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公開:1963
監督:Nicholas Webster
地域:ジョージア州
出演:Ossie Davis、Ruby Dee、Godfrey Cambridge、Sorrell Booke、Hilda Haynes、Alan Aldaほか
範疇:戯曲の映画化/黒人説教師/綿農園主対黒人/遺産詐取騒動/公民権運動/コメディ
私の評価 :☆
【Part 1】
黒人俳優Ossie Davis(オシー・デイヴィス)が自作・自演し、1961年9月〜1962年5月まで261回上演されたブロードウェイ劇の映画化。映画の脚本もOssie Davisが書いています。もともとの題名は主人公の名を取って'Purlie Victorious'(パーリィ・ヴィクトリアス)でしたが、再公開の時に’Gone Are the Days!’と改題されたようです。私が観たDVDは'Purlie Victorious'なので、このタイトルで通します。この題材は後にミュージカル'Purlie'ともなりました。映画のキャストのほとんどは舞台から引き続きの出演です。Ruby Dee(ルビイ・ディー)はOssie Davisの妻で、“おしどり夫婦”として有名。揃って様々な文化的な賞を受賞しています。俳優・監督として知られるAlan Alda(アラン・アルダ)はずっとTV俳優でしたが、この映画で銀幕デビューを果たし、レッドネック農園主の進歩的息子を好演しています。
私の姉妹サイトである『公民権運動・史跡めぐり』に詳しく書いてありますが、「ブラウン対教育委員会・最高裁判決」(1954)によって「公的な場における人種差別は違憲」とされたものの、南部の人種差別はほとんど変化が見られませんでした。この映画の原作である戯曲が上演される六年前に起った「モンガメリ(アラバマ州)のバス・ボイコット」(1955)は公民権運動の進展に拍車をかけた大事件でした。この映画が公開された年は、公民権運動が最高に盛り上がっていた頃です。映画の中でも上記二つの事件が言及されますし、主人公の"Victorious"という名前からも、黒人たちの昂揚した気分が窺えます。
映画は物語の最後から始まります。ややこしいですね。説教師Ossie Davisは20年前に働いていた綿農園の主人に鞭打たれて逃げ出し、アメリカ中を放浪していたのですが、彼の夢は昔住んでいた農園の近くの荒れた教会を復興し、自分が牧師となって黒人たちの魂を救うことでした。物語の最後にはその夢が叶い、教会の最初の礼拝と、つい最近亡くなった農園主の葬儀とが挙行されます。「どうしてこうなったのか、観客の皆さんにお見せしよう!」とOssie Davisが云うと、信者席にいるRuby Deeに会衆がコートを着せ、トランクを渡し、彼女とOssie Davisに帽子がかぶせられ、二人に沢山の荷物が渡されます。そして、教会の壁がするすると取り払われ、Ossie DavisとRuby Deeは会衆に別れを告げて旅立って行くのです。まるで、演劇そのものですね。1963年の黒人劇作家が書いた芝居としては快調な滑り出しです。
次第に台詞で解明されて行く事実を順を追って書いて行くと非常に焦れったいので、背景説明はまとめてお伝えします。
説教師Ossie Davisはアラバマ州でRuby Deeに出会い、彼女に一目惚れすると同時に一計を案じた。彼女を亡くなった従妹のBee(ビー)に仕立て上げれば、ある婦人がBeeに遺した500ドルを農園主からせしめることが出来る。それを元手に教会を復興するのだ。自分を信頼し慕ってくれるRuby Deeを連れ、Ossie Davisは故郷Cotchipee(コチピー)郡に向う。農園主Stonewall Jackson Cotchipee(ストーンウォール・ジャクスン・コチピー)を演ずるSorrell Booke(ソレル・ブック)によって、この郡は農園から売店から家畜、小作人に至るまで、全てを牛耳られていた。もう奴隷制は廃止されたのだが、小作人たちは農園主の売店で高価な食料・雑貨の購入を強制させられ、一生かかっても返せない借金によって結局地主に隷属する生活を送っていたのだ。
Ossie DavisとRuby Deeは、Ossie Davisの義姉Hilda Haynes(ヒルダ・ヘインズ)の家を訪れる。彼女はRuby Deeのような可愛い娘が欲しかったと、惚れ惚れと見つめる。彼女の夫Godfrey Cambridge(ゴドフリー・ケンブリッジ)も二人を歓迎するが、Ruby Deeの替え玉作戦には賛成しない。彼の考えを変えるには伯母Hilda Haynesに叩かせるしかないと、Ossie Davisは彼女に棒を渡す。Hilda Haynesは棒を振りかざして夫を追いかけ廻す。Ossie DavisはRuby Deeに従妹のBeeになりすます特訓をする。
農園主Sorrell Bookeの息子Alan Alda(アラン・アルダ)はOssie Davisと幼馴染みだった上に、大学に行って公民権運動の現状を理解していた。彼はバーで「万人は平等である」と説いてレッドネックに殴られ、目の下に痣を作っている。シェリフの報告を受けた農園主Sorrell Bookeはカンカンになって怒る。そこへGodfrey Cambridgeがやって来る。農園主Sorrell BookeとGodfrey Cambridgeの乳母は同じ女性で、二人は一緒に育ったのだ。二人は'Old Black Joe'(オールド・ブラック・ジョー)を合唱する。
農園主Sorrell Bookeは息子に「お前は平等がいいとか抜かすが、この黒人に聞いてみようじゃないか」と、Godfrey Cambridgeに「お前は白人と黒人の子供が同じ学校へ行くべきだと思うか?」と聞き、「思いませんでがす」と云わせ、「お前は白人と黒人が一緒の電車に乗るべきだと思うか?」と聞き、「とんでもねえでがす」と答えさせる。しかし、息子が納得しないので心臓発作を起こす。
Ossie DavisがRuby Deeの訓練を終了したところへ農園主Sorrell Bookeとシェリフがやって来る。Ruby Deeはうまく従妹のBee役を演じ、農園主Sorrell Bookeは500ドルを出す気になる。しかし、農園主が渡した領収書にRuby Deeは従妹のBeeではなく自分の本名を書いてしまったものだから、農園主は「この女を逮捕しろーっ!」と怒鳴る…。
この映画の素晴らしいところは、俳優たち全員が楽しそうに活き活きと演じている点です。白人と黒人が'Old Black Joe'を合唱するとか、一見馬鹿馬鹿しい場面も脚本のユーモアと俳優たちの演技力に支えられて説得力を生み出しています。
Ossie Davisは説教師らしく韻を踏んだ言葉を機関銃のように吐き出し、特に"Freedom!"(自由!)というところだけ強調します。自分が書いた台詞だし、261回の上演で覚え込んだものとはいえ、長い台詞をよくまあうまく喋れるものだと思います。Ruby Deeは南部生まれでもないのに(オハイオ州生まれ)、凄い南部訛りで話します。ちとわざとらしく臭い気もしますが。
Ossie Davisの義姉を演ずるHilda Haynesは、唯一ブロードウェイでの上演に参加していなかった女優ですが、愛らしい表情といい目の輝きといい、他の演技陣にひけを取らない芝居をしていると思います。彼女の夫を演じるGodfrey Cambridgeは、薄のろで脳足りんの、奴隷と変わらぬ地主へのおべっか使いのように見えて、実はそうではないという儲け役を巧みに演じて、われわれを楽しませてくれます。
農園主を演じるSorrell Bookeは臭い役を臭く見えないように、軽く漫画チックに演じて成功しています。彼の息子を演じるAlan Aldaは、旧弊な親父に鼻面を引き回されつつも、時代の変化を読み取って黒人たちによかれと行動する進歩的若者を好演しています。これも儲け役。
Alan Aldaの乳母役でBeah Richards(ビー・リチャーズ)も出ています。彼女は'Guess Who's Coming to Dinner'『招かれざる客』(1967) でSidney Poitier(シドニィ・ポワティエ)のお母さんを演じた人です。
この映画で何度も歌われる'Old Black Joe'は、日本の中・高年は知っていても、アメリカ南部の同じ世代は知らないという珍しい現象があります。これについては私の姉妹サイト『英語の冒険』(正篇)【風俗・慣習】の「Old Black Joe」という項を御覧下さい。
DVDは白黒撮影がシャープでコントラストもよく、見事に再現されていました。音声が数ヶ所乱れましたが。
(August 24, 2007)
Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
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