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公開:1990
監督:Roger Young
地域:ミシシッピ州
出演:Tom Hulce、Jennifer Grey、Blair Underwood、CCH Pounder、Andre Braugherほかほか
範疇:TV映画/実話に基づいた物語/公民権運動/黒人の選挙権登録推進活動/白人活動家の協力/K.K.K.による活動家たちの暗殺
私の評価 :☆
【Part 1】
'Mississippi Burning'『ミシシッピー・バーニング』(1988)は、行方不明となった公民権運動活動家三人を探すFBIの物語でした。これはその前段にあたる活動家三人が殺されるまでの物語です。つまり、両方揃って完結する話なので、'Mississippi Burning'を観た方には是非この映画も観て頂きたいところです。NBC-TVが放送したTV映画なのですが、Warner Bros. Televisionが製作しているせいか安っぽさは微塵もありません。特に撮影は数々の賞を獲得しています。この映画の本当の出来事は、私の姉妹サイト「公民権運動・史跡めぐり〜ミシシッピ州『フリーダム・サマー』活動家三人の暗殺 (1964)」をお読み下さい。
先ず時代背景を。当時は、Martin Luther King Jr.(キング牧師)がリーダーとなったアラバマ州の人種差別的バスのボイコット(1955)に端を発し、南部のそこかしこで公民権運動が展開され、黒人も白人も一丸となって旧弊な通念・慣習を打破しようとしていた頃でした。折しも1964年はアメリカ大統領選挙の年にあたり、各地で黒人の選挙権登録運動が盛んに行なわれていました。黒人有権者が全米で最も少ないミシシッピ州は公民権運動の集中拠点とされ、北部から募った学生ヴォランティア(白人600人、黒人200人)をミシシッピ州全体に散開させて黒人の選挙権登録を推進するという、「フリーダム・サマー」活動が企画されました。それに先立ち、北部を基盤とするCORE(The Congress of Racial Equality=人種的平等評議会)は、全米規模の組織COFO(Council of Federated Organizations=連合組織協議会)に協力するためニューヨーク出身の白人の若者夫婦をミシシッピ州東部の町Meridian(メリディアン、人口約40,000人)に派遣することにします。この映画は、地元メリディアンの黒人活動家と派遣された夫婦、およびニューヨーク出身の学生ヴォランティア四人の物語です。
なお、メリディアンは私が現在住んでいる町でして、この映画の舞台となった場所のほとんどは私も訪れています。
1964年1月、ミシシッピ州。メリディアンの住人でCOREに雇われている黒人青年Blair Underwood(ブレア・アンダーウッド)は、町から約60キロ北のフィラデルフィア(北部の有名な都市と同名)の山の中にある黒人主体のMt. Zion United Methodist Churchという教会を訪れ、選挙権登録運動のPRをさせて貰おうとするが、穏健派の牧師に拒絶され、仕方なく会衆の自家用車のワイパーにビラを挟むだけにする。帰路、彼の車はこの辺を管轄区域とするNeshoba County(ナショバ郡)のシェリフのパトカーに追尾される。Blair Underwoodは巧みな運転と機転でパトカーを躱し、無事にメリディアンに戻る。
ミシシッピ州の州都Jackson(ジャクスン)にあるCOREの州本部から、代表の黒人活動家Andre Braugher(アンドレ・ブラウアー)がメリディアンにやって来た。今日は北部から派遣された白人が町に到着する日で、その歓迎のためである。Blair Underwoodは「北部の都会の白人が、南部の田舎者を助けられるなんて、オレは信じないね。第一、どうして白人に頼らなきゃならないのさ?」と懐疑的な言葉を吐き、Andre Braugherが説得する。
ニューヨーク育ちの白人青年Tom Hulce(トム・ハルス)と、その妻Jennifer Grey(ジェニファー・グレイ)が到着する。二人がメリディアンのCOREおよびCOFO支部代表となり、Blair Underwoodと黒人女性活動家Donzaleigh Abernathy(ドンザリー・アバーナスィ)がサポートすることになる。
到着して一時間半も経たないのに、Tom Hulceのフォルクスワーゲンのタイヤが切り裂かれていた。Blair Underwoodは「これは『ハロー』のキスだ。オレなら、あんたのその山羊髭も剃るね」と云う。町へタイヤを買いに行くと、地元の男たち三人が立ち塞がって嫌がらせをし、Tom Hulceを"Jew-boy"(ユダヤ小僧)と罵る。【註:K.K.K.は黒人を蔑視しますが、憎んでいるわけではありません。しかし、黒人を助ける白人は憎悪の対象です。彼らはナチの鈎十字を掲げることもあるほどで、ユダヤ人も嫌悪します】男たちに口答えするTom Hulceに、Blair Underwoodは「奴等に逆らうな。何をされるか分らんから」と諌める。
Tom Hulceは黒人の家々を戸別訪問し選挙権登録を説得するが、みな尻込みする。無関心派もいるし、白人の嫌がらせを恐がる人もいる。しかし、やっと老人の一人の説得に成功する。翌日、その老人を伴って裁判所のオフィスに行く。女性の役人が、老人に17にも及ぶ質問を投げかける。それは「ミシシッピ川の長さと、それがいくつの郡を通過しているか?」などというクイズだったり、「州法の183節を読み上げなさい」という文盲の検査だったりした。老人は全くお手上げだった。
フィラデルフィアの山の中の教会の信者二名がやって来る。「人々があんた方の話を聞きたいと云っている」と告げる。Blair Underwoodが一人でその教会に向おうとするのをTom Hulceが止める。「おれも行く。おれはビラを印刷するためだけにこの町に来たんじゃない」。Blair Underwoodは「黒人と白人が一緒の車に乗ってたらK.K.K.の餌食だ。この辺じゃ、行方不明になるのは簡単なんだぜ、それも永久に」それでもTom Hulceが臆しないので、「じゃ、後部座席に行け。オレはあんたの運転手だと云い張る」とBlair Underwoodは折れる。フィラデルフィアの信者の男たちが一堂に集められていた。彼らは選挙権登録を欲するが、読み書きが出来るのはたった一人だった。Tom Hulceは「大丈夫。読み書きを教えよう!教会を'Freedom school'にしよう」と提案する。
Tom Hulceは黒人従業員を雇おうとしない食料品店をターゲットに、不買運動を組織する。黒人男女数人がプラカードを持って店の前でデモ行進をする。こんなことはメリディアン始まって以来の出来事で、町のレッドネックたちが物を投げたり悪態をつく。仕舞いにK.K.K.と思しき白人数名がトラックで駆けつけ、デモ隊に殴り掛かる。
Tom Hulceの妻Jennifer Greyがコイン・ランドリーに行くと、若い白人男性数名がやって来て、彼女の身体に触ったりして嫌がらせをする。その夜、Tom Hulceのフォルクスワーゲンは、覆面の男たちによって棍棒で滅多打ちにされる。
オハイオ州の大学で「フリーダム・サマー」活動のトレーニングが開始された。Tom Hulce夫妻とBlair Underwoodは訓練係として参加する。学生たちは交代で、レッドネック役で嫌がらせをしたりデモ行進側になったりする。そんな過程の中で、Tom Hulce夫妻はニューヨークっ子のJosh Charles(ジョッシュ・チャールズ)と出会う。彼はTom Hulceの学校の三学年下の後輩だった。Josh Charlesは同郷で先輩でもあるTom Hulceを慕い、メリディアン行きを希望する。Tom Hulceは「もっと安全な町を探せ」と拒む。
いよいよトレーニングが終りに近づいたある日、Blair UnderwoodはメリディアンのCOREオフィスから電話連絡を受けた。'Freedom school'を予定していたフィラデルフィアの教会がK.K.K.によって燃され、全焼したというのだ…。
同じ題材を映画にしながら、扱い方が'Mississippi Burning'『ミシシッピー・バーニング』(1988)とは大分違います。
●'Mississippi Burning'
・全米でよく知られた事件なのに“フィクション”と称して地名も人名も変えている。
・モデルにされた保安官たちが名誉毀損で訴えたが、「フィクションである」として裁判は免れた。
・地名も人名も変えながら、ミシシッピ州で撮影している(ただし、事件の起ったフィラデルフィアは避けている)
●'Murder in Mississippi'
・地名も人名も実名(ただし、悪役である保安官などは別名)。
・地名も人名も実名なのに、ジョージア州アトランタで撮影している。
「かなり事実に即している」という批評を読んだので期待したのですが、出来事の流れは実際に起った順序通りに描かれてはいるものの、やはり“映画”であって事実とかけ離れている部分が多々あります(それはPart 2で触れます)。ここでは、事実との相違は棚に上げ、映画としての印象を書きたいと思います。
先ず、映画の題材とされた時代の雰囲気(「フリーダム・サマー」活動への全米の関心と南部白人の拒否反応など)が、充分とは云えないまでも最低限描けています。特に南部の人種差別主義者たちの偏見や暴力、そして黒人たちの恐怖感などに関してはよく理解出来ると思います。また、黒人と白人が助け合って差別を無くそうと努力していた頃の麗しさも描けています。この翌年頃から、公民権運動の遅々たる動きに痺れを切らした北部、西海岸などの黒人たちが暴動を起し始め、"Black power!"が連呼されるようになると、黒人たちは白人たちの助力を拒むようになります。ですから、この映画のような人種間の麗しき連帯は、蝋燭が燃え尽きる前の一瞬の煌めきにも似たものと云えましょう。
この映画で最も光っているのはBlair Underwoodです。明るく行動的な好青年を溌剌と演じていて、魅力的です。Tom Hulceは能天気に明るいヤンキー(北部人)として登場しますが、南部の手強さによって次第に“正しいと思うことを信念を持って遂行する人”に変貌していく変化を巧みに演じています。学生を演ずるJosh Charlesも、同じく北部の都会育ちで世間知らずのぼんぼんを、飾り気なく演じていて好感が持てます。映画の最後でこの三人の生命が奪われるその儚さ、暴力の無益さ、この世の空しさなどが醸成されるのは、ひとえに三人の若者の存在感がきちんと表現出来たからでしょう。
メリディアンでTom Hulceを迎え、また映画の最後でBlair Underwoodの葬儀で弔辞を述べるAndre Braugherは、いつもながら雄弁で適役です。この映画を観られた方は、その弔辞の素晴らしさに胸を打たれることでしょう。しかし、実際にはもっと凄く、もっと過激な内容だったのです。'Eyes on the Prize' by Juan Williams (Penguin Books, 1987)という本にその弔辞が丸々掲載されていて、Andre Braugherが演じた実在の人物Dave Dennis(デイヴ・デニス)は次のようなことを云っているのです。「(参列者に)われわれは立ち上がった。James Chaney(ジェイムズ・チェィニィ、Blair Underwoodが演じた人物)に関する最高の思い出は、彼がわれわれの権利を要求してくれたということだ。家に帰って、いい葬儀だったとみんなに伝えてくれ。それがスタートだ。家に戻って座り込んで、こういうミシシッピの白人たちがわれわれに何をしているか、それに気づきながらあんたが何もしないのなら、あんたの魂なんかくそくらえだ!立ち上がるんだ!この葬儀に恐くて出られなかった隣人たちを掴まえ、選挙権登録に連れて行くんだ。頼むから行ってくれ!係の白人に選挙権登録出来るかどうかなんて聞くんじゃない!『来たぜ、ベイビィ』とだけ云えばいい。立ち上がれ!顎を上げろ!俯(うつむ)くんじゃない!われわれは、あんたのFreedom(自由)を今必要としてるんだ!」
オハイオ州のトレーニング場で、ジーンズのつなぎを来て檄を飛ばす人物は、本物の黒人活動家Bob Moses(ボブ・モーゼス)を模しています。私などは写真でこの人物をよく知っているので、そのつなぎの人物が出て来るだけで「あ、Bob Mosesだ!」と感動してしまいます。
何故かGreg Kinnear(グレッグ・キニア)が賛助出演しています。映画の中のゴスペル音楽も本格的です。
(January 27, 2008)
Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
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