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公開:1999
監督:Steve James
地域:ルイジアナ州ニューオーリンズ
出演:Andre Braugher、Rip Torn、Sean Squire、Ruby Dee、Bill Nunnほか
範疇:TV映画/神父/高校バスケットボール/公民権運動/人種差別/ドラマ
私の評価 :☆1/2
【Part 1】
TV映画ですが、日本でも「スターチャンネル」などで放映されたことがあるようです。邦題の「ダンクシュート」とは、バスケットボールでボールを(板でバウンドさせず)直接ゴールに入れるシュートのこと。
1965年、ルイジアナ州ニューオーリンズ。カソリック系のSt. Augustine(セント・オーガスティン)高校に、黒人神父Andre Braugher(アンドレ・ブラウアー)が歴史の教師として着任する。彼はこれまで北部で暮らしていたのだが、学生の頃から彼を信頼している校長の白人神父Rip Torn(リップ・トーン)に招かれたのだ。
この時期は公民権運動が各地で成果を収めていたものの、旧弊な深南部では白人の抵抗が強く、学校の人種統合もまだ実現していなかった。St. Augustineの男子バスケットボール・チーム'Purple Knights'(紫の騎士)は優秀なチームだったが、ルイジアナ州スポーツ協会への加入を認められていないため、白人高校との試合は不可能だった。
ある日、バスケットボールのコーチが他の学校に引き抜かれて辞めてしまう。校長はAndre Braugherにコーチさせようとする。Andre Braugherは「私は歴史の担任であって、スポーツは勝手が違う」と断るが、校長は強引に押し付けてしまう。
Andre Braugherも満更バスケットボールを知らないわけではなく、ちゃんとツボを押さえたトレーニングを課す。彼の当面の課題はスター・プレイヤーのSean Squire(ショーン・スクワイア)のワンマン・プレイを止めさせ、チームワークをよくすることだった。
Sean Squireの夢は白人高校のチームと対戦して勝ち、実質的に市のナンバー・ワンになることだった。Andre Braugherの夢も、同じルール、同じコートのゲームを皮膚の色の区別なく対決させることだった。しかし、職員会議では、「教育に政治を持ち込むな」という意見が大勢を占めた。
ある日の対抗試合で、Andre Braugherは自分一人で得点しようと無理したSean Squireをベンチに引っ込める。それでもチームは辛勝する。バスで町へ戻る途中、Andre Braugherは「白人専用」の軽食堂で、選手全員のハンバーガーと飲み物を買おうとする。店主は「出てけ」と云うが、Andre Braugherはテーブルについて座り込みをする。彼の勇気に感銘を受けたSean Squireは、チーム全員を率いて店内に入り込む。ウェイトレスが警官を呼び、Andre Braugherと生徒たちは警察署に連行される。
翌日、校長とAndre Braugherは地区の司教に呼ばれ、「今度騒ぎを起こしたら罷免する」と釘を刺される。Andre Braugherは心ならずもチームの生徒たちに謝罪する。校長がチームに「今年はよく頑張った。もう試合はない」と云う。白人チームとの対決が出来ず、Sean Squireはむくれる。
Sean Squireは新聞記事で、Jesuit(イエズス会)高校で市の高校選手権大会があることを知り、仲間数名と共にJesuit高校に赴く。Jesuit高校が市選手権大会優勝を果たして喜んでいる最中、Sean Squireが「おれたちと試合してくれ」と挑戦する。Jesuit高校チームのキャプテンは、その挑戦を受けて立つ。
人種の壁を越えた対抗試合を人種統合の第一歩にしたいAndre Braugherは、新聞社を訪ねて大々的に取り上げて貰うよう頼む。校長がJesuit高校を訪ね、コーチの虚栄心をうまく操って、試合を学校同士の正式なものに格上げする…。
導入部で北部から長距離バスでやって来るAndre Braugherが紹介されますが、休憩地点でバスに戻ると前に座っていた席が埋まっています。仕方なく、彼が「ここ空いてます?」と白人女性に聞くと、その婦人は黙って立ち上がり後ろの席に移動します。黒人と並んで座りたくないという意思表示です。無言の一つのアクションによって時代と地域(人種差別が激しかった南部)を表現してしまうという、うまい脚本です。
映画の中で言及されている公民権運動のバス・ボイコットは1962年の出来事で、フリーダム・ライダーは1963年、この映画の1965年の遥か以前です。ですからこの映画の時期は実際には運動の最盛期に当たり、大統領や北部の白人たちの支援も得られ始めた頃でした。黒人の聖職者や高校生たちも「(自分たちの未来のために)何かしなくては!」と懸命になる時代背景だったわけです。
主演のAndre Braugherは、ギョロ目でエキセントリックな演技が特徴の俳優です。とても神父には見えませんが、人種差別に苛立つ行動的な人物としては相応しいと云えます。うまく間を使った台詞廻しも絶品。スター・プレイヤーを演じるSean Squireは、若さとひたむきさを素直に表現しています。演技もなかなかのものです。他の演技陣は、TV映画らしく小粒ではありますが、それぞれ個性豊かに物語を盛り上げています。バスケットボールの試合の場面も巧みに撮影・編集されています。
原題の'Passing Glory'(栄光のパス)とは山場の試合で白人高校チームに圧されているSt. Augustineチームに、コーチAndre Braugherがハーフタイムに云う台詞に根ざしています。彼はこう云います。「Joe Louis(ジョー・ルイス、ボクシング世界ヘビー級王者)は黒人のチャンピオンになったが、その栄光を他の人間にパスした。Jackie Robinson(ジャッキー・ロビンソン、黒人初のメイジャーリーガー)も、Bill Russell(ビル・ラッセル、黒人、バスケットボールの歴史上最も偉大な選手)も、Cassius Clay(カシアス・クレイ=モハメド・アリ、ボクシング史上屈指の偉大なチャンピオンの一人)もそうだ。お前たちの目の前にそのパスされた栄光が待ってるんだ。パスを受けろ」と。
(March 21, 2007)
Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
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