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Contraband



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・原題をクリックするとamazon.comのInternet Movie Databaseの詳細データが見られます。邦題をクリックすると「allcinema」のデータが見られます。

・Part 2は普段は隠れていて、クリックするとJavaScriptによるウィンドウにて表示されます。取り扱いには十分お気をつけ下さい。

公開:2012年
監督:Baltasar Kormákur
地域:ルイジアナ州ニューオーリンズ、パナマ
出演:Mark Wahlberg、Giovanni Ribisi、Ben Foster、Kate Beckinsale、Lukas Haas、J.K. Simmonsほか
範疇:アイスランド映画のリメーク/密輸の天才/義弟の尻拭い/パナマ運河/裏切り/家族の危機

私の評価 : ☆

【Part 1】

深刻なアイデア不足に陥っているハリウッドは、大ヒット作よりもそこそこ儲かる安全パイ(リメークあるいはシリーズもの)で勝負しようという気運濃厚です。そこに目を付けたのが、この映画の監督のBaltasar Kormákur(発音不詳)。彼は自分が主演したアイスランド映画'Reykjavík Rotterdam'の英語版脚本をハリウッドに送りつけ、そのリメークを画策しました。脚本の段階から主役にはブルーカラー出身の俳優Mark Wahlberg(マーク・ウォルバーグ)を念頭においていました。Mark Wahlbergが脚本を気に入り、製作者の一人として資金も出すことになりました。Baltasar Kormákurは製作・監督となって、ついにこのアメリカ版が成立したのです。

ルイジアナ州ニューオーリンズ。Mark Wahlbergは以前“密輸のフーディニ(魔術師)”と呼ばれた天才だったが、堅気となって妻Kate Beckinsale(ケイト・ベッキンセイル)と、二人の間に生まれた幼い長男・次男と共に平穏無事に暮らしていた。ところが妻の若い弟Caleb Landry Jones(ケイレブ・ランドリ・ジョーンズ)がコカインの密輸入に失敗し、麻薬売人のGiovanni Ribisi(ジョヴァンニ・リビシ)から殺されかかる。Mark Wahlbergは義弟の苦境を救うため、Giovanni Ribisiの損害を埋め合わせする大金を得るべく、盟友Ben Foster(ベン・フォスター)を介して昔の密輸仲間を集め、大密輸作戦を企てる。

今回、Mark Wahlbergが選んだのは麻薬ではなく偽札(米ドル)であった。パナマには偽札作りの工場がある。その偽札を買って無事にアメリカに持ち帰れば、義弟の命は救えるという算段であった。Mark Wahlbergはパナマ市の昔なじみに電話し、「前に仕事した時の四倍の金を動かす。偽金とそれを運ぶライトバンを用意してくれ」と伝える。彼は盟友Ben Fosterが調達してくれた資金を腹に巻いて隠し、義弟と共にJ.K. Simmons(J.K.シモンズ)船長のコンテナ船に乗船する。彼が信頼する密輸仲間Lukas Haas(ルーカス・ハース)ほか数人がこの船で働いており、みなMark Wahlbergを助けるつもりである。

船長はMark Wahlbergをカーペット掃除人に任命する。Mark Wahlbergは黙々と働きながら、着々と密輸品の隠し場所を作ったり、海図を盗み出したりする。

パナマ運河を経てパナマ港に入る。自由行動の時間を増すため、エンジンに細工をする。Mark WahlbergはLukas Haasと、義弟Caleb Landry Jonesと共に町へ行き、依頼してあった大量の偽札を買おうとするが、紙質もインクも悪い粗悪品であった。Mark Wahlbergは迫る乗船時刻に追われながら、パナマの悪の首魁の根城に赴き、真っ当な偽札(?)を仕入れることにする。

しかし、偽札などより麻薬を望んでいた麻薬売人Giovanni Ribisiは、携帯電話でMark Wahlbergの義弟Caleb Landry Jonesを脅し、「義兄の金を持ち逃げして麻薬を仕入れろ」と指示する。「云う通りにしないと、Mark Wahlbergの長男を殺す」と云う。

悪の首魁から偽札を買おうとしたMark Wahlbergだったが、肝心の現金が無くなっていることに気づき、悪党どもから銃口を突きつけられる。Mark Wahlbergは、これから美術品輸送車を襲うという悪党どもの片棒を担ぐことにする。最近結婚したばかりのLukas Haasは怖じ気づくが、Mark Wahlbergに鼓舞される。

Mark Wahlbergは自分の運転する車を美術品輸送車にぶつけて停める。悪の首魁が美術品を奪うが、早くも駆けつけたSWAT部隊との銃撃戦が展開する。Mark WahlbergはLukas Haasと共に偽札を積んだライトヴァンで逃げ出し、仲間が必死で出発を遅らせているコンテナ船に逃げ込む。Mark Wahlbergは義弟が勝手に金を持ち出し、麻薬を買って船に持ち込んだことに怒り、義弟を滅多打ちにする。しかし、義弟の携帯電話のメッセージで、麻薬売人Giovanni Ribisiの脅迫を聞き、義弟を許す。

黒幕からの情報でMark Wahlbergが船に麻薬を持ち込んでいることを知った船長は、彼を脅して麻薬を取り上げようとする。知らぬ存ぜぬを通すMark Wahlbergに業を煮やした船長は、ニューオーリンズの米国税関・国境警備局にたれ込む。その頃、ニューオーリンズではMark Wahlbergの家族に危険が迫っていた…。

原題に使われている"contraband"は「密輸品」という意味です。

監督Baltasar Kormákurは、この映画のDVDの"Making of..."で「私はニューオーリンズ名物のフレンチ・クウォーターやジャズを取り入れるつもりはなかった。ミシシッッピ川で働く労働者の話を作りたかった」と云っており、港と工業団地などの映像はふんだんに出て来ますが、いわゆるニューオーリンズ名所は一切出て来ません。主人公の住む住宅にしても、ダウンタウンの川向こうのAlgiers(アルジェーズ)というブルーカラー向けの新興住宅地で、いわゆるニューオーリンズらしさはありません。

しかし、一つだけニューオーリンズ名物が出て来ます。傘を持って踊る"umbrella dance"です。映画はLukas Haasの結婚祝いのパーティで始まるのですが、パーティを開催している室内で、花嫁・花婿を始め全員が小振りの日傘を持って踊りまくります。この"umbrella dance"、正式には"second line"と呼ばれ、実は"Jazz funeral"(ジャズ葬送)の習慣から来ています。"Jazz funeral"は墓地へ行くまではスローな賛美歌などを演奏するものの、埋葬を終えてからは(故人の天国行きを祝って)ハッピーで賑やかな音楽になります。故人の親族の列("first line")とは別に、葬列にくっついて音楽だけを楽しむ連中("second line")が踊り出します。葬送のリーダーが日傘を持って踊ったのが"umbrella dance"の由来で、"second line"は日傘があれば日傘を、日傘がない場合は白いハンカチーフを振り回します。葬式の習慣が結婚祝いに応用されるというのも凄いですが、今やニューオーリンズの披露宴では珍しくない催しだそうです。

余談ですが、http://obit-mag.com/articles/dancing-away-your-grief の下の方に"Jazz funeral"の出棺のヴィデオがあります。何と、日本の祭礼の神輿のように遺体の入ったお棺をわっしょいわっしょい上に下に揺らすのです。死人だから痛がらないとはいっても、棺の蓋で頭を打って首が折れたりしないか心配になります。天国へ行くのも楽じゃないという感じです。

この映画のオリジナルはアイスランドが舞台の映画ですから、ニューオーリンズでなければならない理由は全くありません。オリジナル脚本は麻薬や偽札などではなく、酒の密輸入だったそうです。Wikipediaによれば「北欧諸国では、長い禁酒の伝統があった。アイスランドでは915年から1922年(ビールは1989年まで)禁酒令が施行された。今日でも、デンマークを除く北方諸国はアルコールの販売を厳しくコントロールしている。ノルウェー、スウェーデン、アイスランド、フィンランドでは蒸留酒・ワイン・ビールの専売が行われている」そうです。しかし、アメリカ合衆国では酒は自由に買えますので、脚本家たちは偽札を題材にすることにしたわけです。

監督は「パナマでは米ドル札が公式通貨なので、偽札作りは後を絶たない。偽札作りには(中古ではあるが)米造幣局が使うものと同じタイプの印刷機を用いている」と云っています。

Mark Wahlbergはいつも通りで可もなくなく不可もなし(彼はプロデューサーの一人でもある)。彼の右腕を演ずるLukas Haasは、'Witness'『刑事ジョン・ブック/目撃者』(1985)で、アーミッシュの可愛い少年を演じたあのLukas Haasです。あまりにも変わり果てているので、最初気づきませんでした。'Inception'『インセプション』(2010)を始め、映画、TVなどに数多く出演しているようです。

Mark Wahlbergの義弟役のCaleb Landry Jonesは、ちと貧相な顔立ちですが、ロック・グループの一員だったそうです。ロック・ファンには受けるのかも知れません。

船長を演ずるJ.K. Simmonsは、アメリカではユーモラスな感じのTV CMに出演していて、こういう悪役めいた人物を演ずる時に損をしていますが、映画の最後の方では結局観客の笑いを誘うオチがついているので、まあスマートな配役と云えそうです。

(July 30, 2012)



Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。




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