[Poison] The Yellow Handkerchief
『イエロー・ハンカチーフ』

【Part 2】

[Ribbon]

姉妹サイト『英語の冒険』の「風俗・慣習」に「幸福の黄色いリボン」という記事を掲載しています。アメリカでは出征した兵士の留守家族が写真右のような大きい黄色いリボンを掲げ、写真左のようなマグネット式リボンを車につけています。なぜリボンかには次のような背景があります。

Pete Hamillの原作'Going Home'(1971)に触発された歌'Tie a Yellow Ribbon 'Round the Ole Oak Tree'(樫の木の周りに黄色いリボンを結んで)が大ヒット(1973)。この時点で原作の黄色いハンカチが黄色いリボンに化けてしまいました。「ハンカチーフでは韻律がよくないのと、映画'She Wore a Yellow Ribbon'『黄色いリボン』(1949)の影響もあって黄色いリボンにした」と作詞家は打ち明けたそうです。『黄色いリボン』に登場する若い娘は出陣する恋人の騎兵隊員の無事帰還を祈って黄色いリボンを髪に結んでいました。ですから、現在見られる出征兵士の留守宅の黄色いリボンは、Pete Hamillの物語と映画『黄色いリボン』が合体した慣習と云えます。

その『英語の冒険』の記事の最後の部分を、以下に繰り返させて頂きます。

今回、『幸福の黄色いハンカチ』の筋を振り返ってみて、山田洋次に完全に騙されていた点を発見しました。同じ北海道に住んでいるわけですから【原作では刑務所はニューヨーク州、妻の待つ家はフロリダ州とかなり離れている】、黄色いハンカチを一杯飾るような愛情深い奥さんなら、一年に一回か二回は刑務所に面会に行くか、少なくとも手紙ぐらいは出してもいいところです。そして、「刑期満了も近いわね。お赤飯炊いて待っていますからね」とか云うのではないでしょうか?だとすれば、旦那がびくびくしながら家に戻る必要はないのです。劇的ではありませんが、それが普通でしょう。われわれ観客はすっかり騙されていたのです。観ている時には気づかない、映画のトリックですね。

(July 01, 2011)


【Part 3】

数ヶ月前、私の住む町の図書館に「Pete Hamillの'Going Home'を読みたいのだが」と相談しました。町の図書館に備えてない本でも、全米の図書館のネットワークで本の貸し借りをしてくれるのです。図書館の相談員はそのネットワークに本の捜索を依頼しました。しかし、いい知らせは中々届きませんでした。

「見つかった」と連絡がありましたが、それは本ではなくあるウェブサイトに転載された原作のコピーでした。私が懸命に探して見つからなかったものが、ちゃんとどっかで公開されていたのでした。【参照】http://www.nypost.com/p/entertainment/movies/yellow_from_page_UxLj60H6UIjOYHlJA4aXmO/0 'New York Post'紙に1971年に掲載されたこの物語は、約5,000文字(940語)しかない短いコラムです。

大学生たち(男三人、女三人)が寒く灰色のニューヨークから長距離バスに乗り、暖かいフロリダの海岸を目指す。彼らの前方に寡黙な男が一人座っていた。夜、バスはあるホテルに夕食のために停まるが、男は下りて来ない。大学生たちは、あの男は一体何者なのかと訝る。バスに戻った時、一人の女の子が男の脇に座って自己紹介し、コークを差し出す。男は感謝して受け取るが、話をしようとはせず沈黙している。

翌朝、バスは朝食のためにホテルに停車する。今度は男も下りた。例の女の子が男に自分たちと一緒に座れと勧め、男もそうするが、ブラック・コーヒーを注文した男は、落ち着かない風情で煙草を吸っているだけ。

バスに戻った時、例の女の子がまた男の傍に座る。男(名はVingo)が口を開き、ゆっくり辛そうに自分が刑務所に入っていたこと、家に戻るのだが、妻(と三人の子供)が待っていてくれるかどうか分からないことなどを話す。そして、妻が受け入れてくれれば、樫の木に結ばれた黄色いハンカチーフによるメッセージがあることも…。【後の展開は映画と同じ】

1972年、上の記事は公開された九ヶ月後、'Reader's Digest'誌に転載されました。同年、ABC-TVがJames Eral Jones(ジェイムズ・アール・ジョーンズ)主演でこの物語をドラマにして放映しました。その90日後、'Tie a Yellow Ribbon 'Round the Ole Oak Tree'という歌の著作権が登録され、ミリオンセラーとなりました。

Pete Hamillは著作権侵害でミュージシャンたちを告訴しましたが、弁護側によって彼の書いた物語は民話として既に存在したことが立証され、Pete Hamillは告訴を取り下げざるを得ませんでした。

'Reader's Digest'誌は日本語版も刊行していますから、山田洋次はそれを読んだわけです。

(October 27, 2011)





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