公開：1991
監督：Martin Scorsese
地域：ノース・キャロライナ州
出演：Robert De Niro、Nick Nolte、Jessica Lange、Joe Don Baker、Robert Mitchum、Gregory Peckほか
範疇：原作もの／リメイク／弁護士一家vs.前科者／怨恨・復讐／ストーキング／スリラー

私の評価 ：☆

【Part 1】

'Cape Fear'『恐怖の岬』(1962)のリメイクで、IMDbによれば"Southern Gothic"に分類されている作品。面白いのは、旧作の主演者Gregory Peck（グレゴリィ・ペック）とRobert Mitchum（ロバート・ミッチャム）、それに助演のMartin Balsam（マーティン・バルサム）等が“客演”という感じで出演していること。そればかりでなく、旧作の音楽を担当したBernard Herrmann（バーナード・ハーマン）のサントラもアレンジされて使われています。

ジョージア州。レイプ犯Robert De Niro（ロバート・デニロ）が14年の刑期を終えて出所する。彼は独房で読んでいた法律書は全て読み終えたとして、空身で出て行く。迎えの人間もいない。

ノース・キャロライナ州。弁護士Nick Nolte（ニック・ノルティ）の一家が紹介される。グラフィック・デザイナーである妻Jessica Lange（ジェシカ・ラング）と、15歳になる娘Juliette Lewis（ジュリエット・ルイス）。妻の愛犬とメキシコ人家政婦もいる。一家が映画を観に行くと、前の席でRobert De Niroが葉巻の煙をもうもうとさせ、馬鹿笑いを続けて一家を辟易させる。彼らがアイスクリーム・パーラーに行くと、レジから「お代はあの方から頂いてます」と云われる。“あの方”とは赤いオープンカーに乗ったRobert De Niroだった。

Nick Nolteは郡裁判所の書記の女性Illeana Douglas（イレナ・ダグラス）とスカッシュを楽しむ。二人は親しいが、不倫の関係には至っていない。しかし、Nick Nolteは「当分、会うのを止めよう」と云う。

Nick Nolteが車を動かそうとすると、Robert De Niroがサッと鍵を抜き取る。彼は「おれを覚えていないのか？」と迫り、Nick Nolteは「1977年のアトランタか？」と思い出す。Nick Nolteがレイプ犯Robert De Niroの公選弁護人を務めたのだった。Robert De Niroは「あんたに、失ったものについて教えてやろう」と不気味に呟く。

独立記念日を祝う花火大会が行なわれている。夫婦でセックスした後、妻Jessica Langeがふと窓の外を見ると、花火をバックに、塀の上にRobert De Niroが腰掛けている。夫と共に表に飛び出すと、男の姿は既に消えていた。妻は男が何者なのか知りたがるが、Nick Nolteは「14年も前のことなので覚えていない」と口を濁す。

しかし、Nick Nolteはよく覚えていた。彼は弁護士事務所のボスFred Dalton Thompson（フレッド・ダルトン・トンプスン）に打ち明ける。Robert De Niroは16歳の少女を犯しただけでなく、彼女に残酷な仕打ちをしていた。被害者は実は性的に放縦な性格で、当時三人の男と性交渉を持っていたことが分る。その事実を法廷に出せばRobert De Niroは14年の半分以下の刑期で済む筈だったが、Nick Nolteはその情報を握りつぶした。彼にはRobert De Niroの暴力が許せなかったからだ。この告白を聞いたボスFred Dalton Thompsonは驚く。どんな容疑者も弁護の機会を与えられるのは憲法に明記されていて、依頼人のために努力しない弁護士は弁護士の倫理に違反している。Nick Nolteは「分っている。だから公選弁護人の職を辞したのだ」と云う。「奴は文盲だったから、真実を知ることはない筈だ」と楽観する。

次に町中でRobert De Niroと出会ったNick Nolteは、「$10,000出すから町を出てってくれ」と買収工作をする。Robert De Niroは「仮に$50,000くれるとしても、14年×365日は約5,000日で、一日たった$10.00でしかない。最低賃金にも満たない」と嘲笑して去る。

妻Jessica Langeの愛犬が殺される。毒殺だった。Nick Nolteの訴えによりRobert De Niroが逮捕される。保安官補のRobert Mitchumに呼ばれたNick Nolteは、Robert De Niroの全身に隈なく入れ墨された入れ墨の内容に驚く。背中には大きく「真実」と「正義」を天秤にかける裁判のシンボル、左腕には「復讐するは我にあり」（ロマ書第12章19節）、右腕には"My Time is at Hand"（時は我が手中にあり）、他にも"The Lord is the avenger"（神は復讐者なり）など、様々な文句が彫られていた。

Robert De NiroはNick Nolteの遊び相手Illeana Douglasを誘惑し、モテルで手錠を嵌めて犯し、彼女の頬に噛み付く。彼女は訴えると裁判所の同僚たちや顔見知りの前で恥を晒し、Nick Nolteを巻き添えにするのを恐れて証言を拒む。Nick Nolteは妻や娘が次の標的にされるのを恐れる。保安官補のRobert Mitchumは「虎が野放しになっている場合、餌を見せておびき寄せるという方法もある」と示唆する。

Nick Nolteは私立探偵Joe Don Baker（ジョー・ドン・ベイカー）を雇う。彼は「ごろつきにRobert De Niroを襲わせて、州外に追い出すことが出来る」と唆す。Nick Nolteは「弁護士が法を冒すことは出来ない」と拒否する。しかし、Robert De Niroが教師になりすまして、娘Juliette Lewisに接近したことを知るにおよび、金を出してRobert De Niroを襲わせる決意をする…。

私は'The Night of the Hunter'『狩人の夜』(1955）のRobert Mitchumの悪漢役があまりにも見事だったので、今回のこの映画のオリジナル'Cape Fear'『恐怖の岬』(1962)を参考のために観ていました。これも中々面白かったのですが、ついぞ“南部もの”という気がせず、取り上げる気になりませんでした。しかし、どちらも撮影がジョージア州で行なわれていることが判明しました（1991年版はフロリダ州でも撮影）。さらに、"Cape Fear"（恐怖岬）という小説じみたタイトルは、実はノース・キャロライナ州に実在する地名であることを知り、唖然としました。根っからの“南部もの”だったわけです。【タイトルに関する裏話や他の興味深い点については1962年版の記事を御覧下さい】

聞くところによれば、このリメイクは最初Steven Spielberg（スティーヴン・スピルバーグ）に話があり、同じ頃監督Martin Scorsese（マーティン・スコセイジ）には'Schindler's List'『シントラーズ・リスト』(1993)を監督する話があったそうです。しかし、'Schindler's List'にはユダヤ人の監督が相応しいだろうと、二人は映画を交換したとされています。Martin Scorseseはこの映画製作に気が進まず、一年もほったらかしにしていました。そこで、（この映画の製作者の一人でもある）Robert De Niroがこの映画の役を実演して見せ、監督をやる気にさせたとか。

Robert De Niroは自分で選んだというダサいデザインで品のない色の衣装を着用し、全身の入れ墨といい、歳に似合わぬ長髪といい、とにかくうざったい人物をこれでもかこれでもかと印象づけます。彼を不死身のようにタフにしている脚本も効果的です。

ゲスト出演のようなRobert MitchumとGregory Peckは、それぞれの役には老け過ぎていてリアルさに欠けますが、それでも旧作の主演者がリメイクに何の拘りもなく応援に出て来るという態度が素晴らしい。彼らに声をかけたこの映画の製作者たちにも拍手を贈りたい思いです。

Nick Nolteのボスを演じるFred Dalton Thompsonは、'Die Hard 2'『ダイハード2』（1990）で飛行場の管制室責任者を演じたり、多数の映画に出演していますが、彼は上院議員でもありました。2008年の大統領選挙に共和党から立候補することを表明しています。

旧作と較べると、こちらの映画の方が全体的に説得力があります。旧作の悪役Robert Mitchumは自分の女性暴行を目撃され証言者となったGregory Peckを怨むのですが、これは逆恨みも甚だしい。それに較べれば、Robert De Niroが適切に弁護しなかったNick Nolteを怨む方が筋が通っています。また、弁護士役のGregory Peckも金を出してごろつきにRobert Mitchumを襲わせるような無謀な人間に見えませんでした。これは彼らが演じ続けて来た役による、観客の先入観のせいでもあるでしょう。ところが、Nick Nolteだと卑怯な手を使って当然の奴に見えます。旧作のGregory Peckには浮気の気配などありませんでしたが、リメイクの一家はNick Nolteの不倫が原因でジョージア州からノース・キャロライナに引っ越して来たことになっています。最初からNick Nolteはダーティな存在になっているのです。

タイトル・デザインはSaul Bass（ソウル・バス）一人だけでなく、奥さんのElaine Bass（イレイン・バス）と連名になっていて驚きました。揺れる水の反射をモチーフにした綺麗なタイトル・バックですが、あまりSaul Bassらしいユニークさがありません。もう彼のクリエイティヴな頭脳は冬眠状態になっていたようです。調べると彼のタイトル最終作'Casino'『カジノ』（1995）も奥さんと二人で作っていました。

'Cape Fear'『恐怖の岬』(1962)のPart 2に、オリジナルとリメイクの対照表をつけておきます。興味のある方はどうぞ。

(September 06, 2007)

Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。