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公開:1928
監督:Charles Reisner
地域:ミシシッピ川沿いのどこか
出演:Buster Keaton、Ernest Torrence、Tom McGuire、Tom Lewis、Marion Byronほか
範疇:無声喜劇映画/おんぼろ蒸気船船長と新蒸気船オーナーの確執/都会育ちの青年/ロマンス/ハリケーン
私の評価 :☆☆☆
【Part 1】
この映画は大分前に観ていたのですが、IMDbの撮影地がカリフォーニア州となっていたので“南部もの”に含める気にはなりませんでした。しかし、この映画の主題の蒸気船とハリケーンという組み合わせは、どう考えても南部の象徴です。Huckleberry Finn(ハックルベリィ・フィン)の映画のいくつかもカリフォーニア州で撮影されていたことを思い出し、これも撮影はカリフォーニアだが舞台は南部ではないか?と期待。Googleのキイ・ワードを"Steamboat Bill, Jr."と"Mississippi"にして検索してみました。大量に見つかりました。その中の、映画紹介記事の主なものを閲覧してみると、100%がこの映画の舞台はミシシッピと書いています。やっぱり!これを紹介出来ることになって、とても嬉しいです。
ミシシッピ川沿いの架空の町River Junction。"Steamboat Bill"(蒸気船のビル)という綽名のErnest Torrence(アーネスト・トレンス)は、備え付けの浮き輪さえ沈んでしまうような老朽船Stonewall Jackson号の船長。
ある日、町民は総出で港の桟橋に押し寄せ、町一番の金持ちTom McGuire(トム・マグワイア)が購入した真新しい蒸気船の就航を祝う。Tom McGuireは銀行やホテルを経営し、新聞まで発行しているこの町の有力者である。彼はErnest Torrenceのおんぼろ蒸気船をコケにし、Ernest Torrenceをカッカとさせる。
Ernest Torrenceの元へ電報が届く。赤ん坊の時に離ればなれになり今はボストンに住む息子Buster Keaton(バスター・キートン)からで、「学校を卒業したらお父さんに会いに行けという母の願いを叶えようと思います。土曜日の10時に駅に着きます、白いカーネーションを胸に刺していますので、すぐ分ることと思います」
しかし、間の悪いことにその日は「母の日」だった。駅のプラットフォームには白いカーネーションを胸に刺した男がうじゃうじゃいる。大男のErnest Torrenceは自分よりも背が高く育ったであろう息子を探し、目の前にいる小男のBuster Keatonに気づかない。その小男は、ベレー帽をかぶり、チョビ髭を生やし、縦にストライプの入ったジャケットを着て、おまけにウクレレを抱えているという軟弱そのものの出で立ちなのだ。こんな男が自分の息子であろう筈がない。
しかし、小男のバッグの名札には自分と同じ姓が書かれていた。Ernest Torrenceはがっかりする。彼はBuster Keatonを床屋に引っ張って行き、チョビ髭を剃らせてしまう。
Buster Keatonはボストンの大学で一緒だった女性Marion Byron(マリオン・バイロン)に出会う。彼女は金持ちTom McGuireの一人娘で、Buster Keatonを父に紹介しようとする。Tom McGuireはBuster Keatonの遊び人風の出で立ちを見て馬鹿にする。怒ったErnest Torrenceは、Buster Keatonを洋服屋に連れて行き、「船乗りに相応しい格好にしてくれ」と頼む。洋服屋はつなぎの服などを取り出すのだが、金持ちの娘Marion Byronは海軍将校の制服を選ぶ。Buster Keatonの格好は変わっても金持ちTom McGuireの気持は変わらず、「おれの船に足を踏み入れたら首をへし折ってやる」と宣言する。Ernest Torrenceも「あんな奴の娘とはつきあうな」と息子に云い渡す。
ロミオとジュリエットの境遇になったMarion ByronとBuster Keatonは、夜中に密会しようとする。それを知ったErnest Torrenceは怒り心頭に発してBuster Keatonにボストン行きの汽車の切符を渡す。そこへ蒸気船の乗組員が慌てて知らせにやって来る。港に告知が貼り出され、「老朽船Stonewall Jackson号は安全性に問題があるので、別途調査するまで営業停止」だと云う。Ernest Torrenceは宿敵Tom McGuireの仕業と見て、告知を破り捨てTom McGuireに掴み掛かる。シェリフは公文書を破棄した罪でErnest Torrenceを留置所に入れる。驚いたのはBuster Keaton。汽車の切符を破り捨て、父を救い出す決意を固める。
突如天候が激変。ダアーっと大雨が降ったかと思うと、雨は止んだが今度は強風が吹きつのる。Katrinaを上廻るハリケーンの来襲である。自動車は風で勝手に動き出し、家の屋根は飛び、壁は倒壊。建物は次から次へと崩れ落ちる。その町の中を危機一髪の危うさでうろうろするBuster Keaton。留置場の建物が川に滑り落ちて流れ出し、父親Ernest Torrenceが助けを求める。こちらでは娘Marion Byronも流れる家の屋根で悲鳴を挙げている…。
この映画の眼目は、このハリケーンのもの凄い描写と、Buster Keatonが吹き替え無しで演じるスタントの数々です。それ以前のお話はまくらに過ぎません。最も有名なスタントについて触れましょう。ある木造の納屋の前に立ってどっちへ行こうか迷うBuster Keaton。その納屋の前面の壁がガバーっと倒れて来ます。哀れ、Buster Keatonもぺしゃんこ・お陀仏かと思いきや、Buster Keatonの身体は納屋の明かり取りの窓枠にすっぽりはまり、奇跡的に助かっちゃう。1928年ですから、これはコンピュータ・グラフィックスでもなく、発泡スチロールの壁でもないんです。本物の板壁と本人によるライヴ・アクション。一寸でも計算が狂えば、Buster Keatonは死亡するかよくても頭蓋骨陥没なんかで植物人間です。このシーンの撮影の時、必要のない関係者たちは、彼の死亡に立ち会いたくなくてどこか見えないところに身を潜めていたそうです。
【上のシーンのQuickTime Movieを観たい方はこちらを→behindthemagic.com】
もう一つ破天荒なのが、強風に吹き飛ばされぬよう、Buster Keatonが街路樹に抱きつくシーン。しっかりした木に掴まって「やれ一安心」と思ったら、街路樹は強風で根こそぎ抜けて空中に浮かび、しがみついたBuster Keatonもろとも強風によって(垂直のまま)飛ばされます。この木は色んな障害物をひょいひょいとジャンプして除けて飛んで行くという、奇天烈な現象を見せてくれます。
とにかくこの13分ほどのハリケーン・シーンは必見です。ナポリは見なくてもいいが、これを観ないで死んではいけません。もともとの案では、この映画のクライマックスは洪水だったそうです。ところが、撮影に入ろうとした矢先、ミシシッピ川流域で本当の洪水があったため、地元を刺激しないようにハリケーンに変更したとのこと。なお、この映画は全編カリフォーニア州のサクラメント川で撮影されており、当時のお金で$135,000をかけて吹き飛ばされる町が作られました。
そうそう、「ハリケーン」の方が通りがいいのでそう書いていますが、実は海上で発生するものをハリケーンと云い、陸上で発生するものは"tornado"(トーネイド)と呼びます。2005年のKatrinaの場合はカリブ海で発生したのでハリケーンと呼ばれ、そのままルイジアナ州に上陸したものの、全く勢いが衰えずミシシッピ州、アラバマ州などに被害を及ぼしたため、最後までハリケーンと呼ばれました。この映画の舞台が特定されていないので(海に近いのか遠いのか分らない)、正確にはハリケーンなのかトーネイドなのか、何とも云えません。
この映画はディズニィのミッキー・マウスものの一編'Steamboat Willie'『蒸気船ウィリー』(1928)のモデルにされました。それも当サイトで紹介します。
(December 04, 2007)
Poster shown above is a courtesy of Nostalgia Factory.
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