図書館で借りたこの本は前に一度読んだのですが、どういう話だったかよく覚えていなかったので、もう一度読む気になりました。これはある大金持ちが、自分が贔屓にしているトップ・クラスのアマチュア二人のことを「彼らは世界で最高だ。プロも尻尾を巻くほどだ」と自慢したのを聞き咎めた別な大金持ちが、「じゃ、おれがプロ二人を用意したら勝負するかい?」ということで、ある日の午前中に四人によるベスト・ボールの対戦が行われた一部始終を文字で再現したものです。
アマの一人は、後にUSオープンに優勝し、35年間もCBS-TVで解説を勤めたKen Venturi(ケン・ヴェンチュリ)。もう一人は全英アマ、全米アマに優勝した経歴を持つHarvie Ward(ハーヴィ・ウォード)。この二人のペアは、アマのベスト・ボールの試合では不敗の記録を誇っていました。対するプロ側はBen Hogan(ベン・ホーガン)とByron Nelson(バイロン・ネルスン)。二人とも公式には引退していましたが、年一回ビング・クロスビーがカリフォーニアで主催するプロ=アマ・トーナメントのために揃って来ていたのです。
'The Match'
by Mark Frost (Hyperion, 2007, $24.95)【邦訳】『ザ・ゴルフマッチ ― サイプレス・ポイントの奇跡』マーク・フロスト著、永井 淳訳(ゴルフダイジェスト社刊、2010年)
四人のアマとプロの白熱する試合経過も興味深いのですが、二人のプロが大成するまでの前史が面白い。ホーガンもネルスンも同い年で揃ってテキサス生まれのテキサス育ち。彼らがプロ入りしたのは大恐慌の頃で、トーナメントの賞金額もとても少なかったそうです。
ボビィ・ジョーンズに憧れていたネルスンは、同じようにアマチュアとして活躍しようと思っていましたが、旅費や宿泊費にも困るようになり、1932年のあるトーナメントで「プロになりたいんだが…」と云ったら、「5ドル出して、『おれはプロだ』と云えばいい」と云われたそうです。その頃はテストも資格審査のトーナメントも無し。かくして、彼はプロになりました^^。
ホーガンは一足先にプロ入りしていました。しかし、不景気の影響で当時のトーナメントは賞金は少なく、しかも賞金を貰えるのは上位十人とか六人とかだったため、下位だと手ぶらで帰らなくてはなりませんでした。
ホーガンは顔見知りの親切な人から150ドル借金してツァーに参加していましたが、全然目が出ず、懐が残り15セントという最悪の状況になったことがあったそうです。カリフォーニアでプレイしている時は、わざとOB区域に打ち、隣接する果樹園のオレンジをもいでゴルフバッグにしこたま詰め込み、オレンジを齧って餓えをしのいだこともあったとか。
1938年の冬、北カリフォーニアのツァーに参加していたホーガンは、駐車料金を節約するためホテル近くの空き地に車を停めました。翌朝出発しようとしたら、車のタイヤが四本とも盗まれていた! ホーガンは「もう終わりだ」と思いましたが、同行の奥さんに叱咤激励され、同宿のネルスンに乗せて貰ってコースへ。六位に入ったホーガンは285ドルの賞金を得、続くトーナメントでは三位に入って350ドルを得て一息つきました。
ホーガンより一足先に目が出たネルスンは、いくつかのトーナメント優勝もあって、1935年ニューヨークに近いニュージャージー州のあるゴルフ場のアシスタント・プロの仕事にありつきました。その翌年、ニューヨーク州ロング・アイランドで開催されたメトロポリタン・オープンに、ネルスンは宿泊費を浮かすため片道二時間車を運転して通いました。そして、連日昼食はホットドッグにコカコーラだけだったそうです。しかも、このトーナメントで彼は優勝したのですから驚きです。
今ではホーガンもネルスンもゴルフの歴史の伝説的巨人となっていますが、彼らの過去に果樹園の果物を盗んで食べたり、ホットドッグとコーラだけで昼食をしたことがあるなんて信じられませんね。
(February 02, 2021)
●Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)のグランド・スラム(パート1)
前回再読した'The Match'の著者Mark Frost(マーク・フロスト)は、三册のゴルフ関連のノンフィクションを書いています。最初の本(2002年刊行)がフランシス・ウィメット(20歳のアメリカ人、アマチュア)が1913年のU.S.オープンに英国の強豪プロであるハリィ・ヴァードンらを排して優勝した感動的実話。三作目が'The Match'(2007刊行)です。
二作目の本(2006年刊行)はBobby Jones(ボビィ・ジョーンズ、1902〜1971)の生い立ちから「グランド・スラム」達成、引退までを克明に文字にしたものです。ゴルフのグランド・スラムとは、「同一年にメイジャー選手権大会全てに優勝すること」ですが、アマチュアだったボビィ・ジョーンズの場合は全英アマ、全英オープン、U.S.オープン、そしてU.S.アマの四大大会を指します。現在のグランド・スラムはマスターズ、全英・U.S.両オープン、全米プロとなっていますが、同一年のグランド・スラム達成者は一人もいません。Tiger Woods(タイガー・ウッズ)は、2000年のU.S.オープン、全英オープン、全米プロ、そして2001年のマスターズと、全てのメイジャーに連続優勝しましたが、二年にわたっての優勝なのでグランド・スラムではなく"Tiger slam"(タイガー・スラム)と呼ばれています。 https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51RhATg+f7L._SX326_BO1,204,203,200_.jpg
'The Grand Slam: Bobby Jones, America, and the Story of Golf'
by by Mark Frost (Hyperion, 2004, $15.95)
この本は小さい活字で475ページもある大部です。実は以前読み始めたことがあるのですが、グランド・スラム前に332ページもあり、よく知っているボビィ・ジョーンズの少年時代の話に厭きて、数10ページで挫折し積ん読となっていました。今回、'The Match'再読の余勢を駆って読もうとしたのですが、少年時代は省略し近道をしていきなりグランド・スラムの部分へ向かうことにしました。
ボビィ・ジョーンズは、既に当時メイジャーとされていた13の大会に優勝しており、特に同じ年に全英オープンと全米オープンに二度ずつ優勝していました。しかし、驚かされたのですが、ボビィ・ジョーンズの1930年のグランド・スラム達成は、楽なものではありませんでした。特に世界中のプロが「アマチュアなんぞに負けてたまるか!」と発奮したため、多くの場合ボビィ・ジョーンズが大差で逃げ切るなんてことはなく、ほとんど辛勝と云っていい感じです。また、彼がラウンド中あまりにもプレイに集中し心身を憔悴させ、食欲も失せてしまい、7キロも体重を減らしてしまうことも問題でした。ただし、グランド・スラムへの途次、いくつかの幸運に恵まれたことは彼に味方しました。そういう意味では、彼がグランド・スラムを達成することは分っていても、彼の一打一打にハラハラドキドキさせられてしまいます。そこがこの本の著者の描写の巧みなところです。彼は映画やTVの脚本家でもありますから、ドラマチックに描写することに長けているんですね。
・ボビィ・ジョーンズは最長300ヤードのドライヴを放ちました。身長1.73m、体重75kgという体格ですが、なんせヒッコリー・シャフトの時代ですからね。われわれは、プロ入りした1970年当時の尾崎将司(身長1.81m、当時の体重は不明)の「300ヤード・ドライヴ」に驚嘆していたのですが、ボビィ・ジョーンズは木製の古いクラブで300ヤード打ってたんですから、尾崎に驚くほどのことじゃなかったわけです。
・現在、どのメイジャーも他の前回のメイジャーの何位までかはトーナメントに招待されますが、当時のメイジャーは現在と異なり前年度優勝者であろうが他のメイジャー優勝者であろうが、クォリファイング・ラウンドに出場して上位のスコアを出さなければ参加出来ませんでした。
・アマチュアのメイジャー・トーナメントの本戦は現在もそうですがマッチ・プレイ方式です。一緒に廻る相手との一対一の対決なので、これもメンタルに消耗する理由の一つです。加えて、当時のアマのメイジャー・トーナメントは世界中から選抜された200人かそれ以上が参加し、五日間試合を行い、最終日は2ラウンド(36ホール)しなければならないため、体力も激しく消耗しました。
・ボビィ・ジョーンズ(当時28歳)は1930年に、奥さん同伴で客船で英国に向かい、二年に一度の米英(含アイルランド)アマチュアの対抗戦(マッチ・プレイ)であるWalker Cup(ウォーカー・カップ)にキャプテンとして出場しました。アメリカ勢10ポイント、イギリス・アイルランド勢2ポイントで、アメリカが圧勝。その後、続けて全英アマ、全英オープンに参加しました。
【全英アマ】1930年5月、St. Andrews(セント・アンドリュース)Old Course (Scotland)
・初日、参加者の多くは2ラウンドしなければならなかったが、ボビィ・ジョーンズはシードされていたので、午後が初ラウンドだった。相手は、あるゴルフ・ライターに云わせると英国の元炭坑夫だそうで、無名の若者だった。ボビィ・ジョーンズはNo.4でバンカーからアルバトロスを達成した(二打目がチップイン)。しかし、相手も屈せず健闘した。ボビィ・ジョーンズは3and 2で勝った。【2ホール残して3アップで勝ったという意味。以下同じ】
・二日目の午前、ボビィ・ジョーンズは二人目の相手に5 and 3で圧勝。
・その日の午後の相手は、前年の全英アマ優勝者Cyril Tolley(シリル・トリィ、35歳、英国)で、ボビィ・ジョーンズの友人の一人だった。さすが前回の優勝者だけあって、シリル・トリィは見事なプレイで一歩も引かず、18ホールでは決着がつかずサドン・デス・プレイオフにもつれ込んだ。再び、No.1。ボビィ・ジョーンズは二打目をグリーンの左手前へ。彼はピッチでピンまで2メートル強へ。続いてパットしたボールはカップに数センチほどショート。そのボールはシリル・トリィがカップを狙うのを妨害する位置で停まった【この状況はstymie(スタイミィ)と呼ばれ、当時のルールではマークする必要はなく、相手は自分のボールをジャンプさせるか、カーヴさせねばならなかった】。シリル・トリィはカーヴさせられず失敗。ボビィ・ジョーンズが勝った。
・三日目の最初の相手のイギリス人に7 and 6で圧勝。
・次の相手は今度のウォーカー・カップのチーム・メイトで、前年の全米アマ優勝者のアメリカ人Jimmy Johnson(ジミィ・ジョンスン、34歳)だった。ボビィ・ジョーンズがNo.11で5ホール残して4アップとなった時、大観衆は「勝負あった」と考えて他のマッチを見に散らばって行った。しかし、No.14からジミィ・ジョンスンが底力を見せ始め、ボビィ・ジョーンズのリードを二打差へと詰め寄った。ジミィ・ジョンスンの挽回を知った大観衆が二人の周りに戻って来た。No.17でジミィ・ジョンスンは見事な寄せを見せて勝ち、その差一打差となった。最終ホール、ボビィ・ジョーンズは後に回顧して「人生で最も長い2.7メートルのパット」と云ったパットを見事に沈めてジミィ・ジョンスンを下した。
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・四日目の最初の相手はイギリス人で、ボビィ・ジョーンズは4 and 3で勝利した。 |
・最終日36ホール・マッチの相手はイギリス人Roger Wethered(ロジャー・ウェザード、31歳)だった。彼は1921年に全英オープンの二位に食い込み、1923年の全英アマに優勝していた。彼の妹Joyce(ジョイス)は、全英女子オープンに四回も優勝経験があった。決勝戦開始前にR&Aの役員が挨拶し「これまで素晴らしいスコアは数々出ているが、スコアカードに少なくとも一つの5という数字を書かなかった者は一人もいない」と云った。ボビィ・ジョーンズは「よし、おれは5は出さないぞ」と心に誓った。【編註:こう読むと当時のセント・アンドリュースにパー5が無かったように受け取れます。調べてみましたが分りませんでした】
ボビィ・ジョーンズは9ホール堅実にパーで廻り、ロジャー・ウェザードはやや不安定なドライヴを放ちながらも同じくパーで食い下がった。しかし、No.17までにボビィ・ジョーンズは5アップとなっていた。No. 17、彼は60センチのパットを外して、スコアを5にしてしまった。ボビィ・ジョーンズは5打リードで午前のラウンドを終えた。ホテルに戻った彼は怒り狂っていた。「5打リードは立派なもんじゃないか」という慰めに、「No.17であの60センチを外さなければ、このセント・アンドリュースで5という数字を書かない最初の人間になれたんだ!」と口惜しがった。
午後の最終ラウンド。観衆はますます膨れ上がり25,000人がボビィ・ジョーンズを見にやって来た。まだ怒りが収まらないボビィ・ジョーンズはNo.1で3パットし、早々に5を叩き、もう5という数字を書かない最初の人間になるのは諦めた。ロジャー・ウェザードの精彩のないプレイに助けられ、ボビィ・ジョーンズは7 and 6で勝利した。これはボビィ・ジョーンズにとって初の全英アマ優勝であった。
あるゴルフ・ライターは「ボビィ・ジョーンズはアレキサンダー大王に追いつき、もはや勝つべき目標はなくなった」と書いた。彼のその考えは大間違いであった。【続く】
(February 19, 2021)
●Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)の 集中
これは'The Best of Bobby Jones'(ベスト・オヴ・ボビィ・ジョーンズ)と銘打たれた、ボビィ・ジョーンズのいくつかの著作から抽出したtipsをまとめた本です。
'Secret of the Master'
edited by Sidney L. Matthew (Sleeping Bear Press, 1996, $22.00)
「大西洋横断単独飛行に初めて成功したリンドバーグは、最も困難だったのは覚醒し続けることだったと語った。ゴルファーにとっても、精神的に覚醒し続けることは重要だ。ちょっとした集中心の欠如、僅かな不注意などが、機械的動作の過ちよりももっと悲惨な結果を招くものだ。
ゴルフに熟練した者は全てを意識せずにコントロールするのではなく、完全に潜在意識でプレイする…と云われるが、それは事実から程遠い言葉だ。確かに正しいスウィングをする習慣は、本能的にスウィング動作の多くを実行させる要因である。しかし、常に二つや三つのことは積極的に気を配らないといけないものだ。それを認識して初めて、三時間、72打のショットを遂行するために集中することが可能になる。
私が集中という時、ゲーム以外の全てを意識から排除せよとだけ云っているのではなく、プレイヤーが知っているべきこと全てに注意を払うべきだという意味も含んでいる。われわれは、誰とでも肩を並べられる素晴らしいフォームでプレイする多くの人々が、不完全な集中心のせいで勝利出来ないことを知っている。ボールに歩み寄り、ほとんど何も考えずに打つことは容易い。そのプレイヤーは、取り返しがつかないダメージが訪れるまで、そのショットに心を篭めていなかったことに気づかない。
私の多くの失敗の中の一つを紹介しよう。Southeaster Open(サウスイースターン・オープン)において、私は二つのボギーでスタートしたものの、その後打つ感覚を取り戻し、もうミスは犯さなくなった。この状況で私は最も避けるべきことをやってしまった。『もう大丈夫だ』と感じ、眠ってしまったのだ。No.16のティーで、私は何も考えずにスウィングしてしまった。ボールは柵を越えOBになった。70で廻るためには残り三つのホール全てを4でホールアウトすべき状況だったのだが、4どころか6にしてしまったのだ。
18ホールの間、完全に集中出来る人の数は、片手の指の数ほどしかいない。その他の人々はいくつものショットをするとき眠ってしまう。彼らはその時も、後になっても自分が居眠りしていたという事実に気づかない。多くの場合、彼らは集中出来なかったのではなく、恐怖と不安のせいだったと思い違いする。
このメンタルな不調は、ゴルフし過ぎの場合にも発症する。メンタルな注意深さの欠如は、状況の異なる一打一打に必要とされる完全なる集中心を持続させることを不可能にする。彼は能力の限りベストを尽くそうとするのだが、それは彼の手に余るものであり、余計な打数でミスを償わなければならない。
集中とは何かと再度問われるかも知れない。思うにそれは至極単純だ。どの一打にもある基本というものがある。正しく集中していれば、それが考慮される。例えば、ゴルファーはスウィングしながら体重移動することを知っているべきであるし、左サイドを充分に廻さねばならないということも知っているべきだ。特に、ゴルファーがこの二点を見落としてトラブルに陥っている際、スウィングする前によく考えるべきことである。ゴルファーはそれらを軽視してはならない。スウィング開始前に熟慮すべきである。スウィングの遂行をイメージすべく考え抜くか、少なくとも充分に集中してスウィング開始を視覚化すべきだ。以上は、いくつかあるうちの数例である」
【参考】
・「Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)の“オールドマン・パー”の発見」(tips_170.html)
・「Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)の師弟関係」(tips_170.html)
・「Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)のパッティング」(tips_173.html)
(February 19, 2021)
●Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)のグランド・スラム(パート2)
'The Grand Slam: Bobby Jones, America, and the Story of Golf'
by by Mark Frost (Hyperion, 2004, $15.95)
【全英オープン】1930年6月18日〜20日、Royal Liverpool(ロイヤル・リヴァプール)G.C. (Hoylake)
・6月16日(月曜日)に全英オープンの予選・本戦出場資格を判定するクォリファイング・ラウンドの一日目が開催され、296人が参加した。ボビィ・ジョーンズは73で廻った。
・6月17日(火曜日)のクォリファイング・ラウンド二日目、参加者は112名に減らされた。ボビィ・ジョーンズは77で廻り、他の61人と共に全英オープン参加の資格を得た。
・6月18日(水曜日)、全英オープン初日。ボビィ・ジョーンズは、カメラのシャッター音や女の叫び声に妨害されボギーを出したものの、70に収めた。
・6月19日(木曜日)、二日目。彼のスコア72は一見堅実に思えるが、実際にはドライヴァーが不安定で、もっぱらパットの上手さで凌いだものだった。
・6月20日(金曜日)、最終ラウンド(36ホール)。参加者61名のうち52人がプロで、アマチュアは9人だった。多くのプロ(特にイギリス人のプロ)は、六回も連続でアメリカ人に優勝をさらわれているのにげんなりしていたし、アマチュアのボビィ・ジョーンズが二回も優勝しているのにもムカついていた。誰かが英国国旗のために立ち上がらなければならないと考えていた。金曜日の朝、ウェールズ生まれのArchie Compston(アーチィ・コンプトン)が、ボビィ・ジョーンズをやっつけると広言した。
午前のラウンド、ボビィ・ジョーンズのドライヴは相変わらず乱れており、パー、ボギー、ボギーという出だしだった。後方のグループの観衆から喚声が聞こえて来た。アーチィ・コンプトンが快進撃を見せていたのだ。最初の18ホールをアーチィ・コンプトンは、コース・レコードより二打少ない68という新記録を達成した。彼はボビィ・ジョーンズを一打引き離して、トーナメント・リーダーとなった。
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午後のラウンド。イギリス人の観衆はボビィ・ジョーンズを好いていたものの、トップに立った同国人に優るものはない。大観衆はボビィ・ジョーンズではなくアーチィ・コンプトンを幾重にも取り巻いた。 |
【U.S.オープン】1930年7月10日〜12日、Interlachen(インターラーケン)C.C. (Minnesota)
Walter Hagen(ウォルター・ヘイゲン)は、最近スティール・シャフトのクラブに替え、そのアイアン・ショットを復活させていた。彼は云った、「ここには世界中の1,200人の参加希望者から選りすぐられた150人のベスト・ゴルファーが集まっているが、彼ら全ての相手はたった一人、ボビィ・ジョーンズだ。こんなことはゴルフ始まって以来のことで、信じられないことだ。しかし事実だ」
ボビィ・ジョーンズは、まだヒッコリー・シャフトのクラブを使っている一人だった。彼は17本のクラブをバッグに入れていたが、1番アイアンとオーヴァー・サイズの(フェースが凹んだ)ウェッジ(サンドウェッジ発明以前のもの)は、滅多に使われなかった。
ボビィ・ジョーンズのアトランタの二人の友人が、彼のボディガード兼ウォーター・ボーイ(飲料水補給人)として随行し、大観衆から揉みくちゃになる彼を守った。
・7月10日(木曜日)、この年のこの地域の暑さはU.S.オープン始まって以来の記録だった。初日の昼の気温は木蔭でさえ39℃で、その後42℃になろうとしていた。湿度は一日中80〜90% だった。アメリカ南部の暑さに慣れているボビィ・ジョーンズは、汗びっしょりだったが気温に不平は云わなかった。
ボビィ・ジョーンズのドライヴァーは復調しており、初日を71で終了した。この日、彼は体重を4.5キロ減らした。
ボビィ・ジョーンズのキャディに選ばれた地元の若者は、大観衆の混乱・暴走・妨害に忍耐強く対応するボビィ・ジョーンズの態度に感心した。しかし、この日のプレーイング・パートナーJock Hutchinson(ジョック・ハッチンスン、45歳、英国)は、慣れない未曾有の大観衆に飲まれ84も叩いてしまった。
ウォルター・ヘイゲンは72で上がった。初日のリーダーはMacdonald Smith(マクドナルド・スミス、英国)とTommy Armour(トミィ・アーマー、英国)の二人で、70のタイ・スコアだった。数人のプレイヤーが極端な暑さに辟易して棄権した。
・7月11日(金曜日)。乾いた風が吹き、昨日よりは条件が良くなった。
多くの観衆は午前中リーダーのマクドナルド・スミスとトミィ・アーマーに随いて歩いたが、午後はボビィ・ジョーンズとHorton Smith(ホートン・スミス、米国)を取り巻いた。ホートン・スミスは前日72で廻っていた。彼は過去のトーナメントでボビィ・ジョーンズを破った経験があるため、ボビィ・ジョーンズを恐れていなかった。
・ホートン・スミスはNo.9(485ヤード、パー5)の第二打で、2番アイアンの見事な池越えショットを放って2オン、6メートルに寄せイーグルを射止めた。後方でグリーンが空くのを待っていたボビィ・ジョーンズは、イーグルには無反応のまま3番ウッドを手にアドレスした。キャリーで200ヤード飛ばすパワーと、グリーン手前に池があるので正確性が求められる。彼はこのホール、毎回2オンしており、前日はバーディを得ていた。彼のスウィングがトップに達した時、背後にいた二人の少女が突如フェアウェイに向かって駆け出した。周辺視野でそれを認めたボビィ・ジョーンズのインパクトがほんの僅か狂った。ボールは低く出て池に向かった。観衆は息を飲んだ。向こう岸まで約18メートル足りない!しかし、ボールは沈まず水面で二度跳ね、グリーンまで30ヤードの芝の上に達した。観衆は呻き声を挙げた。このショットは、池に浮かんでいた睡蓮の葉にちなんで、この後永久に"Lily Pad Shot"(睡蓮ショット)と呼ばれることになった。ボギーかあるいはもっと悪いスコアになるところを、ボビィ・ジョーンズはバーディにした。No.10のティーでそれを見ていたホートン・スミスは、「おれはこの選手権に勝つ運命にはないのかも知れない」と思った。彼はNo.10でボギーを出した。ボビィ・ジョーンズはやや乱れ、No.13でダブルボギーを出した。ホートン・スミスが、ボビィ・ジョーンズを含む三人の二位タイに二打差をつけてトップに立った。
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・7月12日(土曜日)。ボビィ・ジョーンズは朝早く目覚め、(心身を消耗させる熾烈で過酷な競技生活からの引退を考えていたので)間違いなくこれが彼にとっての最後のU.S.オープン最終日であると感じていた。彼のプレーイング・パートナーは1926年のU.S.オープンで闘ったことのあるJoe Turnesa(ジョー・ターネサ、米国)。堅実で礼儀正しいプロで、パートナーとして最適だった。この朝、気温はやや下がったものの、湿度が増した。一万人の観衆がボビィ・ジョーンズを見ようと押し掛けていた。 |
・No.17(262ヤード、パー3)で、彼はその日初めてボギーを叩いた。No.18で彼はドライヴァーをプルした。彼を知る人は、彼の顔に疲労を認めた。このホールもボギーだった。しかし、スコアは68で、この日の参加者平均スコア77.96を遥かに上回っていた。
・前日トップのホートン・スミスは76で六打差に後退。ウォルター・ヘイゲンはラウンド半ば、彼の実の息子が父親を見捨ててボビィ・ジョーンズを見に行ってしまった。ウォルター・ヘイゲンは自分のお粗末なプレイにうんざりがっかりし、左手でパットし初め、80を叩いた。
・午後の最終ラウンド。ボビィ・ジョーンズは絶え間なく続くプレッシャーに消耗し疲れ果てていた。彼には午前のスコアを繰り返せるなどと期待出来なかった。No.1で彼は3パットし、ボギー。トラブルの最初の兆候であった。No.3でも3パットしてダブルボギー。No.4(パー5)で彼は300ヤードのドライヴをフェアウェイど真ん中に放ち、3番ウッドでグリーン間近に寄せた。見事なピッチ・ショットとパットでバーディ。続く5ホールをパーで、アウトを2オーヴァー38とした。
ボビィ・ジョーンズがスタートした一時間後にマクドナルド・スミスがスタート。彼は先月の全英オープンで二位タイで、ボビィ・ジョーンズに二打差で破れていて、年齢的にこのU.S.オープンが最後のチャンスと考えていた。
後半、ボビィ・ジョーンズはドライヴァーのリズムを見出し、三ホール連続でパーを得た。彼の作戦は、無理をせずパーを得ること、他の連中に博奕を打たせることだった。No.13(パー3)で彼は二打目を寄せ切れず、痛恨のダブル・ボギーとした。マクドナルド・スミスとの差はたった一打となった。
No.14でボビィ・ジョーンズはバーディを射止めたが、No.12でマクドナルド・スミスもバーディを得て、一打差変わらず。No.15、彼のバーディ・パットはリップアウトし、パー。そこへマクドナルド・スミスがNo.13でボギーを叩いたというニュースが伝わり、ボビィ・ジョーンズの気分を昂揚させた。No.16のティー、彼がハードに打つと起るプルが出てラフに入った。彼はこの大会で初めてロフトの多い重いウェッジを選び、短く歯切れの良いショットをした。ボールはピンから1メートルにつき、バーディ。2ホール残して二打のリード。
No.17(262ヤード、パー3)、ボビィ・ジョーンズは2番ウッドでフックを打とうとしたが、ヒールで打ってしまい、風の影響もあってフェードし、池に向かい…行方不明となってしまった。大観衆の誰一人行方を知る者はいなかった。誰かが池の縁の泥の中でボールを発見したが、それはロスト・ボールだった。USGAのルール委員が来て、「池はラテラル・ウォーター・ハザードである。1ペナで2クラブ・レングスにドロップせよ」と云った。そのルールの解釈を疑問視する者もあったが、ボビィ・ジョーンズはそれに従った。ダブル・ボギー。リードはか細い一打差となった。
No.18でのボビィ・ジョーンズのドライヴは、キャリーで300ヤード飛んだ。アイアンの二打目はグリーンを捉えた。大観衆はグリーンへと暴走した。ボールはピンまで12メートル。3パットの恐れがある距離である。ボビィ・ジョーンズは仔細にラインを検討し、筋肉を痙攣させながらパットした。ボールは…入った、バーディ!
マクドナルド・スミスにはNo.18でイーグルが必要だったが、彼のアプローチ・ショットはグリーン上のプレーイング・パートナーのボールにぶつかり、どちらも横っちょに弾けてしまった。彼の野望も弾けた。ボビィ・ジョーンズはグランド・スラムにあと一歩と迫った。【次回完結】
(February 26, 2021)
●Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)のグランド・スラム(完結篇)
'The Grand Slam: Bobby Jones, America, and the Story of Golf'
by Mark Frost (Hyperion, 2004, $15.95)
【U.S.アマ】1930年9月22日〜27日、Merion(メリオン)G.C. (Pennsylvania)
・現地入りしたボビィ・ジョーンズには五日の練習期間があった。Merionでの練習のスコアは最初が73、二日目が78だった。普通は試合前日は練習しないのだが、78という不出来では不安なので、もう一度練習ラウンドをした。その時、ドライヴァーが妙な音を立てた。パーシモン・ヘッドの後部に割れ目を生じていたのだ。Merion所属のプロが、「あまりにも正確にヘッドの真ん中で打つので、小さな穴が開いたのだ」と説明し、試合までに修理することを約束してくれた。その日、ボビィ・ジョーンズは控えのドライヴァーを使って69で廻り、記者に「幸運なら参加資格を得ることが出来るだろう」と冗談めかして云った。彼は試合開始直前に自分のゲームを取り戻したのだ。
・U.S.オープンを終え、アトランタで家族と過ごしていた間、ボビィ・ジョーンズは激しい下痢や腹痛、首の痛みなどに悩まされていて、毎日薬で騙していた。それはMerionに来ても続いていたが、ある日父や友人と一緒にプロ野球見物に行ってから、それがすっかり良くなった。
・U.S.アマには世界各地のクォリファイング・ラウンドを通過した168人が参加した。
・ボビィ・ジョーンズが観衆に揉みくちゃにされ怪我をするのを防ぐため、コース・マーシャル、50名の正式制服着用の海兵隊々員、40名の警官隊が警護にあたることになった。
・9月22日(月曜日)Merionでのクォリファイング・ラウンド一日目(ストローク・プレイ)。ボビィ・ジョーンズは69で廻った。この日80を切れたのは80人だけだった。
・9月23日(火曜日)クォリファイング・ラウンド二日目(ストローク・プレイ)。大勢がスロープレイだったため、待たされたボビィ・ジョーンズにとっては忍耐力テストの日となった。彼の周りに集まる観客の数は膨れ上がる一方で、隣りのホールにまでハミ出し、そのホールのプレイヤーたちを妨害するほどだった。No.18で30分も待たされたボビィ・ジョーンズが怒りを込めて打ったボールは350ヤードも飛んだ。
・9月24日(水曜日)上位32人のマッチ・プレイ・トーナメントによって八名に減らされる日である。ボビィ・ジョーンズの相手はカナダのNo.1アマチュアCharles Ross "Sandy" Somerville(チャールズ・ロス・”サンディ”・サマヴィル)だった。観衆の数は、およそ10,000人。ボビィ・ジョーンズはNo.14で、5 and 4で難なく勝利した。競技者は16人になった。
この日ボビィ・ジョーンズの二人目の相手もカナダ人Fred Hoblitzel(フレッド・ホブリッツェル)だった。ボビィ・ジョーンズの腹具合はよくなかった。フレッド・ホブリッツェルはかつて経験したこともない大観衆に囲まれて足がすくんだ。ボビィ・ジョーンズは午前と同じNo.14で5 and 4で勝ち、準々決勝へと進んだ。
・9月25日(木曜日)、最初の相手はアメリカ人Fay Coleman(フェイ・コールマン)だった。ボビィ・ジョーンズはダブル・ボギーを出したりしたものの、大観衆の目にさらされ試合運びを綻ばせたFay Colemanを、No.13で5 and 4で破った。
・9月26日(金曜日)、準決勝の相手は、ボビィ・ジョーンズの親友Jess Sweetser(ジェス・スウィーツァー)だった。ジェス・スウィーツァーは1922年のU.S.アマ優勝者であり、1926年に全英アマにも勝った実力者である。ファンは「ボビィ・ジョーンズは二度同じ相手に負けたことはない。これまで必ず復讐を果たしている」と安心していた。観衆はティーからグリーンまでの両側を隙間無く囲んでいた。ジェス・スウィーツァーはダブルボギーでスタートし、ボビィ・ジョーンズが4アップで最初のラウンドを終了した。彼はいつものようにトーストの上にチキン・サラダを乗せたものとアイス・ティーの昼食を摂った。
準決勝の第二ラウンド。ジェス・スウィーツァーのいくつものミスに助けられ、ボビィ・ジョーンズは9 and 8で圧勝した。
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・9月27日(土曜日)決勝マッチの相手はEugene Homans(ユージーン・ホーマンズ、22歳、米国)で、二人は以前に何度か対戦したことがあった。この日、USGAは一つの発明を披露した。若者に二人の対戦者の氏名と勝ち負けを記した表示板を2メートルの棒の先につけて持たせ、観衆に進行状況を示したのだ。この朝、18,000人の観衆がNo.1のティーからフェアウェイにかけてひしめいていた。正装した海兵隊々員50名がプレイヤー二人を護衛するために詰めていた。 |
ボビィ・ジョーンズはゴルフ史上誰よりも多い13のメイジャーに優勝し【註】、もう達成すべき記録はなくなった。二ヶ月後の11月、ボビィ・ジョーンズは引退を宣言した。【註】Jack Nicklaus(ジャック・ニクラス)は18のメイジャー優勝者で、これが現在最高の記録です。
(March 06, 2021)
●肥満体ハンドルの効果
当サイトでは、混乱を防ぐためクラブの握り方を「グリップ」、クラブの握る部分を「ハンドル」と使い分けています。
私のドライヴァーはテニスのグリップ・テープを巻いて太くしてあります。数年経って指のあたる箇所が擦り切れ、白っぽくなって来たので新しいテープを買って来て取り替えることにしました。古いテープを剥がしかけ、「待てよ?この上に巻いて、さらに太くしたらどうなるだろう?」
カナダの異才Moe Norman(モゥ・ノーマン)のスウィングを広めようとした'Natural Golf'(ナチュラル・ゴルフ)は、特別なハンドル、特別なヘッドのアイアン・セットを販売しました。ハンドルは左手のパームで握るため、太くて均一な厚みになっています。これは一般に"non-tapered grip"と呼ばれているもので、全体が太いのです(普通は末端が太く、ヘッド方向に細くなっている)。私の(ウェッジを除く)アイアン全てにこの"non-tapered grip"をインストールしています。
ドライヴァーだけはテニスのグリップ・テープを二重に巻いてあったのですが、今回試しに三重にしてみたのです。凄くいい握り心地です。なんか、軽く振っても飛ぶような、車のエンジンをグレードアップしたような感じ。(写真上)
ついでなので、パターのハンドルも三重にしてみました。パター・ハンドルを太くするのは、Jordan Spieth(ジョーダン・スピース)が流行らせたSuperStroke(スーパーストローク)の影響です。一時、私もSuperStrokeの太いハンドルを買おうかと思ったのですが、どうにもあのデカデカと印刷されたロゴが嫌いで踏み切れませんでした。あのフォントも品がないし、文字サイズもでか過ぎて嫌味です。で、テニスのグリップ・テープを巻くことにしたのです。要するに、手先でパターをコントロールするのでなく、肩・腕・手を一体にして動かすために太くするわけですから、材料は何でもいいわけです。
で、三重にしたパターも握ってみると、ふつふつと安心感が湧いて来て、ボールを常にガツンと捉えられるような気がします。(写真下)
さて、実際にプレイしてどうだったか?
練習ラウンドで安定したパットが出来、これまでよりいい結果を達成出来ました。パターに肥満体ハンドルは向いているのは間違いありません。ドライヴァーは、何やら野球のバットを振るのに似た感じがして、ついホームランをかっ飛ばそうという気にさせられます。これは逆効果です。手先で打ったのではパワーは生まれません。「身体でスウィングしよう」と逸る気持を抑えると飛ぶようになりました。
【追記(March 08, 2021)】本日のラウンドのNo.16(200ヤード、パー4)、私はガード・バンカーの左手前を狙ってドライヴァーを打ったのですが、ボールは真っ直ぐガード・バンカー目指して飛んでしまいました。ま、普通私のパワーでは滅多にバンカーには入らないので安心していましたが、行って見るとあと数センチでバンカーに入るギリギリのところで止まっていました。これは肥満体ハンドルの効果だと思います。通常より30ヤードは遠くに飛びました。ピンまで15ヤードを1メートルに寄せてバーディ。
(Mach 06, 2021)
●Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)の “勇敢な臆病者”であれ
'Secret of the Master'
edited by Sidney L. Matthew (Sleeping Bear Press, 1996, $22.00)
「ゴルフについて考え、難しい局面を恐れれば恐れるほど、どんな観点から考えても“忍耐”が最も推奨されるべき美点に思える。われわれはそれを次のような別の言葉で呼んだりする…懸命に努力した決断の成功、極度の集中心、勇気、ピンチの状況を支える度胸…など。しかし、われわれが常に評価するのは、彼が好機到来まで落ち着いて待つ慎重な人であって、そういう人は結果的にわれわれが敬服する他の特質も備えていると判断出来る。
五回の全英オープン優勝者J.H. Taylor(J.H. テイラー、1871〜1963)は、「私の知る全ての偉大なゴルファーは"courageous timidity"(勇気ある小心さ)を持っていた」と云った。これは初心者であれ熟達者であれ、ゴルフの機械的動作を遂行する能力を発揮するために必要とする資質を表す愉快な言葉だ。勇気とは不運や失望に真っ向から立ち向かうことであり、臆病な心とは一打一打の危険を認識し、成功が望み薄な博奕に出ようとする欲望を抑えることである。これはプロもアマもなく、ゴルフする者全てに当てはめられるべき至言である。
ゴルフは機械的精度のゲームではない。最も正確なプレイヤーでさえある程度のミスの許容度を設けなくてはならない。その許容度がどの程度かは、もちろんプレイヤーの技倆次第である。ある人にはリスキーでも、ある人には慎重な選択かも知れない。
だから誰しも自分の能力の限界を知り、実際の能力を超えるような馬鹿げた自信によって焦った行動をしてはならない。ゴルフは謙虚であるべきゲームと云われるのだが、多くの人々が自分の弱点に気づかないか、大胆過ぎるプレイをするのに驚かされる。
私はじっと我慢して好機を待つ態度を賞賛する。ストローク・プレイであれマッチ・プレイであれ、私は慎重にプレイするのが一番であることを発見した。言葉を替えれば、私はドッグレッグを曲がり角の近くに打とうとか、ガードバンカーに守られたピンにストレートに打とうなどとしたことはない。私は常に許容範囲の広い実行しやすい作戦を好み、二打目が長くなろうとも障害物を避けた。ピン近くに寄せたいとは思ったが、欲張らずグリーンに乗せることが重要であることを忘れないようにした。長いパットを過度に勇敢に捩じ込もうとしたことはなかったが、私はピン傍に打つべく努め、3パットの危険を減らしてバーディ・チャンスを待った。
この“待つ”という態度を持ち続けるのが難しいのは、スタートで躓いた時だ。人は最初の数ホールでの失敗をすぐにでも取り返そうと焦る。自分には所詮出来ない奇跡を起こしてイーグルやバーディを得ようと馬鹿なことを試みる。彼らのある者は失敗し、最悪の事態を招いて破れかぶれとなって玉砕してしまう。われわれはそういう例を絶え間なく目にして来た。
三ホール続けて失敗したからといって、次の三ホールで成功するとは限らない。どちらかと云えば、失敗の連続という流れをせき止め、平常心で安定したプレイを続け、そこかしこのホールで好機が訪れ挽回出来るまで隠忍自重すべきである。お粗末なスタートは意気沮喪させられるものなのだが、最初の方での余分な打数は、最後の方でのミスより悪いものではない」
【おことわり】画像はhttps://render.fineartamerica.com/にリンクして表示させて頂いています。
(May 10, 2021)
●筋肉の鍛錬
Covid-19ワクチンを二回接種し終えたものの、まだジムに行くのが恐い。閉鎖的な空間ですし、マスクをしていない人が多いらしいので…。ゴルフに必要な上腕三頭筋を鍛えるには手・腕を伸ばす運動が不可欠です。で、家で出来る運動をしています。
図のように椅子の上で肘を伸ばして身体を持ち上げる運動は、正真正銘上腕三頭筋を鍛えてくれます。ジムにある器具は身体は静止させたままレヴァーを腕で押し下げるのですが、結果としてこの椅子を使う運動と同じ原理です。ジムに行かなくていいだけ好都合というもの。最低15回、出来れば20回を1セットとするといいと思います。
『生体力学的鍛錬ヴィデオ』の著者(学者、インストラクター)によれば連日鍛錬するのではなく、中一日置いて筋肉の組織細胞を安定させ、次の鍛錬に備えるのがいいそうです。
「自宅で出来るトレーニング」(tips_190.html)で、道具無しの方法を色々紹介しています。スクァットやウォール・スィットで下半身を鍛えるとロング・ドライヴの土台を構築出来ます。シニアになるとバランスが悪くなり、転倒の危険が増します。これを防ぐ「バランス・テスト」(同上)もお勧めです。
ゴルフ仲間の一人で私と同年齢の飛ばし屋が面白いことを云いました。「エイジはわれわれの中でトップ・クラスの飛ばし屋だ」と。「冗談でしょ!」と私。大体において彼の方が飛ぶからです。彼は「聞けよ。おれは体重あたりのヤーデージを云ってるんだ」と続けました。
私はここ数年110ポンド(約50kg)で一定しており、彼の体重は240ポンド(約108kg)です。私の倍以上体重があるわけです。仮に彼が200ヤード飛ばすとして彼の体重で割ってみると0.83ヤード、私が180ヤード飛ばすとして私の体重で割ると1.6ヤードですから、体重あたりでは私の方が彼の倍飛んでいることになります^^。しかも、実際にホールによっては彼より私の方が飛ぶこともあるのですから面白い。鍛錬の甲斐はあるようです。
【おことわり】画像はhttps://www.indianworkouts.com/にリンクして表示させて頂いています。
(May 10, 2021)
●Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)のゴルフ・レッスン映画
Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)は1930年のグランド・スラム達成後、公式競技から引退しました。それを待っていたかのように、ワーナー・ブラザースから短編映画シリーズへの出演を乞われました。アマチュア時代には出演料を受け取るわけにはいきませんでしたが、もう遠慮なく出演出来ます。グランドスラム達成の二ヶ月後、彼は16本の短編映画に出る契約をしました。出演料は10,000ドル+興収の50%という契約で、その収入の多くは三人の子供の育英基金となったそうです。
映画はそれぞれ10分程度で、劇場でメインの映画の前に上映されるニュース、漫画映画と同じような扱いの添え物でした。ですから、ゴルフをしない人にも面白がって貰えるよう、各編趣向を凝らした小さなドラマがあり、登場人物のゴルフの悩みを解決するためにボビィ・ジョーンズが登場する…というパターンです。
私が購入したDVD'Bobby Jones: The Complete Warner Bros. Shorts Collection'には、下記の短編が全部入っています。
Bobby Jones: How I play golfシリーズ
1. The Putter(パッティング)
2. The Chipshot(チッピング)
3. The Niblick(9番アイアン)
4. The Massie Niblick(7番アイアン)
5. The Medium Irons(ミドル・アイアン)
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6. The Big Irons(ロング・アイアン) 7. The Spoon(3番ウッド) 8. The Brassie(2番ウッド) 9. The Driver(ドライヴァー) 10. The Trouble Shot(トラブル・ショット) 11. Practice Shots(練習) 12. A Round of Golf Bobby Jones: How to break 90シリーズ |
これらに登場するゴルフ好きの映画俳優たちは、ジョー・E・ブラウン(『お熱いのがお好き』)、エドワード・G・ロビンスン(『キー・ラーゴ』)、ジェイムズ・キャグニィ(『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ』)、W.C. フィールズ、リチャード・バーセルメス、ウォルター・ヒューストン、ロレッタ・ヤング、ダグラス・フェアバンクス二世など、豪華な顔触れです。彼らは「ボビィ・ジョーンズに教われるのなら…」と無料で出演したそうです。ちょっとした特殊撮影を含めた回もあれば、ボビィ・ジョーンズがカメラ目掛けてボールを打ち、レンズを壊したように見える場面なども出て来ます。
次のような点で、ボビィ・ジョーンズのスウィングやパッティング・ストロークは現在主流のプロやインストラクターが教えることと異なります。
・テイクアウェイからコックが始まる(アーリィ・コック)
・バックスウィングで左踵を上げ、野球のバッターのように左肩と左腰を90度右に捩じる。左膝を右へ大きく曲げる。
・トップでクラブシャフトは地面と平行より若干垂れ下がり、しかもクラブヘッドがターゲットの少し右を指す。
・パッティングの際手首が折られ、やや手首のパワーを使ったストローク。
しかし、以上のようなスタイルでもボールをカップ目掛けて近づける妙技には賛嘆せざるを得ません。特に、まだサンドウェッジが開発される前だったのに、バンカーからぼんぼん連続してピン傍に寄せる技には感心を通り越して呆れてしまうほどです。それも靴で踏んづけて目玉にした上で…。【映画の彼は、顎の高いバンカーではniblick(ニブリック、現在の9番アイアンに相当)を用い、後半の顎が低く遠いバンカー・ショットではmashie niblick(マッシー・ニブリック、現在の7番)を用いています】
(July 01, 2021)
●Corey Pavin(コリィ・ペイヴン)のバンカー・ショット練習法
1995年のU.S.オープン優勝者でショート・ゲームの名手Corey Pavin(コリィ・ペイヴン)が紹介する練習法。
'Corey Pavin's Shotmaking'
Corey Pavin with Guy Yocom (NYT Special Services, Inc., 1996, $14.00)
「普通のグリーンサイド・バンカーでの目的は砂からボールを抉(えぐ)り出すことではない。もの凄いパワーも必要ないし、ボールをほじくり出す必要もない。単純にクラブヘッドをボールの下でスライドさせればいい。
最適のイメージであり効果的でもある練習法は、ボールが砂の表面と同じ高さになるようにティーを刺す。あなたの使命はそのティーを真っ二つにすること。実際はティーを折ることなんてほぼ不可能なのだが、それを遂行しようと努力する。
ティーを真っ二つに折ろうとすると、あなたは否応なくボールの下1インチ(約2.5センチ)の深さをクラブヘッドで貫かなくてはならない。ティーを弾き飛ばすには、クラブヘッドがボール後方数インチ(5〜7センチ)のところに突入する必要がある。もしあまりにも遠くで突入するとティーはびくとも動かない筈だ」
この練習法のアイデアは上のJenny Shin(ジェニィ・シン)の「クラブヘッドがボールの後ろではなく、ボールの真下に達することを考えるべきだ」という言葉に呼応します。
やってみると、これは確かにいい方法です。ティーを横薙(な)ぎにするということは、砂への攻撃を「点ではなく面」として考えさせるので、クラブヘッドをボールの下でスライドさせるスプラッシュ型バンカー・ショットに最適です。
(July 09, 2021)
●Dave Pelz(デイヴ・ペルツ)のバウンス詳説
なぜこの本を先に読まなかったんだろうと思わされたのがショート・ゲーム専門インストラクターDave Pelz(デイヴ・ペルツ)の本です。彼のバンカー・ショットの技法はこれまでに紹介したものとさほど変わりませんが、彼はウェッジの構造とクラブ選択について非常に詳しく解説しています。
'Dave Pelz's Short Game Bible'
by Dave Pelz with James A. Frank (Broagway Books, 1999, $30.00)
Dave Pelzの説明を、私のウェッジを例にして述べてみます。図の点線(リーディング・エッジの最下端)からどれだけ下に膨らんでいるかをバウンス(=フランジ)と呼びます。左の52°GWとその右隣りの56°SWは、見た目の違いからバウンスも大きく異なるように見えますが、実際に異なるのはロフトだけで、点線から赤線までの距離は全く同じで、バウンスはどちらも9°なのです(私は二つのバウンスは違うと思っていたので、クラブのスペックを調べて驚きました)。
真ん中とその右はどちらも56°サンドウェッジです。右のSWのバウンスは不明ですが、多分6°〜9°です。二つの大きな違いは、右のSWは前から見た底部の深さ(青線)が浅いバウンス、真ん中のSWは底部の深さ(青線)が深いバウンスであること。バウンス底部が深いとソフトな砂にめり込まずに振り抜くことが出来るし、深いラフでスウィングするのにも有効ですが、湿った砂や固い地面だと撥ね返されてトップする危険があります。右端のようにバウンス底部が浅いと、フェアウェイからのピッチやチップにも使えますが、ソフトな砂だとめり込んでつっかえてしまう危険があります。
以上の点を踏まえ、Dave Pelzは以下のようなことに注意すべきだと云っています。
1) バウンス底部の深さが浅いウェッジ(右端)だと、フェースをオープンに構えた時のバウンス効果は二倍程度であるが、バウンス底部の深さが深いウェッジ(真ん中)をオープンにするとバウンス効果は三倍(デザインによってはそれ以上)に増える。
2) バウンスが大きければ大きいほど、固い地面では撥ね返される。だから、フェースをオープンにした場合でもフェースに刻まれた線の三本目か四本目でボールと接触出来るような、バウンスが少ないウェッジも一本携行すべきである。
3) 同じ度数のバウンス、あるいは同じ深さのバウンスのウェッジばかり携行すべきではない。ボールがどこに飛ぶかは定かでないのだから、ソフトな砂や深いラフに飛んだらバウンスの多いウェッジ、湿った砂や裸地に行ったならバウンスの少ないウェッジが必要だ。
4) あなたのコースのコンディションに合わせて、極端に多いバウンス、少ないバウンスのウェッジを持つのに躊躇すべきでない。また、他のコースでプレイする時のために、異なるバウンスの選択肢を揃えておくのが賢明である。
(July 17, 2021)
●グリーン周辺を研究して戦略を立て直す
ある日の練習ラウンドのNo.12(102ヤード)パー3【上りのバンカー越え】。7番アイアンによる「置き去り」を念頭に置いたショットは狙い通りピンの右10ヤード見当に飛び、グリーン左側のピン方向に跳ねました。上りなので、ティーからはグリーン表面は見えません。失敗したとしたら飛び過ぎだけです。
カートで近寄って行くと、ボールはカップの右斜め横50センチについていました。完璧。バーディ。
実はそれは、私の最近のこのホールの研究の成果でもありました。このグリーンに立って調べてみると、グリーンの真ん中を狙ったボールはほとんど左に転がり出る傾向があることが判りました。ですからグリーンの右端を狙わなくてはならないのですが、目標がつけにくい。ふとグリーンの背後の林を振り返って見ると、いい具合に木々の間に大きな凹み(空間)があり、そこを狙って打てばいいのだと気づきました。で、以後ティー・グラウンドに立ったらピンの位置など無視し、木々の間の凹みを狙って打つことにしたのです。これが役立ったのでした。その後もこの作戦は成功しています。
味をしめて他のホールでも同じような戦略が立てられないか調べてみました。
No.1(320ヤード)パー4は結構な上りで、フェアウェイもグリーンも共に右から左へと急傾斜しており、ピン目掛けてボールを打つと遥か左の崖下へ転落してしまいます。かなり右を狙わなくてはなりません。しかもバンカー越えと来ているのでパーで上がれれば御の字です。ここではフェードあるいは軽めのスライスを打つのが正解なのですが、私の場合うまくいく確率が低く、すっぽ抜けて左の崖下へ行ってしまうことが多いので、バンカーの手前に刻んでパーかボギーにするのが常でした。
このグリーンに立ってフェアウェイを振り返って見ると、グリーンの右を大きな松の木が遮っているので、このホールは実質的に右ドッグレッグとしてプレイすべきであることが判りました。ですから、フェアウェイ左からグリーンを攻めるのが望ましい(ただし、左からはかなりの上りになるのでワンクラブ距離が長くなる)。
試みにフェアウェイ左端の第二打地点(図のA、グリーン中央まで150ヤードの距離)から18°ハイブリッドで図の①を狙ってボールを打ってみると、一発がオン(バーディ・チャンス)、一発がバンカー、一発がプッシュしてグリーンの右(図の②、ここは寄せ易くパー・チャンス)という結果でした。
続いてフェアウィ真ん中のピンまで150ヤード地点(図のB)から21°ハイブリッドで打ってみると、プッシュした二発がグリーン右横(図の②、寄せ易いのでパー・チャンス)に行き、残り一発はグリーンにオン(バーディ・チャンス)。
フェアウェイ右(図のC、ピンまで150ヤード)からだと松の木が邪魔をして図の①を直接狙うのは難しいのですが、グリーン右横(図の②)を狙うにはうってつけです。24°ハイブリッドで打った二発がグリーン右横へ行き(パー・チャンス)、プルした一発は幸運にもオンしました(まぐれ)。
以上のショットの中の成功例は、いずれも「置き去り」によるスウィングの正確さに負うところ大です。
ある日のラウンド、ティー・ショットはフェアウェイ右側の残り140ヤード地点に届きました。練習の結果は、5番アイアンを2.5センチ持って打て…となっており、①を狙ってわれながらいいショットを打ったのですが、右の木の枝に当たってポトンと落ちてしまいました。5番アイアンのロフトを減らして打つか、②を狙うしかないようです。
(September 06, 2021)
●Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)名言集
一章として紹介するほどではないが、印象に残る数句を集めてみました。
'Bobby Jones on Golf'
by Bobby Jones (Broadway Books, 1966, $18.95)
「・ゴルフが腹立たしいゲームであることの理由の一つは、学んだことがいとも容易に忘れ去られ、われわれが過去に何度も発見し修正した筈の過ちにまた何年も苦しめられることだ。どの修正も死ぬまで効果があるものではなく、われわれの心がスウィングの他の部分にかまけると、以前の欠陥が浮上してわれわれを悩ます。
・最大の飛距離を得たいドライヴァーとロング・アイアンを除いて、他のどのクラブも下降中にボールと接触すべきである。フェアウェイ・ウッドとアイアンで角度は異なる。ウッドでは地面を薄く削るだけだが、アイアンでは厚めのディヴォットを削り取る。ヒットダウンすることで得られるスピンは、ボールの正確な飛行をコントロールするために不可欠である。
・短いショットは論理的には最も容易なものであるべき筈だが、それはゴルファーの心と身体がリラックスしている場合の話だ。
・われわれがパットする時の決意はネガティヴだ。われわれは、それを成功させようとするよりも、失敗しないように努力する。
・私はたとえボールがカップの縁にある場合でも、ちゃんとアドレスしてストロークする。
・パットでトップするとしたら、二つの原因のどちらかだ。急いで打ったか、あまりにも早く頭を上げてしまったか。
・誰しも4〜5メートルのパットを易しいと感じる。それより短い距離だと失敗を恐れるし、もっと長いときっちりに寄せられないのではないかという失敗を恐れる。だが、4〜5メートルなら入るかも知れないという希望を抱き、ボールをカップに誘導すればいいだけだと思う。そして、そこから3パットする筈はないと知っているからだ。
・シャンクを防ぐにはバックスウィングの間にフルに手首をコックし、ダウンスウィングの最初の半分の間その角度を保つことだ。
・ホームコースで69や68で廻れたとしても、慣れぬコースへ行けば簡単に80台になるものだ。
・達人は自分が実践していないことを人に教えたりする。
・ゴルフは(特に競技ゴルフは)他のスポーツにない切れ目のない熾烈な集中力が求められる。一瞬の集中心の欠如、ちょっとした不注意などは、いくつもの身体の機械的動作のミスよりも破壊的である。なぜなら、過ちを犯した後、元の平静な心理状態に戻ることが困難になるからだ。
・充分な手首のコックとその角度をインパクト・ゾーンまで維持することは、単によいタイミングのためとかクラブヘッドの速度を増すためだけに重要なのではない。ヒットダウンし、バックスピンを生むために絶対不可欠なのだ。左腕とクラブ・シャフトの間の角度が、ダウンスウィングの早期に開いてしまうと、その時クラブヘッドは低くなり過ぎ、その後のスウィング弧はあまりにも浅くなってしまう」
'Secret of the Master'
edited by Sidney L. Matthew (Sleeping Bear Press, 1996, $22.00)
・私が好調な時、常に一つか二つスウィングの心構えを間違いなく実行するようにしていて、それがしばらくの間の成功を約束してくれる。だが、その心構えは常に同じものではない。ある一つの心構えは単に限られた期間役立つだけで、その魔力が消えると私は何か別なものを探さなくてはならなくなる。
・チッピングもランニングも一本のクラブで処理するというのは、間違った考えだ。
・左足内側をボール位置とするのは、ドライヴァーと2番ウッドに最適である。左踵のやや内側はピッチングなど鋭くヒットダウンするスウィングに相応しい。私は両足の中間を限度として、それを越える後方にボールを置くことはしない。
・ラフの長い草の間にボールがある時とかバンカー、あるいは難しいライに直面した時、一般ゴルファーはスウィングする人でなく"digger"(掘る人)になってしまう。草を刈ったり砂を爆発させるためのエクストラのパワーの必要性が、彼に《パワーはのびのびとしたスウィングによって得られる》という事実を忘れさせてしまう。達人はそういうミスを犯さない。彼もその場に必要とされるだけハードに打つものの、身体を緊張させたりしない。彼はいつもと同じ身体の捻転、手首のコック、タイミング、そしてフェアウェイでするのと変わらないスウィングをする。
・ボール目掛けて(at the ball)打つ人はリズムの感覚がない。ボールの前後を通過するように(through the ball)スウィングすべきである。
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・英国の女性アマNo.1のJoyce Wethered(ジョイス・ウェザード)のスウィングは完璧である。 'Down the Fairway' ・私はパットするのに時間をかけないタイプである。だが、あるトーナメントで、重要なラウンドで呼吸が早いうちはパットするまいという決意をした。だから、表面上私はラインを調べたり、しゃがんだりするものの、私の真の目的は呼吸と動悸を静めることにあった。 ・アイアンを打つ際、ボール位置は左足の前方で、左腕は真っ直ぐ伸ばす。バックスィングはボールから遠ざかるように充分捻転する。この動きは身体の左サイドが右サイドをプッシュするように意識している。フリーな最大限の捻転は、私のスウィングの重要な要素である。 |
・ウッドを打つ時は、左爪先を僅かにターゲットラインから下げる。ややオープン・スタンスである。私のスタンスは他の誰よりも狭いと云われたものだ。アドレスした時、私の体重は両方の足の拇指球にかかっている。膝は微かに前方に折れている。スウィングのトップで、肘は真っ直ぐである。
・ごく若い時期、私は自信満々でトーナメントに参加したが、思慮が足りなかった。自信がなく不安な気持の時、いいプレイが出来ることに気づいた。
・六日間もトーナメントでゴルフ漬けとなり、一日に36ホール廻ると、18ポンド(8キロ)体重が減るなんて信じられるだろうか。私のトーナメント前と後の写真を較べるとその差はショッキングなほどだ。
・次第に理解したのだが、一打(あるいは1ホール)の負けをすぐさま取り戻す必要はないのだ。多分それは破滅的なものではない。多分相手が一打(あるいは1ホール)ミスしてくれるかもかも知れないのだ。
・トーナメントで必要なのは"patience"(忍耐力、我慢強さ、冷静さ)である。結局"Old Man Par"(パーおじさん)との対戦なのだ。彼は"patience"の塊りで、絶対にバーディやイーグルを出したりしない。しかし3パットも絶対にしないのだ。彼は"patience"そのものなのだ。
(September 19, 2021)
●アメリカのどうしようもないゴルファーたち
『道を聞かないアメリカ人』という記事(http://www2.netdoor.com/~takano/english2/custom2.html#direction)を書いたことがあります。アメリカ人男性は車を運転中、道に迷うことを恥だと思って人に道を聞きたがらない、…という内容です。
道ばかりでなくゴルフでもそうなのです。どんな下手くそなゴルファーも、上級者の助言を聞きたがらない。いや、一応耳を傾けて「なるほど」とか云ったりしますが、実際にはほとんど聞いていません。助言した者が見守っていると、次のショットだけは云われたことを実行してみせますが、そんな只の一回でうまく行くわけはなく、結局その助言は忘れ去られます。
私のチッピングに感心した初心者が二人いまして、私は懇切丁寧に教えたことがあります。その時は二人ともピン傍に寄せたりして「凄い!」とか云っていましたが、その後は彼らの自己流に戻り、相変わらずホームランだの、あさっての方角にチップしています。私が数十分にわたって説明したことは全く時間の無駄でした。もう懲りましたので、誰にも教える気にはなりません。
私は研究魔なので、自分のアイデアを実験し結果を出そうとします。本や雑誌のtipsを試したことは数限りなくあります。そういう者の目から見ると、何も学ぼうとせず旧態依然30年前にゴルフを覚えた頃のメソッドにしがみついている連中は、ほとんど馬鹿に見えます。
例えばティーアップの高さ。もはやスウィートスポットの時代ではなく、ホットスポット(スウィートスポットとクラウンの間)で打つ時代であり、ドライヴァーは7センチ以上の長めのティーで打つのが常識なのに、アイアン用の短いティーで打つ連中が多い。てんぷらが怖いのだったら、私のようにボール後方でアドレスすればいいだけなのに。
たまさか得られるドライヴァーの飛距離に幻惑されてしまい、常に目一杯打って右や左の旦那様の連中が多い(特にパワーのある世代)。隣りのホールどころか二ホール右に打ったりする。こういう連中はショートゲームの練習などほとんどしない。
「斜面の公式」(tips_57.html)に図解したボール軌道の常識を知らない連中も多い。だから、なぜミスしたのか、原因が解らない。
「砲台グリーンの斜面からのチップ」(tips_197.html)の法則など考えたこともないので、どんな斜面からでも目測した水平距離で打ってショートし「ちゃんと打てなかった」などと云う。ちゃんと打ってるのだが、斜面の角度の分だけロフトが増えて高く上がってショートするという原理に気づかない。
週に何度もプレイしているコースなのに、各グリーンの癖を研究しようとしたりせず、いつも出たとこ勝負でパットする輩が多い。
こういうゴルファーたちと日替わりでチームを組まなければならないのですから辛いです。
画像はhttps://static01.nyt.com/にリンクして表示させて頂いています。
(Octomber 03, 2021)
●私家版・ゴルフの十戒
以下は私自身のための自戒集ですが、どなたかのお役に立つかも知れません。
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1) 薄氷を履(ふ)む思いでプレイせよ これは自作の文句ですが我ながら名言で、この心境の時はいいプレイが出来ます。 自分の得意な距離の寄せが残った時、あるいはOKの距離をちょっと越えるパットなどで、内心「これは頂きだ」とニンマリしながらプレイすると、ダフったりパターを地面につっかえたりしてとんでもないミスを犯すことがあります。打つ前に絶対にニンマリしてはいけないし、「これならパー間違い無し」、「またもバーディだぜ、ウシシ」などと穫らぬ狸の勘定を始めるのも御法度です。 2) 右脳に打たせよ ゴルフは右脳でプレイするスポーツと云われます。打つ前の状況分析やクラブ選択を思考するのは左脳ですが、一たん作戦が決まったら、後は運動神経を司る右脳と潜在意識に委ねなくてはいけません。仲間との会話には左脳が機能していますから、会話した直後に打つとまだ右脳が全権を握っていないので、上の空だったり身体がギクシャクしてスムーズに動かない恐れがあります。会話をやめた後、少なくとも30秒ほどターゲットを見ながら深呼吸するなどして、左脳から右脳へバトン・タッチすべきです。 |
「脳はゴルファーが自分に語りかける際の否定形や制止する言葉を理解出来ない」そうです。「〜するな!」【例:ヘッドアップするな、池に入れるな】ではなく、建設的・希望的に「〜しよう!」【例:ボールを見続けよう、ちゃんと振り抜こう】というように云い方を変えるべきです。
3) 不安を感じるとスウィングが早くなる
これは、ドライヴァーからパッティングに至るまで全てに当てはまる公式です。
クラブ選択の迷い、ライの悪さ、前のホールでのミスの記憶、前方にあるバンカーの恐怖…こうした不安が心に忍び寄ると、われわれのスウィングは早くなります。それは、強打で問題を解決しようという愚かな考えだったり、あるいは「一刻も早くこの難局から逃れ出たい」という窮鼠の本能でもあるでしょう。
私の考えでは、プレイヤー個々の性格・身体的条件などからスウィングの最適のテンポは決まっており、そのテンポであれば正確なショットが打てるのですが、突如スウィング速度を速めると、通常より早くクラブヘッドがインパクト・ゾーンに達するため、フェースがまだスクウェアになる以前にボールとコンタクトしてしまう。これはプッシュの原因です。「経験者は語る」の範疇の理論ですが、私は間違いないと思っています。どんな状況であれ、スウィングのテンポを変えてはいけないのです。
慌てると正確なインパクトが得られず、トップしたりプッシュしたり、ありとあらゆるミスが待っています。いい結果を期待するのでなく、「いいショットをしよう」と決断すべきです。いいショットとは、慌てず騒がず、自分本来のテンポでスウィングし、きっちり正確なインパクトを迎えることです。
ミスを避ける方法は、不安を感じたら《結果を恐れるとスウィングが早くなる》という法則を思い出し、それに抗することです。「よし、落ち着いてゆっくり打とう」と考える。
不安があろうと無かろうと、ゴルフ・ショットというものは打ってみるまで結果は分らないものです。それはBobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)であれTiger Woods(タイガー・ウッズ)であれ同じことです。その一打はファイン・ショットになるかも知れないし、OBや池ポチャかも知れない。それがゴルフの面白いところでもあるわけです。彼らだって一抹の不安を感じることはあるでしょうが、彼らは一旦決断したらそのショットの遂行に全身全霊を傾注します。その時、不安はかけらさえ残っていないでしょう。不安を引き摺ったままスウィングしてしまうわれわれと一線を画しています。
「慌てる乞食は貰いが少ない」と云われるように、急ぐのは失敗への招待状です。Nick Faldo(ニック・ファルド)は全盛期どのクラブでも同じテンポでスウィングしたそうです。状況、クラブの違い…にかかわらず、一定のテンポでスウィングすることが秘訣のようです。
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4) 強打でなくスコーンと打て 何度か二打目を寄せるのに失敗したホール、あるいはプッシュ/プルしがちなホールのショットは、ややもすると困難をねじ伏せようと力任せに打つ傾向があります。失敗を恐れてスウィングが早くなるだけでなく、無用な力も篭ってしまいます。 私はそういう難局に直面した時、ドライヴァーでもハイブリッドでもアイアンでも、「スコーン!と打とう」と呟くことにしています。力まず、ボールとのいいコンタクトを望むだけ。言葉を替えれば「いいスウィングをしよう」ですが、「スコーン!」にはクラブ・フェースのスウィート・スポットで快打を放とうという打感への期待が篭められているだけで、エクストラの飛距離やピンに寄せようというような欲を排除した想念です。強打や豪打(?)ではなく快打です。野球で云えば、派手なホームランや三塁打でなく、堅実な一塁打か二塁打という感じ。 私が一緒にプレイする90歳近いシニアの何人かは、全く無欲の(力まない)「スコーン!」というスウィングで、軽く180ヤードぐらい飛ばします。その一人はTVを見ながらダンベルを上げ下げする運動をしているそうです。それでも目一杯打とうとするのでなく、「スコーン!」と正確に真っ直ぐ打ちます。私の網膜に焼き付いているそのスウィングが私のモデルです。 5) ティー・ショットの飛距離に自惚れるな |
ティー・ショットが同伴競技者に較べて断トツに飛ぶと、「どんなもんだい。俺って凄いだろ」と笑みを隠すのに苦労したりします。しかし、パー3で見事にワンオンさせたのならともかく、パー4やパー5でのティー・ショットは二打目のための布石でしかなく、10ヤード長く飛ぼうが飛ぶまいが全く意味はありません。重要なのは二打目です。一打目がピンまで残り8番アイアンの距離に飛んだからと云って、それを乗せられなければトータルで失敗です。ピンまで残り5番アイアンの人が二打目を上手く乗せたら、ティー・ショットは短くてもその人の方が偉いのです。
ティー・ショットが一番飛んだゴルファーが、二打目をダフったりトップしたりする姿を見ることはしょっちゅうです。「飛んだ」という事実がゴルファーを「絶好調だ!」と慢心させ、二打目を慎重に打つことを忘れさせてしまう。《ティー・ショットは見世物でしかない》という言葉を思い出すべきです。
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6) うまくいったプレイを模倣するな 例えば、練習グリーンのピンから15〜20ヤード離れたエッジからチップしていて、ボールの一つがチップインしたとします。「ウシシ。よし、連続でもう一回チップインさせてやる!」 あなたは前と同じ地点を狙い、同じバックスウィングをし、前と同じフィリーングのインパクトを再現しようとします。結果は?もちろん、入りません。 今度はグリーン上で5メートル離れたカップにパットします。ある一個のボールがするするとカップに招かれたように沈みました。「よし、連続でもう一度沈めてやる!」あなたは前と同じブレイクの頂点を狙い、同じバックストロークをし、前と同じフィリーングの強さを再現しようとします。結果は?もちろん、入りません。 ここで曲者なのは「前と同じ」ことを再現しようと努力することです。ゴルフは(ベン・ホーガンでもない限り)囲碁・将棋のように同じ手を指すということは出来ません。それを証明してお目にかけましょう。 メモ用紙でもチラシの裏でも何でも結構、ボールペンであなたの名前を書いて下さい。漢字でも横文字でも構いません。書けましたか?では、その最初に書いたのとそっくりにもう一度名前を書いて下さい。出来るだけ瓜二つに。 どうでした?最初に書いた方は自由で勢いがある書体だった筈ですが、それを真似して書こうとした二度目の方は活き活きした勢いがなく、貧相な感じではありませんか?模倣する、なぞる…ということはこういうことなのです。「前と同じようにしよう」とすると、決して前と同じにはならないのです。 成功をなぞるのではなく、気持ちも筋肉もリセットし、最初の一歩からやり直すべきです。 |
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7) 早めにグリーンのスピードに慣れるべし 夏場、地面が乾燥するとグリーンは早くなる。追い蒔きされた芝が伸びる時グリーンは遅くなる。雨の後も遅い。午前に刈られた芝も午後は芝が伸びるので遅くなる。こういう現象に、早めに気づかないといけません。パットが失敗すると、われわれはストローク法や距離感がいけなかったのだと思いがちになりますが、実はそれらは問題なく、グリーンの状態の変化に気づかなかっただけなのだ…ということが、ままあります。 カラカラに乾いたグリーンへ寄せる場合、ランを10ヤードも見込まないとグリーン・オーヴァーしてしまうこともあります。パッティングの問題だけではなく、グリーンの早さはアプローチの距離感にも影響します。練習グリーンで試しておけばいい…と云われるかも知れませんが、コースのグリーンそっくりに調整された練習グリーンなんて、オーガスタ・ナショナルとそのほか有数のゴルフ場数ヶ所しかないと聞いたことがあります。練習グリーンの速度は信用出来ないと思った方がいいのです。 8) 離れ業を披露しようとするな 例えばバンカーとピンの間が凄く狭いのに、その間にピッチやチップをするようなケース。成功すればやんやの喝采を浴びるでしょうが、距離や方向が定かでないわれわれの技倆では、ショートしてバンカーに落ちる確率が高いでしょう。 |
こういう場面で、英語には"Don't be cute."(小賢しく立ち回ろうとするな)という助言があります。"cute"には「可愛い」という意味だけでなく、「生意気な」という意味があり、この場合は後者です。
バンカーや池、小川などに近い側にセットされたピンを"sucker pin"(サッカー・ピン)と云います。この"sucker"は「カモ」という意味で、"sucker pin"は繁華街で愚かな呑んべを甘い言葉でぼったくりバーに誘う若く魅力的な女の役割です。大枚をはたくことになる呑んべ同様、愚かなゴルファーも"sucker pin"に騙されてバンカーや池に落ち、予期せぬ打数を費やすことになります。
多くのプロやインストラクターたちが、「"sucker pin"は無視して、グリーン中央を狙え」と云っていることを思い出しましょう。
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9) ジンクスを無視するべからず ジンクスは迷信です。判っています。私にもいくつかジンクスがありますが、どれも合理的説明がつくわけでもなく、必ず悪いことが起るわけでもありません。 しかし、ジンクスが絡む状況に陥った時、「どうせ迷信だ」と理性で捩じ伏せようとすると、僅かでも心の中で葛藤があります。そしてそのジンクスを100%無視出来るものでもなく、心の中の数パーセントは悪いことが起るかも知れないという不安を払拭出来ません。 そういう心理を抱いている場合、プレイに悪影響を与える可能性があります(スウィングが早くなったり)。ですから、ジンクスを信じないとしても、ジンクスに逆らうべきではないと思います。 私のジンクスの一つは、《ピンに遠い順からプレイする》というルールに反してプレイすると、必ず失敗するというもの。トーナメントでもない場合、スピーディにラウンドするために《打つ準備が出来た者からプレイする》という"ready golf"(レディ・ゴルフ)というカジュアルなルールもあるので、本当は順番を遵守する必要はありません。しかし、私にはそれはジンクスなので、私よりピンに遠い者がぐずぐずしていても先に打ったりしません。バッグの中をかき回して何か探している振りをします^^。 |
10) ラウンドを擲(な)げるな
前半の出来が悪かったからといって、後半も悪いとは限りません。私も「今日は駄目だ…」と思っていたのに、後半でバーディが一つ二つあって、80を切れたことが何度もあります。
堅実にパーを記録し続けていれば、いつかはバーディが転げ込んで来ることがあり得ます。「今日はもう駄目だ」と投げ遣りになるのではなく、「スコアはともかく、いいショットを連続させよう」という姿勢が望ましいでしょう。謙虚に「尻上がりに良くしておいて次回のラウンドに繋げよう…」と思ったりすると、意外にその日のうちにいい結果が出たりするものです。ラウンドを擲(な)げてはいけません。
(Octomber 20, 2021)
●『ラスト・サムライ』の教訓
'The Last Samurai'(2003)『ラスト サムライ』でTom Cruise(トム・クルーズ)演じるNathan Olgren(ネイサン・オルグレン)は、剣術を学ぼうとして真田広之から何度もこてんぱんに叩きのめされます。見兼ねた勝元盛次(渡辺 謙)の息子・信忠が次のように進言します。
信忠: "Forgive me. Too many mind." 助言をお許し下さい。色々気にし過ぎなのです。
オルグレン: "Too many minds?" 気にし過ぎ?
信忠:"Mind sword, mind people watch, mind enemy....No mind." 剣を気にし、見ている人々の目を気にし、対戦相手を気にしています。…何も気にしてはいけないのです。
オルグレン: "No mind..." 何も気にしない…。
冬が去り春が来た時、オルグレンは再び木剣で真田広之と対峙します。一本目を真田広之に取られたオルグレンは信忠の忠告を思い出します。"No mind..." 目を閉じた彼の網膜に真田広之の戦法が鮮やかに浮かびます。目を開いた彼に剣さばきや負けたら恥ずかしい、真田広之に勝とうなどという邪念は消えていました。こうして、彼は対戦相手の動きに反応するだけの無心の境地に達し、剣の名人相手に奇跡的な相打ちを達成して周囲をびっくりさせます。
ボールを打とうとするゴルファーの胸中も"too many minds"でしょう。かっとばして同伴競技者たちをあっと云わせよう、これを寄せてバーディ・チャンスを得よう!、このパットを沈めて今日の賭けに勝とう…等々の邪念・欲念が渦巻いていないでしょうか?
われわれも"no mind..."で、心を占領している様々な思いを解き放ち、純粋に「いいショットをしよう!」と考えるべきです。
(November 15, 2021)
●身体を鍛えてスコアを減らす
最近のPGAツァー、LPGAツァー、チャンピオンズ・ツァーなどに随行するフィットネス・ヴァン(運動器具を備えた可動型ジム)は大繁盛だそうです。「飛距離を増す」、「身体の故障を防ぐ」という両方の意味で、プロにとって身体鍛錬は欠かせないものになっています。
しかし、身体の鍛錬はプロだけに必要なものではありません。われわれ素人も、より遠くより正確にボールを打ちたいと思ったら、安定した下半身、強靭な腕力が必要です。
「生体力学的鍛錬ヴィデオ」(http://www2.netdoor.com/~takano/golf/tips_50.html#video )の開発者・Neil Chasanが出版した解説本'Total Conditioning for Golfers'(2000)に、次のような部分があります。
「カリフォーニア州生体力学研究所が、筋電計(筋肉の電気的活動をモニターする最新の医療的研究法)を用い、上級レヴェルのゴルファーのスウィングを調査・分析した結果がある。それによれば、
・腰がスウィングを開始する。それは身体を押すのではなく、身体を引く動きを示した。
・胴体の捻転と柔軟性が非常に重要である。シニアと初心者は、上級者・若いプレイヤーなどの半分しか捻転出来ない。
・身体の中の大きな筋肉がパワーを生む。特に股関節を取り巻く尻の筋肉がそれである。
・肩の回旋筋腱板(肩関節の周囲を取り巻いて支えている帯状の組織、図の四つの筋)の筋肉が重要な役目を果たしている。
分析によれば、ゴルフ・スウィングをする際には、肩の大きな筋肉より回旋筋腱板の筋肉がもっと活発であった。回旋筋腱板の筋肉の強化が必要である。
…ということなどが解明された」
Neil Chasanは、これらの調査・分析結果に対応する鍛錬法として「生体力学的鍛錬ヴィデオ」を考案したのだそうです。彼のプログラムが脚・腰・尻・胴の回転などの運動に重点を置いている理由が解ります。スムーズなスウィングのための肩の運動、首の障害を防止する運動なども取り入れられています。
'The Senior Golfer's Answer Book'(Syd Harriet. Ph.D., Psy.D. and Sol Grazi. M/D., Brssey's Inc., 1999)という二人のドクター(心理学者と医師)の共著によるシニアのための本に、次のような箇所があります。
「ゴルフに役立つ運動をたった一つ挙げろと云われたら、私はクランチ(crunches、腹筋運動)をお勧めする。クランチは、飛距離の源であるバックスウィングにおけるトルク(捻転力)を生み出す。腹筋を鍛えることによって腰痛を予防することにも繋がる。
クランチは、起き上がり腹筋運動の一種だが、床から背中全体を持ち上げるのではなく、首と肩だけを上げるものだ。この動きを、90°に曲げた両脚を椅子にかけたり、90°に曲げた両膝を宙に浮かして行なうことも出来る。両手は胸の上で交差させ、頭・肩を上げたら数秒間静止する。そして、ゆっくり床に戻す。
最初は少ない回数で行なって習慣をつけ、次第に200回を目指す。200回行なうのにはたった3〜5分しかかからない。チャンピオンズ・ツァーのプロの多くはラウンド前にクランチを実行しており、300回行なう場合もある。
こうした運動の秘訣は、単純に習慣化することだ。何らかの事情で一日や二日の間(ま)が空いたとしても、運動を止めてはいけない。逆に、身体が苦痛を訴えたら、無理に継続するのもよくない。その日は即座に中止すること」
腹筋を鍛えるのであれば、当サイトにある「腰痛体操」(http://www2.netdoor.com/~takano/golf/tips_22.html#back)もお勧めです。腰痛の原因は緩んでしまった腹筋ですから、腹筋を鍛えれば腰痛を防止出来ます。この体操にはクランチも含まれているだけでなく、腰痛治療のための様々な腹筋運動が組み合わされています。四股を踏むことでも同じように下半身を強化出来るでしょう。
スキーヤーが行なう脚部鍛錬の運動に、"wall sit"(空気椅子、図)というのがあります。壁に背をつけて立ち、両足は30〜60センチ身体の前方に置く。ゆっくりお尻を下げ、太股が床と平行(水平)になったら静止し、太股の緊張が感じ取れるまで待つ(約30秒間)。これを一日に数回繰り返す。意外にきつい運動です。
当サイトのある読者から、「逆手懸垂によって上腕二頭筋(力こぶを作る筋肉)を鍛錬し、ヘッドスピードが増した」という御報告も頂いています。飛距離を伸ばすには本当は上腕三頭筋(腕を伸ばす筋肉)を鍛える方がいいのですが…。懸垂は公園の鉄棒やぶら下がり健康器があれば、すぐにでも実行出来ます。これはAnnika Sorenstam(アニカ・ソレンスタム)も取り入れていた方法です。
前腕部や手首を鍛える運動は沢山ありますが、脚・腰を鍛える手軽な方法というのは滅多にお目にかかりません。韓国のプロSe Ri Pak(【日】朴セリ)は、修業時代に階段のある道を登り降りしたそうです。あの逞しい脚・腰は鍛錬の賜物であり、世界有数のプロとなる土台になったわけです。無料の鍛錬法の素晴らしい見本です。
2008年と2009年に二年連続ロングドライヴ世界チャンピオンとなったJamie Sadlowski(ジェイミィ・サドロウスキ)の鍛錬法は、メディスン・ボール投げと、かなりきついスクヮット(四股に類似)で上半身・下半身を鍛え、手・腕のスナップ力の増強のためにはホッケーとバドミントンを行なっていたそうです。
以上のどれか(出来れば、上半身と下半身のバランスが取れた運動の組み合わせ)を実行すれば、ウン万円する新しいドライヴァーも必要なく、飛距離は増し、ショットが安定することによってスコアは良くなり、腰痛などの障害を予防することも出来ます。
COVID-19の影響でジム通いを中断しているおかげでめっきり飛距離が減った私ですが、「飛距離を伸ばすトレーニング」(http://www2.netdoor.com/~takano/golf/tips_13.html#hands)で紹介した手・腕の運動(左図)を一日おきに行っている結果として、元の飛距離に戻りつつあります。努力は必ず報われると云っていいでしょう。お腹が弛んで来たのでクランチ、下半身強化のためにwall sit(空気椅子)も実行しています。
【参考】
・腰痛体操 (tips_22.html)
・重たいクラブを振る (tips_123.html)
・75歳で300ヤード打つ秘訣 (tips_130.html)
【おことわり】回旋筋腱板の画像はhttp://aau-jr.com/、crunchesはhttps://www.golfdistillery.com/、wall sitはhttps://www.drstevehowell.com/にリンクして表示させて頂いています。
(December 11, 2021)
●視覚化をマスターしてスコアを減らす
視覚化の究極はパッティング・ラインがレールのように目に見えることですが、そこまで行かなくても、せめて自分がこれから打つボールの弾道(上下・左右)ぐらいは頭の中で見えるようにしたいものです。英語の諺に"Seeing is believing."(見ることは信ずること)というのがありますが、同時に"Believing is doing."(信ずることは実行すること)でもあるのです。「見る」=「遂行」なのです。
英語のゴルフ雑誌、ゴルフ本には"visualization"(視覚化)という言葉が頻繁に登場します。Jack Nicklaus(ジャック・ニクラス)などは打つ/ストロークする前の儀式(プレショット・ルーティーン)として「視覚化」を取り入れています。
視覚化というのは誰しも日常的に行なっていることで、わざわざ「視覚化の仕方」について学ぶ必要はありません。
例1)あなたの居間にいくつ窓がありますか?台所には?寝室には?窓の数を数えるために、あなたは部屋のイメージを心の中に描いた筈です。それが視覚化です。
例2)目の前に小川があるとします。自分が飛び越えられるかどうかは、目から入った川幅の視覚的情報と脳内に蓄えられている自分の跳躍能力のデータを付き合わせた推測にかかって来ます。小川に沿って歩きながら、「ここは幅があり過ぎる。もう少し狭い方が無難。んーと、おお、ここならいいかも知れない」というような判断は、全て自分が跳躍する姿を想像しながら、無理なく川向こうに着地出来る場面が描けるまで続く筈です。この作業が視覚化です。
○ 潜在意識
'Total Conditioning for Golfers' by Neil Chasan (Sports Reaction Productions, 2000)という本に、スウィングの間に使われる筋肉の種類と動きの強さを、スウィングのパート毎(アドレス、トップ、インパクトなど)に分けてグラフ化したものが掲載されていますが、20種類もの筋肉が同時に複雑に動いていて、「スウィングの間に、これら全ての筋肉の動きを把握することは到底不可能である」という説明が添えられています。「百足(ムカデ)が一本一本の足の動きをコントロールしようと考えたら、動けなくなってしまう」という話と同じです。
スポーツ心理学者Dr. Bee Epstein-Shepherd(ビー・エプスタイン=シェパード博士)によれば、「ゴルフ・スウィングは潜在意識による動作」なのです。誰かがひょいとボールを投げて来たら、われわれは脳が手・腕の筋肉に命令を下す前に本能的にボールを受け止める動作をします。机の上からボールペンが転がり落ちたら、ズボンを穿いている男性は両膝を閉じ、スカートを穿いている女性は両膝を開いてボールペンを受け止めようとします。これも潜在意識による動作であり、脳が筋肉に下した命令ではありません。百足(ムカデ)も百本の足のそれぞれの動き(歩幅と角度など)を考えたりせず、無意識に動かしているから歩けるのです。
○ 見たままを得ることが出来る
上記エプスタイン=シェパード博士は、「ゴルファーは潜在意識に目標を与えなければいけない」と示唆します。ボールの着地点、そこへ飛ぶボールの軌道、それを生み出すスウィング…などを脳内にありありと描くことが出来れば、潜在意識はハッキリとゴルファーの意図を読み取り、その使命を達成するための筋肉系統への動作を準備指令します。"One picture is worth a thousand words."(百聞は一見にしかず)という諺は本当である、と博士は云います。
同博士は"What you see is what you get."(見たままを得ることが出来る)というフレーズがゴルフにも当てはまると主張します。この言葉はMacintoshコンピュータが画面に表示されたそのままを印刷出力する機能を備えた時に使われ出したもので、各単語の頭文字を取って"WYSIWYG"(ウィジウィグ)と呼ばれます。エプスタイン=シェパード博士は、この文句を潜在意識との関係に適用します。
ゴルフの"WYSIWYG"は、「脳内で視覚化すれば、潜在意識がその通り遂行する」というものです。逆に、自分が試みたこともないショットは視覚化出来ませんから、潜在意識もお手上げです。視覚化出来ない場合、潜在意識はどう処理すればよいか途方に暮れ、似たような状況を脳のデータベースから引っ張り出し、適当に処理することになります。精密なショット/ストロークが必要な場合に、お役所仕事のように“適当に”処理されたのではたまったものではありません。
○ 何を視覚化するか
Jack Nicklaus(ジャック・ニクラス)は「理想の着地点、そこに向かう理想の軌道で飛ぶボール、そのボールを打つための理想のスウィング…という短編映画を見る(視覚化する)」と云い、「それは池やOBに飛び込むホラー映画であってはならない」と注意を喚起しています。
誰しも1ラウンドに一度や二度は「今日一番」というショットがある筈です。その時、飛び上がって喜んだり仲間に冗談を云ったりするのでなく、フォロースルーの体勢のままやるべき重要なことがあります。ショットの手応え、ボールの軌道、空の色、草の匂い、温度、湿度、風向や強さ、仲間の喚声、自分自身の満足感・幸福感など、その瞬間の全てを脳内データベースに保存するのです。視覚化で呼び起こすべきなのは、その全てです。
ショット(ストローク)する前の視覚化では、ターゲット(着地点。パットならブレイクを見込んだ目標地点)を定めます。ターゲットは曖昧な「フェアウェイの真ん中」などというものではなく、細かく特定しなければいけません。長いショットであれば「バンカーの左10メートル」とか「三番目の木の影の頂点」、パットであれば「カップの右10センチ」あるいは「カップの向こうの壁の左側に枯れた芝が垂れ下がっているところ」などと、出来るだけ焦点を狭めるべきです。
そのターゲットに向かうボールの軌道(高さ・左右の曲がり)も思い描き、過去のベスト・ショットが与えてくれた満足感を思い出します。これによって心と身体がリラックスし、「過去にやったことを繰り返せばいいだけだ」という落ち着きと自信が湧き上がります。
【参考】
・映画を観るように…(tips_5.html)
・視覚化技術向上法(tips_26.html)
・視覚化を超えて(tips_95.html)
【おことわり】LPGAの画像はhttps://golfdashblog.com/、Jason Dayの画像はhttps://s.wsj.net/にリンクして表示させて頂いています。
(December 20, 2021)
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