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Bonnie and Clyde

『俺たちに明日はない』

[Poster]


・原題をクリックするとamazon.comのInternet Movie Databaseの詳細データが見られます。邦題をクリックすると「allcinema」のデータが見られます。

・Part 2は普段は隠れていて、クリックするとJavaScriptによるウィンドウにて表示されます。取り扱いには十分お気をつけ下さい。

公開:1967年
監督:Arthur Penn
地域:テキサス州、ルイジアナ州
出演:Warren Beatty、Faye Dunaway、Michael J. Pollard、Gene Hackman、Estelle Parsonsほか
範疇:事実に基づく映画/男女の銀行強盗/殺人/逃亡/警察の追撃

私の評価 : ☆☆☆

【Part 1】

この映画はテキサス州Dallas(ダラス)で始まり、要所要所で道路標識やモテルの看板でミズーリ州とかアイオワ州などと主人公たちの移動先が示されます。しかし、南部諸州の名前はついぞ出て来ません。テキサス州を南部の範疇に入れる考え方もあるのですが、この『南部もの大全集』では“原則として”テキサス州を含めておりません(多少の例外はありますが)。ミズーリ州は南部に接しているものの、純粋に南部とは云えません。そういう理由でこの映画をこの全集から除外していましたが、たまたま「Bonnie(ボニー)とClyde(クライド)が射殺されたのはルイジアナ州である」という記事を読みました。それなら、大威張りでこの映画を全集に含めることが出来ると喜んだ次第です。

大恐慌時代のテキサス州Dallas(ダラス)。Faye Dunaway(フェイ・ダナウェイ)演ずる、退屈な毎日にうんざりしているウェイトレスBonnie Parker(ボニー・パーカー)は、Warren Beatty(ウォーレン・ベイティ)演ずる、刑務所を出たばかりで母の車を盗もうとしていた男Clyde Barrow(クライド・バロウ)と知り合う。Bonnieが「あんたが強盗を働いたなんて信じない」と云うと、Clydeはポケットからピストルを抜き出し、「よく見てろ」と云って目の前の食料品店に行って金を握り締めて出て来る。二人はその辺の車を盗んで逃げる。Bonnieは喜び興奮して、Clydeにキスしまくる。

ClydeはBonnieに「おれはlover boy(女たらし)じゃない。lover boyが欲しいんならDallasに死ぬまで留まれ。しかし、あんたは普通の女じゃない。あんたはおれを気に入った。ウェイトレス生活じゃ望めないような一寸違うことを期待してるんだ。一緒に旅しようじゃないか。カンザス州、ミズーリ州、オクラホマ州なんかを…」と云う。

二人は空き家で一夜を明かし、ClydeはBonnieにピストルの撃ち方を教える。ある銀行に押し入ると、それは倒産した銀行で男が一人いるだけで空っぽだった。食料品店で食料を奪おうとすると、逞しい店員が逆襲して来る。

二人はガソリン・スタンドの店員Michael J. Pollard(マイケル・J・ポラード)演ずる若者C.W. Moss(C.W.モス)に出会う。彼は車のメカに詳しく重宝そうだ。誘うとC.W. Mossはガソリン・スタンドのレジから金を盗んで来て二人に加わる。

三人は銀行を襲うが、C.W. Mossが行儀よく縦列駐車したため、すぐ逃げ出せず、Clydeは追跡して来た老人一人を射殺しなければならなかった。ClydeはC.W. Mossの馬鹿さ加減に怒り狂う。

ClydeがBoniieに「これからおれは殺人犯として追われる。キミが家に帰りたければ、バスに乗れ」と云うが、Bonnieは帰りたがらない。二人は抱き合ってキスする。Bonnieはセックスを期待するが、Clydeは勃起しない。彼は「おれはlover boyじゃないって云ったろ?」と云う。

Gene Hackman(ジーン・ハックマン)演ずるClydeの兄Buck Barrow(バック・バロウ)が刑務所を出て、Estelle Parsons(エステル・パースンズ)演ずる妻Blanche(ブランチ)と共に訪ねて来る。一行五人はミズーリ州Joplin(ジョプリン)の一軒家に住む。BonnieはClydeと二人だけで暮らしたいのだが、Clydeは兄と離れたがらない。市民の情報により警官隊がやって来ていきなり一味に銃撃して来る。Blancheが泣き喚く。銃で応戦しつつ、一味は命からがら逃げ出す。Bonnieは喧(やかま)しいBlancheを激しく嫌悪する。

一味は銀行を襲ったり、テキサス・レンジャー(州公安局法執行官)を捕虜にしてからかったり、オクラホマ州でGene Wilder(ジーン・ワイルダー)演ずる葬儀屋とその恋人を短時間誘拐したりする。Bonnieが「ママに会いたい」と云うので、彼女の郷里に行き彼女の親戚たちとピクニックを楽しむ。ClydeがBonnieの母親に「Bonnieの希望で、あんたの家から三マイルのところに住むつもりだ」と云うと、一見愚かに見えたBonnieの母親は、「そんなことをしたらすぐ殺されるじゃないの!逃げ続けるしかないのよ、Clyde Barrow!」と痛烈な言葉を吐き捨てて去る。

この後、どこへ行っても一味は官憲に所在を嗅ぎ付けられ、警官隊から銃撃されることになる。Clydeの兄は撃たれたのが因で死に、その妻Blancheは逮捕され、彼女の口からそれまで正体不明だったC.W. Mossのことが明らかになり、テキサス・レンジャーの包囲網が狭まって行く…。

キネマ旬報社『アメリカ映画200』(1982発行)の『俺たちに明日はない』の項で、映画評論家・筈見有弘氏が以下のようなことを書かれています。

「この映画の脚本家David Newman(デイヴィッド・ニューマン)とRobert Benton(ロバート・ベントン)は『エスクワイア』誌の編集部で働く親友同士で映画ファンでもあった。二人はフランスのヌーヴェル・ヴァーグに惹き付けられ、ゴダールやトリュフォーの題材に似たBonnieとClydeの短い青春の物語を脚本にした。二人はトリュフォーにシナリオを送った。トリュフォーは気に入ったものの『華氏451』の準備で多忙だったためゴダールを推薦した。しかし、ゴダールも『アルファビル』の撮影が迫っていた。パリでトリュフォーがWarren Beattyにこの脚本のことを話すと、Warren BeattyはすぐClyde役を演じたいと思い、製作さえ担当する気になった。彼と仕事をしたことのあるArthor Penn(アーサー・ペン)が監督を承諾した。第一稿から二年経っていた」これが、アメリカの“ニュー・シネマ”の先駆けとなるこの映画の前史だそうです。

当時、Warren BeattyとFaye Dunawayの粋な衣装の男女カップルによる銀行強盗は、かれらが悪党であるにもかかわらず新鮮でカッコいいと受け止められました。二人の演技も溌剌としており、それが当時の観客を魅了しました。Gene HackmanやMichael J. Pollardなどの新顔の演技陣もフレッシュでした。特にMichael J. Pollardの(悪の道を悪と感じない)純真な表情は印象的です。

この映画でアカデミー助演女優賞を射止めたEstelle Parsonsは、大学で法学を修め、TVの政治関連のニュース・リポーターも務めたことがあるという異色俳優。アクターズ・スタジオで演技を学び、いくつかの大学で演技を指導してもいました。彼女の役名Blancheは『欲望と云う名の電車』のBlancheと同じスペルなので、フランス風に「ブランシュ」と読むべきなのでしょうが、この映画の登場人物たちはみな彼女を「ブランチ」と呼んでいます。レッドネックの無学さを出したかったのかも知れません。

Bonnieの母親を演じたMabel Cavitt(メイベル・キャビット)は、Bonnieの親戚たちのピクニック・シーンの撮影を見物に来た野次馬の中の一人(学校の教師)でしたが、その場で母親役をオファーされたのだそうです。台詞は少ないものの、かなり存在感があります。

誘拐される葬儀屋Gene Wilderは、これが映画初登場。

製作・主演のWarren Beattyは、(多分フランスのヌーヴェル・ヴァーグの影響で)この映画を白黒で撮りたかったそうですが、配給のワーナー・ブラザースが断固カラーを主張しました。また、ワーナーはこの映画をB級として位置づけ、興収にあまり期待していなかったため、Warren Beattyのギャラを総収入の40%という契約にしたそうです。映画は世界的大ヒットとなったため、結果的にWarren Beattyはウハウハ笑いが止まらなくなったことになります。

この映画を公開時に観た時には、Clyde Barrowの勃起不全についてよく理解出来ませんでした。Wikipedia(http://en.wikipedia.org/wiki/Bonnie_and_Clyde)で彼らの記事を読んで、やっと分かりました。彼は窃盗の罪でテキサス州のEastham Prison Farm(イーサム刑務農場)に服役させられた際、服役者の中のボスの男色の餌食にされていたのだそうです。映画ではそれについて語られていませんが、多分それが勃起不全の原因だったでしょう。Clydeはこの施設を怨んでおり、(映画には出て来ませんが)後にここを襲撃して囚人たち数人を脱獄させました。

最近の暴力に満ち溢れた映画群を見慣れた目で見ても、この映画の暴力は凄まじい。脚本と監督は、その暴力と暴力の間をコミカルなシーンで繋いでバランスを取っています。しかし、実際に主人公たちの「悪」を観客に「悪」と感じさせないのは、Warren BeattyとFaye Dunawayの、まっしぐらに「明日なき明日」へと突き進むしかないひたむきさでしょう。行き場のない、しかし生きなければならない「生き方」がわれわれの共感を呼ぶのだと思います。

C.W. Moss演ずる若い男の父親は、C.W. Mossの胸にある大きな刺青を毛嫌いし、息子を罵倒します。しかし、私の住む人口40,000人の町に四軒も刺青の店があるほどで、若い男女の刺青は(大小の差はあっても)珍しくありません。私個人は刺青などする奴は馬鹿だと思いますが、南部では大人気なのです。この映画の脚本家たちは、北部人の観点からC.W. Mossの親父に「刺青=ヤクザ稼業」として否定させ、後のこの親父の裏切り行為の伏線にしたのでしょう。しかし、南部人が刺青を毛嫌いするという要素は、そこに住んでいる私にはかなり嘘っぽい感じがします。

(July 29, 2011)



Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
なおIMDbはamazon.com、「allcinema」は株式会社スティングレイの登録商標です。




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