[English] [Japanese Home] [Studio BE] [America Offline] [公民権運動] [英語の冒険] [Golf] [Hummingbird]



[Banner]



I Am a Fugitive from a Chain Gang

『仮面の米国』

[Poster]


・原題をクリックするとamazon.comのInternet Movie Databaseの詳細データが見られます。邦題をクリックすると「allcinema」のデータが見られます。

・Part 2は普段は隠れていて、クリックするとJavaScriptによるウィンドウにて表示されます。取り扱いには十分お気をつけ下さい。

公開:1932
監督:Mervyn LeRoy
地域:ジョージア州
出演:Paul Muni、Glenda Farrell、Helen Vinson、Noel Francis、Allen Jenkinsほか
範疇:原作もの/実話/囚人

私の評価 :☆☆

【Part 1】

この「アメリカ映画“南部もの”大全集」は「『風と共に去りぬ』以降現在までの、南部を舞台にしたアメリカ映画群の紹介と短評」という設定なので、『風と共に去りぬ』(1939)の7年前の作品は本当は入れたくなかったのです。しかし、このサイトの“相談役”の井原さんが「是非、入れろ」とおっしゃるし、運悪く(?)CATVのTurner Classic Movies(CNN創立者のTed Turnerが道楽で買い集めた映画を放送するチャネル)に登場することを知ってしまったので、無視出来なくなりました。

原題を訳すと「俺は逃亡中のチェイン・ギャング」となります。驚いたことにこれは実話なのです。逃亡中の囚人の実話が、どうやって映画になるのか、そのからくりはPart 2で触れたいと思います。

第一次世界大戦から帰還した兵士Paul Muni(ポール・ムーニ)は、工兵として身につけた技術を活かして社会復帰を願っていた。出征前に勤めていた靴工場の配送係の仕事はうんざりだった。彼は母と兄のいる故郷ニュー・ジャージー州を捨て、北のボストン、南のニュー・オーリンズ、また北のウィスコンシン州、ミズーリ州、ケンタッキー州などをさすらう。どこで働いても長続きせず、ジョージア州に着いた頃は一文無しになっていた。

ふと言葉を交わした男が「ハンバーガーはどうかね?」と云う。「ハンバーガーを食べたのは、もう遠い昔だ」と答えると、男は「ついて来い」と云って個人経営のハンバーガー・スタンドに案内する。奢ってくれるとばかり思った男がポケットから出したのは財布ではなくピストルだった。Paul Muniはあたふたするが、脅されてレジスターから金を出す。逃げようとするところへ警官隊が押し掛け、ピストルを持った男を射殺。Paul Muniは強盗の罪で十年の重労働の刑となる。

彼が送られたのは屋外重労働キャンプ。両足に鉄の輪を嵌められる。ネジなどは無く、鍛冶屋がトンテンカンと鍛造で輪を閉じる。その二つの輪は鎖で結ばれている。それだけではなく、その真ん中にもう一つ鎖が伸び、端にもう一つ輪がある。この最後の輪は、就寝時には全員を一つの鎖で繋ぐため。トラック移動の時なども一台分の囚人がひとまとめに繋がれる。馬が逃げないように、数頭の馬の鼻輪を繋ぐのと全く同じ。家畜扱いなのだった。

毎日午前4:20に起床、朝食後直ちにトラックで運ばれて道路開拓、廃線鉄道のレール回収などでクタクタになり、帰るのは午後8:20。風呂もシャワーも無く、共同の一つの桶の水で汗を拭う。

刑期を終えて去って行く者もいるが、身体を壊して棺桶に入って出て行く者もいる。一言皮肉を云っただけで鞭打たれ、Paul Muniは「これでは殺されてしまう」と、綿密に脱走計画を練って見事に成功する。

彼はシカゴに辿り着き道路工事に雇われる。才能が認められて職長になってから、トントン拍子に出世する。もともとやりたかった建築家としての才能が開花し、設計事務所に納まってバラ色の将来があるやに見えたが、彼が逃亡囚であることを知る人間が登場するに及んで…。

監獄ものやチエイン・ギャングものの映画は数々ありますが、この映画がその草分けだそうです。過酷な労働、不衛生な監房、残虐な扱いなどは、それまで全く世に知られていず、この映画が偶然告発した結果となって改善がなされたそうです。

Paul Muniはもともとは舞台俳優ですが、この映画の前には世界中の話題になった'Scarface, the Shame of a Nation'『暗黒街の顔役』に出ていました。彼の起用といい、監督にヴェテランMervyn LeRoy(マーヴィン・ルロイ)を配したことといい、製作会社の意気込みが感じられます。Paul Muniは、この映画では開巻直後いかにも「二枚目でござい」という風に処理されたメーキャップでうんざりですが、チェイン・ギャングになって汚れてからはまともです。

第二次大戦前の白黒の映画ですが、古さを感じさせません。映画にもなったTVシリーズ'The Fugitive'『逃亡者』同様、主人公のハラハラドキドキの逃亡生活がテンポ良く描かれているからでしょう。逃亡と云えば、後発の'The Defiant Ones'『手錠のまゝの脱獄』(1958)や'Cool Hand Luke'『暴力脱獄』(1967) などの脱走法よりずっと気が利いています。逆に云えば、この古いお手本を越えるのは至難であると云えます。

月日の経過を暦が一枚一枚剥がれて落ちることで表しています。それが恰好良く翻って落ちるのです。CGなど無かった時代ですから、どうやったのでしょう。アニメーションかも知れません。

ほぼ70年前とはいえ、ハンバーガーが15セント、宿代が一晩25セントというのは驚きです。2001年現在、封書を出すのにさえ34セントします。

「俺は逃亡中のチェイン・ギャング」というのもあまりいい題ではないと思いますが、『仮面の米国』という邦題も不可解です。何のことなのか解らず、映画の内容を表していません。

(October 15, 2001)


Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。




Copyright ©  2001-2011   高野英二  (Studio BE)
Address: Eiji Takano, 421 Willow Ridge Drive #26, Meridian, MS 39301, U.S.A.