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公開:1927
監督:Harry A. Pollard
地域:ケンタッキー州、ルイジアナ州ニューオーリンズ
出演:James B. Lowe、Margarita Fischer、George Siegmann、Arthur Edmund Carewe、Virginia Greyほか
範疇:原作もの/黒人奴隷/奴隷売買/引き裂かれた家族
私の評価 :☆1/2
【Part 1】
私はHarriet Beecher Stowe(ハリエット・ビーチャー・ストウ夫人)の原作'Uncle Tom's Cabin'『アンクル・トムの小屋』を読んでいません。老黒人奴隷の惨めな昔話の聞き書きだとばかり思い込んでいたからです。違いました。完全にメロドラマなんです。ですから映画として退屈しません。ストウ夫人は一度も南部へ行ったことはなく、北部へ逃亡して来た奴隷たちの話をもとに奴隷解放論者の立場からの問題提起として小説を書き上げたのだそうです。これはベストセラーとなり、舞台劇としても長い間人気があり、絶え間なく上演が繰り返されました。一説には、この小説が南北戦争を引き起こしたとも云われています。
1903年から1918年までに八回も映画化されましたが、いずれも白黒・サイレントの短編映画でした。この1927年版は撮影時のトラブルを含め二年近くの歳月と巨額の経費をかけた、当時の超大作となりました。これも白黒・サイレントですが、リヴァイヴァル公開時に音楽といくつかの台詞および効果音が付加されました。この映画は日本には輸入されず、日本人が観ることが出来たのは1965年に西ドイツで製作されたものと、1987年製作のTV映画だけです。有名なお話なのに不思議ですね。
ドジな私はこれがサイレント映画であることを知らないでDVDを見始め、'English subtitle'(英語字幕)というメニューを探し、見当たらないので「なんだ、これも低予算のDVDか」とがっかりしたのですが、黙っていても全編にドでかい字幕が出て来る映画なのでした:-)。
この字幕ではケンタッキー州を「南部」と定義しています。南北戦争以前ケンタッキー州は奴隷州で、その北のオハイオ州は自由州でした。南北戦争の最中は、ケンタッキー州は北軍にも南軍にも加わらず、「中立」の立場を取り、北と南の"border state"(境界州)と呼ばれました。いずれにせよ、この物語はミシシッピ川を下ってNew Orleans(ニューオーリンズ)へとやって来るので、“南部もの”には違いないのですが。
1856年、ケンタッキー州。綿農園主のShelby(シェルビィ)家では若い男女が大勢クロケーや乗馬を楽しんでいた。一見幸せそうに見える、どこにでもある荘園の風景だったが、実はShelby農園の経営はうまく行っておらず、Shelbyは実業家Hailey(ヘイリィ)から多額の借金をしていた。
この農園には大勢の黒人奴隷がいた。Margarita Fischer(マーガリータ・フィッシャー)演ずる奴隷の一人Eliza(イライザ)は、彼女が子供の頃母親と引き裂かれた際にShelby夫妻が買い受け、実の娘のように育てた奴隷であった。彼女は白人との混血の"mulatto"(ムラト)で、一見白人としか見えない。彼女は、隣りの農園主Harris(ハリス)からShelbyが借りていた奴隷George(ジョージ)と婚約していた。Georgeも"mulatto"である。
いよいよ結婚式。屋外の花のアーチの下で二人が誓い合う。女奴隷たちは「白人のような結婚式だねえ、ほとんど」、「彼らは白人じゃねえか、ほとんど」と言い合う。屋内では青年男女のダンス・パーティが始まり、屋外では奴隷たちの踊りが始まる。
実業家Haleyが農園主Shelbyに金の返済を催促する。Shelbyは「今Cincinati(シンシナティ)に金を作りにUncle Tomをやっている」と答える。James B. Lowe(ジェイムズ・B・ロウ)演ずるUncle Tomは、Tomの祖父の代からShelby家に仕える忠実な奴隷だった。Haleyは「奴隷を自由州に金を取りに行かせたりしたら、絶対に戻って来ないぞ!」と呆れる。しかし、忠実なUncle Tomは戻って来て金を主人に渡し、その正直さでHaleyを驚愕させる。
隣りの農園主Harrisがやって来て、「貸していたGeorgeを連れて帰る」と宣言する。彼は「お前の持ち主の俺に無断の結婚なんか許さん!」とGeorgeを殴り倒す。Shelby夫人が「Georgeを買うわ。おいくら?」と聞くが、Harrisは「こいつは売り物じゃない!」とGeorgeを引き立てて帰って行く。
数年後。ElizaとGeorgeの間には男の子Harry(ハリィ)が愛らしく育っていた。ある雪の夜、Georgeがこっそりやって来て、「他の奴隷女と結婚させられそうだから、俺はカナダに逃げる」と云い、後ろ髪引かれる思いで逃げて行く。
その頃、農園主Shelbyはまたもや実業家Haileyへの借金返済が出来ずに困っていた。Haileyは「Uncle TomとElizaの息子Harryをくれれば、借金を棒引きにしよう」と云い、たまたまElizaはそれを盗み聞いてしまう。Elizaは幼い息子を抱いて豪雪の中を逃走する。Georgeを探す隣りの農園主Harrisと、Harryに執着するHaileyが犬の集団を先頭に馬で追う。川に出たElizaは、流れる流氷の上を執拗な犬に追われつつぴょんぴょん飛びながら対岸へ渡ろうとするが、川はじきに滝壺へと落ちこんでいるのに気づかなかった…。
Elizaを演じているMargarita Fischerは監督Harry A. Pollard(ハリィ・A・ポラード)の細君で白人。Elizaと結婚したGeorge役の男性も白人です。もう一人、黒人奴隷の女の子を演じる子役も白人でした。
私は「退屈な映画だろう」と大して期待もしなかったのですが、上に書いたEliza母子が流氷の上を渡りながら逃げるシーンの演出の迫力に驚き、その後は疑問を抱かず一気に観てしまいました。
この後の物語。Elizaは逃亡奴隷捕獲人たちに捕まり蒸気船でミシシッピ川を南下させられます。その船には売られたUncle Tomもいて、さらに妻子を探すGeorgeも缶(かま)焚きとして働いていました。実業家Haileyに見つかったGeorgeは泳いで逃げ、Elizaの寝ている隙に息子Harryが売られて、一家はバラバラに。
同じ船の中でUncle Tomはニューオーリンズの農園主St. Clair(セント・クレア)の娘Eva(イーヴァ)と仲良くなり、Evaの頼みでSt. ClairはUncle Tomを買い受けることにします。しかし、St. Clairも没落しUncle Tomは売りに出され、奇しくもElizaと同じ農園主に買われることになります。その頃、南北戦争が勃発し、世の中は騒然とし始めます。
演出がやや芝居がかったところがあるのを除けば、照明や画面構成もしっかりしていて安心して観られます。上のあらすじのように、物語の焦点は主にElizaと夫および彼らの息子であり、Uncle Tomの比重は少ないのが意外です。これは撮り終えたフィルムが長過ぎ、Uncle TomがShelby家の農園で説教師の役目で奴隷たちを洗礼するシーンが削除されたり、New Orleansの農園で折檻されるシーンが残酷過ぎるとして短縮されたためだそうです。
というわけで、『アンクル・トムの小屋』とは云うものの、彼の小屋が出て来るのはたった一度です。「小屋はどこへ行ったの?」という感じ。極悪な農園主が「俺は$1,200でお前を買った。お前の身体も魂(soul)も俺のものだろ、え?」と云うと、Uncle Tomは「身体はそうかも知れねえけんど、魂は神様のもんでがす」と反駁します。これは素晴らしい台詞ですが、黒人の中で説教師を務めていたことが前段にあれば、もっと説得力があったでしょうに。カットされたのが残念です。
白人の少女Evaが蒸気船から落ち、彼女をUncle Tomが助けるシーンも削除されているそうです。さらに、映画ではこの物語の前史も撮られていたそうです。すなわち"mulatto"の母親が娘Elizaと別々に売られて行く16年前のシーン。これも削除されました。
映画全体としては☆一つですが、豪雪のシーンと流氷のシーンの出来映えに1/2を進呈します。
“南部もの大全集”と謳っていて'Uncle Tom's Cabin'が含まれてないのは、ずっと薄ら寒い思いでしたが、今回のリヴューを終えてやっと安堵しました。
(January 03, 2007)
Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
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