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Songcatcher

『歌追い人』


[Poster]


・原題をクリックするとamazon.comのInternet Movie Databaseの詳細データが見られます。邦題をクリックすると「allcinema」のデータが見られます。

・Part 2は普段は隠れていて、クリックするとJavaScriptによるウィンドウにて表示されます。取り扱いには十分お気をつけ下さい。

公開:2000
監督:Maggie Greenwald
地域:ノース・キャロライナ州
出演:Janet McTeer、Pat Carroll、Emmy Rossum、Jane Adams、Aidan Quinnほか
範疇:音楽学者/歌の発掘/アパラチア山岳地帯/山の民

私の評価 :☆☆1/2

【Part 1】

1907年。Janet McTeer(ジャネット・マクティア)は北部のある大学の音楽部門の助教授で、音楽史と比較音楽学などを教えている。学期末休暇を前にして、彼女はまたも教授昇進が理事会で否決されたことを知って愕然とする。彼女が不倫の相手となっている教授すら彼女を推薦してくれなかったことが判明する。傷心のJanet McTeerは、アパラチア山岳地帯で小学校教師をしている妹を訪ねることにする。

ノース・キャロライナ州の山奥。伝道活動にも似た小学校は、Janet McTeerの妹と年上の女教師二人で運営されていた。彼らと孤児Emmy Rossum(エミィ・ロッサム)の三人は学校で寝泊まりしている。Janet McTeerも学校に泊まることになる。お茶の時間の余興としてEmmy Rossumが祖母から教わったというフォークソングを歌う。Janet McTeerは驚く。その歌はスコットランド=アイルランド系のフォークソングの典型として、彼女が生徒に弾き語りで歌って聞かせている200年以上前の曲'Barbara Allen'(バーバラ・アレン)だったからだ。Emmy Rossumの祖母は英国人ではなかった。では、なぜスコットランド=アイルランド系の唄がこのアパラチアの山の中に残っているのか?研究者としての本能が、これは大発見であることを告げ、Janet McTeerは鳥肌が立つ思いをする。

Janet McTeerは不倫の相手だった教授に電話し、録音機一式を送って貰う。この当時の録音機は大きな朝顔型マイクに首を突っ込んで歌い、蝋管(円筒)に録音するという大掛かりな装置であった。Emmy Rossumに歌わせて録音し、蝋管に納まらないような長い曲は採譜する。

妹の勧めで、山の上の小屋に住む老女Pat Carroll(パット・キャロル)を訪ねる。彼女は最初は「歌など何も知らない」の一点張りだったが、Janet McTeerの熱意に負け、一曲録音する。その再生音を聴いた当人は大喜び。Janet McTeerは「この山の歌を本にする時は、あなたの名前を記す」と約束する。そこへ老女の孫で密造酒を作っているAidan Quinn(エイデン・クウィン)がやって来て、「石炭会社は山の石炭を盗もうとし、木材会社は木を盗もうとしている。今度は歌泥棒か。帰ってくれ!」と罵る。学校に戻ったJanet McTeerは妹とその同僚の女教師が同性愛であることを発見する。

老女Pat Carrollの唄の録音が続く。彼女を立ち退かせようと、石炭会社の手先が来て説得するが、Pat Carrollは散弾銃で追い返す。近くの主婦が産気づき、Pat CarrollはJanet McTeerにお産を手伝わせる。妊娠したこともないJanet McTeerは怖じ気づきながらも、やむを得ず手伝う。

山の人々のダンスパーティが開かれ、バンジョーやギター、それにツィターに似た楽器などが演奏される。Janet McTeerも酒を呑まされ、踊らされる。彼女は次第に山の民に溶け込んで行く。Janet McTeerは老女の孫Aidan Quinnと議論する。彼女が「この歌の本が出版されれば、世間の人たちがあなた方を見る目が変わるわ」と云うと、「おれたちは無学で野蛮だと思われようが一向に平気だ。世間から放っといて貰いたいんだ」と云う。胸襟を開いたAidan Quinnに、Janet McTeerは好感を抱く。

女教師二人と共にJanet McTeer、Aidan Quinnがピクニックに行く。女教師二人は気を利かせて親しげに語らう男女を残して森の中に消える。女教師二人がキスしているところを山の男が見咎め、その夜学校は火をつけられて全焼する。Janet McTeerが録音した蝋管や採譜した楽譜も全て灰になってしまう…。

私は日本のも他の国のも民謡が大好きです。埋もれた民謡(フォーク・ソング)を発掘するという趣向を映画にしたというコンセプトに、先ず脱帽します。出て来る歌がそれぞれ素晴らしい。エンド・タイトルで歌われる'Barbara Allen'には、歌手としてEmmylou Harris(エミィルー・ハリス)の名がありますが、他の曲にはありません。ということは、他は俳優たち自身が歌っているわけです。この俳優たちがまたいかにも山の民らしい風貌の人々で唄もちゃんとこなしています。数々のフォーク・ソングを知っている十代の少女を演じるEmmy Rossumはオペラの歌唱を学んでいる生徒で、こうしたフォーク・ソングを歌うのは初めてだったそうですが、声も独特で小節廻しもうまい。私はどちらかというとEmmylou Harrisのソフトな歌唱よりも、Emmy Rossumのクセのある歌唱の方が好きです。

'Barbara Allen'という唄は、実際にこの山岳地帯に住み込んだ宣教師の妻によって、1907年に発見されたものだそうです。本格的に学者が収集を始めたのは十年ほど経ってからですが、いずれにしてもこの時代はまだ蝋式録音機は発明されていなかった頃で、映画は少し時代に先行しているとのこと。

ハリウッド風アフレコや吹き替えを使わず、全て撮影場所での俳優自身による録音を使ったというのがユニーク。先ず唄を歌って貰い、完璧に歌えた録音を流しながら撮影しました(当人によるアテレコですね)。インデペンデント映画はフィルムも無駄遣い出来ませんから、この方式は経費も安く済み、臨場感に満ちた音が得られ、俳優も撮影時には唄よりも演技(表情)に専念出来るなど、様々な長所があったと思われます。土地を手放す決意をした夫婦が、夫のヴァイオリン伴奏で妻が歌うというシーンあります。ここで妻役のIris DeMent(アイリス・ディメント=歌手)が虚ろな表情で歌う'Pretty Saro'も胸を打ちます。歌い終わった時に、夫と顔を見交わしほんの少しだけ微笑む演技も絶品。

主演のJanet McTeerをはじめ、Emmy Rossum、Pat Carrollなどが素晴らしい演技を展開します。特にPat Carrollは9人の子供を生んだという年輪ある存在感と、同時に可愛いところもある老女を心憎いまでに自然に演じています。Burl Ives(バール・アイヴス)の女性版と云っても誉め過ぎではありません。

映画が始まった最初のシーンからエンディングに至るまで、撮影が非常に綺麗。画面構成もいいし、文句のつけようがありません。山岳地帯の美しい風景も過不足なく収められています。

脚本・監督の二足のわらじの映画は独りよがりで要注意だと思っていましたが、この作品は嬉しい例外でした。よく出来た、楽しい映画です。私は「インデペンデント系の映画作家たちは好んで暗いテーマを選ぶ」と決めつけたことがありましたが、それは間違いでした。

(February 13, 2007)



Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。




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