[Poison] Walk on the Wild Side
『荒野を歩け』

【Part 2】

なぜBarbara StanwyckがCapucineにかくも執着するかというと、実は二人はレスビアンの仲という設定なのだそうです。しかし、二人が下着姿で抱き合うわけでもなく「愛してる」とか云うわけでもないので、私にはレスビアンとは到底思えませんでした。

この映画のポスターには「アダルト・ムーヴィ」と大きく書かれています。現在云うところのXXXムーヴィとは違って、「18歳未満お断り」という感じでしょうか。売春サロンのお話なのでベッドは何度も出て来ますが、ベッド・シーンは全く出て来ません。1962年当時の道徳観が分ります。レスビアンにしても売春婦にしても、現在の感覚から云うと「描写されていない」と云うに等しいほどおとなしい映画です。

題材となった世界のいかがわしさとのバランスを取るためか、Laurence Harveyの存在がやけにピュアに描かれています。彼とCapucineが公園を歩いていると辻説教師が彼女を罵りますが、Laurence Harveyは彼女を庇って「人を怖がらせるのでなく、聖書の教えを説け」と真面目にやり返します。これが伏線で、Capucineが娼婦であると知った彼は、聖書にある逸話を自分でも実行すべきだと考えます。それは淫乱の気味がある妻を持った男が、町にいては妻が男に迷うから…と、夫婦で荒野に移り住んだという話でした。「おれも彼女とそうすべきだ」と彼は考えます。つまり、真摯なキリスト教的愛を貫こうというわけです。

しかし、観客は売春婦に身を落とした女性が、そんな真面目な男と一緒になって平和に暮らしていけるなどと考えません。その通り、脚本家(原作のせいでしょうか?)は売春宿の用心棒がLaurence Harveyと揉み合ううちにピストルを暴発させ、都合良くCapucineを消してしまいます。よくある手です。暴発した弾丸というのは、脚本家が扱いに困っている人間に丁度うまく当たることになっています。

台詞の面では、脚本家コンビJohn Fante(ジョン・ファンティ)とEdmund Morris(エドマンド・モリス)はなかなかいいセンスをしています。

CapucineがLaurence Harveyによそよそしく"I'm sorry you found me."(あんたに見つけられて残念だわ)と云うと、彼は"I didn't find you. I found somebody else."(あんたを見つけたんじゃない。見つけたのはあんた以外の誰かさんだ)とCapucineの冷たさを詰(なじ)ります。

CapucineがBarbara Stanwyckの問いに"(He came) All the way from Texas. I'm sorry for him."(彼は遠路はるばるテキサスから来たの。哀れだわ)と云うと、Barbara Stanwyckは"Careful. Pity can be a dangerous emotion."(要心しなさい。哀れみは危険な感情よ)と応じます。これは漱石の『三四郎』で引用されている"Pity's akin to love."(與次郎の訳では「可哀想だた惚れたって事よ」)を連想させる台詞です。

Anne Baxterは傷心のLaurence Harveyに"You don't love me, I know that. But in love it matters not which loves the most. I love enough for two."(あんたがあたしを愛してないのは分ってる。でも、愛にはどちらがどれだけ愛してるかは無関係。あたしが二人分愛してるから問題ないのよ)と口説きます。愛らしい台詞です。

Barbara Stanwyckは「黙って二人を行かせてやれ」と云う夫に、"Can any man love a woman for herself without wanting her body for his own pleasure?"(男って、自分の快楽のために女の身体を欲しがらずに、女をひたすら愛するだけなんて出来るもの?[私はそんなの信じない]」と云います。女の身体を売る売春宿の女主人の信念です。

物語の結末は、メイン・タイトルで歩いた黒猫が再登場し、その足が踏みつけた古新聞に写真入りで報じられている記事によって告げられます。Barbara Stanwyck一味は殺人等の罪で終身刑となり、未成年の証人Jane Fondaは州の保護下におかれました。Laurence Harveyがどうなったのか、Anne Baxterと一緒になったのかどうかは語られません。

アメリカの映画ファンの多くは次のようなことに不満があるようです。
1) リトアニア生まれで英国で俳優となったLaurence Harveyにテキサス男を演じさせたこと。
2) フランスの女優Capucineに"Southern Belle"(南部の令嬢)を演じさせたこと。
3) アメリカ人女優Anne Baxterにメキシコ人を演じさせたこと。
4) 24〜25歳のJane Fondaに未成年を演じさせたこと。
要するに、ミスキャストが多過ぎるという不満です。私はこれらには同意しません。それぞれよくやっていると思います。Capucineの役もフランス人とアメリカ人の混血という設定ですから問題ありません。ただ、この人の演技は冷たく一本調子で、それには不満があります。

(January 09, 2007)





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