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公開:2011年
監督:Rod Lurie
地域:ミシシッピ州
出演:James Marsden、Kate Bosworth、Alexander Skarsgård、James Woods、Dominic Purcellほか
範疇:リメイク/スリラー/若夫婦の田舎暮らし/田舎者の都会人いびり/男の意地/殺人/攻防
私の評価 : ☆☆
【Part 1】
1971年に公開されたSam Peckinpah(サム・ペキンパ)の話題作'Straw Dogs'『わらの犬』のリメイク。オリジナルはアメリカ人数学教師Dustin Hoffman(ダスティン・ホフマン)が、イギリス人の妻Susan George(スーザン・ジョージ)の故郷であるイングランドの田舎に引っ越すという設定でした。リメイク版は舞台をアメリカ南部に移し、主人公もJames Marsden(ジェイムズ・マーズデン)がハリウッドの脚本家、その妻Kate Bosworth(ケイト・ボズワース)はTVや映画の女優と変えられています。
アメリカ南部が選ばれた理由は、イングランドの田舎よりも人々が頑迷固陋で、暴力的であるという先入観があったからでしょう。もっと重要な理由は、ハリケーン・カトリナ以降のルイジアナ州が、映画製作を誘致するため優遇税制を施行しているからです。製作者たちは舞台を「ミシシッピ州」と称しつつ、全てをルイジアナ州で撮影したのです。
ミシシッピ州の田舎町生まれのKate Bosworth(ケイト・ボズワース)の父がハリケーンで亡くなり、彼の農家と土地一切を娘に遺した。元軍人である父の葬儀をワシントンD.C.の軍人墓地で執り行った夫婦は、James Marsdenの英国製の車Jaguar(ジャガー)でミシシッピ州にやって来る。
夫婦で土地の人たちの溜まり場であるプール・バー(ビリヤードとバー、軽食堂が一緒になった店)を訪れ、ハンバーガーを食べる。Alexander Skarsgård(アレクサンダー・スカースガード)が挨拶に来る。彼はKate Bosworthの連絡により、壊れた納屋の屋根の修理を請け負っていた。James Marsdenがビールを注文にカウンターに去ると、Alexander SkarsgårdはKate Bosworthの隣に座り込み、彼女の髪を撫でる。James Marsdenは壁に飾られている写真の一つで、フットボール選手のAlexander SkarsgårdとチアリーダーのKate Bosworthが非常に親しく寄り添っている姿を見い出す。
犬を連れた知恵遅れの青年Dominic Purcell(ドミニック・パーセル)が入って来て、元フットボール・コーチのJames Woods(ジェイムズ・ウッズ)から激しく罵られ、つまみ出される。
元コーチJames Woodsがウィスキーのお代わりを注文すると、オーナー兼バーテンから「もう充分呑んだだろ。家に帰れ」と云われて喧嘩を始める。James Woodsの激烈な性向にJames Marsdenは驚き呆れる。黒人シェリフが来てJames Woodsを帰宅させる。
夫婦が外に出ると、知恵遅れ青年Dominic PurcellがJames Marsdenの車に座り込んでいる。妻Kate Bosworthは優しく青年に話しかけて、車から出て貰う。妻の家は、川の傍の並木道の向こうに建つ絵になるような農家で、James Marsdenはその佇まいに惚れ惚れする。
翌朝早く、Alexander Skarsgårdが三人の仲間を連れて屋根修理にやって来る。その中の太っちょはあまり働きもしないでラジオの音楽を甲高く鳴らし、James Marsdenの家にづかづか入って来て勝手に冷蔵庫からビールを出して「冷えてない」と文句を云ったりする。挙げ句の果てに、脚本執筆中のJames Marsdenの前に座り込んでお喋りまで始める始末。
驚いたJames Marsdenが妻に云うと、「この町では誰も家に鍵をかけないの。冷蔵庫だって勝手に開けていいのよ」と云う。Alexander Skarsgårdとその仲間は、昼前というのに「ハンティングに行く」と行って仕事を中断して帰ってしまう。
翌朝、ノーブラ、ショートパンツ姿でジョギングして戻る途中のKate Bosworthの後ろをAlexander Skarsgård一行の軽トラックが追尾し、彼女の揺れる尻を観賞する。彼女は夫に「この町の英雄は外国の戦場ではなく、フットボール競技場で生まれるの」と云い、James Marsdenは「あの屋根修理の連中みたいにか?彼らはわらの犬だ」と云う。理解出来ない妻に彼が説明する。「昔、中国では儀式の最中は藁で作った犬が崇められたが、儀式が終わるとポイと捨てられたんだ」 フットボール選手といい仲のチアリーダーだったKate Bosworthは、自分たちの青春時代がくさされたと感じ、むかついた顔をする。James Marsdenは「キミもブラジャーをすれば、人々からもっと尊敬されるのに…」と云う。
夫の言葉に反発したKate Bosworthは二階の窓を開き、屋根修理の一同が見守る前で全裸になって挑発する。彼女の元カレだったAlexander Skarsgårdは、それを自分への招待状と受け止め、James Marsdenに敵愾心を燃やし始める。
この町には"Preach and Play"(説教とフットボール)という風習があった。シーズン開始直前、教会で町民を前に牧師が選手たちを励ました後、競技場でピクニックに興ずる町民の前で選手たちが練習するのだ。町を挙げての行事だと云われれば行かないわけにいかない。James Marsdenも妻と共に出向くが、彼は牧師が聖書の言葉でフットボール・チームを激励するのがナンセンスに思え、いたたまれず外に出る。人々が彼を睨みつける。追って来たAlexander Skarsgårdが「牧師に失礼だ」となじる。
競技場は縁日のように食い物の屋台が並び、家族連れで賑わい、ロックバンドの演奏まである。知恵遅れ青年Dominic PurcellがKate Bosworthに挨拶していると、突如元フットボール・コーチのJames Woodsが青年に殴る蹴るの暴行を加える。James Woodsの一人娘が青年を気に入っているのだが、James Woodsは逆に青年が娘につきまとっていると誤解しているのである。Kate Bosworthが止めに入る。
James Marsdenが妻に「なぜ介入したのか?」と聞くと、「あなたが止めるべきだったのよ!」と反撃される。夫が「ボクは地元のやり方には関わらない主義だ」と答えると、妻は「随分都合がいい主義ね」と云い、彼女は暗に夫の弱腰を責める。帰宅すると、衣装棚の中でKate Bosworthの愛猫が殺されて吊るされていた。彼女は「あの連中の仕業だわ!」と怒り狂う。
Alexander SkarsgårdがJames Marsdenをハンティングに誘う。付き合いで仕方なくOKする。翌朝、一行は森へ鹿射ちに行く。いつの間にかJames Marsdenは一人になってしまう。その頃、Kate Bosworth一人が留守番する家のドアが叩かれる。開けるとAlexander Skarsgårdがずかずかと入って来て、彼女に襲いかかる…。
James Marsdenは若過ぎて、どう見ても売れっ子脚本家には見えませんが、妻の故郷で“郷に入れば郷に従え”を必死に実践しようとしている常識人を頑張って演じています。彼の妻を演じているKate Bosworthは、男尊女卑の田舎で育った単細胞の女をそれらしく無理なく演じています。
Alexander Skarsgårdはスウェーデン生まれだというのに、アメリカ南部の、怒らせたら何をするか分からないレッドネックをうまく演じています。
元フットボール・コーチを演ずるJames Woodsは、Ghosts of Mississippi『ゴースト・オブ・ミシシッピー』(1997)で凶悪なレッドネックの暗殺者を演じてアカデミー助演賞候補にまでなったほどですから、このテの人物を演ずるのはお手の物です。しかし、脚本・演出のせいでしょうが、この映画では元コーチになど見えず、単なる酔っぱらいのフット・ボール・ファンにしか見えません。アメリカの大統領は任期が過ぎても死ぬまで「ミスター・プレジデント」と呼ばれます。野球やフットボール、バスケットボールなどのコーチも同様で、人々は現役でなくなった人物をも敬意を込めて「コーチ」と呼びます。それだけに、コーチにはそれなりの威厳が備わっていなくてはなりません。この映画のJames Woodsは、その部分を充分表現していません。
しかし、この物語の舞台をアメリカに移すならアメリカ深南部は最適で、脚本家は最大限に南部の特徴をうまく利用しています。
1) 信心深い地域である
“バイブル・ベルト”という呼び方があります。深南部を中心として南部を横断する地帯のことで、白人も黒人もキリスト教の熱心な信者です。主人公が牧師を軽視したことで、町民から憎まれるようになるというのは過激ですが、そういう下地は充分にあります。
2) スポーツ狂である
これは全米がそうであり南部だけの特徴とは云えませんが、南部は貧しいのでフットボールやバスケットボールの選手となって奨学金を得て高校、大学へ進み、可能ならプロになって成功したいというアメリカン・ドリームが顕著です。地元高校、大学への応援も凄まじく、車に旗を立てて走る人も少なくありません。
3) ハンティング狂である
ある下院議員候補は銃を構えている写真を掲載した選挙対策チラシを新聞の折り込み広告に入れました。南部のハンティング狂の票を集めようという作戦です(当選しました)。南部の男にとって、ハンティングとその獲物を運ぶ小型トラックは男の象徴です。
4) 男尊女卑である
多少変わりつつありますが、男はマッチョでなくてはならないと男も女も考えているようです。この映画のように、優柔不断な夫に愛想を尽かす妻の心理は南部ならではのものだと思います。
映画の初めの方で、妻が「FEMAが沢山お金をくれるから贅沢しましょ」と云います。Federal Emergency Management Agency of the United States(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)は、災害復興対策としてハリケーンや洪水などの被害者に、被害規模に応じて援助金を提供します。カトリナの後、インチキの被害申告で金を貰おうとした詐欺行為が多々あり、本当に被害に遭って新しい家を得たのに「うまくやったな」と嫌みを云われたて憤慨し家族もありました。この映画の夫婦も、実際に住まないと援助金が貰えないから引っ越して来たのでしょう。
Part 2では、再度DVDで鑑賞した1971年のSam Peckinpah版との比較を試みたいと思います。
(March 26, 2012)
Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
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