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Heavens Fall

(未)


[Poster]


・原題をクリックするとamazon.comのInternet Movie Databaseの詳細データが見られます。邦題をクリックすると「allcinema」のデータが見られます。

・Part 2は普段は隠れていて、クリックするとJavaScriptによるウィンドウにて表示されます。取り扱いには十分お気をつけ下さい。

公開:2006
監督:Terry Green
地域:アラバマ州
出演:Timothy Hutton、David Strathairn、Leelee Sobieski、Bill Sage、B.J. Brittほか
範疇:実話の映画化/法廷もの/黒人青年たち9人の冤罪/北部の弁護士・南部の検事・偏見のない判事

私の評価 :☆

【Part 1】

これは1931に起きた'Scottsboro Boys'として知られる事件の裁判を、かなり事実に即して描いた物語です。ジョージア州からアラバマ州を経てテネシー州に向う貨物列車で旅するルンペンや渡り労働者たちに混じっていた二人の若い白人女性が、九人の黒人青年たち(年齢12〜19歳)にレイプされたと申し立て、九人の黒人青年たちはアラバマ州Scottsboro(スコッツボロ)で逮捕され、白人ばかりの陪審員たちによるスピード裁判によって死刑を宣告されました。州最高裁は第一審においては被告の人権が損なわれていたとし、再審理を命じました。この映画はその第二審を描いたものです。

当サイトでは、登場人物のイメージを掴みやすくするため、通常は一貫して俳優の名前で物語を説明するのですが、実話であるこの映画に関しては俳優の名前は最初だけにし、後は実際の人物の名前で通すことにします。

冒頭、貨物列車の無蓋車に乗っている白人女性二人と白人・黒人のルンペンたちの喧嘩や地元民に取り押さえられる黒人青年たちの映像が、目まぐるしいまでの編集で紹介される。

1933年。Timothy Hutton(ティモシー・ハットン)演ずるニューヨークの弁護士Samuel Leibowitz(サミュエル・リーボヴィッツ)は、殺人事件を担当して必ず勝利している有能な人物。彼のところへ全米共産党の一部門である国際労働者弁護組織がやって来て、「アラバマ州の'Scottsboro Boys'事件では、陪審員たちがたった20分で九人の青年たちに死刑を宣告した。とんでもない話だ。金は払えないが、是非弁護してくれ」と頼む。

弁護士Samuel Leibowitzはアラバマ州入りし、国際労働者弁護組織の弁護士と共に調査を開始する。

二審の陪審員選任の前に、Samuel Leibowitzは、David Strathairn(デイヴィッド・ストラザーン)演ずる裁判長James Horton(ジェイムズ・ホートン)に、裁判が行われる郡の陪審員選任委員会代表への質問を要請し、了承を得る。Samuel Leibowitzは「なぜ陪審員候補者名簿に一人も黒人がいないのか?」と問い、「黒人は正しい判断が出来ないからだ」という答えを得る。彼は続いて「黒人の聖職者、助祭、教師などもそうか?」と聞き、「黒人にもいい教育を受けたものは多い」と云わせる。「しかし、この名簿に黒人の名はない?」「その通り」。彼のポイントは、全米にアラバマ州の陪審員制度が人種的に偏ったものであることを示すことだった。

しかし、州検事とSamuel Leibowitzによる陪審員選任の結果は、全て白人男性となってしまう。弁護側には苦しい闘いである。黒人青年たち九人の容疑は個別に審理されることになっており、先ず最初はHaywood Patterson(ヘイウッド・パタースン)の裁判である。

検事側の最初の証人Leelee Sobieski(リーリー・ソビエスキ)演ずるVictoria Price(ヴィクトリア・プライス)は、テネシー州生まれ。彼女は女友達一人と顔馴染みの青年らと共に貨物列車に乗っていて、アラバマ州からテネシー州に向う途中だった。彼女は「九人の黒人にレイプされ、その一人はHaywood Pattersonだ」と証言する。反対尋問に立ったSamuel Leibowitzは、Victoria Priceが姦通の容疑で州内で告訴された記録を提出し、彼女の顔馴染みの青年とは刑務所で知り合った事実を暴露する(証人の人格不適格を示唆)。

喫茶店軒雑貨屋で偶然裁判長James Hortonと出会った弁護士Samuel Leibowitzは、「なぜこの事件を担当する気になったのか?」と尋ねる。裁判長は「真実を知り、正義を貫くためだ」と答える。

次の検事側の証人は、事件の後Victoria Priceの身体を診察した医師であった。検事は「九人の男性が彼女を性的に陵辱した可能性はあるか?」と聞き、医師は「可能性はある」と答える。Samuel Leibowitzは反対尋問で、「精子は何時間生き続けるのか?」と聞き、「24時間である」「あなたは当日顕微鏡で調べたのか?」「イエス」「精子は生きていた?」「ノー」「死んでいた?」「イエス」「では、何人の男の精子か、いつ性交が行なわれたのかも云えないのでは?」「その通り」

弁護側の証人の一人目は、Victoria Priceが貨物列車で同乗していた白人青年。彼は黒人たちが白人女性二人をレイプした事実はないと証言する。

弁護士Samuel Leibowitzと、Bill Sage(ビル・セイジ)演ずる検事Thomas Knight, Jr.(トーマス・ナイト二世)は同じホテルに泊まっていた。南部で生まれ育った検事は「われわれには親代々教育された黒人観がある。北部の人間には分るまい」と云い、弁護士は「私はリンカーンのゲティスバーグ宣言を11歳で暗唱し、その意味を考えた」と語る。

ある夜、町の住民多数が銃を持って被告Haywood Pattersonをリンチにかけようと押し掛ける。検事Thomas Knight, Jr.は「リンチではなく法律で被告を処刑するのだ。リンチで片をつけるのであれば、検事も判事も法廷も要らないではないか。必要なのは、銃と棍棒とロープと縛り首の木だけということになってしまう。われわれに任せて、帰ってくれ」と説得する。

弁護側の最後の証人が現われた時、法廷はどよめき、検事はショックを受ける。その証人はVictoria Priceの女友達で、一審でVictoria Priceと一緒にレイプされたと証言した女性だった。その彼女が弁護側の証人とはどういうことか…。

実話の映画化というものは、勝手にストーリィをでっち上げるわけに行かないので、得てして単調になりがちなものです。この映画は法廷でのやり取りも興味深い上に、主役の弁護士だけでなく裁判長と検事の個性もきちんと描いていて、結構味わい深く仕上がっています。検事も素直に弁護士の力量を認め、敬意を表します。弁護士が被告を証言台に上げると、裁判長は折り畳み椅子を持って被告の顔が見える位置に座ったりします。こんな場面はかつて観たことがありません。

弁護士を演じるTimothy Huttonは、この映画の製作総指揮の一人でもあります。David Strathairnは、誠実で良心的な判事(裁判長)という儲け役を滋味豊かに演じています。検事役Bill Sageも、南部の男でありながら法を守り、正義を貫き、弁護士Samuel Leibowitzに一目置くという、これも儲け役を過不足無く演じています。検事側の証人Leelee Sobieskiは、一見Helen Hunt(ヘレン・ハント)にそっくりなので驚いてしまいます。彼女はいま売れっ子で、出演映画の数も多いようです。

'To Kill a Mockingbird' 『アラバマ物語』(1962)の原作者はこの'Scottsboro Boys'事件にヒントを得たのではないか?と取り沙汰されたそうです。彼女は否定したそうですが、被告の数が異なるだけで枠組みは非常によく似ています。黒人の冤罪、リンチに押し掛ける群衆、法廷、黒人に同情する裁判長など。観ているこちらも、ついつい『アラバマ物語』と比較したくなりますが、それはちと酷というものでしょう。

原題の意味ですが、これは陪審員たちに裁判長が最後に話しかける言葉"Let justice be done though the heavens fall."(天が落ちようとも正義を貫くべし)というローマ時代の格言に由来します。彼は陪審員たちに「被告が黒人であるか白人であるかは度外視し、純粋に証拠によって判断さるべきである」と説き、最後に上の台詞を付け加えます。

(April 02, 2008)



Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。




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