公開：2002
監督：Fred H. Dresch
地域：ジョージア州
出演：John Lawhorn、Brandon Wilson、Chrystale Wilson、Dottie Peoplesほか
範疇：TV映画／黒人少年と老人／小犬／葛（クズ）

私の評価 ：☆

【Part 1】

ジョージア州、アトランタ郊外。9月。離婚したばかりの母親Chrystale Wilson（クリステイル・ウィルスン）と一緒に、黒人少年Brandon Wilson（ブランドン・ウィルスン）が森の中の一軒家に引っ越して来る。母親はクリスマスまでにはテキサスに移るので、一時的な住まいだと云う。しかし、隔絶された家で遊び友達も出来そうになく、少年はがっくりする。

学校では転校生として面白くない扱いを受け、少年は暗い気持になる。そんな時、彼は家の裏の葛（クズ）の野原に三匹の小犬が戯れているのを発見する。しかし、母親は飼っていいとは云わない。

少年の家の近くに、情緒不安定の黒人の老人John Lawhorn（ジョン・ローホーン）が住んでいた。彼は妻亡き後、生きる目的を失い、自棄的な行動を取っては精神病院に送られていた。院長が彼に目的を与えるため、小学校の前の横断歩道の誘導係の仕事を世話する。老人は喜んでその仕事を引き受ける。

10月。老人が交差点に立つことを知った少年は、母親の車を断り徒歩で登校する。少年と老人の目の前で三匹の小犬の一匹が撥ねられて死ぬ。老人は葛の野原の一角に小犬を埋め、木の十字架を立てた。放課後、少年と老人は犬のお墓の前で語り合う。少年の願いを叶えるため、二人で残りの犬に餌付けする作戦を考える。

11月。大作戦は空しく失敗した。その後、少年は老人と口をきかなくなった。少年が父の新家庭に感謝祭に招ばれている日、老人はもう一頭の小犬が死んでいるのを発見する。木の十字架は二つになった。

12月。葛が枯れた野原は一面の灰色になっている。犬を探している老人を、近所の人はまた気が変になったと誤解し、病院送りの手配をしてしまう。全てを察した少年が病院の院長に説明し、老人は誘導係に復帰する。彼は「雪が降れば犬の足跡を追うことが出来る」と云う。少年は降雪を祈る。間もなくクリスマスだった…。

これほど葛が描写された映画もないでしょう。びっしりと繁茂している全盛期から、冬の枯れ萎んだ姿まで。冬に枯れるのは確かなのですが、死んではいないのです。不死身です。夏には手近なものは電柱であろうと家屋であろうと車であろうと、何でも覆い尽くして伸びて行きます。葛の進軍をストップすることは出来ないので、南部ではしつこい悪者の代表にされており、葛を持ち込んだ日本をも悪者にする人もいます。

そもそもは1876年にフィラデルフィアで開催された「ワールド・フェア」において、日本代表がブースに日陰を作るために葛を植えたのだそうです。訪れたアメリカ人の多くが珍しがって種を貰って帰りました。しかし、この時は爆発的には広がりませんでした。1930年代、大恐慌の後のニュー・ディール政策で、ルーズヴェルト大統領はアメリカ全土の土木事業を推進しました。この時、南部の緩い地盤による土砂崩れが問題となり、その土留めの役として葛が植えられるようになったのです。当時は各州数百エーカーほど移植しただけでしたが、現在は南部だけで700万エーカーとなっているそうです。

まあ、この映画では葛でなければならないという役割ではなく、只の雑木林でもいいようなものですが、南部を押し出すために葛を選んだのでしょう。なお、英語では日本語の「クズ」の発音から"kudzu"と表記され、「カッズー」と呼ばれます。

Thanks Giving Day（感謝祭）は国民の祝日で毎年11月の第四木曜日と定められています。メイフラワー号で移住して来た人々が、一年無事に過ごせたことを神に感謝したことに由来していて、七面鳥の丸焼きやかぼちゃのパイを食べます。この映画のように、一家の主人が七面鳥の肉を切り分け、家族に分配します。現在、この日はアメリカ中で一族再会の日となっており、最大の意味を持つ祝日です。感謝祭は家族のため、クリスマスは子供のためと云われています。感謝祭からクリスマスまでは、アメリカが一番浮き浮きするシーズンです。

老人役のJohn Lawhornはなかなかしっかりした演技で、人のよい老黒人を好演しています。母親役のChrystale Wilsonは俳優としてだけではなく、この映画の製作者、キャスティング担当の一人でもあります。

(February 14, 2004)

Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。