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Ray

『Ray/レイ』


[Poster]


・原題をクリックするとamazon.comのInternet Movie Databaseの詳細データが見られます。邦題をクリックすると「allcinema」のデータが見られます。

・Part 2は普段は隠れていて、クリックするとJavaScriptによるウィンドウにて表示されます。取り扱いには十分お気をつけ下さい。

公開:2004
監督:Taylor Hackford
地域:ジョージア州ほか
出演:Jamie Foxx、Kerry Washington、Regina King、Clifton Powell、Harry J. Lennix、Sharon Warrenほか
範疇:伝記もの/盲目の歌手・作曲家/C&W、R&B、ソウル、ゴスペル/麻薬常習

私の評価 :☆☆

【Part 1】

カントリー、R&B、ソウル、ゴスペルなどの作曲家・歌手Ray Charles Robinson(レイ・チャールズ・ロビンスン、1930〜2004)の伝記映画。主人公を讃えるだけでなく、彼の女性遍歴や麻薬常習癖なども赤裸々に描いています。映画は1948年にJamie Foxx(ジェイミィ・フォックス)演ずる18歳のRay Charles Robinsonがフロリダ州から長距離バスに乗り、西海岸北部ワシントン州のシアトルを目指すところから始まります。彼の少年時代は回想シーンおよび幻想シーンとして何度もカットバックされるのですが、ここでは便宜上時系列に並べ変えて前半のあらすじを紹介します。

ジョージア州の片田舎。貧しい黒人女性Sharon Warren(シャロン・ウォレン)は洗濯女として働き、幼い男の子二人を育てていた。彼女は常に子供たちに「こんな惨めな生活をしたくなかったら、学問を修めなきゃ駄目よ」と云い聞かせていた。長男Ray Charles Robinsonは近くの雑貨屋でピアノの弾き方を教わる。彼が五歳の時、彼の目の前で弟が洗濯桶で溺れて死んでしまう。この思い出と自責の念は、彼が成長してもつきまとうトラウマとなる。

翌年、Ray Charles Robinsonの目に異常が現われ、七歳になった時、彼は完全に失明してしまう。母は息子が盲人として生きて行けるように、賢明に特訓し、最後に盲学校へ彼を送る。

成長したRay Charles RobinsonはC&Wのピアノ弾きとしてフロリダ州で暮らしていたが、18歳のとき友達のギタリストTerrence Howard(テレンス・ハワード)を頼ってワシントン州シアトルに旅立つ。ナイトクラブの女性オーナーは彼の歌と演奏を気に入って雇ってくれる。女性オーナーとTerrence Howardは田舎から出て来た若者をあなどり、Ray Charles Robinsonの収入の大半をピンハネする。

中規模のレコード会社が接触して来る。自称マネージャーの女性オーナーとTerrence Howardが、又もや甘い汁を吸おうとするが、二人の企みを知ったRay Charles Robinsonは独自にレコード会社と契約し、ロサンジェルスに移る。当時大人気のボクサーSugar Ray Robinson(シュガー・レイ・ロビンスン)と紛らわしいということで、レコード会社は彼を"Ray Charles"として売り出すことにする。

Ray Charlesはあるバンドに加わって各地を旅する。彼はこの時期に仲間から麻薬(ヘロイン)の味を教わる。ここでも金銭のトラブルがあり、Ray Charlesはバンドを離れてニューヨークに移る。

1952年、転機が訪れた。彼が契約していたレコード会社が彼を手放し、彼はアトランティック・レコードに移籍することになったのだ。しかし、彼のNat "King" Coleもどきの曲は社内で受けなかった。たまたまプロデューサーが作った曲'Mess Around'をアップテンポで演奏すると、これは関係者みんなに受けた。その曲のレコードの販促でテキサス州ヒューストンのラジオ局を訪れた際、彼は女性ゴスペル・シンガーKerry Washington(ケリィ・ワシントン)と知り合う。二人の仲は急速に深まり、愛しあうようになる。Ray Charlesが愛を得た喜びを歌い出すと、Kerry Washingtonが咎める、「それはゴスペルじゃないの!不謹慎だわ!」Ray Charlesは「おれはずっとゴスペルとブルースを演奏して来た。おれの心から自然に出るものを音楽にするんだ。キミを愛する気持を歌ってるんだから、これ以上自然になれないじゃないか!」Kerry Washingtonは感動してRay Charlesを抱き締める。

1954年、Ray Charlesは自分のバンドを持つことにする。大都市を巡るツァーが始まる。「神の音楽をセックスに変えている!」として、彼のゴスペル風ラヴソングを毛嫌いする人々もいる。Ray CharlesとKerry Washingtonは結婚するが、彼女は妊娠したためツァーには加わらない。ある日、妻Kerry Washingtonは夫の麻薬注射道具一式を発見し愕然とする。

Ray Charlesはバンドに女性歌手を加え、すぐ彼女をベッドに引き摺り込む。その歌手に厭きると、新しく雇った三人の女声コーラスの一人Regina King(レジーナ・キング)をセックス・パートナーにする。相変わらず麻薬を打っていたが、しょっちゅう身体を掻いたり貧乏揺すりしたりして、レコード会社の録音マンから麻薬使用を見抜かれ、プロデューサーたちも心配し始める…。

先ずメイン・タイトルの映像・音楽で「これはいい映画だ!」と確信させられます。クロースアップ・ショット(ピアノを弾く指先のアップ、真俯瞰のキーボード、マイク、床を叩く足元など)の構図とサイズが見事。少なくとも、私好み。サングラスに映ったキーボードのショットも秀逸。この映画の撮影は構図・アングル・照明・色彩などが一貫して素晴らしい。

Jamie Foxxの容貌がRay Charlesに似ていることも重要ですが、彼がピアノを弾けることが最大の強み(三歳の時から習っていたそうです)。Ray Charles本人の録音をなぞっているとしても、俳優当人が弾いているというのが凄い。ピアノが弾けない俳優の場合、顔のアップ、ピアノの側面で手元を隠したウェスト・サイズのショット、そして弾く手元のアップ(これはプロの手)という繰り返しにならざるを得ません。Jamie Foxxだと手元を隠したりせず、監督はどこからでも、どんなサイズでも撮ることが可能です。Ray Charlesになり切ったようなJamie Foxxの演技そのものもずば抜けています。共同製作者としてスタジオに詰めていたRay Charles Robinson, Jr.(レイ・チャールズ二世)は、Jamie Foxxの仕草が余りにも父にそっくりなので、ジーンと来て仕方がなかったと云っています。なお撮影中のJamie Foxxは、一日12〜14時間は睫毛を糊付けして、本当に盲人として行動したそうです。

Ray Charlesの妻を演じるKerry Washingtonも素晴らしい。婚前の初々しい時代、妻として母として落ち着いた時代の演じ分けも巧み。

Ray Charlesの母親を演じたSharon WarrenはTVにも映画にも出たことのない女優だったそうです。彼女の度胸も凄いですが、彼女から迫力のある演技を引っ張り出した監督の手腕も見事です。

他の俳優陣も全て適役で、一人一人存在感豊かで演技に説得力があります。全員の質が揃っているこういう映画も珍しいと思います。その中で、特にアトランティック・レコードのプロデューサーを演じたCurtis Armstrong(カーティス・アームストロング)が私は好きです。一見うさんくさい登場の仕方をするものの、その後ビジネスばかりでなく、いい友人としてRay Charlesをサポートするという儲け役を楽しそうに演じています。

映画冒頭、1948年に18歳のRay Charlesがフロリダ州で乗る長距離バスの運転手は、Ray Charlesを"boy"と呼びます。当時の南部では老人でも黒人だとboy、老女はgirlと蔑視されていました。そのバスの後部四列が"Colored"(黒人専用)となっています。前部がたとえガラ空きでも黒人は"Colored"に座らなくてはなりませんでした。

1961年にRay Charlesがジョージア州オーガスタ(毎年マスターズ・トーナメントが開催される町)のコンサート会場に行くと、公民権運動のデモ隊が「差別反対」を叫んでいます。一人の黒人青年が「Mr. Charles、知ってますか?一階は白人専用、黒人は二階だけと差別されてるんです」と訴えます。Ray Charlesは最初、「ここは南部なんだから仕方がない。おれはエンタテイナーだし、何も出来ん」とノンポリ風の対応をします。図に乗った主催者がRay Charlesの前で青年に「その黒いケツをどかしてとっとと消えろ!」と黒人差別発言をしたため、Ray Charlesは急に怒ってコンサートをキャンセルします。モンガメリ(アラバマ州)のバス・ボイコットが1955年、世界的に報道されたリトル・ロック(アーカンソー州)セントラル高校の人種統合が1957年ですから【詳しくは当サイトの『公民権運動・史跡めぐり』をどうぞ】、上の1961年の一件は公民権運動がかなり盛り上がっていた時期です。ノンポリのRay Charlesも人種問題を避けて通れなかったというわけです。

コンサートのキャンセルにより、彼は主催者へ賠償金を支払いました。映画では「今後ジョージア州におけるRay Charlesの演奏を許さない」という判決まで受けたことになっています。映画のクライマックスでは、1979年にジョージア州議会がRay Charlesに公式に謝罪し、彼の曲'Georgia On My Mind'をジョージア州の州歌と制定し、列席したRay Charles夫妻を感動させます。州議会を代表してアナウンスする議員Julian Bond(ジュリアン・ボンド)は、実際に公民権運動の活動家として有名だった人物で、1967〜1987年まで州議会議員だった当人自身を演じています。ですから、これらは全て事実だったように思われがちですが(アメリカ人ですら信じ込んでしまう)、'Georgia On My Mind'が州歌に制定されたことを除けば、他の全ては映画的フィクションだそうですので御注意(詳細はPart 2にて)。

(June 14, 2007)



Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。




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