[English] [Japanese Home] [Studio BE] [America Offline] [公民権運動] [英語の冒険] [英語の冒険2] [Golf] [Hummingbird]



[Banner]



The Green Pastures

『緑の牧場』


[Poster]


・原題をクリックするとamazon.comのInternet Movie Databaseの詳細データが見られます。邦題をクリックすると「allcinema」のデータが見られます。

・Part 2は普段は隠れていて、クリックするとJavaScriptによるウィンドウにて表示されます。取り扱いには十分お気をつけ下さい。

公開:1936
監督:Marc Connelly、William Keighley
地域:ルイジアナ州ニューオーリンズ、天国ほか
出演:Rex Ingram、Oscar Polk、Eddie 'Rochester' Anderson、Frank H. Wilson、George Reed、Edna Mae Harrisほか
範疇:戯曲の映画化/旧約聖書/神/創世記/人類の堕落

私の評価 :☆

【Part 1】

この映画は、ずっと前にTV放映されたものを録画して途中まで観たことがあるのですが、天国で天使たちに囲まれている黒人の神様が世界を創造し、人類を作り出すというお話が無茶苦茶な気がしたのと、人物たちの台詞が理解出来なかったため、諦めて抛り出してしまったのでした。今回DVDをレンタルして字幕を出しながら鑑賞すると、オール黒人による旧約聖書の映画化、しかも衣装やセットは現代風という破天荒な試みではあるものの、しごく真面目に取り組まれており、俳優たちもその他大勢の端役に至るまで真摯に演技していて、感動的とも云える作品であることが分りました。台詞が理解出来なかったのは、全ての台詞がアメリカの黒人英語で喋られているからでした。字幕がなければ、今回も解らなかったところです。

[the South]

しかし、邦題が『緑の牧場』とは呆れます。直訳では確かに『緑の牧場』なのですが、まるで馬か羊を育てる“牧場もの”の映画みたいです。これが聖書の物語であるとは一般人には想像出来ません。

冒頭、字幕による「前書き」が出ます。「神は、彼を信ずる者の前にさまざまな姿で現われた。南部の黒人の多くは、神と天国を、日常の生活でよく知っている人々や物としてイメージしていた」

南部の日曜学校。老説教師George Reed(ジョージ・リード)が子供たちに『創世記』のお話を聞かせる。子供たちは素朴に質問する。「神様が世界を作ったとき、ニュー・オーリンズはどんな風だったの?」「その時、ニュー・オーリンズはなかった。ルイジアナもなかった。地球には何もなかった。大体、地球もなかったんだ」「天使はいたの?」「いたさ。楽しく過ごしていた筈だ。キャットフィッシュのフライを週に一回、いや日に一回は食べていただろう」「ピクニックは?」「最高のピクニックだったろうよ」

天国。大勢の天使たち(全て黒人)がそぞろ歩きしている。子供の天使たちは縄跳びをしたり、ブランコに乗っている。小さな雲に乗った天使が下の小川に糸を垂れて釣りをしている。神に使える天使ゲイブリエルの先導で神Rex Ingram(レックス・イングラム)がやって来る。彼もまた黒人で黒い燕尾服に身を固め、髪も、ふさふさとした髭も白くなっている。天使たちは神に10セントのシガーを差し出し、温かいカスタードの飲み物を勧める。神はその飲み物に何か不足している材料があるのを感じ、奇跡を起してその材料を揃える。天国は突如湿っぽくなり、霞がかかる。天使たちの羽が濡れるので、神は別の奇跡を起す。地球を作って、水分をそこへ送り込み、農園を作る。神はアダム(Rex Ingramの二役)を作り出し、「家族を持つべきだ」と云ってイヴも作り出す。

日曜学校。説教師が子供たちに云う。「アダムとイヴに何が起ったか知ってるかね?ケイン(=カイン)とエイベル(=アベル)が生まれたんだ」

エデンの東。エデンの園を追われたアダムとイヴには二人の息子がいたが、兄弟喧嘩の末、ケインはエイベルを殺してしまう。神はケインを追い出し、「家族を作れ」と命ずる。神はまた、アダムとイヴに三番目の息子セスを作らせ、「もっと子供を作れ」と云う。

それから300〜400年が過ぎた。神Rex Ingramは久し振りに地球を訪れる。静かで平和な日曜日の田園風景に、しばしうっとりした神だったが、ウクレレを弾きながらジャズ・ソングをハミングする女の声に気分を乱される。やって来た連れの男はピストルを弄ぶ。神が町へ入ると、泥棒や昼から酒を呑む者、賭博に明け暮れる怠け者などばかりうじゃうじゃいる。彼を同業の説教師と勘違いしたEddie 'Rochester' Anderson(エディ・ロチェスター・アンダースン)演ずる黒人のノアがやって来て、家の夕食に招待する。ノアから、堕落し信心を忘れた人類の現状を聞いた神は、40日間雨を降らせること、ノアの一家と方舟に乗せた動物・植物だけを生き残らせることなどを決意する。ノアは二樽の酒を持ち込みたがって粘るが、神は一樽しか認めない。

日曜学校。子供たちは、助かったノアの一家と動物・植物によって人類と地球が良くなったのかと期待する。しかし、老説教師George Reedは「うんにゃ」と首を振る。

天国。お掃除のおばさん天使二人が神のオフィスを清掃中である。エプロンと同じ柄の羽カヴァーで埃除けをしているのが可笑しい。人類の堕落に怒った神は、この朝雷の連打によって18,960の町を焼いていて、おばさんたちもピリピリしている。その頃、エジプトの王ファラオはヘブライ人たちを捕らえ、その赤ん坊たちを虐殺していた。神は地上に降り立ち、Frank H. Wilson(フランク・H・ウィルスン)演ずるモーゼとその弟に「囚われの民を導け」と命ずる。二人は神の助けによってファラオに奇跡を見せ、ヘブライ人たちを助け出すことに成功する。大勢の人々を従えたモーゼは、以後“約束の地”を求めて40年間さすらうことになる…。

何しろ、神様まで学の無い南部の黒人英語で話すのです。"Is you been baptized?"とか、"Does you bow mighty low?"、"Where is you?"、"You is a family man."など。この神様は"Doggone!"(ちくしょう!)などとも云います。自分が神様ですから、"Goddamn!"とは云いませんけど:-)。怒ったり鬱になったり、非常に人間的な神様です。Rex Ingramはちと直線的ではありますが、威厳を感じさせる眼差しで神々しさを醸し出しています。

天使たちも非常に人間的。Oscar Polk(オスカー・ポーク)演ずる神に使える天使ゲイブリエルは、間抜けなような、信頼出来るような、神のYesマンのようでいてそうでもない…という、とても難しい役ですが、彼は声音と表情の巧みな使い分けで、それを見事にこなしています。

ノアを演ずるEddie 'Rochester' Andersonは有名な喜劇役者ですが、この映画では真面目に演じつつ、しかも脚本が用意してくれたコミカルな部分で個性を発揮しています。他の黒人俳優たちも『聖書』の映画化ということで張り切ったのでしょうが、全て適役とも云える表現をしています。

冒頭、天使の暮らしぶりが語られますが、最初は「魚のフライ」として言及されるものが、次第に"fried catfish"(キャットフィッシュのフライ」であることが明らかになります。"Fried catfish"は全米で食べられていて、その養殖の大産地は南部諸州です。キャットフィッシュは日本のナマズとは大違いで、細身でとんがった顔をしています。漫画週刊誌『ビッグコミック』のロゴのような丸顔ではありません。こちらへ来た当初、「ナマズだったら泥臭いんだろうな、きっと」と敬遠していたのですが、ある時それしか食べるものがない昼食会で食べたのが非常においしく、それからは大好きになってしまいました。海の白身の魚の味と変わりません。食料品店で売っているものの多くは切り身のキャットフィッシュですが、「フィッシュ・キャンプ」と呼ばれる大衆食堂では、頭を取っただけの丸のままのキャットフィッシュが揚げられて出て来ます。しかも、選べば食べ放題コースもあります。コレステロールのないコーン・オイルとかピーナツ・オイルで揚げられているので、ギトギトせずさらっとしています。今や南部だけでなく全米の人気食品となったキャットフィッシュですが、この映画で1930年代から南部名物だったと知って驚きました。なお、アメリカ南部のキャットフィッシュ養殖産業は、ヴィエトナム産の安いキャットフィッシュ輸入攻勢を受けており、価格競争で大変なようです。

この映画の白黒撮影は素晴らしいのですが、DVDは終始画面にザラツキが見られました。

(October 19, 2007)



Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。




Copyright © 2001-2011    高野英二   (Studio BE)
Address: Eiji Takano, 421 Willow Ridge Drive #26, Meridian, MS 39301, U.S.A.