談を披露しました。 ".com"は正確な発音を模するなら「ダット・コム」です。これだと上の冗談は更に通じにくくなります。もっとつきつめれば松島観光協会は".com"ではなく、組織の性格上".org"(ダット・オーグあるいはダット・オアジーと発音される)になるところでしょう。というわけで、「エンヤー・ドット・コム」は一瞬の笑いを誘う冗談でしかありません。 ホームページのURLやメール・アドレスを口頭で云う場合、takano@netdoor.comは「タカノ・アト・ネットドーア・ダット・コム」となります。 この「英語の冒険」のURL: ":" colon「コウロン」(伸ばして発音) 続けると、 また、hummingbird-e(QT).mov のような場合は、 続けると、 「接続業者」はInternet Service ProviderでISP(アイ・エス・ピー)と略記されます。 一般的なグラフィック・フォーマットとしてJPEG(ジェイペグ)とGIFがあります。GIFはCompuServeがずっと以前に世界に広めた方式で、当時は「ジフ」と発音されていました。しかし、最近は「ギフ」と呼ぶ人も多くなり、両方混在している状態です。'Designing web graphics.3'の著者Lynda Weinmanは「私はその時のムードによってギフと云ったり、ジフと云ったりする」と書いています。私は「岐阜」のイメージが出て来るので、「ギフ」は敬遠し「ジフ」にしています。 カタカナを信じてはいけません。私もずいぶん騙されて来ました。英語をカタカナ化した英語のセンセー達やマスコミ、出版社を怨んでいます。 「電源」を「コンセント」などと云ったり(英語では"outlet")、「賞」を「アワード」と云ったり(正しくは「アウォード」)。こういう、英語風だが全く通用しない“日本語”を浸透させている輩に腹が立ちます。本当の英語を覚える妨げでしかありません。 ブラジルへ撮影に行った時のこと。ヘリコプターでジャングルのエア・ショットを撮ることになりました。飛行場でアメリカ人パイロットと打ち合わせをした時、彼が「支払いはどこの通貨でするつもりだ?」と聞きました。同行のディレクタは全く英語が話せない人だったので、私が通訳しました。すると、このディレクタ氏は、(そのくらいの返事なら自分で出来るとばかり)パイロットに向かって「ドル!ドル!」と怒鳴ったのです。パイロットは怪訝な顔をしていましたが、私が"Dollar"(ダラー)と云うと、「分かった」と納得しました。"Dollar"にはカナダ、オーストラリア、香港、シンガポールなどのドルもあるので、正確には"U.S. dollar"と云うべきだったでしょう。 誰が「ダラー」を「ドル」などと云い始めたのでしょうか? まあ、英語の現地発音に忠実に輸入しようとしても、完全に正しく置き換えることは不可能です。カタカナで"Rice"と"lice"は書き分けることは出来ません。"bus"と"bath"もお手上げです。だからと云って全部諦めてしまうことはないと思います。例えば、"B"と"V"は区別出来ます。私が「ドライヴ」、「オーヴン」とか書くのも、これらが"dribe"(?)や"obun"(?)では通じないからです。"horn"と"phone"も“ホーン”と“フォーン”と書き分けられます。「ヴァ、ヴィ、ヴ、ヴェ、ヴォ」や「スィ」、「ファ、フィ、フェ、フォ」、「ウィ、ウェ、ウォ」を使うのはキザに見えるかも知れせんが、これでどれだけの人が助かるか考えれば、メリットはあると思います。「お座り下さい」を「シット・ダウン」と云ったら、"shit"という下品な表現によって誤解され、軽蔑されるのがオチです。普段から「スィット・ダウン」という表記を目にしていれば、問題の起る確率は激減するでしょう。 日本では「ウイルス」として知られている"Virus"は、英語ではスペルに近く「ヴァイラス」と発音されます。「ウイルス」はドイツ語を輸入したものだそうで、この言葉まで「ヴァイラス」にせよとは云いません。日本は昔から世界各国の言葉を仕入れて来たので、先に英米以外から来たものの優先順位は尊重すべきでしょう。ただ、それが英語として通じないことは覚悟しておくべきです。 秋間 浩さんという方が執筆された『アメリカ200のキーワード』(朝日選書、1993)という素晴らしい本は、発音表記法も非常にユニークです。単語の発音を可能な限り現地発音に近く書く努力をされていて、"national"は「ナッショノー」、"convertible"が「カンヴァータボー」という風です。異常に見えますが、限りなく原音に近いのです。 私は秋間さんほど過激になれませんが、書くものには少なくとも「ヴァ、スィ、トゥ、フェ、ウォ」は遠慮無く登場させます。皆さんもこういう書き方を試してみると、正しい発音を確認する助けともなり、いつの間にかご自分の発音も良くなっていることに気づくでしょう。日本の新聞、雑誌などもこういう表記にしてくれればいいのになあと思います。 先ずクイズで始めましょう。湖沼地帯として有名なスコットランドで教わったネタです。"How many lakes are there in Scotland?"(スコットランドにはいくつ湖があるか?)。答えは「一つ」です。「湖沼地帯なのに、一つだってえ?」と誰でも思います。しかし、これは正しいのです。Lake Menteith(メンテイス湖)という湖だけに"Lake"がついて、他のには全部"Loch"が付くからです:-)。 幻の怪獣で有名なネス湖も、実は"Loch Ness"です。有名な歌の一つ"Loch Lomond"も同名の湖をテーマにしています。この"Loch Lomond"は日本では「ロッホ・ローモンド」と呼ばれています。英英辞典(LDCE)では"Loch"は「ラック」あるいは「ロック」と発音するように書かれていますが、一見してゲルマン系の言葉ですから、ドイツ文化が圧倒的だった時代の日本では「ロッホ」と発音されて当たり前だったのでしょう。 作曲家のBach(バッハ)が英米では「バック」と発音されるのは有名です。"ch"が付いた場合、ほとんどは似たような扱いをして良さそうです。"Koch"という姓も多いのですが、これも「コウク」で、"Hoch"という姓は「ホウク」と発音されています。 日本語はドイツ語、フランス語、イタリア語など、かなり現地の言葉の発音をそれらしく取り込んでいますが、英語(特に米語)は自分達の発音し易いようにねじ曲げる傾向があるようです。ですから、Bachを「バッハ」と発音した場合、クラシカル音楽のことを喋っている流れだと相手に推測して貰えるかも知れませんが、いきなり「“バッハ”が好きです」と云っても多分通じないでしょう。 ついでですが、画家のVan Gogh(ヴァン・ゴッホ)は英語では「ヴァン・ゴウ」です。これは想像するのも難しいですね。 Lake Menteith "Gas"は「ギャス」と発音します。イギリスでは日本と同じガス(気体)を指しますが、アメリカでは気体のガスと共にガソリン(液体)も指します。「ギャソリン」を短く云ったのが発端でしょうが、聞き間違えると危険ですね。なお、イギリスにおけるガソリンは"petrol"(ペトラル)です。 アメリカの「ギャス」が気体・液体どっちのガスのことを云っているかは、会話の前後関係で推測するしかありません。台所の話でもなければ、普通はガソリンのことと思って間違いないでしょう。 日本語の「ガソリン・スタンド」は、アメリカでは"gas station"(ギャス・ステーション)となります。 これは完全にローマ字読みの弊害だと思いますが、"warning"(ウォーニング)を「ワーニング」、"award"(アウォード)を「アワード」と発音する日本人が多いようです。後者は無線の交・受信証書の意味でよく使われていますが、専門誌まで「アワード」と書いているので、それを読んで育った少年達は「アワード」が正しいと思い込むに違いありません。罪作りな話です。 ある人の書いた文で、何度も「ワー」という言葉が出て来るので何のことかと思ったら、"war"(戦争)のことなんです。日本の英語教育も悪いのですが、こんな初歩的な言葉の辞書の発音記号を見たこともないのも恥ずかしい。 カミさんによれば、"war"という構成の場合は一般的に“ウォ”だそうです。"Watt"などは「ワット」です。 数年前、借りた家のペンキ塗りをしていた時のこと。カミさんのBarbaraが「セマイグロスがなんとかかんとか」と云ったのです。彼女はウロ覚えの日本語をたまに発しますから、これも日本語だと思い、「狭い?千枚?」と考え込んでしまいました。実はペンキには光沢と半光沢とあり、セマイ・グロス(semigloss)が半光沢を指すのでした。Longmanの現代英英辞典には[semi]だけしか載っていません。日本の英語教育は最初イギリス英語が導入されましたから、セミとなったのはイギリスの影響なのでしょう。研究社のリーダーズ英和辞典には[semi, semai]の二通り載っています。しかし、普通の日本人は「セマイ」と云われると一寸まごつきますよね。なお、TVでは「準決勝」のsemifinalは「セミファイナル」、「セマイファイナル」両方が聞かれます。 「エンタイソーシャル」というのも最初何だろうと思いました。Antisocialという字面を見れば見当がつきますが、「反社会的な;社交的でない」という意味です。これも日本語では「アンチ」一色ですので、エンタイと云われると何だか解りません。延滞?なんて…。Longman現代英英の発音表記はanti- [eanti]一個だけで、エァンチという感じ。リーダーズ英和にはanti- [eanti, eantai]、つまりエァンチとエァンタイの両方が載っています。 もはや日本語になっている"multimedia"(マルチメディア)ですが、これも「マルタイメディア」と発音する人もいますので要注意です。 ナーシング・ホームにいるカミさん(Barbara)の母親Anitaから電話がかかってきて、"Barbara is working."と云ったら、"Walking or working?"と聞き返されたことが何度かあります。偏屈な老女の小さな意地悪だろうと思っていたのですが、最近他の人からも同様に聞き返されました。「じゃあ、10分ぐらいで戻るわけね?」とか云われて、(仕事に行って10分で戻るわけないだろうが!)と内心怒ったものの、どうも発音に問題があるのでした。 "Barbara is working at power company."(Barbaraは電力会社で働いている)とか完全な文章で喋れば、電力会社で“散歩している”とは誰も思わないので、これなら通じるでしょう。巻き舌になる"R"の発音は日本人には難しいと云われていますが、"work"と"walk"などという簡単な言葉が通じないので、私としてはいささかショックでした。「次の機会には“ワールキング”とドイツ人かイタリア人みたいに発音してやる!」とカミさんに宣言したところ、「"work"は口をあまり開けないで発音するのよ」と教えられました。確かに口をあまり開けなければ、否応なく巻き舌になります。大きく開けると"work"と云っているつもりでも、音が澄んでしまうので"walk"に聞こえるんですね。 落語に「世の中は澄むと濁るで大違い、刷毛に毛があり、禿げに毛が無し」という文句が出て来ます。英語の澄むと濁るのお話で御機嫌を伺います。 Macintoshのシステム・ファイルに"extension"(機能拡張)という種類があります。それぞれは小さいソフトウェアで、文字通りOS(システム)の機能を拡張します。 アメリカへ来るまでは「機能拡張ファイル」と呼んでいれば良かったので問題ありません。こちらでMacintoshのユーザーズ・グループを作り、マネージャーとして活動するようになって、全て英語で発音しなければならなくなりました。"Extension file"(エクステンション・ファイル)という風に。ある時、「待てよ、オレは『エクステンション』と澄んだ発音をしているが、澄むのは"station"(ステイション)、"position"(ポジション)、"dimention"(ディメンション)などのように"-tion"であって、"-sion"だと"explosion"(エクスプロージョン)、"illusion"(イリュージョン)、"fusion"(フュージョン)、"conclusion"(コンクルージョン)のように濁るんでねえべか?」と思ったのです。で、その日の会合では"extension"(エクステンジョン)と濁った発音で通しました。家に帰って辞書で調べて、一人赤面してしまいました。グループの会員は英語の先生ではありませんから、誰も注意などしません。彼等は「ああ、この男は機能拡張ファイルのことを喋ってるんだ」と解ればそれで済むわけです。いちいち、アジア人の発音など直していたら日が暮れてしまいます。 で、「拡張」という言葉の"extension"は「エクステンション」なのでした。"tension"(緊張、テンション)の親戚だと考えれば無難だったのでしょうが、魔が差したんですなあ。しかし、"-tion"が絶対濁らないのはいいとして、"-sion"が澄んだり濁ったりするのは困ります。何か法則はないのかと考えてみましたが、今のところ分りません。 写真や映画のフィルムの感光面に塗布されている化学薬品の層を日本では「エマルジョン」(感光乳剤)と呼んでいます。私はNHKにカメラマンとして入社した当時、16mmフィルムを撮影していましたので、先輩や現像所の人々と「エマルジョン」について話すことが多かったのです。この言葉"emulsion"を辞書で引きますと、なあんだ、正しい英語では「エマルション」と澄むではありませんか。この言葉を初めて日本に輸入した人も私と同じ間違いをしたんですね。それ以後、日本中のカメラマン、フィルム・メーカー、現像所が何十年も間違った発音をしているわけです。恐ろしいことです。 お後がよろしいようで…。 "Won't"は"will not"の省略形ですが、これの発音はちゃんと習った人でないと難しい。ついローマ字読みで“ウォント”と云いがちですが、これだと"want"と同じになってしまいます。"Won't"は“ウォウント”と、スペルに無い“ウ”を一個足さないといけません。この発音は辞書にも載っています。 まあ、大抵は文脈で分かって貰えることでしょうが、「欲する」と「…しない」は180゜違うわけで、無用の誤解を生じることもあり得ます。 "Can"と"can't"もよく聞き返される言葉です。どちらも同じように強く発音してしまうせいでしょう。「"Can"の場合は“クン”という風に弱く発音し、"can't"はハッキリ発音する」というのが最大公約数のようです。カミさんのお薦めによる"can't"の発音は“キャーント”です。 "Tear"という語は二種類あって、一つは「涙」で、もう一つは「裂く」、「破く」という意味で"tear, tore, torn"という不規則変化をすることは誰でも御存知です。では、両者の発音はどうでしょうか? 私は最初に覚えた「涙」の"tear"(ティア)の印象が強いため、「裂く」の時も“ティア”と云ってしまい、カミさんに何度も「“テア”でしょう?」と注意されました。動詞の方は「テア、トア、トーン」であって、「ティア、トア、トーン」ではないのです。変化のスペルと同時に発音も覚えておく必要があります。 日本女性でドイツの方と結婚され、一時アメリカにも滞在されたものの、ほとんどドイツで暮されている方がおられます。このたび、英語の発音に関するメールを頂きました。非常に興味深い内容なので、お許しを得て転載させて頂きます。 私は今まで "Happy New Year!"と言っているつもりで、"Happy New Ear!"なんて言っていたのです。"yellow"、"yesterday"、"you"などはまともに聞こえる様なのですが、まったく自分でも驚きました。 子供たち(10歳と8歳)から「ママの"year"の発音がおかしい。"ear"に聞こえる」と何度も言われました。96〜97年のカリフォルニア滞在中に子供たちは英語を覚え、現在はインターナショナルスクールに通っています。授業は英語です。毎日1時間だけドイツ語授業があり、子供は夫とはドイツ語で話しますが、それでも英語の方が得意です。私とは日本語で話しますが、文字は読めません。 子供たちの批判を無視できず、子供の学校でESLを担当しているイギリス人の先生にレッスンを受けに行きました。お互いドイツの暮らしが長く、日常会話のドイツ語には不自由しません。そこで彼女が言ったのは「ドイツ語の音で似ているのは"J"の音なのよね〜」です。"J"だけだとヨットと発音します。"J"で始まる言葉はJuni(英:June)、Juli(英:July)、Julius、Justinなどがありますが、ユーニ、ユーリ、ユーリウス、ユスティンと発音します。この時の“ユ”の唇は、「ひょっとこ」のように口を突出します。ストローをくわえようとする時と同じです。 ただ"year"の場合はこの「ひょっとこ」の後にすぐ口を左右にひっぱって平たくし"ear"の音を出さなければなりません。練習方法として、"Julius, Juli, Year"と続けて言うのが効果的ではないかとアドバイスを受けました。「ひょっとこ」のような口つきをする筋肉は普段あまり使われていないようで、練習しすぎると口の周りが筋肉痛になります。 子供たちはすっかり呆れていて、私が"Julius, Juli..."とやり出すと「もー、わかったから静かにしてよー」と言います。「ちゃんと"year"って言えてる?」と聞いても「あー大丈夫、大丈夫」と全く投げやりな回答が返ってきます。何て役に立たない奴らなのだ!!私はこんなに真剣なのに!!プンプン。 私が学校に行った日に、日本人生徒の国語を担当している日本人の先生に会いました。「まー、今日はどーしたの?」「ESLの先生に教えて貰いたい事があって来たんですよ。実はね、…」「えー、ちょっとー、 "ear"と"year"って違う発音だったの??!!」 私だけではなかったのですねー。 はぁー毎日が勉強です。 特に"month"(月)とか"cloth"(布)、"truth"(事実)というような場合です。どちらも最後の音はいずれも舌を噛む「ス」です。これらの複数形の発音は、辞書にはあたかも「マンスス」とか「クロウズズ」と読める発音記号が記されています。しかし、やってみるとこれは大変難しい。特に噛んだ舌を引っ込めて、通常の発音に戻るのは至難の技です。 しかし、ある時その難しいことをやったのですね。勿論、スムーズには発音出来ず、舌を引っ込めるタイムラグがありましたが。相手は当時まだ私の英会話教師だった頃のカミさんでしたから、笑いながら「舌を噛んだ後の最後のsやzの音は発音しなくていい。舌を噛んだ音をやや長く延ばすだけでよい」と教えてくれました。 なお、'Basic English Usage' by Michael Swan (Oxford English, 1984)を見ていましたら、"bath(風呂)→baths"は「バースス」と澄んだ音の複数形、"mouth(口)→mouths"は「マウズズ」と濁った音の複数形になると書いてありました。 アメリカ人の元高校英語教師Diane(ダイアン)に云わせると、「イギリス人は澄んだ"th"の発音をするようだが、アメリカ人は滅多にしない。私は"baths"も"mouths"も通常の"th"を若干伸ばした後"z"の音をつける」と云っていました。 "Oops!"は日本語ならさしずめ「オーッと!」というような意味です。曲がり角で人にぶつかりそうになった時、コーヒーをこぼしそうになった時、云ってはいけないことを喋りそうになった時、さまざまな時に使われます。 "Oops!"の発音は「ウプス」ですが、私など日本風に「オーッと!」と云いかけて、「いけね、ここはアメリカだった」と気づいて後を続けますので、「オープス」になってしまいます。日本人の中には、"Oops!"をローマ字読みで最初から「オープス」と発音する人もいるようです。 上の例に挙げたようなとっさの場合にこそちゃんと英語風に云えるかどうかで、その人の実力が判断出来そうです。是非「ウプス」と云えるようになって下さい。 "Pension"には二つの意味があり、それぞれ発音が異なります。 最近日本語として定着したように思われる下宿式ホテルの「ペンション」は、元々はフランス語なので「ペンスィヨーン」と語尾を鼻にかけた発音をします。 日本風に「ペンション」と発音すると、それは「年金」、「恩給」の意味になります。 「長野のペンションに滞在した」と云えば、英米人は「年金には滞在出来ないから、これはホテルのことだな?」と推測してくれるでしょうが、「現在はペンスィヨーンで暮らしている」と云った場合はどう受け止められるか興味深いところです。 我ながら凄い(ひどい?)タイトルだと思います。でも、「一体何が書いてあるんだろう?」と思わずクリックしたデショ?それなら大成功なのです。 "I created a Japanese version of the brochure."(私はそのパンフレットの日本語版を作った)と云ったところ、人々から何度か怪訝な顔をされました。私の発音は"virgin"に聞こえるのだそうです。最後は英語の先生だったので、親切に解説してくれました。それによれば、 version:語尾の"-sion"は、舌をどこにもつけずに柔らかく発音する。 両方とも語頭の発音は同じで、「ヴァー」は抑えるようなこもった音になります。で、"version"の語尾ですが、これは難しい。「ジョン」と発音すると"virgin"に聞こえるそうです。アメリカ人の友人に聞いて貰いながら練習したところでは、"ver"の"r"で舌を丸めなければなりませんが、そのまま舌を動かさずに曖昧に"-sion"と続ければいいようです。 辞書には「ヴァーシャン」という風に濁らない発音も載っていますので、こっちを選ぶ方が簡単かも知れません。 "Japanese version of the brochure"と云った場合には、私が意図していることは明らかですが、英米人は"Japanese virgin"と理解した瞬間にショックを受けるようです。 蛇足ですが、"virgin"には性別はなく、「処女」ばかりでなく「童貞」をも含みます。"He was a virgin at that time."という表現も存在します。
カルピスによく似た水玉模様の包装のボトルで、商品名が"Calpico"となっているものを見かけました(下図)。「類似品だな?」と思いましたが、真ん中にカタカナで「カルピス」とあります。「図々しい。偽物のクセに」とあきれましたが、これは純正品なのでした。 "Calpis"ですと、先ず"piss"は「おしっこ」ですので、"cow-piss"(牛のおしっこ)と聞こえてしまいます。ですから、会社は中身は同じままで商品名を変えたのです。 ただ、会社名まで変えるわけには行きませんから、販売元は"Calpis Co,. Ltd."となっています。 「迂回ルート」、「密輸ルート」などの“ルート”ですが、"route"は「ラウト」とも発音されます。特にアメリカ南部では「ラウト」です。 こちら南部の人間が話してくれた話。「北部から女教師が南部へ引っ越して来ました。学校の英語の時間、彼女は"route"は「ルート」と発音しなさいと厳命し、生徒たち一人一人に"route"を使った文章を云わせました。ある男の子が"The mailman has the longest route in my town."という文を披露すると、教室がどっと笑いこけ収拾がつかなくなりました。女教師はポカンとしていましたが、やがて男の子の文の隠れた意味に気づき、以後「ルート」の押し売りは止めたそうです。 蛇足を加えますと、「ルート」だと"root"(根)と同じ発音になり、「その郵便配達は町一番長い男根の持ち主だった」とも解釈出来ます。この話が実話かどうかは怪しいと思いますが、「ラウト」と「ルート」の説明にはもってこいです。 なお、"Route 66"というように数字が付く場合は北部風に「ルート66」と発音されるそうです。 最近、こちらの町のある「読書サークル」からBook reviewを依頼されました。20人前後の婦人たちの前で英語で本の紹介をするわけです。 常々、正しい英語力の増強を望んでいましたので、これを機会に英語の先生につくことにしました。これまでも何度か名前が登場している元高校英語教師Diane(ダイアン)に、只のお友達ではなく、ちゃんと一時間いくらで報酬を払って習うことにしたのです。 とりあえず、数回のレッスンはそのBook reviewの原稿チェックと発音のチェックに費やしました。予期されたことですが、一番の問題は冠詞の有無でした。無くてもいいところに私が冠詞をつけたのはたった一ヶ所で、あるべきところに無かったのは十数カ所に上りました。 発音で問題になったのは、やはりLとRです。私の原稿に登場する引用文に三つの難関がありました。 "shivalry"(騎士道) 引用文ですから、どれも私が勝手に改変出来ず、努力して正しく読むしかありません。Book reviewが終わった今でも、私がどの程度うまく発音出来たか自信がありません。 【参考】Book Review:'The Chrysanthemum and the Sword' 折り込み広告の一部の割引券で、これを持って行くと多少値引きしてくれるサーヴィス。日本では「クーポン」と呼ばれています。これは元はフランス語の"coupon"(切れ端、切符)なので、語源から云えば「クーポン」が正しい。しかし、私の周りでは「クーポン」は聞いたことがなく、100%「キューポン」です。日本人の耳には、ちと子供っぽい発音に聞こえます。 なお、「キューポン」は自分で持参するものとは限らず、グロサリ・ストア(大規模食料品店)の入り口に各種置いてあるところもあれば、商品によっては商品のすぐ傍に束になって置いてあるものもあります。「これなら、最初から値引きすりゃいいじゃないか」と思いますが、真面目に一枚取ってレジに提示しなければなりません。レジ係が当該商品のバーコードをスキャンする前に提示します。 鉄道の連絡乗車券、周遊券などにも使われる言葉だそうですが、それらは経験したことがありませんので省略。 ローマ字は日本人の名前を書くためには役に立つものの、こと英語の発音の場合ローマ字読みは通用せず、ローマ字の知識は邪魔もの以外のなにものでもありません。 市営ゴルフ場でよく顔を合わせるゴルファーの一人にJack Mears(ジャック・ミアーズ)という80歳のシニアがいます。彼は私には理解不能な慣用句や南部表現を教えようとしていて、会う度に何か珍奇な云い廻しをします。一度聞いたぐらいではすぐ忘れてしまうのですが、私にそんな表現で話しかけて来るのは彼一人なので、別に覚える必要もありません。 春、花粉が舞う盛りの時期に、Jack Mearsに「見て!花粉が雪のように降っている」というようなことを云いました。実際、風に吹かれて木々の花粉が一斉に舞い降り、花粉のカーテンのように見えたのです。ここらのは松の花粉で、これは人間には害がないと云われています。Jack Mearsは「エイジ(私の名)、あんたはヨーロッパの国のことを話してるのか?あんたの発音はPolandだったぜ。いま舞ってるのはpollenだ」ちゃんと"pollen"(花粉)と云ったつもりだったのですが、Jack Mearsは許してくれません。「云って御覧?"pollen"。"Poland"じゃないよ」 結局、その日は彼を満足させることは出来ませんでした。Jack Mearsは「エイジは"pollen"と発音出来ないんだ」と他の人にまで話します。嫌味ではなく、面白がっているだけですが。 数日後、彼の発音を真似してやっとお許しが出たのですが、"pollen"は「パラン」なんです。アメリカの子供は先ず親や先生から「パラン」という音を聞き、後から"pollen"というスペルを知るのでしょう。私の場合は"pollen"という文字が先にあって、そのスペルからローマ字読みで「ポールン」と発音していたのです。「ポ」とスタートすると、Jack Mearsの耳にはヨーロッパの国以外は存在しなくなるようです。 古い『研究社新英和』(第6版)には発音として「パラン、ポーラン」と二つ載っているのですが、最新の『リーダーズ英和』(第2版)には「パラン」しかありません。「辞書は新しい方がいい」というのは間違いないようです。 「花粉病の話じゃないじゃん?」とおっしゃる?英語で“花粉”と発音出来なかったビョーキのことです。すいません。 "desert"(砂漠)は頭の「デ」にアクセントがあり、"dessert"(食後のデザート)は真ん中の「ザ」にアクセントがあります。これは誰でも知っています。しかし、知っていてもいざ読み書き、発音するとなると「はて、これはどっちだったか?」と迷ってしまいます。 いい見分け方を教わりました。"dessert"の真ん中にはSが二つ並んでいます。これを"strawberry shortcake"(イチゴのショートケーキ)と覚えるのだそうです。Sが二つ並んでいたら、それは「デザート」であり「ザ」にアクセントがあると考えればいいそうです。 逆に、「デザート」について話す場合、上の話から「デザートには"strawberry shortcake"とSが二つだから『ザ』にアクセントがある」と思い出せばいいわけです。 英語でも言い淀む時に「アー」と云います。これは"uh"と表記されることもありますが、全く意味はないので印刷物では普通省略されます。 英米人も喋りながら考える時、次の冠詞として"the"を使うと決断したものの肝心の単語の選択が済んでいないという場合があります。このような時、彼らは「ザ」とは云わないで保険のために(舌を噛みながら)「ジ」と発音しておき、言い淀む「アー」と繋がって「ジーアー」と云います。「ザ」と云っておいて、次の単語が母音で始まると教養がないと思われるのを恐れるせいでしょうか? "the"でなくて"a"と云っておいて言い淀む場合、"a"を「エイ」と発音するので「エイアー」となります。別に日本民謡を歌い出すわけではありません:-)。 "I"(私は…)と切り出しておいて言い淀むと「アイアー」になります。 何か説明しておいて、「だから」とか「それで」と続ける接続詞に"So"がありますが、"So"と云っておいて言い淀む場合は「ソーアー」になります。 "and"と云っておいて言い淀む時は「エンダー」あるいは「エナー」になります。"and"に続けて言い淀み、口を閉じると「エンダム」になります。 "but"と云っておいて言い淀むと「バダー」あるいは「バラー」となります。 Michelob Ultraというビールがアメリカで人気を呼んでいます。95カロリー、炭水化物2.6グラム、たんぱく質0.6グラム、脂肪0.0グラムで、これまでの優等生だったMiller Liteの96カロリー、炭水化物3.2グラムを凌いでいます。最近、お腹が出て来た私はMichelob Ultra専門です。 ある時、知り合いのアメリカ人数人と話していまして、私がこのMichelob Ultraを話題にしようと切り出したのですが、全然通じない。何度繰り返しても駄目。一人が「アルトラのことか?」と助け船を出してくれました。私は「ウルトラ」と発音していたのでした。 和製英語に毒されているとこういうことになるのです。"ultra"という言葉が日本でポピュラーになったのは、オリンピックの体操競技の“ウルトラC”によってだと思います。この時に最初から「アルトラC」と輸入してくれれば良かったのに、どっかの馬鹿者が「ウルトラ」とローマ字読みにしてしまった。次にTVの『ウルトラマン』シリーズが登場し、子供にまで「ウルトラ」という言葉を植え付けてしまった。私のような大人まで辞書も引かずに「ウルトラ」という英語があると信じこまされていたのです。多分、日本人の80%、いや90%は私と同じでしょう。 私の場合、「究極の」という意味の"ultimate"は「アルティマ」だと知っていました。実は十数年前、コンピュータ版のRPG(ロールプレイング・ゲーム)にアメリカ製の'Ultima'というプログラムがあり、日本には『ウルチマ』として輸入されていました。しかし、私はその言葉の意味を調べて、本当の発音は「アルティマ」だと突き止めていたのです。しかし、"ultra"まで調べなかったのは不覚でした。 なお、Googleで日本語検索しますと次のような結果です。(2003年11月現在)
・「アルトラ」 4,760件 (2.5%) もし、Michelob Ultraが輸入ビールのコーナーに並ぶことがあっても、棚には「ミケロブ ウルトラ」と書かれる筈です。それを気に入った人がアメリカ旅行中レストランでMichelob Ultraをオーダーしようとしても、全く通じず、結局諦めなくてはならないことになるわけです。困ったもんです。 アメリカの食料品店でパセリを買うのは簡単です。野菜売り場で現物を引っ掴めばいいからです。 しかし、園芸の店で「パセリはある?」と聞くのは大変です。先ず、三回、四回「パセリ」と云っても通じません。係は眉根を寄せて「この客は一体何を探してるんだ?」と頭脳をフル回転させます。それでも彼らには理解出来ません。 スペルに注目しましょう。"Parsley"ですから、「パースリ」と伸ばすのが正しいのですが、これで通じたらラッキーです。《アメリカ人は"r"の発音を誇張する》という公式があります。「パー」の後、「アールがアールんだかんね」という気持で舌を丸め、それに続けて「スリ」と発音します。すると、「ああ、パセリを探してるのね?うちはハーブ(香料植物)のたぐいは置いてないの」などと答えてくれます。 なお、"herb"は「ハーブ」で通じない場合があります。「アーブ」を試して下さい。 「現金出納係」あるいは「レジ係」のことです。2003年夏、友人J.B.(ジェイ・ビー)の奥さんKatherine(キャサリン)の83歳の誕生パーティがありました。娘のSusan(スーザン)が招待状作り、昼食の献立選びと料理、進行役を勤め、お客は全て女性でした。私はパーティの写真撮影を頼まれ、黒一点として参加。 昼食が終わった頃合いを見計らってSusanがスピーチしました。主に母親を讃える内容ですが、時に皮肉を交えて笑いを誘います。御主人のJ.B.はもとは数軒のドラッグ・ストアの経営者兼薬剤師で、妻のKatherineは長く会計や事務を担当していました。Susanは「私の母は現金出納係に1セントの不足も許さなかった」というエピソードを紹介しました。 この時、彼女は「キャッシィヤー」と発音したのが私の耳に残りました。後日、私はJ.B.とKatherineと談笑している時に、「Susanはキャッシィヤーと発音したけど、あれはキャッシャーが普通じゃないの?」と聞こうとしたのですが、これが全く通じませんでした。二人とも怪訝な顔をするだけで、返事は聞けませんでした。家に戻って辞書を引くと、先ずスペルは"casher"ではなく"cashier"で、ちゃんと"i"が入っているのです。ですから、Susanの「キャッシィヤー」が正しく、「キャッシャー」では通じないのでした。一人で赤面いたしました。 なお、銀行の現金出納窓口は"teller"(テラー)と呼ばれます。 “メジャー・カンパニィ”と云えば物差しを作る会社であり、“メジャー・リーグ”だと度量衡連盟でしょう(そんな連盟は存在しませんが)。アメリカにも物差しを作る会社はありますが、メジャー・トーナメント(速く正確に寸法を取る競技?)というのはありません。 「メジャー」と発音すれば、それは"measure"(測定する、物差し)です。「主要な、一流の」は"major"ですから、これは「メイジャー」と発音しなければいけません。 YouTubeヴィデオで発音を確認してみて下さい。 Googleで試しに"measure league"を検索したらいくつかヒットしたので、びっくり。ほとんどが日本人の間違いでした。カタカナを鵜呑みにして"major league"を"measure league"と思い込んでいるわけです。新聞や英和辞典まで“メジャー・リーグ”と表記している罪(影響力)は重いと云わねばなりません。 …と云っても通用しない世代が増えてしまったでしょうね。昔のNHKの朝の連続TV小説に『おはなはん』というのがあって、当時凄い人気だったのです。 アメリカ人のある青年と知り合い、名前を知りたかったので、先ずこちらが名乗りました。向こうは「ぼくの名はハナだ」と云いました。私が知っている英語名は"Hannah"で、これは女性の名前です(実際には名前にも姓にもなるようです)。で、「女性みたいな名前だね」と云ったら、「"Hunter"(ハンター)だ」と発音をはっきりさせて云い直しました。 "Hunter"が「ハナ」になるというのは、"Internet"が「イナネット」になるのと同じ流儀ですが、彼の場合の「ハナ」は非常に解り辛い。 しかし、よく考えると"Hannah"だったら最初の"a"の存在により「ヘァナ」と発音されるべきところで、「ハナ」とは云わないことに気付きました。アメリカ人が「ハナ」と聞けば、自動的に"Hannah"は除外されるのでしょう。「解り辛い」とこぼすのは私のような日本人だけのようです。 これは最近気付いた恥ずかしい話。ま、別にどこかで恥を晒したわけではないのですが、大学時代からウン十年も気付かなかったという意味では、自分自身で相当恥ずかしいのです。本当は書きたくないぐらい恥ずかしい。 私は男性の場合の上下揃い(あるいは三つ揃い)、女性の場合の上衣とスカート(あるいはスラックス)の揃いが「スーツ」であることは高校時代から知っていました。本当は複数ではなく"suit"なので、「スート」と発音すべきでしょうが。 大学時代からバッハのレコードを集め始め、好きになった曲の一つに「管弦楽組曲第二番」というのがあります。ジャケットには'Orchestral Suite No.2'と書いてありましたが、私はその"Suite"の最後の"e"を見逃し、三つ揃いの"suit"と同じだと思っていました。 だって、三つ揃いも組曲も、いくつかが組になって揃っているじゃありませんか。と、ここで今頃わめいても仕方がないのですが:-)。 どっちも同じ言葉だと思い込んでいた私は、ホテルなどの「続き部屋」が「スウィート・ルーム」と呼ばれるのは間違いであると考えていました。"honeymoon suite"(新婚部屋)は“スウィート”(甘い)かも知れませんが、どの続き部屋も甘いわけではないだろうし。しかし、日本人ばかりでなく、英米人も「スウィート・ルーム」と云うので、私の自信はグラつきました。 調べると、'Longman Dictionary of Common Errors'には「衣服にはsuit(スート)、ホテルの部屋はsuite(スウィート)」とあったものの、メインの誤用例ではなく、小さめの注釈でした。これでは気がつきません。『間違いやすい英語使い分け辞典』(南雲堂)には「suit(シュート):訴訟(都合が良い、合う)、suite(スウィート):一行、組」とありました。この“suit(シュート)”という発音はあまり聞かれませんが、使い分けについては正しい。こういった有益な本を持っていても、最近まで気がつかなかったというのは忸怩たるものがあります。 "suit"の方は、名詞では「スーツ、訴訟、(トランプの)組札」、動詞では「都合がいい、気に入る、合致する」などの意味があります。「中華料理はどうかね?」とか「もう1ラウンドやらない?」と聞かれた人が、"It suits me."(いいね)などと答えます。 町外れの空港に近い辺りに"Shrimp Po Boy"(シュリンプ・ポーボーイ)のうまいお店があります。魚屋が本業ですが、片手間にPo Boyなども作って売っているのです。Po Boyについては「食事篇」の「メニューいろいろ」を御覧下さい。 ある日、店に入ると"We are moving"(引っ越し予定)というビラが見えました。レジ係に「どこへ引っ越すの?」と聞くと「A streetだ」とのこと。A streetというのは鉄道線路の南側に沿った道路で、ワン・ブロック毎にB Street、C Streetなどと続きます。この方面は私が住んでいるところにずっと近いので便利になります。 その後しばらく経ってA Streetを端から端までドライヴしてみました。この通りは鉄鋼会社、自動車修理工場、家具屋などがあるだけで、魚屋を開店するような通りではありません。おかしい。しかし、確かにA Streetと云った。まだ引っ越しが遅れてるんだろうと思いました。 死んだ小鳥を見つけました。普通なら犬や猫が始末しちゃうのでしょうが、まだ死んだ直後のようです。こちらではWest Nile(西ナイル)という、蚊が媒介する危険なウイルスが見つかっています。蚊に刺された鳥が他の蚊にウイルスを伝染させることも解明されました。ですから、鳥の死骸はお役所に届け出ることになっています。 あちこち電話した末、担当の役所はミシシッピ州の出先機関である州健康部であることが分りました。そこへ電話すると、男の役人が「鳥はビニール袋二枚に入れて冷蔵庫に保管してくれ。我々が受け取りに行く」とのこと。鳥の死骸なんか冷蔵庫に入れておきたくありませんから、「住所を教えてくれ。すぐ届ける」と云いますと、「住所はA streetの○○番地だ」との返事。A streetにそんな役所の建物など無かったが…と、一瞬疑問が湧きました。向こうは「Church's Chicken(KFCのような鶏の唐揚げの店)の隣りだ」と云います。前に書いたように、A streetには食い物屋などありませんでした。おかしい。「駅の近くですか?」「いや」「ダウンタウンの近く?」「イエス。とにかくChurch's Chickenを探せ。いいね?」 最初からあるわけないとは思っていましたが、やはりChurch's Chickenなどありません。帰宅して再度電話しました。別な男が出て、もう一度住所を云いました。"8th Street"だと云うではありませんか!これは鉄道線路の北側でしかもずっと西です。丸で方角違い。"A Street"と"8th Street"の聞き間違いでした。"8"の「エイ」にアクセントがあるので、"A Street"としか聞こえなかったのです。 ついでにPo Boyの店に行ってみました。もう店は空っぽで、ガラス戸に張り紙がしてありました。「引越先:8th Street」 ガビーン!こっちも聞き間違えてた。8th Streetならファーストフードの店が一杯並んでいますので、そこへ引っ越す理由が非常によく理解出来ます。しかしまあ、私はヒアリング(音を聞き分ける聴力)はいいものの、リスニング(言葉を聞き分ける聴解能力)は全く駄目だと落ち込んだ次第。しかし、よく考えると、この二つの例の相手はどちらも黒人でした。ひょっとして、彼らにも責任が…? 次回、"A Street"と云われたら、"A of abc or number 8?"と聞き返すことを決意しました。 ある時、私がご当地の読書サークルの御婦人たちに本の紹介をすることになりました。小さい町ですが、読書サークルはいくつもあり、その一つです。妙な英語でスピーチも出来ませんから、先ず草稿を作って元高校の英語教師Diane(ダイアン)の前でお稽古をしました。 のっけから問題がありました。私が紹介する本は'The Chrysanthmum and the Sword'『菊と刀』なのですが、Dianeが「ソードよ!スウォードじゃないわよ!」と注意しました。知ってはいたのですが、綴りを見てしまうとつい「スウォード」と発音してしまうのです。刀は「ソード」です。スペルを見る限り「スワード」になりそうですが、そうはなりません。「スウォード」でもありません。 「菊」ですが、私は出て来る度に"Chrysanthmum"(クリサンスマム)と繰り返していたのですが、これはこちらの人々にも長いようで、日常会話では"mum"と省略することが多いそうです。 『菊と刀』は日本人のものの考え方、地位の上下関係、家族関係などについて、アメリカの文化人類学の立場から検証した本です。もし、御興味があれば私の紹介を読んでみて下さい。 【参考】Book Review:'The Chrysanthemum and the Sword' 大分前、英語の先生をしている日本人の友人からメールがありました。「どうしても聴き取れない単語がある」というのです。その例文はもう覚えていませんが、云ってみれば次のようなものでした。 What ( ) flower! 友人が云うには"a"(ア)ではなく、別の発音だと云うのです。これは私には簡単でした。"a"には違いないのですが、「エイ」と発音するのです。"What a flower!"(ホワット・エイ・フラワー!)で「何て凄い花なんだ!」という感じ。こちらのTVのゴルフ中継では、"What a(エイ) golf shot!"(何て凄いショットでしょう!)という台詞がしょっちゅう聞かれます。 若きTiger Woods(タイガー・ウッズ)がゴルフ界のトップに躍り出た頃、アメリカ中のゴルフ好きな親は自分たちも息子や娘をスターに仕立て上げようと思い始めたようでした。どこのゴルフ場にも父親と小学生ぐらいの子供のペアが見られたものです。 その頃、その親たち目当てに子供用ゴルフ・クラブを売り込もうというTV CMが登場。それまで子供用のクラブというものは無く、親のお古を短く切って使わせていただけなのです。そのCMは少年や少女が「ゴルフしたい!」、「でも大人のクラブを切ったのは嫌!」、「○○(メーカー名)の子供用クラブがいい!」と代わる代わる云い、最後に数人が声を揃えて「ウィアーレディアプレイ!」と怒鳴るのです。 「ウィアーレディアプレイ」?"We are ready (?) play!"でしょうが、「ア」とは何か?文法的に考えれば"We are ready to play!"だと思われましたが、彼らは「レディ・トゥ・プレイ!」とは云っていないのです。「レディ・ア・プレイ」なのです。The Golf Channel(ザ・ゴルフ・チャネル)を見ているとしょっちゅうこのCMにぶつかりましたが、いつも「レディ・ア・プレイ」に聞こえました。 ある日、カミさんにそのCMを見せ、「彼らは何て云ってるんだい?」と聞きました。カミさんはこともなげに「"We are ready to play!"じゃないの」と平然としています。「正しい発音なの?」と聞くと、「そうよ」との答え。愕然としました。 "I gotta go." (もう行かなきゃ)の"gotta"は"have got to"の意味で、全体は「アイガラゴウ」と発音されます。この場合の"to"も「ア」に化けてからリエゾンされているようです。 しかし、「レディ・ア・プレイ」は想像を絶します。子供だから…という発音ではなく、ちゃんと大人も理解出来るんですから。外国人にはお手上げの巻です。 紙と鉛筆の御用意を。はい、では「デジタル・カメラ」を英語で書いて下さい。 ちゃんと"degital camera"と書けましたか?"dejital"じゃありませんよ、"degital"ですよー。え?これも違う?"digital"ですって?こりゃまた失礼いたしました。 "digit"はラテン語で「指」を表す言葉で、転じて指で数えた数字(0〜9)を意味するようになりました。そういう謂れを知っていれば、その形容詞が"digital"であることはすぐ解ります。発音は「ディジタル」です。しかし、この言葉を日本に輸入した人たちは「デジタル」という表記にしてしまいました。 試みにGoogleで「ディジタル」で検索してみて下さい。「ディジタル」は一個も現れず、代わりに「デジタル」がぞろぞろ出て来ます。日本のGoogleは、プログラム的に「ディジタル」→「デジタル」と変換しているようです。日本人には「デジタル」しか許さないという決意が漲っているみたいです。 まあ、「ディジタル」も「デジタル」も発音は極めて似通っていますから、トラブルの因にはならないでしょう。しかし、書く場合に「デジタル」に馴らされた日本人が"degital"と書く恐れは十分にあります。 DVDを「デー・ヴイ・デー」と発音する人がいるでしょうか?そういう人は前世紀の生き残りであって、DVDなど見ないんじゃないでしょうか?今世紀に生きている人たちは「ディー・ヴィー・ディー」と呼んでいると思います。「インディ・ジョーンズ」などと普通に書き、喋っているわけですし。それなら"digital"も「ディジタル」とすべきだったのです。私は外国語を輸入・紹介する連中の頭の中に手を突っ込んで、脳みそをぐちゃぐちゃに掻き廻し、みりん大さじ二杯、日本酒カップ1/2、砂糖大さじ一杯、塩・胡椒少々、豆板醤小さじ一杯、コチュジャン小さじ一杯を加え、十分に熱したオーヴンで30分ほど加熱してやりたい。あ、醤油を入れ忘れた。 ヴィタミン剤などを"supplement"と呼びます。日本語では「サプリメント」と表示されています。不思議です。外国語を日本語に置き換える場合、ドイツ語や、フランス語、スペイン語はかなり原音に近い表記が与えられて来ましたが、英語だけは何故か無理矢理ローマ字読みにされて来ました。この言葉の場合、そういう慣例から行けば「サプレメント」と表記されるべきところです。しかし、何故か「サプリメント」。 英語としての正しい発音は「サプルメント」でしょう。前半の"supple"は"apple"と同じ構造です。「りんご」を「アップリ」と云うでしょうか?"settle"(定住する、決める)も「セトル」であって「セトリ」ではありません。 YouTubeヴィデオの音声を聴いてみて下さい。 つまり、"supplement"の場合、原音でもなく日本のメディアでお馴染みのローマ字読みでもなく、何か第三の(=いい加減な)原則が導入されたようです。 辞書に載っていない言葉が日本に輸入される時、最近の元凶は「共同通信」と「時事通信」でしょう。都合により、ここでは共同通信に一本化して攻撃を加えます。アメリカなどのニュースを日本に送る共同通信のニューヨーク支社などは、“新語”を否応でも日本語で表記しなければなりません。勿論、デスクや何人かがチェックするでしょうから、新米の記者一人の責任ではないでしょう。とにかく、新語、人名、地名、これらをニュース発生と同時にカタカナに置き換えなくてはならない。彼らの責任は重大です。なぜなら、共同通信は日本のマスコミ数社(結構多い)が共同出資で設立した会社なので、共同通信が発信したニュースはそのまま日本のTV、ラジオ、新聞、雑誌、週刊誌等々の代表的メディアに一斉に載るのです。共同通信が「サプリメント」と表記して日本に打電すると、日本中「サプリメント」になってしまう。これは大事(おおごと)です。 アメリカ駐在の共同通信の記者に語学的素養があるとは思えません。単語も、人名も地名もローマ字読みが多過ぎます。ヨーロッパ系だけ、やけに原音に忠実です。統一がとれていません。人名、地名については本人あるいはその周辺に電話して確認するとか、専門用語なら分野別にコンサルタントを用意しておき即座に正しい発音を確認するとかしてくれればいいのでしょうが、どうやら社員同士で勝手に決めているとしか考えられません。こんな大事な仕事をたかが通信社なんかに任せておいていいものでしょうか?疑問です。外国語輸入委員会でも作って、そこに聞いて貰うといいのですが、緊急ニュースに登場した言葉には即座に対応出来ないから駄目でしょうねえ。困ったもんです。 [一般] [風俗・慣習] [食事] [発音] [口語] [文法・表現] [その他] [Home] Copyright © Eiji Takano 2001-2023 |