公開：2004
監督：Ethan Coen & Joel Coen
地域：ミシシッピ州
出演：Tom Hanks、Irma P. Hall、Marlon Wayans、J.K. Simmonsほか
範疇：リメイク／犯罪／コメディ

私の評価 ：☆

【Part 1】

舞台はミシシッピ川沿いの町Vicksburg（ヴィックスバーグ）とおぼしきところ。ここは南北戦争の最終段階の激戦地としても名高い史跡で、現在は川の中に建設されたカジノが数軒ある観光地となっています。

あるカジノに近い住宅に黒人の年老いた寡婦Irma P. Hall（イルマ・P・ホール）が住んでいる。彼女は毎日のようにシェリフの事務所を訪れ、シェリフを辟易させている。その老婦人の家に下宿させてくれと、“教授”と称する男Tom Hanks（トム・ハンクス）がやって来る。もって廻った饒舌な喋り方をするので、老婦人には半分も理解出来ない。教授はロココ時代の古典音楽を演奏するグループの練習のために地下室を貸してくれと頼む。

古楽器を携えてやって来た“教授”の友人たちは、爆破の名人J.K. Simmons（J・K・シモンズ）、トンネル掘りの名人Tzi Ma（ツィ・マ）、フットボール選手の力持ちRyan Hurst（ライアン・ハースト）、カジノの掃除人Marlon Wayans（マーロン・ウェイアンズ）などで、老婦人の地下室からカジノの地下の事務所までトンネルを掘り、誰にも気づかれずに一攫千金を実現しようというグループだった…。

私はこの映画の元となった1955年版のイギリス喜劇映画'The Ladykillers'『マダムと泥棒』を溺愛する者です。Alec Guinness（アレック・ギネス）が“教授”で、Katie Johnson（ケイティ・ジョンスン）演ずる愛すべき老婦人のロンドンの家に下宿します。彼の友人たちは、単細胞のチンピラPeter Sellers（ピーター・セラーズ）、退役将校で紳士のCecil Parker（セシル・パーカー）、短気な殺し屋Herbert Lom（ハーバート・ロム）、“薄のろ”の大男Danny Green（ダニィ・グリーン）という布陣。何よりも素晴らしいのはそのユーモアで、血は一滴も流れずに頭脳作戦により大金をせしめます。Alec Guinnessが存分に楽しんでいるクサい演技と、他のメンバーのまともな演技の対比もよく、演出も細かいところまで気配りされていて好感が持てました。

そういう傑作（少なくとも珠玉の佳作）をリメイクしようというのは大それた行いです。アメリカ映画の企画が貧困で、オリジナルのアイデアがいかに枯渇しているかという証拠ですね。

映画の中でTom Hanksが説明するように、“バイブル・ベルト”の真ん中であるミシシッピ州では「州の土地の上に」賭博場は建設出来ません。しかし、貧乏な州としては賭博場が納める税金が欲しい。で、「州の土地」ではない「水の上」なら賭博場を営業していいということになりました。こうして、ミシシッピ川沿いやメキシコ湾に面した海の上に続々カジノが誕生しました。最初は本当に繋留された船だったようですが、次第に外見だけ船ではあるが実際には川底にコンクリートの基礎を持つ、微動だにしない“船”になってしまいました。【写真はこの映画のターゲットとなったカジノ】

なお、ハリケーンKatrinaによって、ミシシッピ州のメキシコ湾岸沿いのカジノは全滅してしまいました。経営者たちは「ハリケーンが恐くて、もう再開出来ない」と尻込みしたのですが、州議会は岸からの距離を定めた条例を変更し、経営者たちに安全な建築が可能であることをアピールし、足止めすることに成功しました。2006年秋には、そうしたカジノの営業再開が伝えられています。

アメリカ喜劇映画の人気作家コーエン兄弟は、英国のオリジナルのアイデアをいかにアメリカに移植すべきか苦心したようです。その一つが、のんびりした南部を舞台にしたこと。これによってオリジナルの“大人のメルヘン”的長閑（のどか）さが確保出来る。南部となれば黒人とゴスペル音楽である。人種間の軋轢も導入出来る。カジノの大金もある。めでたし、めでたし。しかし、本当にそうだったかどうかはPart 2にて…。

(October 01, 2006)

Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
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