【Part 2】
父娘が住んでいる"mobile home"というのは、地所が豊富な田舎に相応しいものです。本来は引っ越し可能な家なのですが、普通はいったんある地所に設置したら滅多に動かさず、普通の家のように不動産として売り買いされるようです。借地に設置されている場合、地所の権利は別問題となります。映画に出て来るようなMobile Home Parkが、全米には35,000以上あるそうです。普通の家が買えない人、家にお金をかけたくない人などが主な住人。なお、大型のキャンピング・カーで余生を過ごすことに決め、全米を旅して歩く引退者夫婦もいます。旅に疲れたらキャンピング・カーばかりが集まって暮らすRV Park(Recreational Vehicle Park)に定住することも出来ます(場所代、電気・水道代などは必要です)。
主人公が前の町で野球チームのピッチャーだったという設定で、少女の登場も野原で一人でピッチングをする印象的なシーンです。しかし、この設定はその後完全に忘れ去られてしまいます。少年たちの野球シーンは出て来ますが、彼女は絡みません。
ペット・ショップ店員役のDave Matthewsは結構大物のミュージシャンなんだそうですが、この映画の中で弾くギターも歌声も地味で、全然パッとしません。ギターの運指だけは安心して見ていられますが。
雷に怯えた犬が姿を消すのはいいとして、雨の中で犬を探し廻るのがクライマックスというのはちと安易です。少女が「犬は遠くまで逃げ去り、もう帰って来ないのではないか?」と心配だったということでしょうが、犬がどうせ戻ることは見え見えなので、無理矢理ドラマチックにしたという魂胆が見え透いています。犬の捜索は、犬の帰還による喜びのエンディングをもたらす方便となっているに過ぎず、物語に深みを与える要素になっていません。
父Jeff Danielsが娘のパーティに「行くよ」と云っておいて行かなかった結果になっているのは、撮影時のミスだそうです。監督たちは編集室でどう辻褄を合わせるか困ったとか。
父娘は犬を探して町中を歩き廻りますが、場所の数から云うといくら小さな町でも小一時間はかかっているように見えます。通りに人の姿もないことからすると少なくとも午後八時にはなっている印象です。とっくにパーティ参加者は帰ってしまった時刻に思えるのですが、何と全員がCicely Tysonの家に留まっています。これは、観客の時間感覚を無視した編集のミスに思えます。
この映画は日本未公開ですが、ヴィデオは販売されています。その邦題は『きいてほしいの、あたしのこと ウィン・ディキシーのいた夏』という酷いものです。日本でほとんど知られていないグロサリ・ストアの名を使えなかった事情は解ります。しかし、お話は「あたしのこと」よりも「犬のせいで起った大騒動のこと」なのですから、やはり犬主体で考えるべきでしょう。ところで「ウィン・ディキシーのいた夏」と過去形だと犬が死んでしまうようなイメージです。「ウィン・ディキシーと一緒の夏」ならよかったでしょうが…。それにしてもこんな長大なタイトルは、ヴィデオ制作会社のセンスの無さを露呈しています。
(June 23, 2010)