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公開:1973
監督:Phil Karlson
地域:テネシー州
出演:Joe Don Baker、Elizabeth Hartman、Gene Evans、Noah Beery Jr.、Brenda Benet、John Brasciaほか
範疇:実話の映画化/腐敗した町/犠牲者からシェリフへの転身/暴力には暴力を/アクション
私の評価 :☆
【Part 1】
アメリカの"sheriff"(シェリフ、保安官)は"county"(カウンティ、郡)で選挙によって選ばれます。「郡」は日本では市の規模に至らない村や小さな町の集合体ですが、アメリカのカウンティは州を便宜的に分割した行政上の一単位で、中には大都市さえ含むカウンティもありますから、日本の郡とは全く異なります。シェリフは大勢の助手を従えますが、その筆頭は"deputy sheriff"(保安官代理)と呼ばれます。私の住む町には独立した警察もあり、シェリフと警察署長(市長が任命)の二人がいます。しかし、カウンティの管轄の方が遥かに広く、新聞で報道される犯罪捜査の責任者も常にシェリフです。
この映画はテネシーの州都メンフィスから東へ90キロほどのところにあるMcNairy County(マクネアリ・カウンティ)のシェリフBuford Pusser(ビュフォード・パッサー、1937〜1974)の物語。カウンティの中心となるSelmer(セルマー)はミシシッピ州との州境に近い町です。
Joe Don Baker(ジョー・ドン・ベイカー)はプロ・レスラーを辞め、テネシー州の田舎の親元へ帰って来る。キャンピング・カーでの巡業生活とおさらばし、妻、小学生の長男、長女、犬と共に、ここに定住する決意だった。父は製材所を息子に継がせることが出来ると喜び、母は孫たちと暮らせるので大喜びだった。
ある日旧友に誘われ、ビールを一杯引っ掛けるだけのつもりで町外れのクラブに行く。そこには売春婦がうようよいる。カーテンの奥は賭博場になっている。友達が「金を貸してくれ」と云い、貸すとルーレットに注ぎ込む。Joe Don Bakerはサイコロを振る男のインチキを見破り、クラブの用心棒たちと殴り合いになる。最初は優勢だったJoe Don Bakerだったが、多勢に無勢で取り押さえられ、胸と背中にナイフで多数の切り傷をつけられる。医師が200針も縫う大怪我だった。
Joe Don Bakerが告訴したため、シェリフがやって来る。「告訴を取り下げろ」と云う。Joe Don Bakerの父は「この町は腐っている。選挙の時は首を洗って待ってろ」とシェリフに云う。
Joe Don Bakerは父の製材所で働く。昔なじみの黒人Felton Perry(フェルトン・ペリィ)が職探しに来たので、父に彼を雇って貰う。Joe Don Bakerが休憩時間に1メートルもある棍棒を削っているのを見て、Felton Perryが"Walk softly, and carrying a big stick, huh?"(優雅に歩くけど棍棒を持ってるってか?)と云う。この"big stick"は、いつしかJoe Don Bakerの徒名となる。
Joe Don Bakerは棍棒を持ってクラブに出掛ける。男たち全員を棒で殴り倒し、会計係に医療費、車の修理代として631ドルを出させる。
次なる“戦争”に備えてクレー射撃の練習をする。シェリフがやって来てJoe Don Bakerを逮捕する。悪党共と馴れ合いの判事は、彼に30,000ドルという法外な保釈金を課すので、留置場を出られず裁判の日を迎える。彼は陪審員たちに胸と背中に受けた傷を見せ、驚いた陪審員たちは無罪の評決を下す。勝利を祝う最中、Felton Perryが「あんた、シェリフになったら?」と云う。Joe Don Bakerの妻は反対するが、父は「勝てる見込みは充分ある」と予言する。
Joe Don Bakerは立候補し、ポスターを貼って歩く。現役シェリフは彼を目の敵にし、Joe Don Bakerを「無謀運転で逮捕する」と追い回し、橋桁に激突炎上し川で溺死する。
Joe Don Bakerがシェリフ就任後間もなく、密造酒を呑んだ黒人たち大勢が死亡するという事件が発生する。彼は黒人の友達Felton Perryに情報を聞きに行き、彼を保安官助手に任命し、森の中の密造酒製造現場を急襲して一味を捕まえる。しかし、白人の判事は「逮捕状もなしに個人の所有地へ侵入した逮捕は無効」として全員の釈放を命ずる。判事の態度に憤ったJoe Don Bakerは分厚い法律本を読み、判事のオフィスをトイレの中に移してしまう。密造酒の製造・販売と売春の三つのビジネスを叩き潰そうとした彼の作戦は、保安官助手の誰かの情報漏洩により水泡に帰し、逆にダーティ・ビジネス関連の連中が放った刺客によって、Joe Don Bakerが拳銃の乱射を浴びるという仁義なき闘いへと発展する…。
原題'Walking Tall'は「昂然と歩く」というような意味です。田舎ヤクザの脅しと暴力に屈せず、棒っ切れ一本で立ち向かおうという男気があるというか(プロレスラー出身だけあって)脳足りんというか、とにかく向こう見ずな男の物語。スター不在の明らかにB級映画ですが、予想外にヒットし、二年後に続編が(俳優は別人)、四年後に完結編が作られ、さらに2004年にはThe Rock(ザ・ロック)主演で同名の映画が作られたほど人気があります。なお2004年版はワシントン州が舞台なので“南部もの”には入りません。
主役のJoe Don Bakerは当時主にTVの俳優でしたが、この映画の前年にSteve McQueen(スティーヴ・マックィーン)主演の西部劇'Junior Bonner'『ジュニア・ボナー』でSteve McQueenの弟を演じて認められたようです。元プロレスラーの役に相応しく、やられたらやり返すという単純素朴な人物を好演しています。2007年現在、彼はまだ元気に映画出演を続けています。
南部や西部のシェリフというと、映画では現代でもカウボーイハットを被り、制服を着用し、ガンベルトを帯びているものですが、Joe Don Bakerは無帽で普段着の黄色いシャツを着て、拳銃は持たず長い棍棒を持ち歩きます。異例ずくめのシェリフです。
主人公は殴られたり斬られたりしても泣かないタフな男ですが、愛犬が殺された時はおいおい泣きます。さすが犬好きの欧米人は違うなと思わされます。
保安官代理を演ずるBruce Glover(ブルース・グローヴァー)は、どこかで見た顔だと思っていたら、'Diamonds Are Forever'『007/ダイアモンドは永遠に』(1971)の小悪党コンビの一人で出ていた人。彼だけは、続く二本の続編にも出演しています。
主人公がシェリフに就任する30年も前に禁酒法は廃止されているのに、なぜ彼は密造酒を取り締まったのか?Buford Pusser Museum(ビュフォード・パッサー記念館)というウェブサイトを見つけたので、質問のメールを送ってみました。即日返事があり(こういうの大好き!)、Buford Pusserの時代も今も、McNairy Countyは“dry county”(ドライ・カウンティ)で、アルコールの製造・販売は一切禁止されているのだそうです。禁酒法時代以後も、禁酒を継続するかどうかは各カウンティの自主性に任されており、住民投票によって決められます。禁酒を制定したカウンティは“dry county”、そうでないカウンティは“wet county”(ウェット・カウンティ)と呼ばれます。“dry county”は全米に点在していますが、圧倒的に南部の宗教熱心な地域に固まっているように見受けられます(ミシシッピ州の全カウンティの1/2はdry)。この映画の最後に、酒+賭博+売春のナイトクラブに大勢のダークスーツの男性と正装した婦人たちが乱入して来て、クラブの備品を外に積み上げて燃やすシーンがあります。服装から云って、彼らが教会の礼拝を終えたクリスチャンたちであるのは明らかです。
【参考】Buford Pusser Museum http://www.bufordpussermuseum.com/hist.html
(July 08, 2007)
Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
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