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Glory

『グローリー』


[Poster]


・原題をクリックするとamazon.comのInternet Movie Databaseの詳細データが見られます。邦題をクリックすると「allcinema」のデータが見られます。

・Part 2は普段は隠れていて、クリックするとJavaScriptによるウィンドウにて表示されます。取り扱いには十分お気をつけ下さい。

公開:1989
監督:Edward Zwick
地域:マサチューセッツ州、ジョージア州、サウス・キャロライナ州
出演:Matthew Broderick、Denzel Washington、Cary Elwes、Morgan Freeman、Jihmi Kennedy、Andre Braugherほか
範疇:北軍白人士官の書簡を元に映画化/南北戦争/黒人志願兵たち/誇り/偏見との闘い/肉弾

私の評価 :☆☆☆1/2

【Part 1】

私はこの映画を観たことがあるのですが(確かTVで)、素晴らしい映画だとは思ったものの、これが“南部もの”に入るとは気づきませんでした。北軍における最初の黒人志願兵たちの部隊の物語なのですが、編成されたのがマサチューセッツ州(ニューヨーク州よりも北)であることと、クライマックスの砦まで徒歩で行軍したようなので、そう遠くまで南下していないように思えたからです。しかし、こんないい映画を全集に入れられないのはとても残念なので、何とか含める口実はないものかと探していました。すると、IMDbの「撮影地」に「ジョージア州サヴァナ」とあるではありませんか。「それだけで充分!」と、早速DVDを借りて鑑賞したら、何とクライマックスの砦はサウス・キャロライナ州なのでした。大雑把に直線距離で1,300キロも歩いて南下したことになります。というわけで、これは正真正銘の“南部もの”なのです(ホッ)。この映画ではエピソードそれぞれの年月日と地名が出るのですが、TVでは私が読み切る前に消えてしまっていたようです。

映画が始まると字幕が出ます。これはRobert Gould Shaw(ロバート・グールド・ショウ、1837〜1863)という実在の指揮官が、従軍先から両親に宛てて定期的に送った手紙を元に物語を構築したものだそうです。

南北戦争が始まって一年後の1862年、Matthew Broderick(マシュー・ブロデリック)の両親への手紙:「マサチューセッツ州ばかりでなく、西からも東からも兵士が集まっています。彼らの多くは黒人を見たことがありません。私は陸軍大尉になりました。私が何百人もの兵士に命令を下しているなんて不思議でしょうね。そのほとんどは、私より年上なのです」

メリィランド州の闘いで軽く負傷したMatthew Broderickはマサチューセッツ州の自宅に一時戻る。父は金満家で政界に顔のきく実力者である。彼の実家で開かれたパーティに知事と黒人政治家Frederick Douglass(フレデリック・ダグラス、実在した奴隷解放論者)も来ていて、黒人兵士だけのマサチューセッツ第54連隊を作り、Matthew Broderickに彼らを率いる大佐になって貰いたいと告げる。Matthew Broderickは「それは素晴らしいアイデアだ!」と応える。友人の白人士官Cary Elwes(ケアリ・エルウェス)は「黒人に銃を持たせるだと?冗談だろ?」と信じないが、Matthew Broderickはこの話を受ける決意であることを告げ、Cary Elwesに手伝ってほしいと頼む。二人の共通の友人で、インテリ黒人のAndre Braugher(アンドレ・ブラウアー)は「黒人の軍隊が出来るんだって?おれは一番目の志願兵になるぜ!」と宣言する。

黒人志願兵たちが集められ、訓練のための野営地に入る。白人兵士たちは「黒人よりは豚の方がマシだ。豚は食えるからな」などと聞こえよがしに云う。Andre Braugher、元墓掘り人夫Morgan Freeman(モーガン・フリーマン)、サウス・キャロライナ州の農夫Jihmi Kennedy(ジミ・ケネディ)、テネシー出身のDenzel Washington(デンゼル・ワシントン)らが一緒のテントに入る。親の代から自由の身のAndre Braugher以外は全員逃亡奴隷である。

制服も届かないうちに、厳しい訓練が始まる。黒人の中には「右」と「左」の区別もつかない者が多数いる。ある日、南軍が発表した宣言が読み上げられる。「北軍について闘う黒人は奴隷の身分に戻す。北軍の制服を着た黒人は死刑に処す。黒人の部隊を率いる白人も奴隷の暴動を煽動した咎で死刑に処す」というもの。Matthew Broderickは「もし軍隊を離脱したい者は明朝までに去れ」と云い、友人の少佐Cary Elwesに「君がいなくなっても怨まない」と囁く。翌朝、表に出たMatthew Broderickは"Glory hallelujah!"(グローリィ・ハレルヤ!)と驚嘆する。友人も黒人たちも誰一人離脱せず、朝の点呼に集合していたのだ。

やっと銃が届いた。黒人たちは嬉しさの余り子供のように戦争ごっこをして遊び、Matthew Broderickを呆れさせる。白人の訓練軍曹の厳しさが増す。インテリ黒人のAndre Braugherは耐えかねて泣き出す。

Denzel Washingtonが脱走の罪で逮捕され、鞭打ちの刑となる。友人の少佐Cary Elwesは「鞭打ちなんて止めろ!」と云うが、規律を重んじるMatthew Broderickは訓練軍曹に許可する。Denzel Washingtonの背中は古い鞭打ちの痕で埋め尽くされていた。彼はMatthew Broderickを睨みつけながら痛みに耐えて鞭を受ける。その夜、Morgan FreemanはMatthew Broderickに云う、「あいつは脱走したんじゃありやせん。靴を見つけに行ったんでやす」黒人兵士全員が足を痛めていることを知ったMatthew Broderickは、黒人兵士を馬鹿にしている官給品取り扱い担当者を脅し、600足の靴と1,200足の靴下を支給させる。

初の給料が支払われることになるが、白人は月13ドルなのに、黒人は月10ドルであることが分る。差別に腹を立てたDenzel Washingtonは「小切手を破け!」と叫んで皆を煽り、全員が「小切手を破け!」を連呼する事態になる。Matthew Broderickはピストルを撃って一同を静粛にさせ、「諸君が金を受け取らないなら、われわれもそうする」と云って小切手を破く。黒人兵士たちが感動する。

ついに北軍の青い制服が支給され、黒人兵士だけのマサチューセッツ第54連隊は、ボストン市民の歓声と紙吹雪を浴びながら戦地へと出発する…。

'Morgan Freeman: A Biography' (モーガン・フリーマン:伝記の試み)by Kathleen Tracy (Barricade Books Inc., 2006)という本に、次のような箇所があります。「(Morgan Freemanの回想)'Glory'のプロデューサーFreddie Fields(フレディ・フィールズ)と監督Ed Zwick(エド・ズウィック)が'Glory'のプロジェクトに参加しないか?と云って来た。三人でジョージア州サヴァナへ行き、三週間リハーサルをしながら脚本を書いた。役柄の個性などは抜きで、戦争の枠組みだけ作った。だから、俳優たちは骨だけの役柄に銘々自分で肉付けをしなくてはならなかった。これは凄い体験だった。われわれは撮影しながら、座り込んでさらに発展させた脚本を書いた。それまで、われわれ黒人にとってスクリーンの中の英雄というものは存在せず、ほとんどお決まりの黒人像しか見られなかった。私は、黒人が受け継いだ歴史が気高く、英雄的で、冒険と征服と発見に満ちたものであることが語られるべきだと思っていた。'Glory'は人々が知らないことを語る映画で、その真実に執着する観点ではドキュメンタリーに近かった」

この映画に情熱的だったのはMorgan Freemanだけではなかった。Denzel Washingtonを始め、どの俳優もギャラを安くしてまで参加しようとした。

Morgan Freemanは云う、「この映画は有色人種の歴史に相応しいもので、われわれが何者なのかを告げるものである。国の中で対立が起ると、黒人たちはいつも闘い、死んで行った。われわれはアメリカ人であり、アメリカ人になるために闘い、死んだのだ。私はこの映画が長く人々の意識を喚起することを望んでいる」

黒人俳優たちだけでなく、白人訓練軍曹を演じたJohn Finn(ジョン・フィン)も「ギャラ無しでいいから出させてくれ」と申し出たそうです。それだけこの映画の趣旨に賛同する人々が多かったという証しです。今まで語られることのなかった歴史の一こまの映画化に、人種の別なく俳優たちが結集したという事実に先ず胸を打たれます。彼らのアンサンブルも素晴らしい。それぞれが自分たちが練り上げた人物像を味わい深く演じています。北軍の中にすらある黒人蔑視も無視されていません。マサチューセッツ第54連隊は南部連邦軍と闘うだけでなく、北軍内部における差別とも闘わなくてはなりませんでした。感動的なエピソードもいくつも織り込まれており、凝縮された122分が展開します。

Matthew Broderickはベビィ・フェースで小柄。おっとりしたお金持ちのぼんぼんそのものといった風で、とても激戦地へ部隊を率いて行けるような気骨があるようには見えません。そんな彼が、自身の責任感と黒人たちの誇りと使命感に応えるべく、次第に指揮官として成長して行く様を真摯に表現しています。俳優としての彼の代表作と云っていいでしょう。Denzel Washingtonは長い逃亡奴隷としての生活から来る、屈折した性格を鋭く表現しています。インテリ黒人を演じるAndre Braugherはこれが劇場映画初登場だったそうですが、Denzel Washingtonと拮抗出来るだけの存在感を見せて、強い印象を残します。Morgan Freemanは儲け役を活き活きと演じています。彼の顔が映ると、観ているこちらも心が和みます。無学な農夫で銃の名手を演じるJihmi Kennedyの飾らない透明な演技も見物(みもの)です。

(September 29, 2007)



Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。




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