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They Live by Night

『夜の人々』


[Poster]


・原題をクリックするとamazon.comのInternet Movie Databaseの詳細データが見られます。邦題をクリックすると「allcinema」のデータが見られます。

・Part 2は普段は隠れていて、クリックするとJavaScriptによるウィンドウにて表示されます。取り扱いには十分お気をつけ下さい。

公開:1948
監督:Nicholas Ray
地域:ミシシッピ州、テキサス州、ルイジアナ州ニューオーリンズ
出演:Cathy O'Donnell、Farley Granger、Howard Da Silva、Jay C. Flippen、Helen Craig、Will Wrightほか
範疇:原作もの/脱獄囚/銀行強盗/ロマンス/逃避行

私の評価 :☆☆☆1/2

【Part 1】

Robert Altman(ロバート・アルトマン)監督によって'Thieves Like Us'『ボウイ&キーチ』(1974)としてリメイクされた映画のオリジナル。こちらの監督は'Rebel Without a Cause'『理由なき反抗』(1955)で一躍有名になったNicholas Ray(ニコラス・レイ)。彼の初監督作品です。Robert Altman版とはお話が大幅に異なり、こちらは若い男女を中心に描いています。あまり知られていない事実だと思いますが、Nicholas Rayはフランスでは(ゴダールやトリュフォーなどから)絶大な評価を得ている監督だそうです。

[the South]

大恐慌の1930年代。三人の脱獄囚が車を飛ばして逃げる。一行の中心人物は銀行強盗のヴェテランJay C. Flippen(ジェイ・C・フリッペン)、二番手が片目で乱暴なHoward Da Silva(ハワード・ダ・シルヴァ)、三人目は23歳の若者Farley Granger(ファーリィ・グレンジャー、役名はボウイー)で、彼は怪我をして片足を引き摺っている。三人はHoward Da Silvaの兄の家を目指すが、足の悪いFarley Grangerを物陰に潜ませて、二人が先行する。

夜、Howard Da Silvaの兄の娘Cathy O'Donnell(キャスィ・オドネル、役名はキーチィ)が車でFarley Grangerを迎えに来る。彼女は男共がみな犯罪者であることを知っていて、彼に冷たく接する。Howard Da Silvaの兄は、三人のために中古車を買いに行く。翌日、Jay C. Flippenの弟(入獄中)の妻Helen Craig(ヘレン・クレイグ)が、三人の衣服を持って来てくれる。若者Farley Grangerは娘Cathy O'Donnellに、いつかニュー・オーリンズに行くこと、出来ればメキシコにも行きたいなどと話す。

三人はテキサス州の田舎町に車で行く。足の癒えたFarley Grangerは銀行の開店・閉店時の人の出入り状況を調べる。彼が時計屋で女性用の腕時計を買うと、店員は「お釣りがない」と云って一緒に銀行へ行って金を崩す。Farley Grangerは抜け目なく行内の配置を頭に刻み込み、見取り図を作成する。決行の日、Farley Grangerは車で待機し、他の二人が金を奪って来る。頭目のJay C. Flippenと別れたFarley GrangerとHoward Da Silvaは、立派なスーツを買って着込み、中古車も買う。二人は車でレースを楽しむがFarley Grangerが他の車と衝突。やって来た警官をHoward Da Silvaが射ち、彼の兄のところに身体を痛めたFarley Grangerを預けて去る。

娘Cathy O'DonnellがFarley Grangerの手当をする。彼は町で買った腕時計を彼女にプレゼントする。そんな好意を受けたことのない彼女は喜ぶ。「明日、ここを発ちなさい。お望みなら、あたしも一緒に行くわ」と云う。二人は長距離バスに乗る。休憩地点の傍に20ドルで結婚式を挙行してくれる家があるという看板を見た二人は、バスを捨て衝動的に結婚する。指輪に5ドル払い、証人の夫婦に1ドルずつチップを上げ、計27ドルの結婚式。結婚式場オーナーは「新婚旅行にメキシコはどうかね?いい友達がいるから、簡単に行けるが…」と誘う。メキシコ行きは断るが、オーナーの仲介で車を買った二人は、楽しくドライヴし、あるモテルに泊まる。

二人が甘い新婚生活を楽しんでいると、ある日Howard Da Silvaが現われ、「仕事だ」と云う。Farley Grangerは気が進まない。彼は「一緒に行く」と云う妻を置いて他の二人に合流するが、「おれを外してくれ」と頼む。頭目のJay C. Flippenは「脱獄の仲間に入れてやったのは、お前に投資したんだ。それをチャラにするのが先だ!」と彼を殴る…。

95分の白黒映画という小品ですが、題名通り「夜」の描写が多い映像もしっとりとし、主人公二人の純愛がよく描けた佳作と云っていいでしょう。

この映画は全編カリフォーニア州で撮影されていて、南部らしい風景は出て来ません。「ほとんどが夜のシーンだから、何も南部まで行って撮る必要はあるまい」ということだったのでしょう。脱獄囚三人が組んだ最初の“仕事”は、テキサス州の小さな町で、地図入りで紹介されます。他の二人が死んだ後、追われるFarley Grangerは東へ車を駆り、「ミシシッピに入ったぜ」と妻に云います。妻が「ミシシッピ川って大きいんでしょ?昼間見たかったわ」というのが泣かせます。二人は大都市に着きます。町の名前は口にされませんが、彼は以前「ニューオーリンズへ行きたい」と云っていたのですから、ここはニューオーリンズだと思うべきでしょう。二人は大きな公園の散策や、ナイトクラブの音楽などを楽しみます。公園の古木から垂れ下がっている植物は、一見スパニッシュ・モス(当サイトの spanish_moss.html 参照)のように見えますが、スパニッシュ・モスは白いのに、この場面のは黒いのです。あまり南部を知らない小道具係が作ったのでしょうか。しかし、公園の中にゴルフ場があるところなどは、ニューオーリンズそっくりです。ナイトクラブの黒人のバンド、黒人女性シンガーなどもニューオーリンズ風です。

われわれにとってはAlfred Hitchcock(アルフレッド・ヒッチコック)の'Rope'『ロープ』(1948)や'Strangers on a Train'『見知らぬ乗客』(1951)でお馴染みのFarley Grangerの名前がトップに来そうなものだと思いますが、女優Cathy O'Donnellは大作'The Best Years of Our Lives'『我等の生涯の最良の年』(1946)で先に名を売っていたせいで、彼女がタイトルの一番目になっています。

Farley Grangerは甘いマスクで、殺人の罪で16歳から刑務所に入っていたという世間知らずの青年ボウイーにぴったりハマっています。Cathy O'Donnellは"a girl next door"(どこにでもいる女の子)を演じることが多かったようですが、Robert Altman版でキーチィを演じたShelley Duvall(シェリィ・デュヴァル)よりはずっと美しい。キーチィは老いた父のガソリン・スタンドで働いていて、他所の土地も知らずボーイ・フレンドもいません。そんな彼女に腕時計の贈り物をしてくれたボウイーをひたむきに愛してしまいます。官憲に追われる脱獄囚を愛するという薄幸な娘を、Cathy O'Donnellは控えめながらストレートに演じて、観客の哀感を誘います。

老いた銀行強盗を演じるJay C. Flippenは西部劇などでお馴染みの脇役。'Oklahoma!'『オクラホマ!』(1955)にも出ていて、歌もうたっていました。ここでは珍しくハードボイルドな役を得ています。片目の強盗を演じるHoward Da Silvaは、殺人を何とも思わない薄気味悪い男を好演しています。

ボウイーとキーチィが結婚する結婚式場のシーンが秀逸。基本料金は20ドルなのですが、オルガンで「結婚行進曲」を弾くといくら、記念写真を撮るといくら…というメニューを全て断り、基本料金プラス指輪(5ドル!)だけで済ませます。結婚式場オーナーとのやりとりだけで、一分にも満たない結婚式です。この時、ボウイーとキーチィはそれだけでも幸せなので、観客も微笑ましく思います。後に銀行強盗の主犯として指名手配されたボウイーは、同じ式場を訪れ結婚式場オーナーにメキシコへの逃亡を依頼します。以前は二人に中古自動車を売りつけ、メキシコへの新婚旅行まで勧めたオーナーでしたが、有名になった犯罪者の密出国まで手伝う気はなく、すげなく断ります。そこへ、以前の二人のように「結婚させてくれ!」という若いカップルが乱入して来て、オーナーは急に明るい顔になり「いらっしゃい、いらっしゃい!」とボウイーを置き去りにします。悄然と式場を後にするボウイー。運命の明暗を同じ場所、同じ人物で巧みに描き分けた脚本です。この脚本の原案は監督Nicholas Rayが書いています。

私にとって、20ドルで結婚させてくれる商売というのは初耳でした。この映画の結婚式場主宰者は長距離バスが出る真夜中まで営業していますし、自動車を売りつけたり、メキシコへの違法出国の手伝いまでしようとします。聖職者でもなく、役人でもなく、何やらいかがわしい男です。誰にでもこういう商売が出来るものでしょうか?なら、あちこちにありそうなのに、看板を見たことはありません。不思議でした。ある日、IMDbのこの映画の"Plot Keywords"という欄に"Justice of The Peace"という単語があるのに気づきました。"Justice of The Peace"は「治安判事」という意味だそうです。調べると、治安判事は地方選挙や知事の任命で就任し(州によって異なる)、法廷での裁判が大袈裟な軽微な犯罪(借金滞納、家賃未納、非行、道交法違反など)を処理するのが役目。治安判事はまた結婚をも司ります。現在では、教会が嫌がる同性婚はほとんど治安判事が行なっているそうです。この映画の荒筋を紹介しているサイトを経巡ると、大半のサイトがこの男を"Justice of The Peace"としています。私は「うっそー!」と思いました。この映画に出て来る男は違法出国も唆しているのです。選挙で選ばれた人間がやることではありません。大恐慌時代には、治安判事も必死に金を稼ごうとしていたというのでしょうか?ところで、IMDbの配役欄のこの男の肩書きは"Wedding Chapel Proprietor"(結婚式場オーナー)となっています。IMDbの同一頁で自家撞着を起しているわけです。しかし、"chapel"と称するなら聖職者が必要で、神のもとで結婚を誓うことになる筈ですが、この映画の式場は礼拝堂でもなく、神への言及もありません。どちらを選ぶべきか迷いましたが、私は「治安判事」よりは「結婚式場オーナー」の方が妥当と判断しました。

なお、'Whistling in Dixie'(1942、本邦未公開)という映画を観ましたら、役所で"marriage license"(結婚許可証)を得るにはたった2ドル支払えばOKとなっていました(随分昔の値段ですが)。コメディなので値段の信憑性は疑わしいとしても、許可証だけなら1930年代だと20ドルすら出さなくてもよかった筈です。

"Wedding Chapel"についてですが、英語版Wikipediaの情報では「聖職者か結婚式を行う許可を得た者がwedding chapelで式を司ることが出来る」とあります。料金は、現在のラス・ヴェガス("wedding chapel"の多いところ)でも50ドル程度、アリゾナの一部では10ドル程度(1990年調べ)で結婚させてくれるそうです。必要なものは結婚許可証と年齢を証明する書類だけとのこと。この映画のカップルは結婚許可証を持っていない筈ですから、現在のルールでは結婚出来ないことになります。

(October 17, 2007)



Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。




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