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I Dream of Jeanie



[Poster]


・原題をクリックするとamazon.comのInternet Movie Databaseの詳細データが見られます。邦題をクリックすると「allcinema」のデータが見られます。

・Part 2は普段は隠れていて、クリックするとJavaScriptによるウィンドウにて表示されます。取り扱いには十分お気をつけ下さい。

公開:1952年
監督:Allan Dwan
地域:オハイオ州
出演:Ray Middleton、Bill Shirley、Muriel Lawrence、Eileen Christy、Dick Simmonsほか
範疇:リメイク/実在の人物(スティーヴン・フォスター)にヒントを得た物語/ミュージカル風/ミンストレル・ショー/P>

私の評価 : ☆

【Part 1】

アメリカ南部を愛し、南部の風物や人々について詩を書き作曲したStephen Foster(スティーヴン・フォスター)の映画は、是非ともこの「“南部もの”大全集」に含めたいと念願していました。ついにその一本をDVDでレンタルすることが出来ました。

1849年、オハイオ州Cincinnati(シンシナティ)。Bill Shirley(ビル・シャーリィ)演ずる音楽学校を卒業したばかりのStephen Fosterは、兄の蒸気船会社の会計係を勤めながら歌を作っていた。会社に最近のヒット作'Oh! Susanna'『オー、スザンナ』が印刷された楽譜が届く。同僚たちは「印税が入るね!」と興奮するが、Stephen Fosterは「タダで印刷してくれるんだ。有り難いじゃないか」と云う。彼は色んな歌手・出版社に無料で曲を使わせていたのである。

彼は、Muriel Lawrence(ミュリエル・ローレンス)演ずる彼のガール・フレンドInez(アイネス)の家の厩(うまや)を改造した小屋に住んでいた。音楽学校でクラシック歌唱を学んだInezが帰郷して来る。Inezが着替えている間、嬉しさ一杯のStephen Fosterは、Eileen Christy(アイリーン・クリスティ)演ずるInezの妹Jeanie(ジーニィ)と歌い、踊る。Inezが焼き餅を焼き、「今すぐ結婚しよう」と云う。

しかし、Stephen Fosterは一文無しに近かった。悪いことには、ある音楽出版社が「他の歌手にも楽譜を出版させた損害1,000ドルを払えと怒鳴り込んで来る。そこへ、Ray Middleton(レイ・ミドルトン)演ずるミンストレル・ショー一座の座長で有名人のEdwin P. Christy(エドウィン・P・クリスティ)もやって来る。彼も'Oh! Susanna'の楽譜が色んなところから出版されていることに文句を云いに来たのだ。Dick Simmons(ディック・シモンズ)演ずるStephen Fosterの兄が折よく蒸気船で戻って来る。Edwin P. ChristyはStephen Fosterの代理人となった兄と、Stephen Fosterの曲の独占契約を結ぶ。

その夜、Muriel Lawrenceの母が夜会を開き、Muriel Lawrenceのクラシック歌唱を披露させる。Stephen Fosterのフルート、弦楽トリオとピアノ伴奏つきである。ところが、Stephen Fosterの部屋で、彼の作曲に感激したEdwin P. Christyが大声で歌い、ピアノを奏でてMuriel Lawrenceの歌唱を妨げる。果ては、Edwin P. Christyが夜会を乗っ取ってStephen Fosterの歌を唄いまくる。

翌日、Stephen FosterはMuriel Lawrenceの御機嫌を取り結ぶべく、クラシック一辺倒の彼女をクラシック・コンサートに誘う。しかし、Edwin P. Christyが無断で「フォスターの夕べ」というショーを企画して、Stephen Fosterを攫って行ってしまう。

Stephen Fosterに愛想を尽かしたMuriel Lawrenceは、以前から彼女に言い寄っていたピアニストに心を開く。婚約者の裏切りを知ったStephen Fosterは、失意で作曲した草稿を引き千切って家を出て、ボートで川を下り行方不明となる。

Stephen Fosterを愛しているMuriel Lawrenceの妹Jeanieは、Stephen Fosterの兄の蒸気船でEdwin P. Christyらと共に捜索の旅に出る…。

キャスティングも演技も、フィーチャーされているミンストレル・ショーの構成もチャチで、典型的なB級映画の範疇です。映画は全てハリウッドで撮影され、南部の特色は全く出て来ません。

映画の物語と事実の違いを調べて、驚くべきことを発見しました。あれだけ南部の土地・人を題材にした唄を作ったStephen Fosterは、南部に住んだことなど全く無く、新婚旅行で一度ミシシッピ川をニューオーリンズまで川下りしただけなのだそうです。映画の中で'My Old Kentucky Home, Good-Night'『ケンタッキーの我が家』が歌われた時、Muriel LawrenceがStephen Fosterに「ケンタッキーなんかに住んだことないくせに…」と皮肉を云いますが、ケンタッキーどころかアラバマにもジョージアにも行ったことがなく、全ては空想の産物だったわけです。ま、宇宙旅行しなくてもSF小説を書くことは許されるのでいいのですが…。

私の友人が妻の名を口にする時、「ジェニィ」に聞こえたり「ジーニィ」に聞こえたりします。しかし、正しくはJennyなら「ジェニィ」で、Jeanieは「ジーニィ」です。この映画のサントラでもちゃんと「ジーニィ」と発音されています。どうして'I Dream of Jeanie'が別人の"I Dream of Jenny"『金髪のジェニー』に化けてしまったのか?この曲を日本に紹介した津川圭一氏の歪曲でしょうか。

歪曲はもう一つあります。Jeanieは"light brown"の髪の持主ですが、これは北欧系のいわゆる金髪ではなく、いま日本の若い女性の間で流行している茶髪に近いものです。この映画のJeanieも明るい茶髪をしています。津川主一訳は「ブロンド」、林宏太郎訳は「金の髪」、千葉比呂志訳は「金髪」と、みな歪曲しています。不幸なJeanie。

なお、この'Jeanie with the Light Brown Hair'という曲はStephen Fosterが1850年に結婚した妻Jane Denny McDowell(ジェイン・デニィ・マクダウェル)と別居した一年後に書かれています。映画ではStephen FosterとJeanieが結ばれる喜びの歌になっていますが、実際には別居した妻を忍ぶ哀しい歌なのです。

題名からして主人公がJeanieと結ばれるであろうことは見え見えなのに、物語の大半はJeanieの姉に執着するStephen Fosterを描いており、観ている方としては苛々させられ通しです。これは脚本の不手際でしょう。どうせ、事実と程遠い物語にするのであれば、もっとうまい描き方があっただろうと思われます。

映画と事実の違いはあり過ぎて挙げ切れないほどです。「範疇」で「実在の人物(フォスター)にヒントを得た物語」としたのはそういう理由からです。ただし、次のように正しい部分もないではありません。

Stephen Fosterは「アメリカ最初のプロの作曲家」と云われますが、それは同時に世間が彼の才能・存在を正しく扱う地盤が整っていなかったことをも意味します。彼の曲はいくつもの音楽出版社が勝手に印刷して、彼に一銭も印税を払わなかったのです。最大のヒット作'Oh! Susanna'『オー、スザンナ』でも、たった100ドル貰っただけだったそうです。ようやく印税契約出来た頃には彼の才能が枯れ果てて、極貧の状態で37歳で亡くなったそうです。

というわけで、主人公が蒸気船に乗ったはいいが南部にやって来たのかどうかすら不明のまま、映画は終るのでした。お話の99%はオハイオ州の出来事なので、これは南部もの映画とは云えません。ごめんなさい。

この映画に関するPart 2はありません。

(March 12, 2012)


Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。




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