July 01, 2022
● フル・フィニッシュを目指せ
17年もかけて100人以上の男女ツァー・プロのスウィングを撮影・分析し、それらの最大公約数をまとめた本のエッセンスを紹介するシリーズの最終回。
'Swing Like a Pro'
by Dr. Ralph Mann and Fred Griffin (Broadway, 1998)
本書でフィニッシュについては以下のように書かれています。
「バックスウィングの際には身体のフルターンを可能にするため、ごく僅かに左踵が浮く。逆にダウンスウィングでは右脚・足がターゲットに向かって突進し、さらに爪先で立った右足は前方にスライドする。これは小さな動きだが、偉大なプレイヤーたちに目立つ特徴である。
インパクト~フォロースルーの段階までは頭を上げずにその高さを維持すること。
プロたちは左右の手首を返したりしない。100 mph(約45 m/s)の早さの動作の最中に、手首を返してクラブフェースをスクウェアにするなどということは人間業ではない。不正確なショットへの招待状である。
クラブフェースをスクウェアにしてボールに当てようなどという意図的な動きをしないこと。両脚、上体、両手・両腕が正しく動けば、身体部品による努力など必要なく、クラブフェースは自発的にスクウェアになるものだ。
一般によく『インパクト後、すぐ左肘を折れ』と云われるが、トップ・プレイヤーたちのスウィングを研究すると、それは不可欠なものではないことが分る。
また『頭を下げ続けろ』とも云われるが、上体の動きにつれ頭は回転する。頭を下げ続けると、上体の自由が失われフル・フィニッシュは不可能になる。
頭をスウィング初期の位置に留めつつ、腰をターゲット方向に移動させれば、身体はリヴァースC("C"の文字を裏返しにしたカーヴ、左図)を描く。この姿勢は誰にとっても必要なものだ。これを反り返ったポーズと混同してはならない。頭が元のボールの位置に留まり、腰が遥か前方に動いた結果であって、上体を後方に戻すのとは完全に異なるものである。
最高のフィニッシュの特徴は、身体の各部品それぞれが適切に(どれかが出しゃばったり引っ込んだりせず)重要な役目を果たし、スピード・優雅さ・技術的技量などの美的融合による素晴らしい結果である。
両腕の勢いによってクラブは身体の背中に巻き付く。これは両手がいかに速く動いたかの証明である。
フル・フィニッシュでは、両方の膝と腰は全てターゲットを向き、上体はターゲットのほぼ90°左を向く。
最高のフィニッシュを言葉にすれば『完璧なバランス』である。凄まじい勢いの動作が完結した後、ちょっとやそっと押されてもびくともしない安定したポスチャーが望ましい」
私のフィニッシュはクラブヘッドが身体の背後に行けばいい方で、多くの場合ターゲットに向かって両手を突き出すようなものでした(右上図の右から二番目)。これは良く云えばカナダの異才Moe Norman(モゥ・ノーマン、1929~2004)もどきのフィニッシュではあるのですが、クラブ・シャフトが首に巻き付くようなフィニッシュ(図の右端)に較べると勢い不足、パワー不足と云われても仕方がありません。LPGAツァー・プロたちのほとんどは最初の写真のようにシャフトが首に巻き付き、右肩はターゲットに向き、クラブヘッドも背中越しにターゲットを指すようなフィニッシュをしています。
Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)はどうだったかと調べてみると、彼もクラブシャフトが首の後ろを叩くようなフル・フィニッシュをしていました(右の写真)。さすがです。
遅ればせながら室内で重く短い練習用クラブを振って、プロのようなフィニッシュが身につくように練習を始めました。しかし、本番になるとなかなかこういうフィニッシュになりません。唯一、この本の筆者たちが説く「2秒でスウィングせよ」(6/20)を実行するとフル・フィニッシュ出来ることに気づきました。速いスウィングだと勢いがつくため途中で止まれないのです。
【シリーズ目次】
・'Swing Like a Pro'(プロのようにスウィングせよ)[本の紹介]
・ニュートラル・グリップはなぜいけないのか?(tips_203.html)
・アップライトにアドレスすべき理由(tips_203.html)
・アドレスで決まるショットの成否(tips_203.html)
・正しいバックスウィングの手順(tips_203.html)
・スウィングのトップで為すべきこと(tips_203.html)
・プロ的切り返しをすべし(tips_203.html)
・ダウンの開始で右肘を引き下ろせ(06/04)
・ 飛距離に必要な角度は45°である(06/12)
・ 2秒でスウィングせよ(06/20)
(June 12, 2022)
●Swing Like a Pro'(プロのようにスウィングせよ)の教訓
私がドライヴァーを打つ時はもともとストロング・グリップでしたし、アップライトに構えてもいました。しかし、《オープン・スタンス、オープンな肩》は(知ってはいましたが)さほど気に留めていませんでした。この本を読んでから必ずアドレス時に実行しています。そして、その恩恵にも与っています。
バックスウィングからトップへの体重移動と両手の動きも、まあ過不足なく出来ていたと思います。
最初の衝撃は、《ダウンの開始で右肘を引き下ろせ》【パート7】というものでした。これはこの本によって初めて知ったことです。こうすることによってスウィング軌道をフラットにし、それが同時にインサイドからのインパクトに繋がるのでクラブヘッドがスクウェアになります。
Sergio Garcia(セルジオ・ガルシア、左図)の急角度のダウンスウィングの秘密はこれだったのです。昔、彼の急降下するクラブに驚嘆したものですが、《ダウンの開始で右肘を引き下ろせ》を実行すればいとも簡単に“ガルシアもどき”になります。よく見ると、ガルシアのクラブも背後にフラットに降下しています。
最近、たまたまBen Hogan(ベン・ホーガン、写真)のヴィデオを見る機会がありました。Ben Hoganもダウンスウィング開始に当たって右肘を身体の右側面にくっつけ、(縦にではなく)背後からかなりフラットな軌道で振り下ろしています。ここで面白いことに気づきました。Ben Hoganの場合、左腕が地面と平行の地点を過ぎているというのに左腕とクラブシャフトが作る角度は45°以下に見えます。しかし、これは錯覚です。彼は背中の方へクラブシャフトを寝せて(フラットにして)いるから急角度に見えるだけで、実際にはトップで形成したコックの角度のままだと思われます。《飛距離に必要な角度は45°である》を実行するためにコックを強めたりする必要はなく、シャフトをフラットにすればそう見えるのです。もちろん、本当に45°以下にすればより遠くへ飛ぶでしょうが、45°にするためにウェイト・リフティングで鍛える必要はなく、右肘を身体の右側面にくっつけさえすれば誰にでも出来るということです。
Ben Hoganの腰を落としたスクァット姿勢、完全に左足に移した体重も印象的です(唯一、右爪先で地面を蹴っていないことだけが今回のシリーズの趣旨と合っていませんが)。
最大の衝撃は《2秒でスウィングせよ》【パート9】です。私は昔からスローなスウィングをしていて、飛距離よりも正確なショットが出来ることで満足していました。PGAツァー・プロたちの急速なスウィングを見ても、別世界のことだと考えていました。彼らは契約したクラブ・メーカーに義理だてして10ヤードでも余計に飛ばさなくてはならないのだろうし、短いパー4ならワンオンさせる気なのだ…そう思っていたのです。
しかし、この'Swing Like a Pro'によれば、バックスウィング開始からインパクトまでたった1秒であるとのこと。これを真似しろなんて蟻に蚤のように跳ねろ、雀に隼の速度で飛べ、豚に馬のように走れというようなものです。無理難題。とは云え、ゴルフスウィングに勢いが不可欠であることは解りますし、早くスウィングすれば小手先で余計な動きをする時間がなく、いい軌道のスウィングが出来そうな気もします。で、ただいま少しずつスウィング速度を早める努力をしています。いつ《2秒でスウィング》を達成出来るのか見当がつきませんが…。
右手が首に巻きつくような《フル・フィニッシュを目指せ》【パート10】もかねてからの懸案でした。わかっちゃいるけど出来なかったのです。完璧なフル・フィニッシュが勢いのあるスウィングの証明であることは分かっています。山手線の東京駅がトップとすれば、有楽町駅(インパクト)で停まるのではなく、新橋駅あるいは浜松町駅まで振るフィニッシュでなければいけないのです。
課題は山積みですが、山岳縦走と同じで「あの峰に登る、そこを降ると次の峰が待っている」と思わなくてはなりません。目標があるということは楽しいことでもあります。
(July 01, 2022)
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