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Southern Comfort

『サザン・コンフォート/ブラボー小隊 恐怖の脱出』

[Video]


・原題をクリックするとamazon.comのInternet Movie Databaseの詳細データが見られます。邦題をクリックすると「allcinema」のデータが見られます。

・Part 2は普段は隠れていて、クリックするとJavaScriptによるウィンドウにて表示されます。取り扱いには十分お気をつけ下さい。

公開:1981
監督:Walter Hill
出演:Keith Carradine、Powers Boothe、Fred Ward、Franklyn Sealesほか
範疇:アクション/サスペンス/州兵/ケイジャン

私の評価 :☆1/2

【Part 1】

ルイジアナ州の湿地帯で訓練中の"National Guard"(州兵)の一小隊が、獣や魚を捕って暮しているケイジャンの生活地域に乱入して怒りを買い、脱出路を求めて湿地内を右往左往しているうちに、一人また一人と消されて行くというお話。

映画を観る前に、二つのことを知っておく必要があります。先ず"National Guard"。"National"という言葉が付いていますが「国の」という意味はありません。実態は「州の」です。合衆国憲法は各州が兵隊を持つことを禁じていません。州兵は知事の指揮下にあり、暴動、災害などに対処します。国家的危機に見舞われた場合は、大統領の指揮下に入ります。フルタイムで勤務するのは全米で八万人ほどで、約三十万人の男女州兵は日常は別な仕事についていて、月に一度週末に訓練、年に二週間ほど野戦訓練を行ないます。「空軍」に相当する州兵が全米で十一万人おり、これは"Air National Guard"と呼ばれます。州兵として登録された場合、報酬が出るのは勿論ですが、基地売店で無税のショッピングが出来たり、高校生子弟への学資援助、20年以上勤めると60歳以降年金が出るなどの特典があります。

次に"Cajun"(ケイジャン)と呼ばれる人々について。1604年頃、フランスからカナダへ移住した人々はアケイディアと呼ばれるカナダ北東部に植民地を設立しました。やがて、北米の覇権を争う英仏戦争でアケイディア(の一部)は英国領土になりました。1755年、英国とインディアンの戦争時、英国軍はアケイディアに住む人々アケイディアンを領土から追い出しました。放逐された10,000人のアケイディアンはアメリカへ南下し、そのうち4,000人がルイジアナ州の湿地帯に住むようになりました。彼等はアケイディアンが訛ってケイジャンと呼ばれるようになります。ケイジャンは世間と隔絶し、フランス語を話し、アケイディアンの文化を継承しています(最近は英語しか話せない世代も出て来たようですが)。多くはローマン・カソリックで、魚や獣を捕ったり、米や野菜を植えて生活しています。ケイジャン料理はスパイシーなのが特徴で、代表的なものとしては濃いスープの「ガンボ」、米を使った「ジャンバラヤ」などがあります。伝統的ケイジャン・ミュージックはヴァイオリン、アコーディオン、トライアングルを含んだ編成で演奏されます。

[The South]

この『サザン・コンフォート/ブラボー小隊 恐怖の脱出』は、以上二つのアメリカにおける非常にユニークな存在がぶつかりあうという設定です。

1973年、ルイジアナ州の湿地帯。ルイジアナ州兵による大演習が行なわれようとしている。9人編成のブラボー小隊は、ヴィエトナム帰りのPoole(プール)軍曹が指揮官である。二番手は伍長のCasper(キャスパー)。出発前に冗談好きで軽薄なStucky(スタッキィ)がCasperめがけて空包を撃つ。これは演習なので、全員空包しか支給されていない。Powers Boothe(パワーズ・ブース)演ずるテキサス州から来たHardin(ハーディン)とKeith Caradine(キース・キャラダイン)演ずるSpencer(スペンサー)は、この中で数少ない教養人種として互いに認め合う。

いよいよ行軍開始、38km先の合流点チャーリィ・ポイントを目指す。先頭を行く粗暴なReece(リース)が水中に漁網を発見し、無造作に切る。Pooleは何も云わない。

Pooleは道に迷う。前は深い沼地なので「出発点から出直すしかない」と判断した時、誰かがカヌーを三艘発見する。Pooleは「住民のものを使うわけにはいかない」と主張するが、後戻りしたくない一同はPooleの再考を待つ。多勢に無勢、Pooleはカヌー使用を許可する。

漕ぎ出して数分後、遠くにケイジャン数人を発見。話しかけるが応答が無い。Pooleが「カヌーは必ず戻すから」と怒鳴った直後、冗談好きのStuckyがケイジャンめがけて空包を撃ちかける。空包と知らないケイジャン達は地面に倒れて弾丸を避ける。Pooleは反撃を避けようとカヌーを岸へ寄せるよう命じるが、ケイジャンの銃弾を受けて即死する。全員カヌーから放り出され、トランシーバーもコンパスも失う。

Pooleの遺体を急造の担架に乗せ、Casper指揮の下で近くの高速道路を目指す。過激なReeceはこっそり持参した実包を自分だけで使おうとするが、脅され全員で公平に分けることになる。

Casperがケイジャンの小屋を発見。小屋の住人であるケイジャンをPoole殺害犯として逮捕する。フットボール・コーチのBowden(ボウデン)が、誰にも断らずに小屋に火を点け、ダイナマイトに引火して小屋は砕け散る。SpencerとHardinは理解し難い同僚の行動に呆れる。

犬の吠え声が近づいて来る。「ハンターなら道を教えて貰える」と希望が湧くが、三頭のロットワイラー犬は、州兵達を噛み殺すことを命じられて来たのだった。手傷を負ったものの、何とか犬を追い払うが、直後に黒人のCribbs(クリッブズ)が熊捕りの罠にかかって死ぬ。Reeceが捕虜のケイジャンを拷問しているのを止めようとして、HardinとReeceは銃剣で闘い、Reeceが死ぬ。

9人が6人になった。これまで姿の見えないケイジャンの攻撃だったが、次第に彼等の姿が木の間隠れに見えて来る。数少ない実包、まだ見当もつかない脱出路。州兵達は生還出来るのか?

湿地を彷徨する州兵達は『八甲田山』の兵隊達のように惨めです。姿なき敵に狙われる恐怖は'Deliverance'『脱出』に似ています。「スパニッシュ・モス」が垂れ下がる鬱蒼とした木立に囲まれ、常に膝下は水に浸かっている状態で、野天なのに閉所恐怖症になりそうです。さらに“月に一度の週末軍人”の烏合の衆であるという哀れな要素も加わります。命令系統も責任体制も無茶苦茶、統制とか団結心なども欠如。'First Blood'『ランボー』のように敵に反撃する創造力もありません。

Ry Cooder(ライ・クーダー)の音楽が静かにテンションを高めます。ギターをメインに、キーボード、パーカッションのみ。ケイジャンが登場するシーンでは尺八が鳴り響きます。Ry Cooderは沖縄の喜納昌吉とのコラボレーションが有名ですが、この当時から日本の音楽に興味を持っていたんですね。「音楽コンサルタント Kazu Matsui」とクレディットされていますが、実際には演奏者としてロサンゼルス在住の尺八奏者、松居 和が加わっています。最後にケイジャンの陽気なお祭りが出ます。これは伝統的ケイジャン・ミュージックをアレンジしたもののようです。

(May 18, 2001)




Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。




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