公開：2006
監督：Tony Scott
地域：ルイジアナ州ニューオーリンズ
出演：Denzel Washington、Paula Patton、Val Kilmer、James Caviezel、Bruce Greenwood、Adam Goldbergほか
範疇：ファンタジー／テロ（フェリー爆破）／特別捜査本部／過去の再現／過去へのタイム・トラヴェル

私の評価 ：☆

【Part 1】

もともとはニューヨーク州ロングアイランドを舞台として書かれた脚本を、監督Tony Scott（トニィ・スコット）がハリケーンKatrinaで疲弊した都市復興の一助にと、場所をニューオーリンズに変更して撮影された映画。単に義侠心からだけでなく、ルイジアナ州がロケ隊招聘のため次のような特典を与えたからでもあるようです。1) 映画の出資者たちに出資額の25%を払い戻す、2) 現地労働者（ルイジアナ州民）を雇った場合、給与の10%（ただし、総額が100万ドル以下であること）をルイジアナ州が負担する。州としては、スタッフ・キャストの滞在費・食費、撮影機材・要員の調達費、地元俳優やエキストラの雇用、機材運搬要員・車輛レンタル費など全てを含めれば、ロケ隊がニューオーリンズに落とす金は、上のような恩恵を与えてもなお余りあるという計算だったのでしょう。

ハリケーンKatrina後のニューオーリンズ。出航を待つフェリー・ボート【註参照】。ちょうどマルディグラが最高に盛り上がった翌朝で、遊びまくった水兵たちが沢山乗り込んで来る。海軍の吹奏バンドが「聖者の行進」を演奏したりして、まだお祭りムードは消えていない。家族連れや小学校の生徒たちも沢山乗っている。フェリーの係員がナンバー・プレートの無い不審な車を発見し、窓越しに車内を覗くと時限爆弾がいくつも積まれていた。係はギョッとなるが、時既に遅く爆弾が炸裂し、船の燃料に引火し、フェリーは木っ端微塵となる。犠牲者の数は543人という大惨事だった。

【註】このフェリーは、Canal Street（キャナル・ストリート）の水族館の近くからミシシッピ川を横断して対岸のAlgiers（アルジェー）まで10分のAlgiers-Canal ferry（無料）。Algiersはもともとアフリカから拉致して来た黒人奴隷を“陸揚げ”した町で、名前もアフリカの都市名の頂き。私はフェリーには乗ったことはあるものの、Algiers地区を見物したことはありません。高級住宅と低所得者層の住宅地が混在した地区だそうです。

ATF捜査官【註参照】のDenzel Washington（デンゼル・ワシントン）が捜査を開始する。シェリフから「爆発前、頭を下にして水に浮いていた女性を見たという少女の証言があった」という電話があり、Denzel Washingtonは検屍医を訪れる。遺体は美しい女性だったが、左手の指数本が切断され、ガムテープで猿ぐつわされていた痕があった。

【註】ATFはBureau of Alcohol, Tobacco, Firearms（アルコール・タバコ・火器取締局）の略。もともとは財務省の一部門だったが、9.11以後、 税務調査部門だけを財務省に残し、任務に"Explosives"（爆発物）が追加されて司法省の管轄となった。

Denzel Washingtonは、死んだ女性Paula Patton（ポウラ・パットン）のフレンチ・クォーターのアパートを見に行く。そこには血が滲んだ衣類があり、壁のボードに磁石付きプラスティックの立体文字で"U can save her"というメッセージがあった。ボードには彼女の「Ford Bronco（ピックアップ・トラック）を売りたい」という新聞の三行広告の切り抜きも貼られていた。

「フェリー爆破事件」捜査本部の責任者は、特別捜査官Bruce Greenwood（ブルース・グリーンウッド）。彼はDenzel Washingtonがオクラホマ・シティの連邦ビル爆破事件の捜査を手掛けたヴェテランであることを知っていた。Denzel WashingtonはFBIの面々に「爆発物を積んだ車の持ち主Paula Pattonは自宅で殺害され、フェリー爆破前にミシシッピ川に投げ込まれ、あたかもフェリーの犠牲者のように偽装された。だから、Paula Patton殺人事件を解明すれば、フェリー爆破事件も解決出来る」と予言する。

FBI捜査官のVal Kilmer（ヴァル・キルマー）がDenzel Washingtonに捜査本部の特殊捜査部門に加わるように要請する。そこにはDenzel Washingtonが口をあんぐりするような装置が使われていた。四つのスパイ衛星が撮影した4.5日前のデータを合成して、望みの場所を望みの角度から映像として見られるのだ。"heat signal"（熱源）を感知して人間の行動も観察出来る。それも（'Blue Thunder'『ブルーサンダー』のように緑色のおぼろな陽炎のようなものでなく）HDTVのように天然色で鮮明な画像。おまけに会話まで聞ける。唯一の難点は、ヴィデオ機器のような早送り・巻き戻しが出来ず、リアルタイムでしか進行しないことだった。Val KilmerはDenzel Washingtonに4.5日前のフェリー乗り場の映像を見せ、「あんたならどこの部分を、どの角度で見たいか云ってくれ」と促す。Denzel Washingtonは「フェリーよりもPaula Pattonの部屋を見たい」と主張する。

大画面にPaula Pattonの生前の姿が映し出される。彼女が死に顔でさえ美しいと思ったDenzel Washingtonは、活き活きとしたPaula Pattonに見蕩れる。彼女の元婚約者が「Ford Broncoを売って金を送ってくれ」と電話して来て、Paula Pattonがバーで見知らぬ男から「車を買いたい」という電話を受ける場面を見る。その男の電話番号から公衆電話の場所を突き止めるが、男の顔は判別出来なかった。

Denzel Washingtonは、Paula Pattonが次第に神経質になり、日記に「誰かに見られているような気がする」と書いたのを見て、「おれたちが彼女を観察しているのを感じてるんだ！」と指摘する。彼は試みにレーザー・ポインター（大学の講義などで指し棒の代わりに使われるビーム）を画面に向ける。すると、画面の中の彼女が叫び声を挙げ、突如全ての動きが止まり、画面は暗転した。Denzel Washingtonは「おれがビームを向けたら4.5日前の彼女が反応した！これはどういうわけだ？彼女は生きてるのか、死んでるのか、どっちなんだ！」と怒鳴る…。

リアルなテロと惨劇の描写で始まった物語が、いつしかSFめいて来るという一風変わった映画。Denzel Washingtonが“切れるけど、明るく人がいい”捜査官を、魅力たっぷりに演じています。Val Kilmerにはアクション・シーンもなく、別に彼のようなスターでなくてもいいような役ですが、神妙に演じています。Denzel WashingtonとVal Kilmerの双方の子供たちが、かつてロサンジェルスの同じ小学校へ通っていたそうで、それがVal Kilmerをこの映画に参加させた動機だそうです。時と共に彼から'Top Gun'『トップガン』（1986）当時の凄みが消え失せているのが残念です。

Bruce Greenwoodはいつもながら手堅い演技。女優Paula Pattonは死んでる時が一番綺麗に見えました:-)。テロ事件犯人役のJames Caviezelは頑張っていますが、何も彼を引っ張り出さなくても…という程度の影の薄い扱い。勿体ない。

舞台をニューオーリンズに変更したせいで、Denzel Washingtonを何度も路面電車に乗せたり、バーボン・ストリートを歩かせたりして、街の雰囲気を出そうと努力しています。Denzel WashingtonやVal Kilmerがコートを着ている姿が何回か出ますが、私にはちと違和感がありました。調べると、ニューオーリンズの二月（マルディグラの月）の平均最低気温は7℃、平均最高気温は18℃となっています。ジャンパーで充分という気温です。ニューオーリンズに住んでいるカミさんの姉Alison（アリスン）に尋ねると、「寒ければコートの代わりにレインコートを着ることもあるが、着ないこともある（その時次第）」とのことでした。私はこの映画のように大勢の水兵の姿をみたことはなく、これも不思議だったのですが、「Algiersではないが、ミシシッピ川対岸に米海軍の基地がある。実際には、マルディグラには米海軍だけでなく各国の軍隊の船がやって来る」とのことでした。

(May 10, 2007)

Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
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