公開：2006
監督：Alex Kendrick
地域：ジョージア州
出演：Alex Kendrick、Shannen Fields、Jason McLeod、Bailey Cave、Steve Williams、Jim McBrideほか
範疇：スポーツ／高校フットボール・チーム／宗教／信仰／負け犬から州代表へ／不妊と懐妊

私の評価 ：☆

【Part 1】

映画の邦題をつける連中のいい加減さには呆れます。Elizabeth Taylor（エリザベス・テイラー）、James Dean（ジェイムズ・ディーン）主演の'Giant'（1956）は「テキサス」を現す言葉で単数だったのに『ジャイアンツ』と野球チームと同じ複数にし、今回の'Facing the Giants'はフットボールの対戦相手の強豪チーム名なので複数なのに『ジャイアント』と単数にしています。モノを知らない馬鹿さ加減丸出しです。

この映画の生い立ちは非常にユニークです。それを知らずにこの映画を観てはいけません。ジョージア州Albany（オルバニィ）のSherwood Baptist Church（シャーウッド・バプティスト教会、信徒数3,000名）のassociate pastor（準牧師）であるAlex Kendrick（アレックス・ケンドリック）とStephen Kendrick（スティーヴン・ケンドリック）の兄弟は、この映画の五年前「あなたに影響を与えるものは何か？」という全米のアンケート調査を見てがっかりしました。「教会」という答えは十位にも入っていず、トップは映画とTVだったからです。「じゃあ、教会のメッセージを映画にしたらどうか？」と兄弟は考えました。上位の牧師たちの賛同も得られましたが、映画製作に未経験な牧師たちに資金を出そうという人は出て来ません。彼らは先ず'Flywheel'（弾み車、2003）という映画を自主製作しました。地元の映画館で関係者だけの試写会を行なったところ、満員札止め。引き続く週末だけの公開でハリウッド映画を圧倒する興行成績を収めました。Blockbuster Video（レンタル・ヴィデオ会社）が全国規模でこの映画のDVDレンタルを開始し、七つの宗教TVチャネルが放映、85,000枚のDVDが売れるという結果になりました。

'Flywheel'の成功は教会の人々を勇気づけました。Kendrick兄弟は'Facing the Giants'の脚本を練り始めました。上級牧師たちは資金集めに奔走しました。俳優は主演のAlex Kendrickを始め、97%素人。カメラ・クルー以外の全て（撮影助手、ライトマン、音声マン、メイクアップ、大道具、小道具その他）の裏方は、みな教会の信徒たちが無料奉仕で担当することになりました。機材のレンタル費用に充てるため、寄付金が寄せられました。撮影の日には信徒たちの手作りの料理がロケ先に届きました。この映画の初公開は地元の劇場で行なわれましたが、赤い絨毯を踏んで入場したのは俳優たちではありませんでした。俳優たちはロープの外に整列し、蔭で映画製作を支えたヴォランティアたちを拍手で迎えたのです。ヴォランティアたちこそ、その日の主役だったのです。（ヴォランティアの合計は500人に達したそうです）

Alex Kendrickが製作（共同）・監督・脚本（共同）・主演・編集というワンマン映画で、こういうインディー（自主制作）映画の中にはひどいものがあるので心配でした。杞憂でした。撮影も編集も立派なもので、ハリウッド映画にひけを取りません。キリスト教の宣教映画には違いないのですが、アメリカの深南部（この映画の舞台ジョージア州もその一つ）の真摯なクリスチャンの言動を知ることが出来るいい素材だと思います。

ジョージア州南西部の小都市。キリスト教系高校のフットボール・コーチAlex Kendrickには二つの悩みがあった。彼が率いるイーグルズは実力を発揮出来ず、ここ六年情けない成績だった。彼の妻Shannen Fields（シャナン・フィールズ）は子供を欲しがっていたが、妊娠の兆しはいつも空振りだった。

新学期。スター・プレイヤーの一人がフットボールの名門校へ転校して行った。イーグルズはキャプテンのJason McLeod（ジェイスン・マクロウド）をはじめ全員ショックを受ける。

転校生Bailey Cave（ベイリィ・ケイヴ）はサッカーが好きだったが、この学校にはサッカー部はなくがっかりしていた。身体障害で車椅子に縛り付けられている彼の父Steve Williams（スティーヴ・ウィリアムズ）は、慣れないフットボールに尻込みする息子を励まし、フィールド・ゴールのキッカーとしてのテストを受けるように勧める。

Alex Kendrickが医師を訪れ検査して貰うと、妻が妊娠しないのは彼のせいであることが分る。彼は落胆し、妻の顔を見るのが辛く、夜更けまで学校でしょんぼりしている。その頃、同校の水面下では不甲斐ないAlex Kendrickを馘にし、アシスタント・コーチのTracy Goode（トレイシィ・グッド）を昇格させようとする父兄たちの動きがあった。帰ろうとしたAlex Kendrickは、彼らの秘密の会合を盗み聞いてしまう。

Alex Kendrickは妻に全てを話す。不妊の原因も、馘になるかも知れないことも。二人は頭を抱えてしくしくと泣く。深夜、妻がふと目覚めると、夫はベッドにはいず、自室で聖書を読んでいた。早朝、Alex Kendrickは裏の林でイエス・キリストに語りかける、「主よ、私は恐怖と失敗という巨人を相手にしているように感じます。もう恐れるのは飽き飽きです。しかし、どうすればその巨人に勝てるのか分りません。何かをお示し下さい」と。

ある夜の試合でフィールド・ゴールを命ぜられたBailey Caveは、父の目の前で失敗する。試合後、父は「お前はベストを尽くしたのか？」と尋ね、息子は父に「蹴る前から失敗するのは分ってた」と云う。父が「行動は常に信念に従うものだ」と云うと、息子は「真っ直ぐ蹴れないんだよ」と云う。父は「わしは歩けないが、歩けないなら家に篭って、ふくれ面をしていなきゃいけないのか？負けを容認すれば、お前が得るものはそれなのだよ」と意見する。

コーチAlex Kendrickの元へ信仰厚い老人がやって来る。彼は『黙示録』の第三章の第八節を読む。「『視（み）よ、我なんぢの前に開（ひら）けたる門を置く。これを閉じ得る者なし。汝すこし力ありて我が言（ことば）を守り、我が名を否まざりき』 コーチ、あなたの前の扉はまだ開かれている。神があなたを動かすまで、あなたは自分が置かれた場所で花咲けるのだ」 Alex Kendrickは素直に自分の苦闘について告白する。老人は「雨を乞い願う二人の農夫がいた。一人は祈るだけで何もしなかった。もう一人は神が願いを聞き届けてくれると信じ、せっせと畑で雨降り後の準備をした。どちらの農夫の畑に雨が降ったと思う？」と問いかける。

Alex Kendrickは真剣にチームの目的を考える。その結論を妻に聞かせる。「生き方と同じね？」と妻。「それがポイントなんだ」翌日、チーム全員にAlex Kendrickが問いかける。「チームの目的は何だ？」 選手の一人がニヤニヤしながら答える、「勝つこと。勝って有名になって、奨学金を貰ってカレッジのチームで活躍し、将来はリトル・リーグの監督になる」 Alex Kendrickは云う、「勝つなんてことはちっぽけなことだ。十年もすればわれわれの勝利なぞ誰も覚えていない。われわれは栄光とか金を得て死ぬためにここにいるのではない。フットボールは神を讃える手段の一つなのだ。われわれは勝っては神を讃え、負けても神を讃えるのだ」

キャプテンのJason McLeodが次の試合についてネガティヴな発言をしたのを耳にしたAlex Kendrickは、Jason McLeodに10ヤードでさえ過酷な"death crawl"（仰向けになった選手の一人を背に乗せての四つん這い歩行）を、何と50ヤードやれと命ずる。Jason McLeodに目隠しをさせたコーチは、Jason McLeodを大声で叱咤激励しながら誘導する。「もう駄目！」と弱音を吐くキャプテン。Alex Kendrickは「ベストを尽くせ。君のベストをおれに見せろ！」と励ます。「あと三歩、あと二歩、あと一歩」へたばるJason McLeod。「よくやった。見ろ、ここはエンドゾーンだ」（50ヤードどころか、100ヤードも歩かせてしまった！）「君は影響力のある選手だ。君が弱音を吐いたらみな諦めてしまう。頼むから弱音を吐かないでくれ」とAlex Kendrickがキャプテンに頼む。感動したアシスタント・コーチTracy GoodeはAlex Kendrickに忠誠を誓う。

選手のJames Blackwell（ジェイムズ・ブラックウェル）は実業家の父と折り合いが悪く、父を軽蔑したような云い方をする青年だった。彼はAlex Kendrickに「おれは勝つためにチームにいる。神様のためじゃない」と云い放つ。Alex Kendrickは「君に何も無理強いはしない。しかし、聖書に書かれているようにお父さんを敬うべきだ」と諭す。

ある日の宗教の時間はフットボール競技場で行なわれた。突如、James Blackwellはイエス・キリストと共にあることを感じ、同級生たちに今までの自分を許してくれと発言する。その影響でクラス全員が自分の過ちを告白し、同級生に許しを乞うという“信仰心の覚醒”が起る。James Blackwellは「父に詫びたい」と云う。Alex Kendrickはすぐさま、彼を車に乗せ父親の会社へと連れて行く。

それ以後、Alex Kendrick率いるチームは、まるで新しいチームのようになった。試合にも勝ち、選手たちの学業成績も上がった。ボロ車に乗っていたAlex Kendrickに、贈り主不明の新しいピックアップ・トラックがプレゼントされた。チームは五連勝し、誰もが予想しなかった地区大会のプレイオフに臨むことになる。それに勝てば、夢のような州代表決定戦に出場出来る。そこには無敗を誇る強豪ジャアンツの巨漢たちが待ち受けているのだが…。

俳優は「97%素人」と書きました。三人だけ本職が出ています。TVのリポーターの女性（出演者の縁者）、TVのアナウンサー、そして試合のラジオ中継のアナウンサーです。やはり、これらは訓練なしでは本物らしく見えないという結論に達したのでしょう。しかし、その他はみなずぶの素人です。圧倒的存在感を示すのはジャイアンツのコーチ役Jim McBride（ジム・マクブライド）です。常にペロペロ・キャンディーを舐め、恐い顔、ガラガラ声、傲岸不遜な態度で異彩を放っていますが、彼も牧師で製作者の一人でもあります。

主役の妻を演じるShannen Fieldsは、実際にモデルとなった高校のフットボール・コーチの奥さんだそうです。女優としての輝きはありませんが、妻として女としての愛らしさ・ひたむきさは充分に表現しています。山場の試合にAlex Kendrickの応援に駆けつけるコーチがいますが、彼はジョージア大フットボール・チームのヘッド・コーチMark Richt（マーク・リクト）で全米優勝二回を果たした有名人だそうです。選手役の若者たちも素直に演技していて好感が持てます。

クリスチャンでない者には、Alex Kendrickをはじめとする人物たちのほとんどが神やイエス・キリストを簡単に受け入れてしまうことに驚くでしょうが、彼が勤める学校はキリスト教系の学校なので、もともと基盤はあるわけです。Alex Kendrickが老人から聞かされた『黙示録』の言葉によって啓示を得て以降、彼は周囲に覚醒を促すだけでよかったのです。

私はクリスチャンでもなく、そもそも信仰心など無いほうですが、この映画のいくつかのシーンでは泣けてしまいました。脚本の勝利でしょうね。

$1,000,000の経費で製作されたこの映画は、劇場公開が終りDVDが発売される以前にその経費の70倍の収益をあげ、教会は町の中に青少年のためのスポーツ複合施設を建設する資金に充てる計画をしています。同教会はAlex Kendrick監督による第三作'Fireproof'（2008年公開予定）を撮影中だそうです。

(November 02, 2007)

Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
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