Ben Hoganの’Five Lessons'(邦訳『モダン・ゴルフ』)が読者に与えた誤解はいくつかあります。その一つは一般ゴルファーにはスライサーが多いというのにフェードを打つためのウィーク・グリップを良いグリップとして推奨したことです。【Hogan自身がフック撃退に苦労したため】
The Golf Channel(ゴルフ・チャネル)の解説者Brandel Chamblee(ブランデル・シャンブリー)は、彼の本'The Anatomy of Greatness' (Simon & Schuster, 2016) でもう一つのポイントを指摘します。
Ben Hoganの『モダン・ゴルフ』のイラストに、右の写真の一齣が抜けていて両手が胸の高さから一気に太腿の高さになっている、その時点では右肘は身体の側面を離れコックは解かれてしまっている、これが多くの読者の誤解を招いた…というのです。
'The Fundamentals of Hogan' by David Leadbetter (Doubleday, 2000) という本は、『モダン・ゴルフ』のイラストの元になった多くの写真を分析し、Hoganの実際のスウィングと比較したものです。これを読むとHoganはイラストレーターのAnthony Ravielli(アンソニィ・ラヴィエリ)が構えた一枚写真のカメラに向かって少しずつ手の位置を変えたポーズをとっているだけなのです(煙草を吸いながら)。高速度カメラによる連続写真ではありませんでした。ですから、Hogan自身が右の写真の段階をすっ飛ばしたか、Anthony Ravielli(アンソニィ・ラヴィエリ)がイラストを描く時に飛ばしてしまったかどちらかです。
しかし、この一齣は重要です。右前腕とクラブシャフトとが重なってこの位置を通過することこそが理想的なスウィングだと思うからです。私はこれを「右肘が右ポケッ トを越えないスウィング」と表現し、数々の一流プロたちも同じ動作をしているということを発見しました。【参照】「正確無比なショットの秘訣」(tips_185.html)、「ダウンスウィングの研究」(tips_185.html)
私もBrandel Chambleeの説に賛成です。この一瞬のイラストを省略すべきではありませんでした。「右肘が右ポケットを越えないスウィング」は正確無比なショットのための秘訣です。それこそ真に下半身が先行するスウィングをしている証拠だからです。それはBobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)のスウィングにも発見出来る動作であることで明らかです。
【参考】「レイトヒットでスコアを減らす」(tips_203.html)
【おことわり:図は"https://www.best-putter.comにリンクして表示させていただいています】
(December 10, 2023)
●刻むなら確実に刻め
これはLPGAツァーで48勝を挙げたNancy Lopez(ナンシィ・ロペス)のtip。 '100 Classic Golf Tips'【LPGA version】 「刻む際に大事なのはクラブ選択である。時にはウェッジや9番アイアンで充分なこともある。 いけないのは欲張って長めのクラブを選ぶことだ。ラフからだと7番ウッドか9番ウッドで脱出出来るが、そのどちらもハザード(バンカーや小川など)に届いてしまうかも知れないので選ぶべきではない。私の父が云っていたことだが、刻むならショート目に刻むべきだ。 現在陥っているトラブルから新たなトラブルに突入したくないでしょ?」 そうなんですよね。われわれはボールが林に入っても横に出すことをしないで、木の間を抜いて距離を稼ごうとしたりする。向こう見ずで欲張りなんです。刻む場合にも、ハザード手前ぎりぎりに打とうというのは距離を稼ごうという欲です。 |
二打目を刻まなければならない状況に陥ったのなら、三打目がピッチングウェッジの距離でなく、9番アイアンでも仕方がない、安全に刻もうとすべきなのです。その道理に気づかず、少しでも遠くへ飛ばそうというのは作戦が間違っています。ティー・ショットに問題があったのなら、1ストローク増えても仕方がないと罰を受け入れる。1ストロークの損を同じこのホールで帳消しにしようとするのでなく、次のホールで頑張ればいいのです。
(December 10, 2023)
●古いクラブを打ってみた
ひょっとして古いクラブも役に立つことがあるかも知れないと思って、試しに打ってみました。
TaylorMade製 ドライヴァー 'r7' (ロフト10.5°、シャフトR)
Rawlings製 ドライヴァー (ロフト10.5°)
Adams製 'Tight Lies, strong 3' (ロフト13°)
…以上は距離も出ないし、方向性も良くなくて駄目でした。
・TaylorMade製 'RBZ, 3 HL'(ロフト17°、シャフトM)
これは仲良しだった高齢ゴルファーが亡くなった時に遺族から貰った3番ウッドですが、盛大なフックが出たのでNikeのハイブリッド(ロフト18°)に替えていました。
Nikeのハイブリッドと1°違いですが、この3番ウッドは上がりやすく出来ていて、ハイブリッドより10~20ヤード遠くへ飛びます。最近頭を動かさないスウィングにしているせいか、フックは出ません。早速、これをメインとして復活させました。なんでも新しければいいというものではないですね。
・サンドウェッジ Carbite製 Checkmate CS100
私がプレイしている市営ゴルフ場は全て安上がりにしています。バンカーも海岸のサラサラの砂ではなく、ミシシッピ河流域のどこにでも見られる土(川土?)をふるいにかけ、細かくしただけのものです。いったん雨が降ると固まってしまい、裸地と同じようになってしまいます。
裸地と同じなら普通のサンドウェッジについているバウンス(フランジとも云う)は必要ありません。裸地でバウンスの多いクラブを使うと硬い地面でヘッドが跳ね返され、ボールを直接打ってホームランを製造します。ゴルファーのせいではなくクラブのせいなのです。
私はサンドウェッジを何本か持っていますが、Nikeの56°は厚いバウンスを持っており、いいゴルフ場の良質の砂にふさわしいものでした。
Carbite社のものは度数は表示されていませんが同じく56°見当で、バウンスは薄く、私のゴルフ場に最適のようでした。これで私のウェッジはロブ、サンド、ギャップ…どれも固く湿ったバンカーでも心配なく打てるようになりました。
(December 10, 2023)
●練習マットの活用
アメリカ南部の一月、二月は例年雨が多かったり寒かったりなのですが、今冬は未曾有の寒波に見舞われゴルフどころではありません。しかしゴルフに上達したい私はじっとしておられず、室内での練習を欠かしておりません。
練習用の重いクラブは重宝です(写真下方)。これは短いので家の中でも振り廻せます。また、私の持っている練習マットにはゴムのティーを刺す穴が四つ開いており、真ん中に白線があります。これらを有効に使っています。室内での練習なので、ボールは無しです。
・スウィング
現在の私の課題は四つ。
1. 充分コックすること
私のこれまでのスウィングは控え目なコックだったのですが、それだと飛距離も控え目になり(^^;;、方向の正確さも不十分になることが判りました。これまではスウィングのトップでコックしていたのですが、テイクアウェイ直後から確実にコックすることにしました(アーリィ・コック)。過激ですが、これまでの穏やかなスウィングを変更するには少し過激にしないと駄目だと思っています。
さらに、高く上げるバックスウィングのトップではなくBobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)のようにフラットなトップを志向しています。あくまでも手首は折らずフラットにし、フルにコックします。
2. 頭を動かさないこと
今さらですが、ミスの元凶は頭が不動でないことです。Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)も「頭は絶対に肩と一緒に(左右に)動いてはならない」と云っています。で、スウィングする時はマットに開いた穴の一つをボールに見立て、インパクト直後まで自分の顎をその穴に向け続けようと努力しています。【註参照】 驚いたことに、これを遂行するとフィニッシュも大きくなります。これまでフィニッシュが小さくてとてもプロ風とは云えず劣等感を抱いていたのですが、これが身につけば最高です。
【註】アメリカのインストラクションの草分けAlex Morrison(アレックス・モリスン、1896〜1986)は「顎をボールの後部の一点に向け、ボールが打たれたかなり後までそのまま向け続けよ」と教えましたが、これは解りやすく実行しやすい方法です。
3. 穏やかなテンポでダウンスウィングを開始すること
これもBobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)が力説していることの一つですが、結構実行するのが難しいし、忘れがちにもなることです。ダウンスウィングの最初ではなくインパクトで最速のヘッドスピードになるように、緩やかにダウンスウィングを始めなくてはいけないのです。
4. 左腰が先行するダウンスウィングをすること
右に廻した左腰をターゲット方向に送り、次いで左膝を逆転させ、右ポケットに追いつかずに動く右肘でセーターの右裾を擦る。Ben Hogan(ベン・ホーガン)の真似ですが、これが正確な方向性の秘訣であることは間違いありません。Ben Hoganのセーターのように右裾が綻(ほころ)びる結果を見たいものです。
・パッティング
「完璧なストロークの探求」(tips_193.html)は床や地面に置いたクラブシャフトの上でストレートなストロークをするものでした。
クラブシャフトの代わりにマットの白線を利用し、白線の上でストレートなストロークをします。これだとシャフトを擦る耳障りなカシャカシャという金属音がなく静かです。
やり方は同じで、目をつぶってストロークし、フィニッシュで目を開けてパターフェースの中央が白線の上に留まっているかどうかを調べます。常時成功するようになれば正しいストロークがマスルメモリに記憶されていると云っていいでしょう。
春よ来い、早く来い!
【参考】
・「新・頭の研究」(tips_207.html)
・「新・コックの研究」(tips_207.html)
(January 20, 2024)
●松ぼっくりを打つ練習法
何か新しいスウィングを練習しようとする時、練習ボールを使うのはもったいない。多くの場合トップしてゴロになったりするのが落ちだからです。
Bobby Clampett(ボビィ・クランペット)は若い頃に松ぼっくりを集めて、それを打ちました。松ぼっくりを使うと安上がりなのは当然ですが、それだけでなく心理的にリラックス出来るのが利点だそうです。
スポンジ・ボールを打っても同じことですが、松ぼっくりのいいところは行方を探す必要がなく、失くなっても気にならないことです。スポンジ・ボールは失くしたくありません^^。
アメリカ南部はブラック・ベルト(黒人が多い地域)であり、バイブル・ベルト(熱心なクリスチャンの多い地域)でもありパイン・ベルト(松の木が多い地域)でもあります。日本と変わらないほど松の木が多いので、松ぼっくりはどこにでも落ちています。ゴルフ場にも沢山落ちているので、 好きなだけ集めることが出来ます。ちゃんと打てばちゃんと真っ直ぐ、しかもいい軌道で飛びます(距離が超短いだけ)。松ぼっくりも馬鹿に出来ません。
(January 20, 2024)
●'The Golfing Machine'(ゴルフィング・マシン)物語
1969年に初版が発行された'The Golfing Machine'(ザ・ゴルフィング・マシン)という本は、何度か改訂版も出され、そこそこ売れていたのですが、現在書店での購入は出来なくなり出版元(https://www.thegolfingmachine.com/product/the-golfing-machine-7th-edition-by-homer-kelley )から直接購入(本体$46.95)だけとなっています。
当サイトでは「The Golfing Machine(ゴルフィング・マシン)」(tips_87.html)と「続・The Golfing Machine(ザ・ゴルフィング・マシン)」(tips_131.html)の二回にわたって紹介していますが、どちらも「難解である」ということを強調していました【それがこの本の定評でもあります】。
しかし、次の本を読んで難解であることの謎が氷解しました。
'Homer Kelley's Golfing Machine'
by Scott Gummer (Gotham books, 2009)
普通われわれが手にするツァー・プロやインストラクターの本は、(正しかろうと間違っていようと)「ああせい、こうせい」というメソッド(方法、手順)が書かれているものですが、'The Golfing Machine'はメソッドでなく物理的・幾何学的なシステム(体系)を解説したインストラクターのための本なのです。云ってみれば「ゴルフ・スウィングの解体新書」。ゴルフ・スウィングというのはゴルファーによってアップライトだったりフラットだったり千差万別でグリップ、アドレス~インパクトまでの動作の組み合わせは千兆にも達するそうですが、そのどれかをいい悪いとは云えません。「こうするとこうなる」ということしか云えないのです。Jack Nicklaus(ジャック・二クラス)とLee Trevino(リー・トリヴィノ)のスウィングは似ても似つかぬものですが、両者ともメイジャーに優勝しています。
'The Golfing Machine'の著者Homer Kelley(ホーマー・ケリィ、1907~1983)の人生初めてのラウンドのスコアは116でした。彼は六ヶ月ゴルフせず、再度挑戦したらなんと77で廻れました。彼は色んなインストラクターになぜそうなったのか説明を求めましたが要領を得ない。そこで独りでコツコツと研究を重ね、その結果を29年後(1969年)に'The Golfing Machine'として自費出版しました。幸い、「これが私の教えたかったことだ」と感銘を受けたインストラクターが他のインストラクターたちを招いて、Homer Kelleyに説明会を催させたりして次第に信奉者が増えて行きました。
極めつけはBobby Clampett(ボビィ・クランペット、1960~)の登場でした。六歳でゴルフを始めた彼はたまたま'The Golfing Machine'を教科書とするインストラクターに師事し、大学時代までにアマチュア・トーナメントを総なめにし、彼が'The Golfing Machine'という本を研究していたことを公言したため、ついにゴルフ雑誌等も'The Golfing Machine'に興味を持つようになりました。
1982年ロイヤル・トルーンでの全英オープンにBobby Clampettが第三ラウンドまで二位に五打差という大量リードでトップに立ったため、'The Golfing Machine'は世界中が注目するところとなりました。惜しくも、彼は最終ラウンドで大叩きして11位に終わりましたが、彼の名と'The Golfing Machine'を広めるには絶大な効果がありました。
1982年に六版を出した後、1983年のある説明会の席上Homer Kelleyは心臓麻痺で亡くなってしまいます。未亡人は亡夫の96ページにも及ぶ手書きのメモを見つけ、それを網羅した第七版の出版を考えましたが、実現には至りませんでした。なお、次のような驚くべき一節があります。
「その頃、日本のビジネスマンが未亡人に接触して来て、日本語版を出版したいと申し出た。ただし、本の中の女性による説明写真は全て男性で撮り直さねばならないと云った。日出ずる国では女性がゴルフ・クラブを振るというのは許されないことだったのだ」
Martin Hall(マーティン・ホール、The Golf Channel『ゴルフの学校』講師)も'The Golfing Machine'を聖書のようにしてコーチし、名声を確立していました。彼の門を叩いた若者の一人はMorgan Pressel(モーガン・プレッセル、当時9歳)で、彼女は'The Golfing Machine'という本を読んだことはありませんでしたが、Martin Hallの薫陶を受け、12歳で全米女子オープンに出場を許され、18歳でメイジャー・トーナメントに優勝しました。最近の彼女はゴルフ・チャネルでLPGAトーナメントの解説をしています。
現在ではBryson DeChambeau(ブライスン・デシャンボー、2020年全米オープン優勝者、写真)が'The Golfing Machine'を愛読し、実践しているプロの一人です。
(February 01, 2024)
●'The Golfing Machine'(ゴルフィング・マシン)の理解出来るポイント
'The Golfing Machine'(ゴルフィング・マシン)という本は「こうスウィングせよ」とかtipsを並べた本ではありません。とはいえ、誰もが守るべきポイントが見当たらないわけではないので、それらを列挙してみます。これらは今回原書を読み直して(三回目)解りやすい部分だけをピックアップしたものであり、'The Golfing Machine'の全貌あるいは骨子というわけではありませんのでお間違えなく。
'The Golfing Machine'
by Homer Kelley (Star System Press, 1982)
「・アドレスでは左腕を出来るだけボールから遠ざけるべきである。【=左腕・手を伸ばしたアドレス】
・ゴルファーの目には、アドレスで両手が左爪先のごく近くか左爪先全体を覆うように見えるべきだ。これはプロと物好きゴルファーとを隔てるものである。
・右手はクラブヘッドをコントロールし、左手はクラブフェースをコントロールする。
・ダウンスウィングは足の近くの身体部品から始まり、次のような順序で動く:膝→腰→肩→腕→右肘→左手首→アンコック→手の回転。
・アドレスとインパクトの位置は全く異なるものだ
・クラブヘッド・ラグ(=レイト・ヒット)こそはゴルフの秘訣である。(写真)【編註:身体の捻転と、インパクト寸前までコックを保つことがラグを可能にする】
・スウィンガーは(ヒッターとは異なり)遠心力を操作するテクニックに全面的に依存している。遠心力だけがスウィンガーの手首をアンコックする。ヒッターにとっては、右腕の突進がそれに当たる。
・Aiming point(狙い所)はボールではない。バンカー・ショットのようにボールとは別のところである。
・インパクトの瞬間、左手首は(凸でもなく凹でもなく)フラットでなければならない。左手首を折るとクラブフェースの向きを不安定にする。【編註:私はこれをパッティングだけに適用していたのですが、全てのショットで必要なのでした】
・バックスピンがかかっていないボールは左右にぐらぐら揺れながら飛ぶ。オーヴァースピンは上昇するエネルギーがなく、ダックフックとなる。
・ボールを地面に埋め込むようにスウィングせよ、宙に浮かべようとするのではなく。【編註:これすなわちヒットダウン】
・ボールは常にスウィング弧の最低点以前に(下降軌道によって)打たれるべきである。上昇軌道で打つことはダッファーを製造し、多くの場合トップ・ショットに繋がる。【編註:上記五項目がBobby Clampett(ボビィ・クランペット)のThe Impact Zone'という本のアイデアに繋がったと思われます】
・ディヴォットを取るとか取らないとか意識的に試みるべきではない。それはボール位置とスウィング・プレーンの角度によって決まるべきものだ。
・方向の舵を取ろうとすることは誤動作のナンバー・ワンたるものである。ボールでなく、グリーンに向かってクラブヘッドの舵を取ることはフラットな左手首を崩壊させてしまう。
・インパクトで左肩は右より高い位置にある(写真)。【参考:「左脇を締め挙げろ」(tips_94.html)、「左肩を挙げよ」(tips_199.html)】
・右肩を後方に留めるだけでなく、下方にも留めるべきである。
・ボール・スピードはインパクトの前とインパクト後のクラブヘッド・スピード次第である。【編註:インパクト後のスピードも重要であるということ】」
(February 01, 2024)
●パッティング名言集・2
パッティングに関する名言を集めた本より。
'The Putter Principle'
compiled by Criswell Freeman (Walnut Grove Press, 1997)
「数センチのタップインも280ヤードのティー・ショットと同じ一打である」Arnold Palmer(アーノルド・パーマー)
「統計で見る限り、ラウンドの68%はパットである」Gary MacCord(ゲアリ・マッコード、元ツァー・プロでCBS-TVの解説者の一人でもあった)
「どう打つか決定してアドレスをしたら、余分なワッグルをしたり、もう一度カップを見たりしないこと」Henry Longhurst (ヘンリィ・ロングハースト、英国のゴルフ・ライター、解説者)
「Arnold Palmer(アーノルド・パーマー)のパッティング・ポスチャーを見よ。内股で、両膝をくっつけている。手と前腕しか動かない。これぞ秘訣である」Byron Nelson(バイロン・ネルスン)
「フォロースルーで気をつけていることは、パターフェースがスクウェアであることと、頭を上げないことだ」Bobby Locke(ボビィ・ロック、南アのパット名人)
「偉大なパット名人たちは結果よりも理由に集中する」Cary Middlecoff(ケアリィ・ミドルコフ、ツァーで39勝、うちメイジャー二勝したプロ)
「私は呼吸が安定するまでは決して重要なパットをしない決意をした」Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)
「長いセカンド・パットを打つことは、最初のパットと同じように精神を消耗させる【=だから最初のパットをOKの距離に寄せるべきだ】」Cary Middlecoff(ケアリィ・ミドルコフ)
「ショート・パットをする時はカップではなくボールに焦点を合わせよ」Judy Rankin(ジュディ・ランキン、LPGAツァー他で28勝したプロ、TV解説者)
「短いパットをする時は絶対に頭を動かさず、ボールがどう転がるか見たりしない」Nick Faldo(ニック・ファルド)
「カップを覗き込め。芝がカップの端から中へ伸びていれば、それが芝目の方向である」Arnold Palmer(アーノルド・パーマー)
「芝目は芝が伸びる午後になって影響大となる」Nancy Lopez(ナンスィ・ロペス、LPGAツァー他で48勝したプロ)
「どれだけきつくパターを握るべきか?可能な限り軽くだ」Ian Woosnam(イアン・ウーズナム、英国のプロ、1991年マスターズ優勝者)
【参考】「パッティング名言集」(tips_192.html)
(March 01, 2024)
●無欲の勝利
「飛ばそう!」と思うと力みます。「ピン傍につけよう!と思うと心身が緊張します。そうではなく、「自分に可能な最上のスウィングをしよう!」と思うべきなのだと悟りました。
ひたすら「いいスウィングをしよう!」とだけ考えると、仲間の喝采を期待する気持ちなど失せてしまい、ボールとの正確な接触だけを望む気持になります。欲張らないわけですから、自然にスムーズなテンポとリズムによって気持ちのいい振り抜きになります。その結果、「飛ばそう!」と力んだ時よりも飛び、ボールとの正確なコンタクトのせいでピン傍に寄ったりします。
ある日のシニア・グループのラウンド、No.12(102ヤード)パー3。私のティー・ショットはグリーンを25ヤードほどオーヴァー。最近の私のチッピングはトップすることが多かったので、ひたすらボールの下部を打つことと、クラブを低く滑らせてフォローを出すことだけを考えました。どれだけカップに寄せるかなど全く考えませんでした。「無欲」の境地。するすると転がったボールはコロンとチップイン、バーディ! 同じ日のNo.16(200ヤード)パー4。私より六歳若い仲間がティー・ショットをピンハイのグリーン右横に飛ばしました。私は彼のショットを褒め称えました。しかし、私は自分の力量を弁えていますから「じゃ、おれも」という競争心など湧かず、ただ「いいスウィングをしよう!」とだけ念じました。完璧に頭を残していたせいで私はボールの行方を見失いました。仲間たちは「右方向だが、大丈夫!」と安心させてくれました。 いつも着地する地点のあたりでボールを探しましたが見当たりません。うろうろしていると、例のピンハイに打った仲間が私のボールを指差しています。なんと、あと1メートルでガードバンカーに突入という、私としては近来稀な飛距離を得たのでした。ピンハイの彼と10ヤードの違い。「おれも飛ばそう!」などと思ったら絶対にそういう結果にはならなかったでしょう。まさに「無欲の勝利」です。 パットでも同じです。「1パットで沈めてバーディをせしめよう!」などと考えると、カップを大オーヴァーしたりびびってショートしたりします。結果を考えてはいけないのです。プロセスに集中し、「ボールの真ん中をパターの真ん中で打とう」とだけ考えるべきです。「いいストロークをしよう。それで失敗したら諦めるしかない」という謙虚な姿勢は、力んで妙にプッシュしたりプルすることを防いでくれ、早期にルックアップしないで頭を固定し続ける理想的なストロークを実現してくれます。 |
いいショットをしよう!いいスウィングをしよう!いいストロークをしよう!結果は考えず、自分の任務であるプロセスを完璧に遂行することに集中する。プロセスに最善を尽くし、どうなるか結果は天に任せる。「無欲」の境地がゴルフの秘訣と思えました。
(March 10, 2024)
●素振りのもう一つの役割
ここ数回のラウンドで素振りがいかに大事か痛感しています。
素振りにはスウィングの予行演習だけでなく、スウィング弧の最低点を見極める役割があります。地面のどの地点をクラブで擦っているかを確かめ、スタンスのどこをボール位置とすればよいかを決定します。「ボール位置は常に決まってる!」と思われるかも知れませんが、ゴルフコースの地面は練習場の床と違って平らではありません。左右にも前後にも傾斜しています。地形と傾斜によってスタンスの前方・後方のどちらかにボールを移さねばならない時があります。
そして、プロでもロボットでもない我々のスウィングは日々、あるいは時々刻々変化します。その日、その瞬間の体重移動の仕方によってスウィング弧が変わることがあり得るわけです。それを確認してボール位置を変えないとダフったりトップしたりします。
ある日のラウンドのあるアイアン・ショット。素振りをしたら、スタンス中央ではなく、数10センチ右足寄りの地面をクラブが擦りました。「えっ?チップショットでもないのに…」と思いつつ、さらに二回ほど素振りしました。どれも同じ結果、スタンス後方です。私は素振りで確かめた位置にボールが来るように立ち、素晴らしいショットを放つことが出来ました。もし、いつも通りスタンス中央にボールを置いて打ったら、とんでもなくダフってチョロになったことでしょう。
こうして、私は最適のボール位置を求めるために素振りをし、これまでになく正確なショットが出来るようになりました。
【参考】
・「日替わりボール位置」(tips_114.html)
・「寄せのボール位置は固定するな」(tips_124.html)
(March 20, 2024)
●実録タイガー・ウッズ
Arnold Palmer(アーノルド・パーマー)、Jack Nicklaus(ジャック・ニクラス)、Tiger Woods(タイガー・ウッズ)の三人の生い立ちから成功、彼らのビジネスまでをも網羅した本を読みました。夥しい数の関係者(家族、友人、コーチ、ビジネス・パートナーたち等)にインタヴューした克明な調査により、非常に実証的に書かれています。また、黒人をツァーに参加させなかったPGAや多くのコース、黒人会員はおろか女性会員も認めなかったオーガスタ・ナショナル(マスターズ会場)の動向などについても詳細な事実が読めます。
'The Wicked Game'
by Howard Sounes (William Morrow, 2004)
書名の"wicked"という言葉には「不道徳な、意地の悪い」という意味と、正反対に「凄くいい、かっこいい」の両方の意味があります。日本語の「やばい」に似ています。以下はタイガーを中心に印象に残った部分です。出版年が古いので、彼のスキャンダル関連は含まれていません。
「タイガー・ウッズは父Earl Woods(アール・ウッズ)の一人息子ではない。Earlと前妻との間に三人の子供があったからだ。
Earlは軍の仕事でほとんど家におらず、三人の子育てには無関心だった。
Earlがタイに派遣された時、現地でTida(ティダ)を見初め、アメリカに連れて来て、それから前妻との離婚手続きを始めた。
Earlは自分が最初の黒人野球選手だったとか(事実ではない)、自分の過去のことも含め事実誤認が多い。
Earlはタイガーが黒人であるということで小学校でイビられたと云っているが、それは事実ではなかった。
Earlと妻Tidaは毎日学校からゴルフ練習場に息子を連れて行った。
タイガーの最初のコーチはRudy Duran(ルディ・デュラン)で、タイガーが4~10歳まで教えた。彼が他所へ引っ越すことになった後はJohn Anselmo(ジョン・アンセルモ)がタイガーを教えた。二人ともタイガーの才能を見抜き、レッスン・フィーを取らなかった。John Anselmoが病気になった時、EarlはButch Harmon(ブッチ・ハーモン)を見つけタイガーのコーチを頼んだ。ブッチ・ハーモンのタイガーに関する印象も「素晴らしい」というものだったが、彼は「タイガーがプロ入りしたらレッスン・フィーの請求書を送らせて貰う」と云った。
高校時代、タイガーはコーチからも同級生たちからも好かれた好青年だった。この時期、タイガーは初めて女友達を得た。Dina Gravelli(ダイナ・グラヴェリ、白人、金髪、17歳)。彼は彼女を家に連れて行ったが、Earlも妻のTidaも冷ややかに彼女に接した。
タイガーとダイナ・グラヴェリは仲良くなり、二人の関係は三年間続いた。しかし、ダイナが「あたしは他の男性ともデートするから、あなたもそうしなさい」と云ったので、タイガーが怒って二人の仲は終わった。
タイガーはスタンフォード大学に進学し、初めて両親と離れて暮らすことになった。孤独だった彼はSan Jose(サンノゼ)に住む義姉Royce(ロイス、当時30歳のシングルマザー)を頻繁に訪ねた。タイガーが「おれが有名になったら家を買って上げる」と約束した時、ロイスは笑い飛ばした。後にタイガーは本当に彼女に家を買い与えた。
スタンフォード大で、コーチはチームとしての仲間意識を醸成するため、タイガーも他の生徒と一緒に練習すべきだと説いたが、タイガーは仲間とお喋りしたりせず、いつも一人で練習した。
タイガーが大学在学中の1995年10月、Arnold Palmer(アーノルド・パーマー)があるトーナメント開催地での昼食にタイガーを招待し、数々の助言をした。食事の勘定はパーマーが払った。これはNCAA(全米大学体育協会)のアマチュア規定違反だった。アマチュアはあらゆる利益を得てはならなかったからだ。気づいたタイガーは慌てて勘定の半分をパーマーに送ったが、それでも規定違反の嫌疑は消えなかった。この出来事がタイガーの大学中退、プロ入りを早めることになった。親分肌で大富豪のパーマーは、大学生に食事を奢って当然と思ったのだろうが、とんだ罪作りをしたことになる。タイガー当人も彼の両親も大学を卒業することを望んでいたからだ。
1996年、全米アマ三連勝という快挙を達成した後、タイガーはプロ入りを宣言。Titleist(タイトリスト) と三年間300万ドル(約4億円)、Nike(ナイキ)と五年間4千万ドル(約60億円)の商品使用・宣伝契約をした。
同年「ラスヴェガス招待」トーナメントに初優勝し、$297,000(約4,000万円)の賞金を得た。
1997年のマスターズの前に、タイガーは両親のために新居を購入したが、母親のTidaだけが入居し、Earlは元の家に留まった。事実上の別居であった」
(March 20, 2024)
●Flatball(フラットボール)とは何か?
スーパーWalmart(ウォルマート)のスポーツセクションで、'Flatball'(フラットボール)というゴルフ練習器具を見つけました。直径は本物のボールと同じですが、厚みは約6ミリ。ゴムで出来ているので打っても割れたりしません。これが六個一組で$7.99。
どう使うかですが、下のリンクのヴィデオによれば「正しいアイアンのスウィングを身につけるため」だそうです。この”ボール”(?)を練習マットの上に置いて打つ。ボール後方の地面を先に打つようなスウィングの人は空振りしていまいます。アイアンではボールを打ち下ろすべきなのに、逆に打ち上げるような人も空振りです。カッチリとこの”ボール”(?)を打ち、次いで地面を打つように心掛けなくてはなりません。
マイナス要素としては、「本当のボールを打つフィーリングが得られない」、「高さや軌道が本物のボールと違うので、どういう結果が得られるのか見当がつかない」と云われています。
実際に打ってみると、きちんと打てたかどうかはわかるものの、確かにどういう結果になったのかが判りません。ちゃんと打つと10メートル飛んだりしますが、超低空飛行です。どう飛ぶか判らないので、室内では使用しない方がいいようです。
強いて利点を探せば、本番のラウンド中、地面の上のボールを打つ前に「これを、'Flatball'のつもりで打て。いいな?」と自分に云い聞かせ、薄っぺらなFlatball'を打つつもりになると、嫌でもきちんと打たなければならなくなることです。ま、これはティーを地面に深く刺して打つ練習をすることでも、同じ効果が得られることですが。
(April 10, 2024)
●キレないための方策
'The Grand Slam:Bobby Jones, America and the Story of Golf'
by Mark Frost (Hyperion, 2004, $15.95)
面白い話を読みました。Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)の伝記の中の一挿話です。若い頃のBobby Jonesは自分の失策に我慢出来ず、癇癪を起こすのが常でした。その頂点は1921年にセント・アンドリューズで開催された全英オープンでした。三日日のNo.11で ボールをバンカーに入れたBobby Jonesは三打かかってもバンカーから脱出出来ず、自分のボールを拾い上げてしまい(=失格)、スコアカードを千切って川に投げ捨てました。
その直後のU.S.オープンで、Bobby Jonesは名人Gene Sarazen(ジーン・サラゼン)と組み合わされました。Gene Sarazenも自分の失敗にキレてしまう性分であり、自分と廻ることになった若者(Bobby Jones)も同じ傾向であることを知っていました。で、ラウンド開始前Gene SarazenはBobby Jonesにこう申し出ました。「最初にキレた方が相手に10ドル払うってのはどうかね?」Bobby Jonesはこの賭けを受けました。
Bobby Jonesはその日不出来で78も叩いてしまいましたが、Gene Sarazenとの賭けがあったのでキレずに済ませたそうです。
この方法はわれわれのゴルフにも応用出来ます。腕前が同レベルの仲良しと次のような賭けをするというのはどうでしょう?
・3パットしたら1ホールにつき相手に1,000円払う。
・バンカーから一打で脱出出来なかったら(あるいはホームランを放ったら)一回につき相手に1,000円払う。
・チョロを打ったら一打につき100円払う。(ゴロは結構距離が出るので不問に付す)【註】これは頻繁に出そうなので安いレート^^。
・【中~上級者】80が切れなかったら相手に1,000円払う(引き分けの場合もあり得る)。
あくまでもキレたりその日のゲームを投げたりしないため防止策です。誰しも賭けに負けるのは嫌なので、真剣にプレイすることになるのではないでしょうか?
【おことわり】画像はhttps://golf.com/にリンクして表示させて頂いています。
(May 10, 2024)
●緊張と弛緩のリズム
Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)はラウンドで緊張することを望んだそうです。
'The Grand Slam:Bobby Jones, America and the Story of Golf'
by Mark Frost (Hyperion, 2004, $15.95)
1926年、英米両オープンに優勝したBobby Jonesは、親友であり新聞記者でもあったO.B. Keeler(O.B.キーラー)による共同配信インタヴューに応えて以下のように述べました。
「いいプレイをするためには緊張が必要だ。それなくしてはダレたプレイになってしまう。綱渡り芸人のように真剣にプレイする男を打ちのめすことは不可能だ。緊張はサラブレッドと農耕馬とを別けるものだ」
これは私の《薄氷を踏むような思いでラウンドする》という方針に似通っています。自分が現在絶好調に思えても、ゴルフというゲームはNo.18をホールアウトするまで一寸先は闇なのです。手を抜かず、一打一打に精魂を傾けなくてはなりません。
しかし、その後Bobby Jonesはショットを放った後は同伴競技者やギャラリーの中の友人(O.B.キーラー)とお喋りしてリラックスする術(すべ)を覚えました。何時間もの間緊張し続けると精神的疲労が過大なので、ショットする段になったら緊張すればいいのだということを学んだのです。
これはLee Trevino(リー・トレヴィノ)が実践していたことと同じです。彼は常にギャラリーに冗談を云って笑わせていました。しかし、打つ順番が来たらガラッと態度を変え、真剣そのものになったのです。そりゃそうでしょう、1ストロークの違いがメイジャー優勝やウン千ドル、ウン万ドルの賞金の差になるわけですから。
私が一緒にプレイするシニア・グループの中に何人か、アドレスしながら仲間とお喋りして、その一〜二呼吸後にボールを打つ人がいます。結果は90%ミス。お喋り(左脳の働き)をやめてスウィング・モード(右脳の働き)に切り替えておらず、脳も筋肉もスウィングする準備が整っていないのですからうまく行ったら奇跡です。お喋りを終えたら、ターゲットに正対して狙いを確認し、呼吸を整え、「いいスウィングをしよう」と念じながらアドレスする。これには短くても10~15秒はかかる筈です。
常に目の前の一打が80を切れるか切れないかに影響すると思うべきです。
【おことわり】画像はhttps://www.historicgolfphotos.com/にリンクして表示させて頂いています。
(May 20, 2024)
●ゴルフ・シューズ代替品
私が履いていたゴルフ・シューズがひび割れて来て、接着剤での応急手当でもごまかせない状態になりました。
ゴルフ用品店があれば迷わず出向くところなのですが、私の町には一軒もありません。ゴルフ用品店のある町へは90分ドライヴしなければならないので億劫です。
インターネットで"golf shoes, substitute"(ゴルフ靴、代替品)でググると、「trail running shoes(トレイル・ランニング・シューズ)が最適」という記事が見つかりました。この靴は舗装道路上ではなく山道を走るための靴なので、普通のスニーカーよりも靴底の凸凹が深いためグリップ力が強くスリップしない設計です。ソフトスパイクと似たような効果を発揮すると思われました。
町の大きな靴屋二軒を訪れてみましたがトレイル・ランニング・シューズは置いていませんでした。仕方なくAmazonに注文しました。実際に履いてみないで購入するのは冒険ですが、アメリカは返品天国なので足に合わなければ即刻返品するつもり。
届いたトレイル・ランニング・シューズ($56.00、写真)は私の足に合いました。ラウンドでどうかでしたが、全く問題ありません。走るための靴なので軽くてしなやか。強いて難を云えば、靴底の凸凹を足の裏で感じるのがウザい。で、中敷きを入れてみました。きつくもなく、とても快適になりました。
(June 01, 2024)
●知られざるBobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)
'The Grand Slam:Bobby Jones, America and the Story of Golf'
by Mark Frost (Hyperion, 2004, $15.95)
この本のBobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)によるグランド・スラム達成の一部始終は既に紹介してあります(この項の末尾にリンクあり)。今回はこの本に描かれた神童のようだった少年時代からアマチュアでありながら全米一のゴルファーとなるまでのいくつかのエピソードを紹介します。
一体この著者は何百冊の本を読んだんだろうと思われるほど、20世紀アメリカの歴史、政治情勢、スポーツ界の趨勢、そしてBobby Jonesとその周辺について、実に詳細に記述しています。
・BPNTHWAM
著者によれば"Best Player Never To Have Won A Major"(メイジャー優勝経験の無いベスト・プレイヤー)の最初の人物はBobby Jonesだったそうです。父親がメンバーとなったアトランタ郊外のEast Lake C.C.(イーストレイク・ゴルフ場)で子供時代から遊んでいたBobby Jones(1902~1971)は、数々のアマチュア・トーナメントに優勝していたものの、1923年(21歳)になるまでメイジャー(全英・全米オープン、全英・全米アマを含む)優勝とは無縁でした。
問題は彼の癇癖にありました。常に優勝候補と目されていながら、何かミスをするとクラブを投げたり、そのミスによってメンタルに絶望的になってしまったのです。
1921年のSt. Andrews(セント・アンドリュース)での全英オープンの三日目、No.11でのティーショットをBobby Jonesは脱出困難で有名なバンカーに入れてしまいました。一打目で脱出出来ず、二打目も失敗。三打目にも失敗した彼はボールを拾い上げ(ルール違反)スコアカードを破いて近くの川に投げ捨てました。プレイは最後まで続けたものの、スコアカードを提出せず自ら失格としました。帰国後、彼はR&Aに勝手な真似をしたことを詫びる陳謝の手紙を書きました。
同じ年にミズーリ州セントルイスC.C.で開催されたUSGA主催のU.S.アマチュア・トーナメント。このマッチプレイ・トーナメントの三戦目、アプローチ・ショットに満足出来無かった彼はクラブをバッグ目掛けて放りました。不幸なことにバッグで弾かれたクラブは弾んで観客の女性の脚に当たってしまいました。彼は謝りましたが、当の女性よりも彼の方が動揺してしまいました。この事件を無視出来なかったUSGA会長は「あなたが癇癪をコントロールする術(すべ)をマスターしない限り、USGAの催しには参加させない」という警告の手紙を送って来ました。
・Old Man Par(オールドマン・パー)とのマッチ・プレイ
Bobby Jonesが少年の頃、ホームコースEast Lake.C.C.へやって来た英国のプロHarry Vardon(ハリィ・ヴァードン)が地元のレッスン・プロ二人と公開試合を行った際、Bobby JonesはつぶさにHarry Vardonのプレイを見て心に刻みました。ロング・ドライヴで観衆を唸らせる相棒のTed Ray(テッド・レイ)と対象的に、淡々とパーを積み重ねて行くHarry Vardon。Bobby JonesはHarry Vardonが対戦相手とではなくあたかも"Old Man Par"(パー爺さん)とのマッチ・プレイをしているかのように思えました。
相手が妙技を見せようが失敗しようが我関せず。常にスコアカードと同じ打数で廻るのが"Old Man Par"(パー爺さん)のプレイです。
この考え方を発見したのは早かったのですが、若いBobby Jonesはともすると"Old Man Par"の存在を忘れて対戦相手の出来・不出来に反応してプレイしがちでした。真に"Old Man Par"(パー爺さん)とのゴルフに専念することが癇癪を抑えることに繋がりました。
【参考】「Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)の“オールドマン・パー”の発見」(tips_170.html)
・カラミティ・ジェーンとの出会い
1923年のU.S.オープンはニューヨーク州のInwood C.C.(インウッドC.C.)で開催されました。Bobby JonesのホームコースEast Lake.C.C.専属レッスン・プロのStewart Maiden(スチュアート・メイデン)は当時Bobby Jonesを応援するため、主なトーナメントに同行していました。彼がEast Lake.C.C.で教えるようになる以前は、彼の兄のJimmy Maiden(ジミィ・メイデン)が専属でしたが、1907年にジミィはEast Lake.C.C.を弟に譲って、インウッドC.C.の近くの某ゴルフ場専属プロとなっていました。兄弟は久し振りの再会を喜び、二人揃ってBobby Jonesを応援することにしました。
ジョージア工科大学を卒業した21歳のBobby Jonesはハーヴァード大学で文学を学んでいました。この大学は勉学一本槍で研究課題や宿題も多く、気ままにゴルフなど出来ない厳しさでした。それが祟って、インウッドC.C.での練習ラウンドでは80を切れない始末。
メイデン兄弟はどうすればBobby Jonesを優勝させられるか相談しました。「グリーンだ!」パットさえ良ければ伸び伸びとフル・スウィング出来る。兄のジミィは自分のプロ・ショップの物置から古いヒッコリー・シャフトのパターを探し出し、Bobby Jonesに試させました。Bobby Jonesは練習グリーンに赴き、25回のパットをし、そのうち24回を成功させました。当時は持ち主がパターに名前をつける習わしがあり、ジミィ・メイデンはそのパターを"Calamity Jane"(カラミティ・ジェーン)と名付けていました。【註:映画の題名でもありますが、意訳すると「災厄女ジェーン」】
後にこのパターを手にしたJack Nicklaus(ジャック・ニクラス)は「これはパターというより2番か3番アイアンに近い」と云ったそうです。
1925年、Bobby JonesのホームコースEast Lake.C.C.のクラブハウスが漏電のため火災を発生し、展示物であったBobby Jonesの優勝カップから彼の愛用のクラブ一式までも焼けてしまいました。たった一つ、パターのカラミティ・ジェーンだけは生き延びました。なぜか?Bobby Jonesが自宅のベッドでカラミティ・ジェーンを抱いて寝ていたからでした^^。
1926年、今で云えばDave Pelz(デイヴ・ペルツ)のような人物が振り子のような仕掛けのパター検査器具を使ってカラミティ・ジェーンを調べたところ、いつの間にかフックフェースになっていてボールをプルしがちになっていたことが判明しました。Bobby Jonesは即刻スクウェア・フェースのカラミティ・ジェーンを作らせました。ですから、後のグランドスラムは二代目カラミティ・ジェーンで達成されたことになります。
・パット法の完成
"Calamity Jane"は1923年のU.S.オープン優勝に役立ちましたが、完璧とは云えませんでした。彼がアトランタの近くの保養地オーガスタを訪れた時、アマチュアでパット名人だったWalter Travis(ウォルター・トラヴィス、1862~1927)に遭遇しました。Walter Travisは病んだ肺をいたわるべく冬季には暖かい南部を訪れていたのです。1916年にWalter TravisはBobby Jonesにいつかパット法を教えると約束していたので、Bobby Jonesはその約束を果たして貰うことを切望し、練習グリーンでのパットへ赴きました。
Walter Travisは先ずBobby Jonesのパッティングがボールを”打つ”スタイルであり、スムーズに振り抜くものではないことを指摘し、それはアメリカ南部特有の強(こわ)いバミューダ芝には向いているが、ベント芝には通用しないと断言しました。彼はBobby Jonesのセットアップも抜本的に変更し、両足をほぼくっつくぐらいにしました。体重を左にかけて安定させ、パターヘッドをラインから外すのを防ぐ。グリップもスタンダードなオーヴァラッピング・グリップに変更し、「ボールの後部に画鋲を叩き込む感覚を得よ」と説き、テンションを中和するための呼吸のコントロール法も伝授しました。
Walter Travisのパッティングの名声を知り抜いていたBobby Jonesは、以上の助言を真摯に受け止めました。Walter Travisの教えを完全に実行するには時間がかかりましたが、これ以後パッティングはBobby Jonesの弱点ではなくなりました。
彼は、Walter Travisの”不運を待ち構えて驚かない”というペシミスティックな考え方の影響は受けませんでしたが、不運によって自分を責めるべきではないことを学びました。
こうしてグランドスラムへの準備が整ったのです。
【参考】
・「Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)のグランド・スラム(パート1)」(tips_200.html)
・「Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)のグランド・スラム(パート2)」(〃)
・「Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)のグランド・スラム(完結篇)」(〃)
(June 10, 2024)
●ゴルファーの眼鏡
昨年、処方箋で新しい眼鏡を作りました。近くも遠くもクリアに良く見えます。しかし、見え過ぎる気がして、TVの字幕を見る時以外は古い眼鏡を用いていました。ゴルフの際に新しい眼鏡を使うとアドレスした時のディストーション(歪み)が心配でした。過去に、平らな地面なのに傾斜しているように見え、打つのに困難を感じたことがあったのです。
最近ボールの着地点が良く見えないので、新しい眼鏡を掛けてみようかと思いました。目が弱っているのならディストーションも無いかも知れないと思ったのです。
その日、目を覆いたくなるようなミス・ショットが続きましたが、眼鏡のせいだなどと考える暇はありませんでした。ラウンド終了間近になって「こりゃ変だ!」と思いました。何度か左足下がりのライに遭遇したのですが、ある時実際には左足上がりの地形であることが自明なのに左足下がりに見えたのです。ご存知のように左足下がりのライから打つのは難しい。先ずボールが上がらないので地面の傾斜に沿ってクラブヘッドを滑らせなくてはならない。どう距離を見積もって打つかクラブ選択も難しい。ところが実際の地面は左足下がりではなかったとすれば?これだと話は別で、眼鏡の歪みのせいに違いありません。
眼鏡レンズは中心より縁の方が厚くなる構造だそうですので、地面のボールを見た場合、その周囲が歪んで見えることはあり得ます(度数にもよりますが)。私の場合、それが左足下がりに見えるわけです。
昨年眼鏡を作った眼鏡屋の主人と話しました。彼もゴルファーなので話がし易い。彼は私の悩みを即座に理解してくれました。そして彼が云うには、どんな眼鏡も8✕8センチぐらいの円形のレンズを用いて客の好みの縁に合わせて切り抜く。その際、レンズの周辺はやや歪んで見えるので、目の玉がレンズの中心となるようにする。大きいサイズの縁よりも小さい縁の方が常にレンズの中心で見ることになるので、ゴルファーの眼鏡には小さい縁が適している…とのこと。
数ヶ月後、定期検診で眼科医を訪れました。眼鏡屋の主人の説を話したところ医師は「その通りだ。小さい眼鏡のほうが歪まない」と裏書きしました。実はこの眼科医もゴルファーなのですが、よく見ると彼も小さいサイズの眼鏡を掛けていました。納得。
医師がくれた処方箋を持って眼鏡屋に行きました。小さめの横5センチ✕縦3.8センチの縁を選びました。眼鏡屋は正確に私の瞳孔の位置を測定し、私の目の構造に正しく合致するようにレンズを削り、真にオーダーメードの眼鏡を作ってくれました。ゴルファーとしての彼が私のゴルフに役立つ眼鏡を提供しようという真剣な努力でした。これは安売り店の眼鏡コーナーには期待出来ない努力の賜物です。
【参考】
・「眼鏡のハンディキャップ」(tips_73.html)
・「眼鏡を掛けたゴルファーの頭」(tips_188.html)
(July 20, 2024)
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