公開：2005
監督：Phil Morrison
地域：ノース・キャロライナ州
出演：Embeth Davidtz、Alessandro Nivola、Amy Adams、Benjamin McKenzie、Celia Weston、Frank Hoyt Taylorほか
範疇：北部女と南部男の結婚／夫の家族との交流／南部での発見・体験／義妹の出産

私の評価 ：☆

【Part 1】

2003年、イリノイ州シカゴ。ある画廊の女性オーナーEmbeth Davidtz（エンベス・ダヴィッヅ）は、絵画オークションを行なった際に、若い男Alessandro Nivola（アレッサンドロ・ニヴォラ）を見初めて恋仲となり結婚する。

半年後、ノース・キャロライナ州。彼女が委嘱した新アーティスト発掘スカウト三名が、無名ではあるが異常な絵を描く中年男性画家Frank Hoyt Taylor（フランク・ホイト・テイラー）を見つける。彼の絵は、日本の戦国合戦絵巻のように、南北戦争における黒人と白人の闘いを地獄図的タッチで描いたもの。彼らはEmbeth Davidtzが自分の目で見てから契約すべきだと勧める。

画家の住まいは、何たる偶然か彼女の夫の実家から小一時間のところだと分る。夫Alessandro Nivolaの運転で南下したEmbeth Davidtzは、中年画家の作品のユニークさを理解し、是非自分の手で彼の作品を世に出したいと熱望する。

夫Alessandro Nivolaの実家では、父と母、弟とその妻らが、そわそわと二人の到着を待っている。父は寡黙な老人、母Celia Weston（セリア・ワトスン）は身体は太めだが細かくうるさい中年女、弟Benjamin McKenzie（ベンジャミン・マケンジー）は典型的な南部男で学もなく自分勝手、彼の妻Amy Adams（エイミィ・アダムズ）は子供みたいに明るく素直な女性。彼女は妊娠して大きなお腹をしており、いつ出産が始まってもおかしくない状態。

Embeth Davidtzは精一杯愛想を振りまくが、夫の家族の反応は様々だった。夫の母は明らかに彼女を息子に相応しくない嫁だという思い入れで冷たいし、夫の弟は挨拶もしないで「煙草持ってる？」と聞くような無作法さでEmbeth Davidtzを面食らわせる。唯一彼女を大歓迎してくれたのは弟の妻Amy Adamsだった。

夫Alessandro Nivolaは中々家に入って来ず、入って来ても家族と久し振りの抱擁をする風でもない。弟は「よう」と云った切り、どっかへ消えてしまう。Embeth Davidtzはみんなに自分の来し方を話す。彼女の父は外交官で、彼女は日本で生まれ、アフリカでも暮らしたことがあると云うと、弟の妻Amy Adamsは「凄い！」と賛嘆する。夫Alessandro Nivolaはそういう話に加わらず、地下室にある父の木工の工房を見たりしている。

翌日、"baby shower"が行なわれる。"baby shower"は、来るべき出産を祝って親しい女性たちだけが参加するパーティ。友人たちは思い思いのプレゼントを持ってやって来る。この日の主人公Amy Adamsは、パーティの最後に神への感謝の祈りを捧げる。

教会の昼食会。大勢の信者とその家族が、互いに家庭料理を持って集う。夫Alessandro Nivolaの友人が一家に近寄って来て世間話をするが、突如「祈らせてくれ」と云い、友人との再会について神に感謝する。北部女性Embeth Davidtzは南部の人々の信仰心の強さに打たれる。それだけではなかった。その友人は人々を静粛にさせ、Alessandro Nivolaに「久々に歌え」とリクエストする。Alessandro Nivolaは賛美歌の一つを朗々と歌い出し、信徒の二人の男性が彼にハモる。妻Embeth Davidtzは、夫の知らない一面を見出して感動する。【南部人の信仰心についてはPart 2で触れます】

ブルーカラーである弟Benjamin McKenzieは、資格を得るため勉強をしている。現在は『ハックルベリィ・フィンの冒険』と格闘中。彼の学習を助ける決意をしたEmbeth Davidtzは、夜更けにダイニング・ルームで『ハックルベリィ・フィンの冒険』について講義をする。よく理解出来ないBenjamin McKenzieが苛立つので、なだめるためにEmbeth Davidtzが彼を抱擁すると、何を勘違いしたのか、彼はEmbeth Davidtzのお尻に触る。彼女は呆れて物も云えない。

ほどなくしてAmy Adamsの陣痛が始まった…。

不思議な映画です。IMDbのキャスト紹介ではEmbeth Davidtzが配役のトップになっているのですが、それは登場順だからでした。上の荒筋で明らかなように、ストーリィはEmbeth Davidtzを中心に展開し、北部の彼女から見た南部の人と暮らしの“発見”がテーマなのです。ところが、DVDのメイン・タイトルで最初に名前が登場するのはEmbeth Davidtzではなく、脇役のAmy Adamsなのです。

Amy Adamsは2006年のアカデミー賞で、この映画の演技が認められて助演女優賞候補となり、放送批評家協会賞では助演女優賞を獲得、他にも三つの賞で助演女優賞を得ています。そういう経緯で、DVDになってからはAmy Adamsの名を先に出すことにしたのでしょうか？単にABC順にしても、こんなのは初めて見ました。

タイトルと云えば、この映画のクレディット・タイトルの最後に"EXTRAS"（エクストラ）という項目があり、何と121人の名前がずらずら出て来ます。多分、無報酬で参加してくれた人々への唯一の感謝の表現なのでしょう。

インデペンデント系映画の例に漏れず、これもあまり知られていない俳優たちによる地方ロケがメインの作品。劇場用長編映画は脚本家にとっても監督にとっても初めて。というわけで、あまり映画的にはこなれていないのですが、同じアメリカ人でも北部の人間が南部を“発見”し、体験する様を描くというのは面白い試みだと思います。

Embeth DavidtzはJamie Lee Curtis（ジェイミィ・リー・カーティス）を美人にしたような女優。表情や演技は及第点です。しかし、やはり白眉はAmy Adamsです。大きなお腹をしながら可愛く子供っぽい台詞・仕草をする女性を活き活きと演じるという課題をこなし、他の全ての役者を食っています。トップで名前が出て来て当然という気にもさせられます:-)。母親役のCelia Westonは、ちと恐いような眼光の大女で、色々な映画で脇役として見掛けます。

"baby shower"は、親しい友人（女性）が幹事となって計画し、産婦が必要とするものを参加予定者に周知し、パーティ（茶話会）を開催します。最初の子供であればベビー・ベッド、ベビー・サークル、ベビー服、乳母車など様々なものが必要です。高価なものは参加者数名で割り勘でプレゼントしたりします。二番目の子供となると最初の子供のを二次利用出来ますから、主に必要なのはおむつです。使い捨ておむつは嵩張るので、gift certificate（商品券）で貰うことが多いそうです。伝統的には"baby shower"は女性だけの会合です。男性の友人たちが産婦の夫を招いて男だけで"daddy's shower"を催すこともあるそうですが、私はこの地域でそういう話は聞いたことはありません。

June bugはJune Beetleとも云い、日本ではカナブンや黄金虫に相当する虫（厳密にはアメリカでは違う種類ですが）。この映画では妊娠したAmy Adamsが、生まれて来る子供につける予定の名前として言及されます。

Benjamin McKenzieは『ハックルベリィ・フィンの冒険』のアンチョコ本を読んでいます。これは小説を章毎に分解して荒筋、背景、分析などを要領よくまとめた冊子で、日本の洋書店でも扱っています。英書講読や卒論を書く時の助けとなるもの。実は私も『ハックルベリィ・フィンの冒険』のアンチョコ本を持っているのですが、違う出版社のものです。何種類も出てるんですね。

この物語を転がす元となっている無名画家の絵画ですが、これはモデルもなく完全なフィクションだそうです。登場する絵画は、脚本の台詞に基づいて商業画家（女性）が描いた作品とか。

(June 23, 2007)

Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
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