公開：1976
監督：Brian De Palma
地域：ルイジアナ州ニューオーリンズ、フィレンツェ（イタリア）
出演：Cliff Robertson、Geneviève Bujold、John Lithgow、Stanley J. Reyes、Stocker Fontelieuほか
範疇：妻と娘が誘拐され死亡／妻にそっくりな女性との遭遇／ロマンス／誘拐事件の再現

私の評価 ：☆1/2

【Part 1】

Alfred Hitchcock（アルフレッド・ヒッチコック）の'Vertigo'『めまい』(1958)に触発された作品。いわゆるリメイクではなく、物語は全く異なり、観客が『めまい』と比較しながら観ていると、見事に肩すかしを食わされます。

1959年、ルイジアナ州ニューオーリンズ。ある大邸宅でパーティが催されている。不動産ビジネスで成功しているCliff Robertson（クリフ・ロバートスン）とその妻Geneviève Bujold（ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド）の結婚十周年を祝う集いである。カメラはウェイターの一人が銃を携帯していることを見せる。Cliff Robertsonの共同経営者John Lithgow（ジョン・リトガウ）がパートナーを讃え、Cliff Robertsonが計画中の公園プロジェクトに乾杯する。主役の夫妻は友人たちの輪の中で踊る。そこへ9歳になる娘Amy（エイミィ）が現われ「パパ、あたしと踊って」とせがむ。Cliff Robertsonは娘を腕で抱きかかえながら、妻と三人で仲睦まじく踊る。

パーティが終った後、妻と娘がウェイターに扮していた男二人に誘拐される。ベッドの柱には新聞広告から切り抜いた文字で「妻子を生きて取り返したければ、明日キャッシュで$500,000渡すこと」と書いてあった。翌日、「お父ちゃん、お金を持ってママとあたしを助けに来て！」という娘の声を録音したテープが届く。ヴェテランの刑事はCliff Robertsonに「われわれに任せなさい」と云い、白紙で作った金と発信器を仕込んだブリーフケースを用意する。

Cliff Robertsonは指定されたフェリーに乗り、指定された古い無人の埠頭にブリーフケースを投げる。一人の男がブリーフケースを拾って、車で逃走する。男の車を尾行した警察は犯人たちの隠れ家を包囲するが、犯人たちが人質の母娘を盾にするので手が出せない。Cliff Robertsonを乗せた警察の車は、犯人たちの車を追いつめるが、あと一歩というところで、ミシシッピ川にかかる跳ね橋で犯人たちの車が炎上し、川に水没してしまう。警察の捜索にもかかわらず、車も遺体も発見されなかった。Cliff Robertsonは不動産プロジェクトの巨大な敷地に、妻と娘の墓を建てる。それは夫婦が初めて出会ったフィレンツェのSan Miniato（サン・ミニアト）教会の外観を模した大きな墓であった。

16年後。Cliff RobertsonとJohn Lithgowの不動産ビジネスは順調だった。John Lithgowは資金集めのために何度も一人でフィレンツェを訪れていたが、今度はCliff Robertsonも一緒に行くことになる。数日間金持ち数人を接待し、やっと自由時間が得られたCliff Robertsonは、妻Geneviève Bujoldとの想い出の場所であるSan Miniato教会を訪れる。内部はルネッサンス初期の絵画や壁画、彫刻などで一杯（実は、外観はSan Miniato教会でも、内部は別の教会だそうです）。そこでCliff Robertsonは妻にそっくりな女性が絵画の修復に携わっているのを発見する。

翌日Cliff RobertsonはJohn Lithgowにその女性を見せる。余りにもGeneviève Bujoldにそっくりなので、John Lithgowも驚く。予定の滞在日数が過ぎJohn Lithgowはアメリカに戻って行くが、Cliff Robertsonは滞在を延ばす。彼は毎日のようにSan Miniato教会に行き、その女性Sandra（Geneviève Bujoldの二役）と親しくなる。何度か食事をし、彼女の母親とも会話をし、その母の死を看取る。Cliff RobertsonはSandraを伴ってニューオーリンズに戻り、盛大な結婚式を挙行しようと計画する…。

監督Brian De Palma（ブライアン・デ・パーマ、当時36歳）は'Dressed to Kill'『殺しのドレス』(1980)などで有名なHitchcockian（ヒッチコッキアン＝ヒッチコック研究家／愛好家）です。脚本は'The Yakuza'『ザ・ヤクザ』(1974)や’Taxi Driver'『タクシードライバー』(1976) のPaul Schrader（ポウル・シュレイダー）で、この二人が原案を練り、Paul Schraderが脚本を書きました。この映画のDVDには原案およびPaul Schraderの初稿と、それがどう変更されたかを物語る'Obsession: Revisited'（オブセッション再訪）なる関係者多数の証言が含まれていて、なかなか興味深いものです。

Cliff RobertsonとJohn Lithgowの不動産会社が所有する地所はPontchartrain Estateと呼ばれています。Pontchartrain（ポンチャートレイン）はニューオーリンズの北にある大きな湖の名前で、“湖にかかる世界最長の橋”がかかっています。その橋を渡った地域は高級住宅地ですが、まだまだ未開拓の林や野原が広がっています。多分、Pontchartrain Estateはその辺にあるという想定なのでしょう。

Cliff Robertsonは刑事の言葉に乗って身代金を払わなかったことに罪の意識を抱いていて、妻にそっくりな女性を見つけてからは、妻を見殺しにした贖罪を果たそうとする生真面目な男を好演しています。彼がフィレンツェで妻にそっくりな女性に取り憑かれる（＝原題'Obsession'）様は、その目つき、表情によってとてもうまく表現されています。

Geneviève Bujoldは『めまい』のKim Novak（キム・ノヴァク）のように妖艶ではありませんが、二役を演じるために、そのベビー・フェイスが買われたそうです。フィレンツェで絵画修復アシスタントとして働く若い女性の役は、とても愛らしく演じられています。

監督Brian De Palmaが大のヒッチコッキアンであることは、この映画の作曲家に、ヒッチコック晩年の映画七本に音楽をつけたBernard Herrmann（バーナード・ハーマン）を選んだことでもよく分ります。Bernard Herrmannは'Vertigo'『めまい』の音楽も担当しています。

脚本・演出・撮影は『めまい』の情感には及びませんが、それでも“謎の女性”の正体は？、Cliff Robertsonの執着の結果がどうなるのか？…という二点に惹かれて最後まで目が離せなくなります。

ニューオーリンズの場面（前半、後半）は、別に観光名所が出るわけでもなく通り一遍ですが、フィレンツェでの撮影は町の夕景、夜景、街路、教会内部、全て素晴らしく撮影されています。

フィレンツェには仕事で一度だけ行きました。町並みも美しいですが、町中が美術館という感じで至る所に彫刻（それも古代のオリジナル）が点在し、美術館に入れば護衛も防御のガラスもなしにフィレンツェ・ルネサンスの代表的画家・ボッティチェッリの名作『春』などがさりげなくかかっていたりします。感動しました。観光に行くのであれば、ローマだけではなくフィレンツェにも行かれることをお勧めします。

残念ながら、San Miniato教会へは行きませんでした（存在すら知らなかった）。なぜこの映画がSan Miniato教会の外観だけ使い、内部は違う教会を撮影したか？実は、あるポルノ映画の製作会社が、メイジャー映画会社のような振りをして撮影したケースがあり、教会側は憤激していて内部の撮影許可が下りなかったからだそうです。よく見ると、内部の一部にキリスト教らしからぬ赤い縞々のアーチが見えます。私はこれと同じものをスペインの古都コルドバの回教寺院で撮影したことがあります。イスラム教徒が制圧した時に建てられた大寺院で、その後キリスト教徒がコルドバを奪回した際、回教寺院の中にキリスト教の聖堂を作り上げ、二つの宗教の建築様式が混在するという不思議な現象が起りました。この映画に出て来る赤い縞々のアーチも、イスラム教徒がフィレンツェを制圧した時の名残りなのだと思います。

この映画を未見の方、これから見る可能性のある方は、この記事のPart 2は読まないで下さい。興味が【半減どころではなく】全減します。

(June 29, 2007)

Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
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