公開：1962
監督：Arthur Penn
出演：Anne Bancroft、 Patty Dukeほか
範疇：戯曲の映画化／ドラマ／身体障害

私の評価 ：☆☆☆1/2

【Part 1】

'The Miracle Worker'『奇跡の人』が三重苦を克服したHelen Keller（ヘレン・ケラー）とその教師の物語であるということを御存知であっても、何でこの映画が“南部もの”に入るのか訝る方もおられるでしょう。確かに、これは南部という土地を描いた映画ではなく、人間ドラマです。しかし、その人間ドラマに南部という土地柄が強く反映しています。

1887年、アラバマ州北西部のTuscumbia（タスカンビア）という町の旧家ケラー家に家庭教師として雇われたAnne Bancroft（アン・バンクロフト）演ずるAnnie Sullivan（アニー・サリヴァン）が到着します。ケラー家は黒人の小作人や炊事婦もいる富裕な家で、主人は妻にまで「キャプテン（大尉）」と呼ばせる元軍人。頑迷、男尊女卑、亭主関白、すぐ怒鳴るという、手のつけられない男です。彼と前妻との間に出来た20歳前後の息子がいますが、父親が彼をでくの坊のように扱うので、息子もひねくれた人間に育っています。美しい後妻との間に生まれたHelen（ヘレン）は二歳前後に高熱を発したのが原因で、目も見えず耳も聞こえなくなっていました。母親の証言では「六ヶ月で"water"（正確には“ワラー”）と云えたほど頭のいい子だった」そうです。しかし、親の努力ではどうやってもHelenを教育することが出来ず、知恵遅れ児童の施設に預けるしかない…という瀬戸際でした。盲学校から派遣されたAnnieは、彼等の最後の頼みの綱だったのです。

Annieは旅の疲れをものともせず、Patty Duke（パティ・デューク）演ずるHelenに早速指文字を使って言葉を教え始めます。しかし、両親に甘やかされて育ったHelenは何も躾けをされていず、家の中でしたい放題、気に入らないと暴れ回るという、野生の動物のような状態でした。Annieは言葉も大事だが、Helenが人間として成長することの方がより重要であると考え、ちゃんと食卓につきスプーンでものを食べることから教え込もうとします。Helenの果てなき反抗にあって、Annieの体力、精神力の限界が試される格闘が続きます。

Annieの努力を阻むものが、もう一つ。それはHelenの両親の“親馬鹿”との闘いです。Helenを愛する余り、父親も母親もAnnieの厳しい躾け方が正視出来ずにすぐHelenをかばい、挙句はAnnieをクビにしようとさえする有り様。この気の遠くなるような困難な状況を、どう打開したらいいのか…。

もとはブロードウェイでヒットした舞台劇で、製作、脚本、演出、主演をそのまま映画にした一本だそうです。舞台劇という前身はほぼ忘れてしまうほど、白黒で陰影を活かした見事な撮影、息をのむアクション、絶妙な編集等によって、文句のつけようがない出来栄えの映画に仕上がっています。Annieの指導に鳥、鶏の卵、雛、犬、木、川などの自然物が使われます。これら舞台では思うように扱えなかったであろう素材が、映画ならではの処理で、情感豊かに描かれています。

なお、Helen Kellerは盲聾唖者としては世界で初めて大学を卒業し、人文博士号、法学博士号を取得し、盲目福祉事業のために貢献しました。彼女の行くところ、常にAnnie Sullivanが付き添い、後半生を全てHelenのために捧げたそうです。映画も感動的ですが、この事実はもっと感動的です。

(February 24, 2001)