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Scottsboro: An American Tragedy



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・原題をクリックするとamazon.comのInternet Movie Databaseの詳細データが見られます。邦題をクリックすると「allcinema」のデータが見られます。

・Part 2は普段は隠れていて、クリックするとJavaScriptによるウィンドウにて表示されます。取り扱いには十分お気をつけ下さい。

公開:2000年
監督:Daniel Anker、Barak Goodman
地域:アラバマ州
出演:Andre Braugher(ナレーション)、Stanley Tucci(声)、Frances McDormand(声)ほか
範疇:ドキュメンタリー/人種偏見/Scottsboro boys/黒人の若者たち九人の冤罪/裁判

私の評価 : ☆☆

【Part 1】

これはアメリカのCATVの一つであるPBS(Public Broadcasting Service、公共放送)が出資・制作したAmerican Experience(アメリカの経験)シリーズの一本で、"Scottsboro boys"として有名な事件の発生から裁判までの一部始終を描いたもの。TV放映に先立ち劇場公開され、2000年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門の候補となったほか、数々の賞を受賞しています。この映画の題材となった事件は、劇映画'Heavens Fall'(2006)【当サイトで紹介済み】の元になったものです。

大恐慌時代の真っ只中の1931年の3月25日、テネシー州東部のChattanooga(チャタヌーガ)を出発した貨物列車はテネシー州西部のMemphis(メンフィス)を目指した。その貨車には24人の"hobo"(渡り労働者、流れ者)が無賃乗車していた。列車がアラバマ州の北東部に差しかかり、山間部のトンネルを過ぎた時、白人のグループが列車の屋根を伝い歩きし、一人の黒人の手を踏んだ。白人たちはその黒人に「この列車は白人のものだ。お前らは下りろ」と云い、黒人を蹴落とそうとした。黒人グループと白人グループの喧嘩となり、黒人たちは白人たちを列車から抛り出した。

その一件は、貨物列車の次の停車駅であるアラバマ州Paint Rock(ペイント・ロック)に「黒人の暴れ者たちが白人たちをぶちのめした」として伝わっており、その村で自警団が組織され、村人たちが銃やロープを持って待ち構えていた。彼らが九人の黒人たちを引きずり下ろした時、突如貨車の蔭から二人の白人女性が現われ、「その黒人たちにレイプされた」と云った。

Paint Rockの村人たちはショットガンやピストル、木や鉄の棒を持って黒人たちを包囲し、「こいつらを木に吊るそう」と云った。黒人たちはトラックに乗せられ、隣り町Scottsboro(スコッツボロ)に送られた。女性二人は汽車に乗せられた。黒人たちがScottsboroの留置場に入れられると、群衆が車やトラックで集まって来た。彼らは「黒んぼたちを表に出せ。でなきゃ、俺たちが引きずり出す」と云ったが、シェリフが「ドアに手を掛けた者は殺す」と応じて暴徒に対抗した。シェリフはアラバマ州知事に電話し、翌朝州兵の一隊が到着して留置場の安全を確保した。

九人の黒人たちは次のような顔ぶれだった。 【編註:映画では全ての人物の年齢が明らかにされていないので、Wikipedia英語版を参照しました。最年少の人物の名前も映画とWikipediaでは異なっていますが、Wikipediaの情報の方が新しいという観点から、そちらで統一しました】
・Charlie Weems(チャーリィ・ウィームズ、19歳で最年長)
・Eugene Williams(ユージーン・ウィリアムズ、13歳)
・Willie Robinson(ウィリィ・ロビンスン、16歳)梅毒患者でほとんど歩けない。
・Olen Montgomery(オリン・モンガメリ、17歳)ほぼ盲目に近く、眼鏡を買うために職を探していた。
・Clarence Norris(クラレンス・ノリス、19歳)ジョージア州の十人兄弟の一人。
・Ozie Powell(オジィ・パウェル、16歳)一人旅。
・Andy Wright(アンディ・ライト、19歳)
・Roy Wright(ロイ・ライト、12歳で最年少)上記Andyの弟。
・Haywood Patterson(ヘイウッド・パタースン、18歳)貨物列車無賃乗車のヴェテラン。

当時、不況の嵐は南部一帯を襲っていたが、特にアラバマ州はそのあおりを強く受け、失業者が溢れていて、階級と人種の対立も顕著であった。家族は離ればなれになり、何万人もの"hobo"が貨物列車で旅していた。

九人を告発した二人の女性は、
・Ruby Bates(ルビィ・ベイツ、17歳)
・Victoria Price(ヴィクトリア・プライス、21歳)
…で、アラバマ州Huntsville(ハンツヴィル)の小さな紡績工場で働いていた仲間だった。Victoria Priceは既に二回も結婚し、浮浪罪で施設に入れられた過去があった。彼女はタフで短気で、噛みタバコをくちゃくちゃし、男のように話した。Ruby Batesはもの静かな性格で、Victoria Priceの云いなりになっていた。その頃、紡績工場の賃金は下落し、二人は黒人街に住み、黒人や白人相手に売春して食料や衣料品を購っていた。

4月6日、Scottsboro裁判所で九人の黒人のレイプ事件の裁判が始まった。銃を持ったテネシー州やジョージア州の人々までやって来て、1,000人以上が裁判所前を埋め尽くした。ブラスバンドが南軍の軍歌'Dixie'を演奏し、州兵200人が裁判所を護った。法廷内は白人ばかりで、黒人は被告たちだけだった。

当時、南部では白人女性を黒人から守ることは最も重要なこととされ、1880〜1940年までに5,000人がリンチを受けたが、その犠牲者の多くは黒人で、白人女性にレイプや性的暴行を加えたという廉であった。1930年代初め、南部におけるリンチ事件は増える一方だったが、その原因は白人たちの惨めな暮らし向きから来ていた。

告発人Victoria Priceは、法廷で黒人たちに犯された経緯を詳細に証言し、どの黒人がどのような行動を取ったかも指摘した。Ruby Batesは友人の証言を裏書きしたが、どの黒人が彼女を犯したのかは特定出来なかった。

黒人たち九人はScottsboroで弁護士を雇えず、彼らの親たちが集めた$60でテネシー州Chattanoogaの不動産事務弁護士を雇っていた。暴徒を恐れた裁判長は超特急の審理を強行し、弁護士には調査の時間も与えられず、証人には黒人同士が互いに立つしかなかった。三日間の駆け足裁判で、未成年のRoy Wrightを除き、八人が電気椅子による死刑を云い渡された。弁護士は最終弁論さえ行なわなかった。

意外な方角から九人の黒人への救いの手が差し伸べられた。アメリカ共産党である。共産党は小さいが躍動的パワーを持っていて、大恐慌は「資本主義終焉の証しであり、労働者の天国の勃興時期」と捉えており、その理念は南部の黒人たちから注目されていた。奴隷解放後、南部の農民は"sharecropper"(シェアクロッパー=農園主から土地、肥料などを借りて小作料を収穫物で納める小作農民)という形の、借金を抱えて農園に縛り付けられる“奴隷”となっており、恐怖によって統治されていた。共産党はそういう南部の黒人たちの窮状を救い、“リンチによる正義”を終らせるべきだと考えていたので、Scottsboro事件は共産党の宣伝工作に絶好のチャンスであった。

New York(ニューヨーク)では200人の共産党員がScottsboroの九人の黒人の釈放を求めてデモ行進し、警官隊の攻撃を受けた。共産党の弁護士たちは九人の黒人たちの家族に会い、彼らの信頼を勝ち得、九人の弁護を担当する立場を確立した。共産党は世界各地の目をScottsboroに集めようとし、スペインやロシアでもデモが行なわれた。

1932年11月、アメリカ最高裁は「一審では九人が適切な弁護を得られなかった」として、アラバマ州に再審を命じた。

共産党は、ギャングや誘拐犯、レイピスト、悪徳警官などの刑事専門で有名だったユダヤ人弁護士Samuel L. Leibowitz(サミュエル・リーボウィッツ)を弁護団のリーダーとして雇った。彼は15年間に78件の殺人事件を担当し、100%被告を自由の身にしていた。Samuel Leibowitzは「共産主義には賛同出来ない」と断言したのだが、彼には世界的名声を得たいという欲求もあった。ついに彼は引き受けた。

再審はアラバマ州Decatur(ディケイター)に移された。弁護人Samuel Leibowitzは、被告を個々に裁判するよう要請し、受け入れられた。検察側は州司法長官であるThomas Knight(トーマス・ナイト、34歳)が検事を担当した。彼はSamuel Leibowitzに匹敵する能力と野心を持っていた。裁判長はJames E. Horton(ジェイムズ・E・ホートン、55歳)で、“リンカーン的紳士”であった。陪審員は全て白人だった。

新聞は告発者の一人Ruby Batesが行方不明であると報じていた。法廷では又も告発者Victoria Priceが詳細にレイプされた一部始終を証言した。弁護人Samuel Leibowitzは鉄道模型を使い、レイプされた位置を問い質したが、Victoria Priceは"I can't remember."(思い出せない)の一点張りで受け流した。

事件前夜、Victoria PriceはChattanoogaの宿に泊まったと証言し宿の女主人の名前まで述べた。しかし、弁護人Samuel Leibowitzの調査ではその名の女性も宿もChattanoogaに存在しないことを明らかにした。彼は、事件前夜にRuby Batesとセックスし、Victoria Priceが彼女の知り合いとセックスしたのを目撃した流れ者Lester Carter(レスター・カーター)を見つけ出していた。Samuel Leibowitzは「あなたはまた浮浪罪で逮捕されるのが恐くて、それでレイプされたと嘘をついたのだ」と結論づけたが、Victoria Priceは全てを否定した。

Samuel Leibowitzは通常の裁判のように反対尋問に成功し、得点を重ねていると考えていた。しかし、南部は北部とは別の国であり、南部人たちは、Samuel Leibowitzは売春婦を攻撃しているのではなく、南部一般の女性像を冒涜していると捉え、それは「北」から「南」への攻撃であり、第二の南北戦争であると感じていた。アラバマ人たちのSamuel Leibowitzへの反感は日増しに強まって行った…。

このドキュメンタリーは凄いです。事実の積み重ねやストーリー・テリングも巧みですが、何と云っても九人の生命がかかっている裁判が劇映画などよりもドラマチックなのです。背景説明も興味深く、登場人物たちの性格や行動も過不足なく描かれています。90分が三時間にも思えるほど濃密な内容です。

Part 2では映画の後半について紹介します。

(August 04, 2011)



Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。




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