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公開:1941
監督:William Wyler
地域:ルイジアナ州ニューオーリンズ【推定。本稿末尾の註参照】
出演:Bette Davis、Herbert Marshall、Teresa Wright、Richard Carlson、Dan Duryea、Patricia Collingeほか
範疇:戯曲の映画化/金の亡者のきょうだい/夫婦不和/陰謀/年頃の娘の成長
私の評価 :☆☆
【Part 1】
先ず、メイン・タイトルの後のクレディットで驚かされます。スタッフ・キャストの最後に監督名が出るのが普通ですが、この映画では監督William Wyler(ウィリアム・ワイラー)の後に、"Produced by Samuel Goldwin"と出るのです。プロデューサーが君臨していた時代の映画です。
物語が始まる前に字幕が出ます。
"Take us foxes,
The little foxes,
that spoil the vines:
For our vines have tender grapes."
「われらのために狐をとらへよ、
彼(か)の葡萄園をそこなふ小狐をとらへよ、
我らの葡萄園は花盛りなればなり」【ソロモンの雅歌2:15】
これが原題'The Little Foxes'の由来です。さらに字幕が続き、「狐はいつでも、どこにでも棲息する。この家族は、たまたま1900年に深南部に住んでいた」と時代と地域が説明され、やっと物語が始まります。1900年と云えば、南北戦争が終ってから35年後のことです。
富豪の娘Teresa Wright(テレサ・ライト)が、黒人の乳母と二人、朝早く馬車で近くの漁港へ蟹の買い出しに行って戻って来る。その日、彼女の母はシカゴの資産家を晩餐に招いており、当夜の御馳走の南部名物料理ガンボのために蟹が必要だったのだ。馬車は黒人たちが働くプランテーションを通過し、町に入る。Teresa Wrightと人々の会話から、次のようなことが分る。彼女の父Herbert Marshall(ハーバート・マーシャル)は旅先のボルティモア(メリーランド州)で心臓の発作を起こし、長期入院中であること。彼女は近所の新聞編集者Richard Carlson(リチャード・カールスン)と幼なじみで、彼を好ましく思っていること。彼女の二人の伯父とその一家は、隣家に住んでいること。彼女の母Bette Davis(ベティ・デイヴィス)は夫を愛していないこと。
シカゴの資産家を招いての晩餐。Bette Davisの独身の兄Charles Dingle(チャールズ・ディングル)と、その弟Carl Benton Reid(カール・ベントン・レイド)、その妻Patricia Collinge(パトリシア・コリンジ)と息子Dan Duryea(ダン・デュリエ)が加わっている。Bette Davisと二人の兄の狙いは、町に紡績工場を作ろうというもので、三人の資本金だけでは足りないのでシカゴの資産家の助けを借りようという作戦だった。策士であるCharles Dingleが必死になってシカゴの資産家の気を引く。資産家はBette Davisには「是非シカゴにおいでなさい。御案内しますよ」と云い、彼女もその気になる。
資産家が帰った後、Bette Davisと二人の兄弟は祝杯を上げる。三人が1/3ずつ出資し1/3ずつ利益を分配する筈だったが、Bette Davisは夫と自分のためにその倍の配当を欲しがる。兄Charles Dingleは「では、彼には33%でなく40%やろう。ただし、彼が戻って来て二週間以内に金を準備出来たらという条件だ」と云う。弟のCarl Benton Reidは、自分の7%が妹夫婦に行くことに抗議するが、兄が「お前の息子と妹夫婦の娘(Teresa Wright)が結婚すれば、結果的に利益はお前の一家に行くんだ」と丸め込む。Carl Benton Reidはその結婚を願っていたので、なんとか納得する。Bette Davisはいとこ同士の結婚に反対するが、「考えとく」と云わないと自分の主張が通らないので、渋々兄の意見に従う。
Bette Davisは娘Teresa Wrightを一人旅でボルティモアにやり、夫Herbert Marshallを帰宅させようとする。新聞編集者Richard Carlsonは徹夜明けにTeresa Wrightに起され、寝間着の上にオーヴァーと帽子という珍妙なスタイルで駅まで彼女を送る。
いよいよ父娘が帰宅する日となったが、Herbert Marshallの身体の調子が思わしくなく、彼らはアラバマ州モビールのホテルで一泊する。たまたま会合でモビールに来ていたRichard Carlsonが一緒になり、翌日三人で町へ戻る。
夫が帰宅してもBette Davisは入念にお化粧を施し、すぐには迎えに出ない。久し振りに対面した夫婦は。最初は親しげに会話するが、次第に相手への不信感をあからさまにした口喧嘩となる。ビジネスを早くまとめたいBette Davisの兄弟がやって来るが、Herbert Marshallはビジネスの話をするような気分ではないと突っぱねる。
Herbert Marshallの歓迎パーティが開かれる。痺れを切らしたBette Davisと彼女の二人の兄弟は、その夜Herbert Marshallに直談判して紡績工場建設に出資させようとするが、彼は断る。銀行に勤めるDan Duryeaは、Herbert Marshallが貸金庫にユニオン・パシフィック鉄道の$900,000の債券を保管していることを知っていて、それを父に教えてあった。兄弟はその債券を一時(無断で)拝借してシカゴの資産家との取り引きを成立させようとする。彼らはBette Davisの「数日待って!」という懇願を退け、彼女抜きで紡績工場建設を果たそうとする。
妻Bette Davisとその兄弟の諍いを聞いたHerbert Marshallは、妻に「キミも、キミの金の亡者の兄弟たちもこの世を悪くしている。おれは加担したくない」と云う。Bette Davisは「死んでよ。すぐ死んでほしい。あなたが死ぬのを待ってるわ」と云い放ち、漏れ聞いた娘Teresa Wrightを驚愕させる。
その夜、Dan Duryeaは銀行の貸金庫に侵入し、Herbert Marshallの鉄道の債券を盗んで父に渡し、父は直ちにシカゴに向う…。
元が戯曲なだけに、あまり場面は変わらず、ほとんど台詞によって話が転がります。だから退屈か?と云うと、この約二時間の映画は全く退屈しません。それには二つの理由があります。
1) 主演級を除く四人(兄弟役Charles DingleとCarl Benton Reid、後者の妻Patricia Collinge、その息子Dan Duryea)はブロードウェイで同じ役を演じた俳優たちで、その練れた演技が素晴らしい。彼らの比重は重く、単なる脇役ではありません。Charles Dingleはにこやかだが抜け目のない策士を、Carl Benton Reidはやや脳足りんで兄に頭が上がらず妻を引っ叩くようなレッドネックを、Patricia Collingeは不幸な結婚を酒で紛らしている寂しい女性を、Dan Duryeaは脳足りんの父よりさらに脳足りんで軽薄な弱虫を、それぞれ文句のつけようがない名演で映画を盛り上げています。
2) 舞台の映画化とは思えないほど、素晴らしく映像化されています。ある人物越しに他の人物を見せる、いわゆる“越しショット”の使い方が絶妙。二人の俳優の演技が1カットで楽しめるグリコのような演出です:-)。また、1カットの中で俳優たちが入れ替わって立ったり座ったり、後ろへ行ったり前に来たりする交通整理が憎いほどうまく処理されています。どの場合でも人々がいい構図で収まるように配置されます。後年、黒澤 明も『天国と地獄』(1963)の室内シーンで同じように人物たちを見事にさばいていましたが、こちらはその22年前ですからね。いいお手本だったでしょう。
もちろん主演級の俳優たちも熱演しています。Bette Davisは夫の金で日々豪華なドレスに身を包みながら、夫に「早く死んで!」と云うような凍り付くような冷血女を見事に演じ切っていますし、Herbert Marshallも失敗した結婚を悔やむ惨めな男、自分を騙そうとする連中に一太刀報いて死のうという頭脳派の男を、渋く静かに表現して印象に残ります。数年後'Shadow of a Doubt'『疑惑の影』(1943)に出るTeresa Wrightは本作が映画デビューだそうですが、いきなりアカデミー助演女優賞にノミネートされました。当時23歳なので、18歳ぐらいの初心な娘の役は少し辛いですが、しかし、素直に愛らしく演じています。
【地域に関する註】
この映画の原作は戯曲で、物語の主舞台となった土地を特定する台詞は全くありません。作者は舞台を曖昧にして、普遍的な場所のお話としたかったのでしょう。撮影もカリフォーニア州で行なわれていて、タイトル直後の風景を除き南部の町の特徴は出ていません(ほとんどセットのようです)。
しかし、次のようないくつかの根拠から私は「ルイジアナ州ニューオーリンズ」が舞台であると推理します。
1) シカゴの資産家は汽車でやって来て、また汽車でシカゴに戻っています。
ニューオーリンズにはAmtrak鉄道のCity of New Orleans線が発着していますが、これはニューオーリンズから真っ直ぐ北上してジャクスン(ミシシッピ州)、メンフィス(テネシー州)を経てシカゴ(イリノイ州)が終点です。
2) Teresa Wright演ずる娘はHerbert Marshall演ずる入院中の父親を迎えにボルティモア(メリーランド州)に汽車で向います。
ニューオーリンズにはAmtrak鉄道のCrescent線もあり、ニューオーリンズから北に向って、私の住む町メリディアン(ミシシッピ州)、バーミングハム(アラバマ州)、アトランタ(ジョージア州)などを経てボルティモアを通過してニューヨークが終点となっています。
3) 列車で帰宅途中、Herbert Marshall演ずる父親は気分が悪くなってモビール(アラバマ州)で途中下車し、一泊します。
モビール(アラバマ州)は実は上のCrescent線の沿線ではなく、ニューオーリンズで発着するもう一本のAmtrak鉄道であるSunset Limited線の駅になります。この線は東へ行くとモビールを経てオーランド(フロリダ州)が終点。西へ向うとロサンジェルス(カリフォーニア州)が終点というアメリカ最長の路線です。ただ、モビールはニューオーリンズから車で二時間弱という近距離にあります。作者が舞台はニューオーリンズと特定したかったら、この途中下車は距離的には私の住むミシシッピ州のメリディアンかローレルになるべきところでしょうが、いずれも観光地ではなく全米的には無名の町です。作者は舞台を“匿名”にする利点を活かし、別の鉄道路線の著名な町を選んだとも考えられます。
いずれにせよ、三本の鉄道の扇の要となっているのはニューオーリンズですので、作者のイメージはここにあったと考えていいでしょう。これはあくまでも私の推定です。作者は「そういう詮索は無意味なばかりでなく、迷惑でもある」と云うかも知れません。なお、原作・脚本のLillian Hellman(リリアン・ヘルマン)はニューオーリンズ生まれですが、五歳でニューヨークに移っているそうなので、あまりこの問題とは関係ないでしょう。
一ヶ所、私の「ニューオーリンズ説」にそぐわない台詞が出て来ます。それは新聞編集者Richard Carlsonの「紡績工場を町に作る理由の一つは、ここが国中で最も平均給与の安い土地だからだ」というものです。全米で最も貧しいのはミシシッピ州です。ルイジアナ州はミシシッピ州よりは恵まれている筈なので、この台詞を根拠にすれば「ニューオーリンズ説」は崩れます。しかし、ミシシッピ州で蟹を買いに行くような海辺の町はCrescent線沿いにはありません。
(July 04, 2007)
【追記】キネマ旬報社『アメリカ映画200』(1982発行)の『偽りの花園』の項で、映画評論家・登川直樹氏が撮影に関して以下のようなことを書かれています。
「ウィリアム・ワイラーの演出は(中略)パン・フォーカスの技法を活用して縦の構図による統一をはかった。広間と二階の手すりを含む広い空間がこれに使われて、ホラス【編註:Herbert Marshallの役名】が発作を起こして苦しむのをリジャイナ【編註:Bette Davisの役名】が冷ややかに後ろから見つめていたり、リジャイナと娘のザーン【編註:Teresa Wrightの役名】が階段の上と下で対決したりするようなクライマックスを奥深い構図で見せる工夫をした。手前の人物のバスト像と後方人物の全身像が同一画面にともにシャープな画像でとらえられるのは、演技空間を左右よりも前後に広げた意味で新鮮な印象を与えるものであった。グレッグ・トーランド【編註:この映画の撮影監督】は三年をかけたというパン・フォーカス研究の成果を『市民ケーン』で大胆に試みたが、それに続く『偽りの花園』で、さらに円熟した流麗なスタイルに練り上げたのが注目される。ヘルマン=ワイラー=トーランド=デイヴィスの見事なアンサンブルから生まれた名作である」
(September 15, 2007)
Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
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