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公開:2009年
監督:John Lee Hancock
地域:テネシー州
出演:Sandra Bullock、Tim McGraw、Quinton Aaron、Jae Head、Kathy Batesほか
範疇:実話に基づいた物語/ホームレスの黒人青年と白人の保護者/周囲の偏見/フットボール/母校愛
私の評価 : ☆☆1/2
【Part 1】
事実に即した映画であるが、脚本で主人公の黒人少年の勉学能力を信じない教師たちが描かれていることを理由に、実際のmiddle schoolは撮影を拒否。撮影はテネシー州ではなく、校名を変えて全てジョージア州で行なわれた。
映画の初めに、次のような説明がある。1985年、プロ・フットボール・チームRedskins(レッドスキンズ)のクォーターバックJoe Theismann(ジョー・タイズマン)はトリック・プレイの最中、相手チームNew York Giants(ニューヨーク・ジャイアンツ)のラインバッカーLawrence Tayler(ローレンス・テイラー)にタックルされ、続いて大勢の人間の下敷きとなった(骨折して再起不能)。右利きのクォーターバックの左側は"blind side"(ブラインドサイド=盲点)と呼ばれる。この事件はゲームの概念を変えた。クォーターバックの"blind side"を守るoffensive left tackle(攻撃サイドの左側タックル)の重要性が認識され、そこには巨体の選手が採用されることになり、プロのoffensive left tackleはクォーターバックに次ぐ高給取りとなったのである。
テネシー州メンフィス。キリスト教徒のためのmiddle school(5〜8学年)に巨人のような少年Quinton Aaron(クウィントン・アーロン)が編入を希望する。フットボールのコーチは彼の能力を見抜き、学校が彼を受け入れるよう説得する。少年は"Big Mike"と呼ばれた。彼は寡黙で授業も理解しているのかどうか定かでない。教師たちは彼の進級を疑問視する。
感謝祭(毎年11月の第四木曜日)の夜、学校では生徒たちが家族に見せる劇が行なわれた。Taco Bell(タコベル、メキシコ料理のファースト・フード・チェーン)を65店舗も経営しているTim McGraw(ティム・マグロウ)とSandra Bullock(サンドラ・ブロック)夫妻も、長男Jae Head(ジェイ・ヘッド)の学芸会を楽しんだ。帰途、Sandra Bullockは冷たい雨に打たれながら歩く少年Quinton Aaronを目にし、夫に相談もせずに少年に一夜の宿を与える決意をする。
翌朝、Sandra Bullockが起床すると、少年の姿は既になく、毛布やシーツがきちんと畳まれてあった。Sandra Bullockは、黙って去ろうとした少年をつかまえ、車で彼の養い親の家に送る。そこは町の反対側の黒人街で、人相風体のよくない男たちがうろついている。怖がるSandra Bullockに、少年は「大丈夫。ボクがおばさんの背後を守るから」と云う。少年の養い親の家は強制立ち退きで藻抜けの空であった。Sandra Bullockは少年にシャツや靴などを買い与え、家に連れ帰る。少年は「"Big Mike"という綽名は嫌いだ。Michael(マイクル)がいい」と云う。
Sandra Bullockの女友達のグループは、Sandra Bullockが黒人を家に入れていることに違和感を抱き、「その子にTaco Bellで無料で飲食させると、白人たちがむかつくわよ」とか「娘の身が心配じゃないの?」と云う。Sandra Bullockは少年の大人しい性格を知っているので、むっとする。長女Lily Collins(リリィ・コリンズ)も友達から黒人と住んでいることで陰口を叩かれているようだ。長男だけは学校で「ボクの兄貴だ」と自慢しているらしいが。
春になった。Quinton Aaronはフットボールの練習に参加する。長男Jae Headがトレーナーとなって訓練を助ける。
Sandra Bullockは少年の過去を探り、母親を尋ね当てる。少年の母親は「誰があの子の父かも分らない」と放縦な過去の生活を告白し、息子には会いたくないと云う。
Sandra Bullockは家族を集める。夫Tim McGrawが「われわれはキミの正式な"guardian"(保護者)になろうと思うが、どうかね?」と聞く。少年は「"guardian"って何?」と尋ねる。Sandra Bullockが「家族の一員ってこと」と説明すると、少年は「もうとっくに家族の一員だと思ってた」と云う。
フットボールのコーチは「この子は性格が大人しいので、相手を突き飛ばしたり出来ないようだ」と呆れ果てる。練習を見ていたSandra Bullockがフィールドに出て行き、「いつか黒人街で私が怖がっていた時、あんたは『ボクがおばさんの背後を守る』と云ったわよね。【クォーターバックの胸ぐらを取って引っ張って来て】この人を私だと思って守りなさい。何が何でも守り通すの。いい?」と檄を飛ばす。その後、少年は人が変わったような大奮闘でクォーターバックを守り続け、コーチを狂喜させる。
初の他校との対抗試合。少年Quinton Aaronは相手チームのタックルに馬鹿にされ、罵られ、まるで木偶の坊のような存在となって、コーチや見物するSandra Bullock一家をやきもきさせるのだが…。
実際の少年の保護者となった夫婦は、共にミシシッピ大学(University of Mississippi、愛称Ole Miss【オール・ミス】)の卒業生です。在学中、夫はバスケット・ボールの選手、妻はチア・リーダーでした。アメリカの母校愛は日本の母校愛を遥かに上廻っています。なにしろ、車やゴルフカートのナンバー・プレートにも母校のロゴやマスコットの絵を入れ、フットボール・シーズンには家の玄関や自家用車の両側に母校の旗をはためかせるほどなのですから。ミシシッピ州にはもう一つMSU(Mississippi State University、ミシシッピ州大)という大学があって、どちらも州立であることには変わりはありません。ただ、出自が異なります。Ole Missは法・文・医科系であり、MSUはもともと農・工系が始まりでした。Ole Missはミシシッピ州のNo.1の大学と目されています。少年の保護者となった夫婦が、少年をOle Missに送ろうとするのは自然のなりゆきです。
少年の家庭教師となるKathy Bates(キャスィ・ベイツ)の役もOle Missの出身者です。Sandra Bullockが「フットボールの奨学金を得るために成績を上げなくてはならないの」と目的を説明すると、「Ole Missも候補に入ってるのかしら?」と聞き、「当然」との返事に、Kathy Batesは満面に笑みを浮かべて家庭教師を引き受けます。これも母校愛です。
NCAA(全米学生体育協会)が、Ole Miss卒業生夫妻が子弟の自由な意志を束縛してOle Miss行きを強制したのではないか?との疑いを持った時、Sandra Bullockは「あなたが望むならテネシー大に行きなさい。私はどの試合でもあなたを応援するわ」と云います。少年は「どの試合でも?」と問い返します。それはテネシー大対Ole Missの試合でもテネシー大を応援するということか?という意味です。Sandra Bullockは「その通り」と答えます。いいですか?これは云ってみれば、揃って慶応大学出身の夫婦が息子のために早稲田大学の野球チームを応援するという感動的な表現なのです。一家を挙げてOle Missを応援している家族が、母校チームをやっつけようとするテネシー大の“息子”を応援するというのは、想像するだけで大変なことです。
主人公Michael Oher(マイクル・オール)が映画で描かれているのは2003年の頃のようです。リトル・ロック(アーカンソー州)のセントラル高校の人種統合の際(1957年)に、白人の父兄(特に母親たち)が恐れたのは、自分の娘たちが黒人生徒と交際を始め、黒人の子供を妊娠することでした。それから46年も経ったこの映画の時代でも、全く同じことを白人女性たちが心配します。確かに、残念ながら南部の人種偏見は終っていません。私の周囲でもいまだに"nigger"という言葉が聞かれますし、黒人を蔑視する見方は厳然と存在します。その幾分かは、毎日の新聞の一面に出て来る犯罪に縁の深い黒人たちにも責任があるのですが…。
Sandra Bullockはこの映画で主演女優賞を得ていますが、別に感動的な演技を見せているわけではありません。泣かせる場面はいくつかありますが、それらは脚本と演出の功績です。コーチを差し置いて少年にチームの中での役割を説くシーンは面白いものの、彼女がしょっちゅう演じている「人を食った女性」像であり、特に新味はありません。私のカミさんは「Sandra Bullockの性格が嫌味だ」と云って、途中で観るのを放棄しました。カミさんもどちらかと云うと我が儘で独断専行的なところがありますから、プラスとプラス、似た者同士でお互いに相容れないのでしょう:-)。
主人公Quinton Aaronは時折ニッと笑うだけで、ほとんど芝居らしい芝居をしていません。素人なんですからしょうがないでしょうけど。
少年の家庭教師を演ずるKathy Bates(キャスィ・ベイツ)がいい味を出しています。ダイエットしたのか、以前よりも痩せていて好感が持てます。
NCAAの調査員を演じたSharon Morris(シャロン・モリス)も印象的です。独特の美貌もさることながら、細かい表情による表現がなかなか。39歳でこれが三作目というのが信じられません。今後の活躍を期待したいと思います。
(May 06, 2010)
Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
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