[Poison] Wild River
『荒れ狂う河』

【Part 2】

Montgomery CliftとLee Remickの関係は、大人同士、孤独な者同士のかりそめの情事の筈でした。彼女は、彼がここへ来たのは仕事のためであり、仕事が終われば去って行くことを承知していました。政府の役人で、アメリカ全土を股に掛けて活動する彼もまた、この田舎の子持ち女と結婚する気などさらさらありませんでした。

しかし、Lee Remickは彼が自分の子供二人を可愛がってくれ、子供たちも彼に懐(なつ)いたことを知って考えを変えます。ある夜、彼女はMontgomery Cliftにこう云います。「こんなことは云いたくないんだけど…」。「なに?」とMontgomery Clift。「あなたが仕事を終え、ここを去る時、あたしを連れてって!」Montgomery Cliftは驚きます。そんな前提ではなかったからです。何も云わないMontgomery Clift。Lee Remickにとってそれは予期されたこととは云え、二人の間に愛が芽生えたと思いたかった彼女は、泣きじゃくります。ひとしきり泣いた彼女は、こう云います。「私はあなたが考えているよりずっといい妻になれるわ。あなたのためなら何でもする。子供たちもあなたを愛しているし、私もあなたを愛している。あなたには誰かが必要だわ」

それはMontgomery Cliftにとって図星でした。しかし、彼はまだ結婚には踏み切れません。何も云わない彼に、Lee Remickは「何も云わないで、お願い」と云います。彼が「何と云っていいか分らない」と云うと、Lee Remickは「ああ、その言葉だけは聞きたくなかった。それはノーということと同じよ」と云います。

この辺の男女のやり取りはリアリスティックで素晴らしい。この後、映画はもっとリアリスティックになります。いつの間にか、Lee Remickの家の前に粗暴な男Albert Salmi率いるレッドネックたち大勢が押し寄せていたのです。何人かが屋根に登って足を踏み鳴らし、Albert Salmiはライフルで窓を射ちます。五、六人の男たちはMontgomery Cliftが乗り廻しているTVAの車を転がして川に落してしまいます。シェリフが駆けつけて来ますが、遠くから傍観するだけで暴徒を止めようとしません。Montgomery Cliftは群衆に分け入ってAlbert Salmiに食ってかかりますが、簡単にノックアウトされてしまいます。立ち上がってもう一度勝負を挑みますが、またもやノックアウト。この辺が'Red River'『赤い河』(1948)や'From Here to Eternity'『地上より永遠に』(1953)のMontgomery Cliftと違うリアルさです:-)。

この後が面白い。愛人を殴られたLee RemickはAlbert Salmiに躍りかかって、彼の首に噛み付くのです。Albert Salmiが振り払おうとしても無駄。止むなく彼はLee Remickを殴り飛ばします。群衆は「女を殴るなんて…」と、急にAlbert Salmiを軽蔑し、熱気が冷めて行きます。そこへシェリフが現われ、「みんな家に帰れ」と命じます。

殴られたMontgomery CliftとLee Remickは、泥の中に二人で横たわっています。しばらくしてMontgomery Cliftが上半身だけ起き上がり、泥の中に片肘をついて顔をささえ(かっこいい)Lee Remickを見やって、「ボクは後悔するだろうし、キミも後悔すると思うが…結婚してくれ」と云います。妙な結婚申し込みもあったものです:-)。彼は彼女の「あなたのためなら何でもする」という言葉が嘘でなかったことと、彼女の愛を実感したのです。二人は治安判事のもとに赴き、5ドルの手数料で結婚します。

ついにMontgomery CliftはU.S.マーシャルと作業員たちを率いて、Jo Van Fleetの強制立退きを実施します。Lee Remickも同行。覚悟していたJo Van Fleetは、外出着をまとい、既に身の回りの品もまとめていました。U.S.マーシャルが退去命令を読み上げると、彼女は黙したまま舟へと向いますが、Montgomery Cliftとすれ違う際、「何を待ってるの?」と云います。これは「早く私の家を壊せばいいじゃないの」という嫌味です。彼が作業員に合図し、庭の古木が倒されます。その音に心臓も止まるかという表情のJo Van Fleet。

作業は続き、家に灯油がかけられ、火がつけられます。Jo Van Fleetを対岸まで送って行ったLee Remickが戻り、Montgomery Cliftに「いま、祖母が亡くなったわ」と伝えます。Montgomery Cliftは黙って頷きます。

Montgomery CliftとLee Remickは、子供たちと共に小型飛行機でワシントンD.C.に向います。眼下に広がる巨大なダム。人工湖の真ん中に、まだくすぶっているJo Van Fleetの家が浮かんでいます。

(July 26, 2008)





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