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The People vs. Larry Flynt

『ラリー・フリント』

[Poster]


・原題をクリックするとamazon.comのInternet Movie Databaseの詳細データが見られます。邦題をクリックすると「allcinema」のデータが見られます。

・Part 2は普段は隠れていて、クリックするとJavaScriptによるウィンドウにて表示されます。取り扱いには十分お気をつけ下さい。

公開:1996
監督:Milos Forman
出演:Woody Harrelson、Courtney Love、Edward Norton、Brett Harrelsonほか
範疇:実話の映画化/ドラマ/法廷もの

私の評価 :☆

【Part 1】

Larry Flynt(ラリィ・フリント)とはWoody Harrelson(ウッディ・ハレルスン)演ずるポルノ雑誌のオーナー兼編集長のこと。彼は“表現の自由”を盾に、したい放題の出版活動をし、幾多の法廷闘争を強いられました。彼はケンタッキー州出身で出版の本拠地はオハイオ州です。この映画において南部はいくつかの法廷の所在地に過ぎず、この映画を“南部もの”に含めるのはちと躊躇われましたが、宗教的背景を説明するのに最適なので取り上げることにしました。

Larry Flyntと、Brett Harrelson演ずる弟のJimmy(ジミィ)は、少年時代から密造酒を作って金を稼いでいた。1972年頃、彼等は長じてオハイオ州シンシナティのヌード酒場'The Hustler Club'の経営者になっていた。いい踊り子たちを揃えているのに、いまいち客の入りが悪い。Larry Flyntは踊り子たちの写真入りニューズレターを発行すれば、お客も彼等を観に来たくなるに違いないと考えた。

最初は8〜10頁白黒のささやかな雑誌だったが、売れ出すにつれ頁数も増え、カラー印刷になって行った。彼は「'PLAYBOY'はボケた写真ばかりで、見たいものを見せてないじゃないか」と、こちらはシャープに“全て”を見せる写真を掲載した。大成功でLarry Flyntは大金持となる。

しかし、雑誌の売れ行きに比例して保守的な人々の嫌悪も増大した。先ず、地元の裁判で公序良俗に反すると25年の刑を受けた。5カ月後、保釈で出所したLarry Flyntは大会議場で「戦争とセックスとどちらが醜いか」と訴える。

1978年、ジョージア州における裁判で、裁判所から出て来たところを何者かに狙撃され、Larry Flyntは半身不随となり以後車椅子の生活を余儀なくされる。この頃、元踊り子だった妻は麻薬中毒となる。

Richard Paul(リチャード・ポール)演ずる有名な説教師Jerry Falwell(ジェリィ・ファルウェル)を酒のパロディ広告に使い、「彼は母親と近親相姦の間柄であった」と書いた。Jerry Falwellは40億円の賠償を求めて彼を告訴した。ヴァージニア州における裁判では敗訴。しかし、Larry Flyntは最高裁に上告する…。

彼の面白い言動はいくつかありますが、中でもカメラマンへの注文がユニーク。モデルの花の位置に拘るカメラマンへ、「ヘイ、俺たちは花や枕を売るんじゃない。女の子を売るんだ。花なんかどうだっていい」また、「女性性器(原文では"vagina")は女性の最もパーソナルなところだ。そこを撮れ。神が女性を作り、同じ神が女性性器を作ったんだ」と煽ります。法廷に鉄兜と国旗をおしめ代りにして登場したりもします。常軌を逸していますが、狂気ではありません。

[The South]

アメリカには"Bible Belt"(バイブル・ベルト)と呼ばれる一帯があります。いくつかの辞書の定義をまとめると、「アメリカ南部および中西部の"fundamentalist"(キリスト教原理主義者)が多く存在する地域」ということになります。"fundamentalist"とは、進化論や、聖書を科学的に実証しようとする姿勢を否定し、聖書に記載されたことを事実として受け入れる人々です。ビートルズを排撃したのもよく知られた事実です。具体的にどの州とどの州かを書いた記述はありませんが、少なくともサウス・キャロライナ州からテキサス州を東西に結ぶ一帯が"Bible Belt"の中心のようです。勿論、南北への振幅はあり得ます。

私の住むミシシッピ州の小さな町も"Bible Belt"の中に位置します。41,000の人口に対し150の教会があり、平均270人に一つの教会があるという勘定で、道徳的センスも保守的です。ある書店が開業するにあたり、御婦人の声で「お宅は'PLAYBOY'は仕入れるのか?」という電話があったので、「入れますよ」と応えたらその後認可手続きのプロセスにやたら手間取ったそうです。電話の主が地元の影響力大の人々に御注進し、この書店の開業を遅らせたようです。仕方なく、書店主は'PLAYBOY'を仕入れるのを諦めることになりました。

では私の町で'PLAYBOY'や"HUSTLER'を売っていないかと云うとそうではなく、大きい書店ではカウンターの裏側に積んであり、棚に並んでいないだけです。ガソリン・スタンドには置いているところもあります。買えないわけではないのですが、西海岸の空港売店のようにオープンな状態ではありません。

そういう背景で考えると、Larry Flyntが狙撃されたのがジョージア州であったというのは偶然ではありません。"Bible Belt"地域であり、保守的レッドネックの土地だからです。説教師Jerry Falwellを茶化す記事を掲載したのは、こうした"Bible Belt"の頑なな人々全てを敵に回した結果ともなりました。

Woody Harrelsonは'The Hi-Lo Country'『ハイロー・カントリー』(1998)の粗暴なイメージではなく、過激ではあるものの道理を弁えた役を好演しています。

元踊り子で、Larry Flyntの妻となったCourtney Love(コートニー・ラヴ)が麻薬中毒となり、果てはAIDSを病むという悲惨な姿は正視出来ないものがあります。

(May 15, 2001)




Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。




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