[Poison]

Crisis at Central High

『アーカンソー物語』

【Part 2】

渦中にいた教師の視点で「学校側の努力を描く」というのも悪くはないのですが、その学校側も主に校長と副校長兼生活指導係(男・女)の三人しか出て来ず、他の教師たちの態度や行動は描かれません。実はこの編入騒動の後、州知事は「市内の公立高校を全て廃止し、私立だけにする」という前代未聞の法案を提出し可決させます。その尻馬に乗って市教育委員会は、市全体の中で人種統合に賛成する教師44人を解雇するという挙に出ます。当時のリトルロックの公立高校に何人教師がいたか知りませんが、多分数百人はいたでしょう。その中の44人しか黒人寄りの考えの教師はいなかったのです。つまり、セントラル・ハイの他の教師の大半は黒人生徒の編入を面白く思っていないか、彼等自身が拒否反応を示したということも考えられます。この映画は、その辺の事情に全く触れません。

この事件の本当の悪の張本人は当時のアーカンソー州知事Orval Faubus(オーヴァル・フォーバス)でした。彼は「私が知事である限り、どの学区にも人種統合を強制しない!」という公約で当選したので、合衆国を敵に廻しても学校の人種統合に反対する腹だったのです(これは深南部のどこの知事にも見られた傾向でした)。彼は「黒人生徒に危害を加えようという動きがある」とデマを飛ばし、黒人生徒を護るためという大義名分で州兵に命じて黒人生徒たちをセントラル・ハイに入れまいとしました。その行動が連邦裁判所から「違憲である」とされても、「政府の腰抜けは『違憲である』と云うだけで、何も出来ない」とうそぶきました。

知事の態度に腹を立てたアイゼンハワー大統領が空挺部隊を派遣してセントラル・ハイを“占領”すると、「州の自治権の侵害である」と世間に訴えました。こういう知事に投票する人種差別主義者が多かった頃ですから、知事の人気は上がる一方。この知事は「セントラル・ハイ母親連盟」という差別主義者の団体の後ろ盾となり、生徒たちの黒人生徒いびりを奨励しました。この信じられないような知事の存在もこの映画にはありません。原作には上のような話がちゃんと出て来るんですが。

無い物ねだりばかりですが、映画は綺麗事の部分が多過ぎるような気がします。

公民権運動・史跡めぐり

(December 09, 2004) 【改稿】





Copyright (C) 2004-2011    高野英二   (Studio BE)
Address: Eiji Takano, 421 Willow Ridge Drive #26, Meridian, MS 39301, U.S.A.