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Midnight Bayou



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・原題をクリックするとamazon.comのInternet Movie Databaseの詳細データが見られます。邦題をクリックすると「allcinema」のデータが見られます。

・Part 2は普段は隠れていて、クリックするとJavaScriptによるウィンドウにて表示されます。取り扱いには十分お気をつけ下さい。

公開:2009年
監督:Ralph Hemecker
地域:ルイジアナ州ニューオーリンズ
出演:Jerry O'Connell、Lauren Stamile、Faye Dunaway、Chris Lindsay、Ciera Paytonほか
範疇:TV映画/原作もの/ロマンス/古い家の秘密/亡霊/家族/輪廻転生

私の評価 : ☆1/2

【Part 1】

ルイジアナ州ニューオーリンズ近郊。マルディグラを観に北部から来て、地元の黒人の友人たちとドライヴしていたJerry O'Connell(ジェリィ・オコネル)は道路の真ん中に立つ女を見掛け、車を停めさせる。一瞬の後、女の姿は消えていた。Jerry O'Connellは女が消えたとおぼしき方向へ走り、古びた屋敷にぶち当たる。この家は彼を虜(とりこ)にした。

八年後。ボストンの法律事務所で稼いだJerry O'Connellは、かねてからの念願だったニューオーリンズ近郊の古い屋敷を手に入れ、移り住むことにした。地元の黒人の友人Chris Lindsay(クリス・リンゼイ)や法律関係の若者たちが引っ越しを手伝う。

ニューオーリンズのレストラン/バー経営者のLauren Stamile(ローレン・スタミリィ)が、バイユーに住む祖母Faye Dunaway(フェイ・ダナウェイ)を訪ねる。Faye Dunawayは「屋敷が売れたわ。私が焼いたコーンブレッドを持って挨拶に行きなさい」と云う。Lauren Stamileは「あの家を買った男はすぐいなくなっちゃうじゃない。無駄よ」と応じる。しかし、祖母の云い付けなのでコーンブレッドを届けることにする。

ニューオーリンズ近郊の古い屋敷を買う男なんて老人に決まっていると思い込んでいたLauren Stamileは、Jerry O'Connellの若さに驚いた。そして不思議なことに、お互いに初対面ではないようなフィーリングを抱いたのだった。

その後、Jerry O'Connellは不思議な幻覚・幻聴を得るようになった。この屋敷の100年も前の住人たちが目の前で会話するのだ。ニューオーリンズ生まれの彼の友人たちはこの家の歴史をよく知っていた。屋敷の継承者である双子の兄弟が一人の召使いBianca Malinowski(ビアンカ・マリノウスキ)に恋した。長男Alan Ritchson(アラン・リッチスン)が教養の差で彼女の心を捉えた。Alan Ritchsonは母親の偏見を無視して召使いと結婚した。二人の間に子供が生まれた。しかし、その数週間後、妻Bianca Malinowskiは赤ん坊と夫を捨て、宝石を盗んで忽然と姿を消した。長男はニューオーリンズの売春宿で弟を殺し、彼もバイユーで溺れ死んだ…という。

Faye DunawayはJerry O'Connellに「孫娘Lauren Stamileとデイトしろ」と勧め、彼女の心を掴む術(すべ)を教える。Jerry O'Connellの手相を見て、100年前の事件の疑問点を並べる。そして、「なぜあなたがここに来たか考えろ」と不思議なことを云う。

Jerry O'Connellの黒人の友人Chris Lindsayが結婚することになるが、式場はどこも満杯。Jerry O'Connelが自分の屋敷を提供することにする。食べ物はLauren Stamileのレストラン/バーが出前する手筈になった。

Jerry O'ConnellとLauren Stamileは屋敷の一室で食事をし、各々の夢を語る。Jerry O'Connellの夢はこの館で、自分の子供を沢山育てることだった。Lauren Stamileは「この屋敷を買って数ヶ月と留まった人間はいないのよ?」と警告する。二人がキスしようとすると、屋根裏部屋から赤ん坊の泣き声。屋根裏へと続くドアを開けようとしたJerry O'Connellは昏倒する。Lauren Stamileが彼を介抱する。二人が結ばれようとした時、Lauren Stamileは、100年前の若夫婦が明るい庭園でキスする幻覚を見る。現実の二人がベッドで絡み合う姿を、鏡の中から100年前の双子の弟とその母が見ていて、冷酷な母親が「早く終わらせなさい」と謎めいたことを息子に命じる。

Lauren Stamileの母Isabella Hofmann(イザベラ・ホフマン)がテキサス州からやって来る。彼女は麻薬中毒の過去があり、男を取っ替え引っ替えしていた。今度も「男に金も貯金も盗られスッカラカンだ」と娘の助けを求める。Lauren Stamileは母を冷たく追い払う。

Faye DunawayがJerry O'Connellに一家のアルバムを見せる。何と、一家の先祖は彼の幻覚に現われる人々であった…。

'The Skeleton Key'『スケルトン・キー』(2005)ほど手が込んではいませんが、似たような路線。劇場映画だと思うと多少スケールが物足りませんが、TV映画だと思えばまあまあ楽しめます。

アメリカ南部の荘園には怪談・幽霊話が数多く伝わっています。南北戦争の敗北による没落荘園主とその家族の怨念がこもっているようです。ですから、栄華を極めた頃の豪壮な建築は、その後の持ち主たちの凋落を思うと暗くもの悲しい対比を感じさせます。ギリシア・ローマ風円柱を備えた建物に言及する際、"antebellum"(アンティベラム)「南北戦争前の」と形容されます。荘園のような豪壮な建築ばかりでなく、一般の民家であっても円柱を備えていれば「antebellum様式の家」と呼びます。

この映画の舞台となるOak Alley Plantation(オークアレイ・プランテーション)は『風と共に去りぬ』以降、数々の映画に登場する有名なマンションです。私も一度訪れたことがありますが、驚いたことに240メートルも連なる見事な樫の並木は、自動車道路の方から館の正面に向かっているのではないのです。ミシシッピ川の支流の(あっけらかんとした何もない)桟橋から館の正面に向かっているのです。栄えた当時は荘園の収穫物を積み出すための船着き場が正面の入り口だったからだそうです。

原題の"bayou"とは、「バイユー(米国南部の河・湖・湾の沼のような入り江)、流れのゆるやかな[よどんだ]水域」のことです。映画のFaye Dunawayの小屋はOak Alleyから歩いて行けるバイユーにあります。その周辺には湖や湾はありませんので、ミシシッピ川の淀んだ水域と考えるのが妥当です。

主演男優Jerry O'Connellは時として非常に安っぽい表情になるのが玉に傷ですが、まあ主人公としての大役は何とか果たしていると思います。しかし、彼が法廷弁護士として有能かどうかは(そういう場面は皆無なので)一向に判りません。私は彼の半ズボン姿が相応しいとは思えません。

劇中で彼は大きなパンのようなものを頬張ります。あれはニューオーリンズ名物のPo' Boy(ポーボーイ)というサンドイッチの一種です。小型のカキフライを入れたOyster Po' Boyと小型の海老フライを入れたShrimp Po' Boyがあり、どちらも甲乙つけ難い美味しさです。

主演女優Lauren Stamileは優雅な衣装をまとって雰囲気は悪くはないのですが、相手役Jerry O'Connellよりやや年を食っている感じに見えるのが難。実際には二歳若いのですが。

Lauren Stamileが初めてJerry O'Connellと会った時、彼女は「こんな館を買う人は、ヴェランダでミント味のjulepを飲むのが好きな筈よ」と云います。"julep"(ジューレップ)はバーボンに砂糖を加え、砕いた氷の上に注いでミントの葉を添えたカクテルです。

Faye Dunawayが祖母役というのは驚きですが、お婆さんというわけではありません。眼光はまだ鋭く、何か意味のある人物のように思えますが、実は大した存在ではありません。この映画は、彼女にとっては“役不足”という言葉がぴったりです。

Jerry O'ConnellがFaye Dunawayに「コーンブレッドは美味しかった。御礼が遅くなって済みません」と云います。"corn bread"は「挽き割りトウモロコシの粉」で作られたパンで(焼く、揚げる、蒸すなど)、“南部もの映画”の中ではしばしば“おふくろの味”として人々に愛されています。ところで、彼の言葉にFaye Dunawayは「Mason-Dixon Lineの北から来たあなたに、私が礼儀を期待してると思う?」と云います。Mason-Dixon Lineは、18世紀にCharles MasonとJeremiah Dixonの二人が調査した線で、象徴的な意味を持つ南部と北部の境界を指します。Faye Dunawayの言葉を云い換えると、「ヤンキーに礼儀なんか期待してないわよ」という冗談です。典型的な南部女が云いそうな台詞です。

Faye Dunawayが劇中で料理しているのは南部名物のcatfish(キャットフィッシュ)です。catfishをナマズと訳すと泥臭いイメージですが、鯉でさえ"fishy"(魚臭い)と毛嫌いするアメリカ人が、泥臭い魚を食べる筈がありません。catfishは衛生的に養殖された、とても淡白な味の魚です。顔つきも尖っていて、日本のナマズのイメージとは違います。そのまま全部か、頭なしで唐揚げにしたり、白身のフィレ肉だけ揚げたりします。今や、アメリカ全土で愛好されている食べ物ですが、アメリカの養殖産地の94%はアラバマ、アーカンソー、ルイジアナ、そしてミシシッピの各州です。

長男の嫁となった召使いが赤ん坊をあやしているところへ次男が来た時、嫁が「酒を呑んでる時は私の部屋に来ないで」と云うと、次男は「今やCajunがCreoleに命令するのか?」と云います。ニューオーリンズのあるルイジアナ州は、元もとはフランスの領土でした。合衆国がナポレオンから買い取って、州の一つに併合したのです。ですから、フランス系移民は数多く、彼等の子孫を"Creole"(クリオール)と呼びます。一方、1604年頃、フランスからカナダへ移住した人々はアケイディアと呼ばれるカナダ北東部に植民地を設立しました。やがて、北米の覇権を争う英仏戦争でアケイディア(の一部)は英国領土になりました。1755年、英国とインディアンの戦争時、英国軍はアケイディアに住む人々アケイディアンを領土から追い出しました。放逐された10,000人のアケイディアンはアメリカへ南下し、そのうち4,000人がルイジアナ州の湿地帯に住むようになり、アケイディアンが訛ってCajun(ケイジャン)と呼ばれるようになったのです。つまり、次男は生粋のフランス系移民の子孫であるCreoleなので、カナダを追われてルイジアナ州にやって来たCajunよりは上等だと思っていることが分ります。どっちも別に変わりはないのですが。

(May 14, 2010)



Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。




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