[English] [Japanese Home] [Studio BE] [America Offline] [公民権運動] [英語の冒険] [英語の冒険2] [Golf] [Hummingbird]



[Banner]



Last Holiday

『ラスト・ホリデイ』

[Poster]


・原題をクリックするとamazon.comのInternet Movie Databaseの詳細データが見られます。邦題をクリックすると「allcinema」のデータが見られます。

・Part 2は普段は隠れていて、クリックするとJavaScriptによるウィンドウにて表示されます。取り扱いには十分お気をつけ下さい。

公開:2006
監督:Wayne Wang
地域:ルイジアナ州ニューオーリンズ、プラハ(チェコ)
出演:Queen Latifah、LL Cool J、Timothy Hutton、Alicia Witt、Gerard Depardieuほか
範疇:リメイク/余命三週間/生涯最後の豪遊/冒険/恋/コメディ

私の評価 :☆1/2

【Part 1】

[the South]

この映画を“南部もの”に入れるのには、ちと抵抗を覚えます。アメリカ南部の場面は物語の最初(結構長いですが)と最後だけで、物語の本編はチェコに移ってしまうからです。しかし、筆者は名前だけ“南部もの”風であるものの全くアメリカとは無関係な'Mississippi Mermaid'を当サイトで既に紹介していますし、それに較べればこの映画は充分取り上げる資格があると云えましょう。

DVDのおまけにこの映画のプロデューサーたちと脚本家(二人)の長い回想があり、これが面白い。彼らがこの物語を書き始めたのは、何と23年前なのだそうです。J.B. Priestley(J.B. プリーストリィ)が脚本を書いたAlec Guinness(アレック・ギネス)主演の軽いタッチの英国喜劇'Last Holiday'(1950)をリメイクしようという企画でした。候補となった主演俳優に合わせて、脚本はその後何度も書き換えられてそうですが、いずれも土壇場でポシャりました。今回はQueen Latifah(クウィーン・ラティファ)のエージェントから、「脚本をQueen Latifah向けに書き換えられないか?」と打診があり、脚本家たちは「それはいいアイデアだ」と膝を打ったそうです。何故なら、男性が主役だとどうしてもお話が暗くなりがちなのだが、女性なら軽いタッチに出来る…という理由でした。Queen Latifahは演じるだけでなく、色々な提案で脚本家たちにアイデアを提供したそうです。今回、ついに脚本は日の目を見て撮影が開始されました。撮影初日、脚本家の一人はこの脚本の長い道のりを思い返しながら、ロケ先の物陰で泣いたそうです。

初めてこの映画のDVDのカヴァーを見た時は「また黒人たちが四文字言葉を乱発する、馬鹿げたコメディだろう」と推察し、いささかためらいました。しかし、Alec Guinnessの映画がオリジナルだけに、幾分のシリアス味とコメディ要素がミックスされ、それをQueen Latifahが爽やかに演じるという好ましい佳作に仕上がっていました。

ルイジアナ州ニューオーリンズ。Queen Latifahはデパートの台所用品売り場で働く地味な女性。同僚の男性店員LL Cool J(LL・クール・J)に憧れているが、うまく気持を伝えられず、彼の扱う商品を必要もないのに買ってしまう日々。

ある日、ついに彼が彼女にデートを申し込もうとしたその瞬間、Queen Latifahは気絶して床で頭を打ってしまう。LL Cool Jは彼女をデパート内の診療所に運び込む。医師は備え付けのCTスキャナーで彼女の頭部を調べる。驚いたことにX線写真には数ヶ所の脳腫瘍が写し出されていた。再撮影するが、結果は同じ。医師はショックで口がきけなくなり、もう一人の医師がQueen Latifahに「余命は三週間、長くても四週間」と宣告する。

絶望したQueen Latifahはデパートを辞め、全財産を引き出し、念願の一つだったチェコのスキー・リゾートの豪華ホテル'Pupp'(ププ)を目指す。今や金に無頓着となった彼女は、空港からホテルまでヘリコプターをチャーターする。ヘリコプターでホテルへ来たのはElton John(エルトン・ジョン)以来ということで、ホテル側は彼女を大金持ちと思い込む。「予約した部屋がまだ準備出来ていない」と云われたQueen Latifahは唯一空いていた一泊$4,000のプレジデンシャル・スイートに泊まることにする。彼女は高級ドレス・ショップに赴き、"Make me international."(私を国際的にして)と云い、豪華なドレスを沢山購入する。

何たる偶然か、そのホテルには彼女が勤めていたデパート・チェーンの独善的社長Timothy Hutton(ティモスィ・ハットン)が愛人連れで滞在しており、下院議員夫妻とルイジアナ州選出の黒人上院議員の接待をしていた。Timothy Huttonはこのホテルでは顔であることを自慢にしていて、シェフのGérard Depardieu(ジェラード・ドパルデュー)をテーブルに呼び寄せようとする。しかし、シェフはその夜の特別料理を全部一度に注文した女性Queen Latifahに好感を抱き、彼女のテーブルから動かない。Timothy Huttonは面目丸つぶれとなり、彼女に敵意を抱く。

Queen Latifahは大金持ちとして扱われるが、彼女はお金をバラまくだけではなく、優しい心根でホテル従業員たちやTimothy Huttonの秘書(=愛人)を味方につけて行く。Timothy Huttonはスポーツでも彼女の剛胆さに負け、ギャンブルでも負け、憎っくき彼女の正体を暴いて辱めようと画策するのだが…。

Queen Latifahは'Chicago'(2002)の刑務所看守長や'Taxi'(2004)のタクシー運転手役が有名でしょうが、この映画ではどこにでもいる真面目でシャイな黒人女性を演じています。Latifahというのは彼女が十代の頃に付けられたニックネームで、アラビア語で“繊細な”という意味だそうです。それを考慮すると、この映画の主人公の性格はかなり彼女の地に近いのではないかと推察します。当人も飾り気なく、とても楽しそうに演じていて好感が持てます。

しかし、自ら"Queen"と名乗るのには恐れ入りますね。ま、Count(伯爵)Basieとか、Nat "King"(王様)Coleとかもいましたので、Queenがいてもおかしくないのですが。

Queen Latifahが何故チェコへ行かなければならないのかよく分りません。「アラバマ州Mobile(モビール。ニューオーリンズのすぐそば)より北へ行ったことがない」という役柄ですから、本当はコロラドでもアリゾナでも良かったのでしょうが、異国で繰り広げる数々の冒険という趣向は、もともと嘘っぽいお話をもっと嘘っぽくして、結果的に大人のメルヘンに変貌させる効果があったようです。

彼女は冒頭、TVの料理番組を見ながら自分でも料理します。その番組のホストはEmeril Lagasse(エメリル・ラガシ)という元ニューオーリンズの有名シェフで、現在はTVの人気者となっています。スタジオの観客の前で料理するのですが、いつも刻んだニンニクを鍋に入れながら「これでいいかな?いや、もっと入れよう!バーンっ!」とごってりニンニクを入れ、観客から盛大な拍手を浴びるのがお定まりのパターン(この映画ではニンニクではなかったですが)。

私はプラハに数日滞在して撮影したことがあります。この映画のロケ地である山間部へは行けず、プラハ城や人形劇、名産のガラス工場など、市内の撮影ばかりでした。『兵士シュヴェイク』という小説の主人公の名を取ったビア・ホールに何度か行きました。首都なのに、落ち着いた街なのが印象的でした。札幌市や鹿児島市とあまり変わらない感じ。ガラスのサラダ・ボウルを買って来ました。

アメリカの実業家や政治家がわざわざ鄙びたチェコまでスキーに行くというのは不思議です。スイスやイタリアのアルプス地帯の方が彼らの目的地に相応しそうな気がしますが。多分、映画のプロデューサーとチェコの観光局のタイアップが成立したのではないでしょうか。

名作でも傑作でもないのですが、充分楽しめます。これが日本で劇場公開されていないというのは信じられません。Queen Latifahでは観客動員出来ないということでしょうか?

(December 15, 2006)



Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。




Copyright (C) 2001-2011    高野英二   (Studio BE)
Address: Eiji Takano, 421 Willow Ridge Drive #26, Meridian, MS 39301, U.S.A.