Flywheel

公開：2003年
監督：Alex Kendrick
地域：ジョージア州
出演：Alex Kendrick、Janet Lee Dapper、Tracy Goode、Walter Burnett、Lisa Arnoldほか
範疇：教会・信徒による自主制作もの／中古車セールス／阿漕な商法／家庭不和／覚醒／信仰

'Facing the Giants'『フェイシング・ザ・ジャイアント』（2006）、'Fireproof'『ファイアー･ストーム』（2008）などを自主制作し、アメリカ全土だけでなく世界中から好評をもって迎えられたジョージア州Albany（オルバニィ）の教会とその信徒一同による手作り映画の処女作。もともとは信徒一同と地元の市民の鑑賞のために作られたので、予算はたったの$20,000。セットなど建てられず、営業中の中古車セールス会社にお邪魔して撮影したそうで、顧客が来たり電話が入るとその度に撮影を中断しなければならなかったとか。編集にはMacコンピュータとFinal Cut Pro（編集ソフト）が使われました。劇場公開の収益は$37,000で、DVDは200,000枚も売れたそうです。大成功だったわけです。

映画の後半に出て来るローカルTVの女性リポーターだけが職業俳優ですが（キャスターは本物）、他のキャストは全てずぶの素人。しかし、キャスティングがいいせいか、それぞれよくやっています。撮影にはデジタル・ヴィデオカメラCanon XL1が使われましたが、脚本・監督・撮影・主演・編集（音楽の一部も）のAlex Kendrick（アレックス・ケンドリック）の出番の際には他の俳優が撮影しました。以下に、私が第二作'Facing the Giants'を紹介した記事の一部を再掲します。

この映画の生い立ちは非常にユニークです。それを知らずにこの映画を観てはいけません。ジョージア州AlbanyのSherwood Baptist Church（シャーウッド・バプティスト教会、信徒数3,000名）のassociate pastor（準牧師）であるAlex KendrickとStephen Kendrick（スティーヴン・ケンドリック）の兄弟は、「あなたに影響を与えるものは何か？」という全米のアンケート調査を見てがっかりしました。「教会」という答えは十位にも入っておらず、トップは映画とTVだったからです。「じゃあ、教会のメッセージを映画にしたらどうか？」と兄弟は考えました。上級牧師たちの賛同も得られましたが、映画製作に未経験な牧師たちに資金を出そうという人は出て来ません。彼らは先ず'Flywheel'（『弾み車』、2003）という映画を自主製作しました。地元の映画館で関係者だけの試写会を行なったところ、満員札止め。引き続く週末だけの公開でハリウッド映画を圧倒する興行成績を収めました。Blockbuster Video（レンタル・ヴィデオ会社）が全国規模でこの映画のDVDレンタルを開始し、七つの宗教TVチャネルが放映、85,000枚のDVDが売れるという結果になりました。

ジョージア州Albany。二年ほど前から中古車セールス会社を営むAlex Kendrickが、1958年製Triumph（トライアンフ）TR3というクラシック・カーを入手する。それはどこかが不良で動かないのだが、彼は専属の修理工Walter Burnett（ウォルター・バーネット）に直してくれるよう頼む。

Alex Kendrickは、社員の二人のセールスマンが呆れるような阿漕な商法を行なっていた。今日も衝突歴があって$1,000の価値も無いホンダ・アコードを$6,000で売る。妻と息子がオフィスへやって来る。息子は自分が描いた自動車の絵を父の机の上に置いて行くが、Alex Kendrickはろくに見もせずゴミ箱に捨ててしまう。

夕食時、妻Janet Lee Dapper（ジャネット・リー・ダッパー）がAlex Kendrickに車の売れ行きを尋ね、夫がホンダ・アコードを$6,000で売ったと聞いて、夫の商法に呆れる。それを聞いた小学生の息子は、友達に『僕はお父さんみたいになりたくない」と云い、それをAlex Kendrickが聞いてしまう。

Alex Kendrick一家が日曜礼拝に行く教会の牧師が、娘のための車を買いに来る。Alex Kendrickは$6,500で仕入れたトヨタ・カムリを、「$8,500で仕入れたのだが、$9,000であなたに売ろう」と持ち掛ける。彼を信頼している牧師は、それがいい取引であると思い込み、Alex Kendrickの善意を讃え、その場で神とAlex Kendrickに感謝する祈りを捧げる。Alex Kendrickは後ろめたい思いをする。

Alex Kendrickが借金をしている銀行から電話。「$32,400分の返済が一ヶ月遅れている。来月までに少なくとも1/3だけでも払ってくれないと、売り物の車を全部差し押さえすることになる」と云う。

また夕食の席上、Alex Kendrickの妻が「牧師さんにサーヴィスして上げた？」と尋ね、夫が$2,500もふっかけたと聞いて憤慨し、会社存続のために稼ごうとしている夫と口論になる。その夜、Alex KendrickはTVの宗教番組で牧師が「神の言葉を聞かないと、結婚生活も、家族も、職も、お金も失う」と説教しているのを聞く。

翌日、Alex Kendrickは、雇っているセールスマンが若い女性を口先で騙して車を買わせる手口を耳にし、いたたまれなくなる。彼がセールスマンを批判すると、「ああいうやり口をおれに教えたのはあんただぜ」と反論される。

家族には嫌われ、商売にも嫌気がさしたAlex Kendrickは、修理工のところへ行き、1958年製Triumph修理の進捗状況を尋ねる。修理工の老人Walter Burnettは「flywheel（フライウィール、弾み車）がおかしいんだ」と云い、フライウィールについて説明する。「鍵で点火するとスターターとフライウィールが噛み合って、クランクシャフトを廻す。そのクランクシャフトがエンジンをスタートさせるんだ。つまり、フライウィール無しでは車は動かないんだ」と云う。Alex Kendrickが家庭とビジネスで悩んでいることを口にすると、老人は「神に祈れ」と勧めます。Alex Kendrickは「神が私の云うことを聞いてくれるとは思えない。神は私が正直な男じゃないことを知っているし、私は悪い夫で悪い父親だということも知っているからだ。私は自分でも自分自身が嫌いだ」と告白する。老人は「わしにもそういう時期があった。だが、神がわしの人生を転がすままにするべきだということを学んでから、人生はとてもよくなった。このTriumphは美しい車だ。エンジンも申し分ない。しかし、正しい部品を取り付けるまでは動かないんだ」と諭す。

その夜、Alex Kendrickは跪（ひざまず）いて床に首（こうべ）を垂れて神に祈る。「イエスよ、助けて下さい。あなたの支配下に入ります。あなたが私のボスです」と。妻に詫び、会社では「今後は正直な価格で車を売る！」と宣言する。暴利で売らないと歩合収入が減ってしまうと案じたセールスマン二人が辞めてしまう。学期休みの六週間だけ働きたいという青年Daniel Titus（ダニエル・タイタス）がやって来る。青年が「最低賃金でいい」というので雇うことにする。この青年は、Alex Kendrickの留守中にファイル・キャビネットを開け、車の販売資料を盗み読みする。この青年は一体何者なのか…？

原題'Flywheel'の意味は上の記述でお分かりでしょうが、DVDのコメンタリーによれば、フライウィールが欠けている名車Triumphは、人生の歯車が正常に噛み合わなくなった中古車セールスマンAlex Kendrick自身を象徴しているのだそうです。Alex Kendrickのフライウィールは「心」で、それが欠けているせいで全てが狂ってしまっているわけです。

怪しい青年が去った後、物語は二転三転します。Alex Kendrickが神に不平を云う気になったりするほどで、単純に神に祈って目出度し目出度しでない点と、以前彼が騙した顧客たちに詫びに行くシーンはユーモア溢れる傑作描写で、脚本を褒めて上げたいと思います。

主人公の妻を演じるJanet Lee Dapperは、脚本の段階では妊娠していなかったので、妊娠・出産という事情は脚本に含まれていませんでした。しかし、撮影に入る前に現実に合わせて書き直す必要に迫られました。映画に出て来る女の赤ちゃんは、本当に彼女が生んだ子供です（名前は違いますが）。

一家が行く教会の大きさには目を見張らされます。ちょっとした劇場のサイズ。この映画のスタッフ・キャストは全てこの教会の関係者です（信者、牧師、教会従業員など）。映画のクレジット・タイトルには協力者の名前が延々と出て来ます。撮影現場のスタッフ・キャストに対してランチの差し入れをした人々の名前も数え切れません。

Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。