[English] [Japanese Home] [Studio BE] [America Offline] [公民権運動] [英語の冒険] [英語の冒険2] [Golf] [Hummingbird]



[Banner]



Daughters of the Dust

『自由への旅立ち』


[Poster]


・原題をクリックするとamazon.comのInternet Movie Databaseの詳細データが見られます。邦題をクリックすると「allcinema」のデータが見られます。

・Part 2は普段は隠れていて、クリックするとJavaScriptによるウィンドウにて表示されます。取り扱いには十分お気をつけ下さい。

公開:1991
監督:Julie Dash
地域:サウス・キャロライナ州
出演:Cora Lee Day、Alva Rogers、Barbara-O、Trula Hoosier、Umar Abdurrahamnほか
範疇:ドラマ/家族/未開の島/別離

私の評価 :☆☆

【Part 1】

[the South]

これは黒人の女流映画作家Julie Dash(ジュリー・ダッシュ)が、学生時代からあたためていた脚本の原型を、長年のリサーチと準備の末、製作・脚本・監督で作り上げた映画です。"Making of..."で見るJulie Dashは30代の女性のようです。

サウス・キャロライナ州の沖合いの島々は、昔アフリカ帰りの奴隷船が最初に立ち寄ったアメリカの領土でした。その島々には米や綿のプランテーションがあったそうですが、南北戦争の後は解放された奴隷達が入植し、アメリカ本土から孤立して暮しました。そのため、西アフリカの文化が色濃く残り、言葉も独特の方言が発生したそうです。このように孤立して暮らして来た黒人たちは"Gullah"(ガラ族)と呼ばれ、言語・文化を"Gullah"(ガラ)と呼ぶそうです。Jon Voight(ジョン・ヴォイト)主演の'Conrack'『コンラック先生』(1974)も、原作はこうしたガラ族の住む島の一つが舞台でした。

南北戦争(1861〜1865)が終って37年経った1902年。Ibo Landing(イボ・ランディング)という島に、黒人のPeazant(ペザント)というガラ族一家が住んでいた。一家の最年長者は80歳近い老婆Cora Lee Day(コーラ・リー・デイ)である。彼女の若い頃は、藍を採取し、衣料を藍染めしたり、レンガのように藍を固めたブロックを染料として売ったりしていた。手編みの篭作りなども盛んだった。だが、彼女が仕切っていた時代は終りを告げ、子供たちはみな島を出て北部に移住する計画を立てた。Cora Lee Dayだけは亡き夫の墓を守ってこの島で死ぬつもりである。

一家が荷造りを終えた日、Cora Lee Dayを囲む海辺でのピクニックが催された。この日のために昔家を出て今ではキューバで娼婦となっているBarbara-O(バーバラ・O)と友達のTrula Hoosier(トゥルーラ・フージァー)がやって来る。Cora Lee Dayの孫娘Alva Rogers(アルヴァ・ロジャース)は、現在妊娠中で大きなお腹を抱えているが、見たこともない本土行きにわくわくし、母親との再会を夢見て、Barbara-Oを質問攻めにする。Alva Rogersの夫Adisa Anderson(アディサ・アンダースン)はCora Lee Dayを置いて島を出ることに堪えられず、苛々し通しである。

浜辺で女たちが料理を始める。カニ,エビ、ハマグリ、鶏、とうもろこし、オクラ、玉ねぎなどが調理されて行く。家族の一人で、洗練された都会暮らしを自慢にしているCheryl Lynn Bruce(シェリル・リン・ブルース)が、子供たちに聖書を読んで聞かせたり電車の乗り方を指導する。彼女が連れて来た写真家Tommy Redmond Hicks(トミィ・レッドマンド・ヒックス)が、家族の島での最後の写真を撮りまくる。

楽しい食事が終り、そこここに屯して男女がお喋りを楽しみ、いよいよ最後にCora Lee Dayが家族一人一人の安全を祈る儀式が始まる…。

最初に説明した通り、これは特殊な方言を持つ人々の映画なので、わざわざガラ語の方言指導者を招いて特訓したそうです。そのままでは解りにくかろうと、封切りの時は字幕をスーパーしたとか(アメリカの封切りでですよ)。それなのに、このDVDには字幕がなく、正直私には家族関係も何がどうなっているのかもさっぱり解りませんでした。一回観終わって、二回目に監督のコメントを聞きながら再視聴してやっと概念図が構築されました。しかし監督も台詞をなぞってはくれたわけではありませんので、登場人物たちが実際どう喋ったのかは謎です。申し訳ない。

Cora Lee Dayを島に残すことに罪の意識を抱くAdisa Andersonは、庭の中くらいの古木の枝にボトルを差し込んだ"bottle tree"を壊します。これは只のデコレーションではなく、家族のお守りの木なのだそうです。

映像はとても美しい。ほとんど筋などないような映画で、重要な台詞のやり取りがある場面は三つぐらしかありません。その他は役者のアドリブとその場の思いつきで撮られたような気がします。

不思議なのは登場人物たちの装いです。島の外からやって来る人々はよそ行きですから、洒落ていて当然です。しかし、島の女性たちや子供たちまで裾が長く広い木綿の真新しいワンピースやブラウス+スカートを着ています。島で最後の日だから、お洒落をした?しかし、そのまま浜辺にごろごろ寝たりするんですよ?結構いい暮らしをしてるんだろうって?貧しい暮らしが嫌だから島を出るんですから、いい暮らしじゃないのです。いいおべべで浜辺で遊ぶ少女たちを見ると、島にこそ天上的平和があるようで、そこを捨てる決意をした人々が愚かに見えて来ます。DVDには歴史学者の話が収録されていますが、彼の開口一番の映画の印象は、「人々の衣装がクリーンで糊(スターチ)が効いているのに驚いた」でした。私は糊までは考えが及びませんでしたが、綺麗な衣装で波打ち際に寝っ転がるのは、ちとどうかと思いました。監督と衣装係がリアルさを追求したのではないことは明らかです。

キューバで暮らしている娼婦Barbara-Oは「この島は暑いし、蚊は多いし…」と故郷を貶します。映画の中でも何度か顔から虫を追う人の姿が見られましたが、実際は蚊の大群に囲まれて大変な撮影だったようです。DVDの"Making of..."を見ると、休憩中の俳優たちはみな蚊除けのヴェールをかぶっていました。監督は真夏を撮影期間に選んでしまったようです。真夏は天候は安定しているものの、南部では蚊が多いのです。私がフロリダ州南部で撮影した時、両岸を木に覆われた暗い川辺の道を歩いたら背中にびっしりと蚊が止まり、シャツが真っ黒くなるほどでした。この映画の場合、川辺でなく海辺なので蚊がいるのは不思議ですが、ちょっと日が翳ったりすると寄って来るのでしょう。風があると蚊は人体や動物に止まりにくいので活動を停止しますが。

(February 01, 2007)



Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。




Copyright © 2001-2011    高野英二   (Studio BE)
Address: Eiji Takano, 421 Willow Ridge Drive #26, Meridian, MS 39301, U.S.A.