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The Insider

『インサイダー』

[Poster]


・原題をクリックするとamazon.comのInternet Movie Databaseの詳細データが見られます。邦題をクリックすると「allcinema」のデータが見られます。

・Part 2は普段は隠れていて、クリックするとJavaScriptによるウィンドウにて表示されます。取り扱いには十分お気をつけ下さい。

公開:1999
監督:Michael Mann
地域:ミシシッピ州、ケンタッキー州ほか
出演:Al Pacino、Russell Crowe、Christopher Plummer、Bruce McGillほか
範疇:実話の映画化/ドラマ/煙草会社の陰謀/煙草の害/TV報道

私の評価 :☆☆1/2

【Part 1】

この映画が封切られた頃、私はもう禁煙に成功していました。ですから、煙草の有害性うんぬんについての隠された情報というものは必要としていませんでした(一日に20本入りを三箱も吸うような紛れも無い中毒でしたし、肺癌の原因になることはもうずっと前に知っていました)。ただ、当時ミシシッピ州を初めとする南部の州のいくつかが「喫煙による疾病の医療経費は煙草会社が負担すべきである」という裁判を起し、次々と勝訴していたのです。おかげで煙草の値段は年々上がるばかりでした(止めてて良かった!)。そういう動きの発端を描いた映画ということで、観る気になったのです。実際には当地では早期に上映が打ち切られ、観られませんでしたが。

1994年、ケンタッキー州ルイヴィル。Russell Crowe(ラッセル・クロウ)はアメリカで三番目に大きい煙草製造販売会社に勤務する調査・開発担当の化学者で、副社長待遇の給料によりいい邸宅を買って間もなかった。会社がカヴァーしてくれる医療保険で、喘息治療を必要とする長女も助けられていた。しかし、ある日突然無意味とも云える理由で解雇され、邸宅も医療保険も失う事態になってしまう。

ニューヨーク。Al Pacino(アル・パチーノ)はCBS TVの看板報道番組'60 Minutes'(シックスティ・ミニッツ)のプロデューサー兼ディレクター。彼のもとに差出人不明の煙草の害に関する資料が送られて来るが、Al Pacinoには内容が理解出来ない。彼は渋るRussell Croweに会い、資料の解説を依頼する。

Russell Croweに煙草会社のCEOから呼び出しがかかる。もともと、採用時に「業務上知り得た会社の秘密を漏らしてはいけない」という規約を遵守することを誓っていて、これに違反するとケンタッキー州法により刑務所行きになる可能性があったが、会社側は何が秘密であるかを列挙し、万一にも「それが秘密とは知らなかった」と云わせない作戦に出ようとする。Russell CroweはCEOの不遜で脅迫的態度に腹を立て、憤然と席を蹴る。

Al PacinoはRussell Croweと何度か面談した結果、Russell Croweが煙草の害について各煙草会社が揃って秘匿している情報を握っていることを察知する。Al PacinoはRussell Croweの'60 Minutes'への出演を粘り強く説得する。

Russell Croweは一家で邸宅を去り、並みの一軒家に引っ越す。この頃から不審な人影が自宅周辺に出没するようになり、さらに「お前等を殺す」という脅迫まで舞い込む。FBIに相談するが、FBIはRussell Croweの狂言ではないかと疑う始末。ついにRussell Croweは60 Minutes'出演を承諾する。Christopher Plummer(クリストファー・プラマー)演ずる有名キャスターのインタヴューに答え、煙草産業主要七社のCEO達が議会で宣誓の上否定していた煙草の中毒性についてRussell Croweは「煙草には中毒性があり、次第に中枢神経を冒す。煙草産業は中毒物質を売っているのだ」とインサイダーとして真実を暴露。これは報道屋としてのAl Pacinoを十分満足させるものだった。ミシシッピ州が行なう告訴にRussell Croweが重要証人となって登場し、'60 Minutes'のオンエアを世界中が待ち構える。そこへ、CBS幹部から横槍が入り、「番組の放送はまかりならん」という予想もしない命令が下る…。

この映画に登場する主要人物はことごとくモデルがあり、実名で演じられています。ミシシッピ州の州司法長官Michael Moore(マイケル・ムーア)は当人自身が演じています。最後に「映画として事実を圧縮し、多少ドラマチックにした以外は全て事実である」という字幕が出ますが、よくぞここまで描いたと思わせる内容です。

Russell Croweは極度に抑圧された人間の神経質な表情を、やや過剰なまでに演じています。Al Pacinoは報道のディレクターというより芸能番組のディレクターに近い風貌ですが、放送中止を命ずる上司に反駁するシーンの熱演はいくら誉めても足りないぐらいです。ディレクターにとって手がけた番組は産み落とした子供であり、それを葬り去ることは絶対に許さないという気迫は鬼気迫るものがあります。

驚くべきはChristopher Plummerです。'The Sound of Music'『サウンド・オブ・ミュージック』などで有名な人ですが、私はあの鉄仮面のような顔と演技はあまり評価していませんでした。この映画ではよく老けて、人間味を滲ませた渋い芝居をしています。Al Pacinoの動に対して、こちらは静の良い対照です。

ミシシッピ州の検事を演じるBruce McGill(ブルース・マギル)も、Russell Croweの初証言の場でケンタッキーの弁護士相手にいい芝居を見せます。彼は“南部もの”としては'Rosewood'『ローズウッド』で狂暴なレッドネックを、'The Legend of Bagger Vance'『バガー・ヴァンスの伝説』で伝説的プロ・ゴルファーWalter Hagen(ウォルター・ヘイゲン)を演じました。何れも素晴らしい演技です。

こう書いて来ると、主演も脇も、非常に役者が揃っているという感じですね。2時間半という長い映画ですが、演出の迫力と演技陣でいささかも退屈しません。

(June 20, 2001)




Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。




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