[Poison] Oldest Living Confederate Widow Tells All
『南部の風・南軍兵士の妻が語る100年の物語』

【Part 2】

この映画の問題点は、物語の語り手であるAnne Bancroft(=Diane Lane)が経験もしたことのない戦場の回想まですること(Donald Sutherlandが回想するのは可ですが)。これは原作にもあった逸脱なのか、脚本だけの勇み足なのか不明。多分、原作でもこうなっていたのでしょう。脚本家も視点が一定しない問題を認識していたのか、南北戦争の戦闘シーンはごく少なく、Donald Sutherlandの南軍兵士としての存在を納得させるための最小限に抑えられています。TV局としては金と時間のかかる戦闘シーンが少なくて喜んだことでしょう。

「南軍兵士の妻」という題名からすると、妻も南北戦争経験者かと思わされるのですが、Part 1のあらすじでお分かりのように、妻は“戦後”生まれです。単に、南北戦争に従軍した男と結婚した女というだけなんですね。「よど号事件(でも何でもいいのですが)犯人の妻が全てを語る」と云われれば、その女性はよど号事件当時も犯人の妻だったと思いますわね?ところが、事件の後、20数年も経って犯人と結婚した女性だったらどうでしょう?彼女はよど号事件なんか全然知らないのです(生まれてもいなかった)。「よど号事件犯人の妻が全てを語る」というタイトルは嘘ではないものの、ほとんど詐欺に近いものです。この「現存する最高齢の南軍兵士未亡人が全てを語る」という題名も同罪。

ですから、この映画は「南北戦争従軍というトラウマから逃れられぬ男と結婚した女の半生」というに過ぎません。で、その夫はというと、ただ生き残った兵士というだけで、英雄でも何でもないのです。当時13歳の少年兵士に何が出来るでしょう。ただ参加しただけ。しかし、“生き証人”として重要であることに変わりはなく、彼は町の名士であり、生存者が少なくなるにつれ自然に“スター”になります。

そういう夫が妻に与えたものと云えば、不自由のない暮らしと子種と暴力でしかありません。結婚前はともかく、結婚後二人が本当に楽しそうに一緒に何かする様子は(セックスを除き)何も紹介されません。「南軍兵士の妻」である意味はあまり無く、「レッドネックの妻」と云い替えてもよさそうなものです。

Donald Sutherlandが自分が参加した当時の銃を蒐集する意味は分らないではありません。実際には南部のレッドネックは、そういう理由などなしに銃を愛好します。南部人は老いも若きもハンティングが大好きなのです。ミシシッピ州選出下院議員となったある共和党候補は、その選挙ビラに自分が銃を構えている写真と、当時全米ライフル協会会長だったCharlton Heston(チャールトン・ヘストン)夫妻と一緒の写真を掲載しているほどです。レッドネックの票を集めるには銃愛好家であることをアピールする必要があったわけです。その狙いは見事に成功しました。

Diane Laneは女性一般の常で人間を殺傷する道具を嫌います。息子には銃に触ってほしくない。しかし、レッドネックの夫(Donald Sutherland)は「南部の男は銃とハンティングが好きでなければならない」と思い込んでいて、妻の心理など無視します。それどころか、マスコミ数社の求めに応じ、妻を除く一家全員が銃を手にしている写真を撮らせたりします。しかし、妻の銃アレルギーは女性一般の心理だけではなく、女の直感でもあったのでした。夫は黙って長男を連れ出し、鴨猟の方法を教えようとします。何故か銃が暴発し、長男は盲目となってしまいます。

1945年になると、もうDonald Sutherlandはアルツハイマーでまともに人を認識することも出来なくなっています(これは元南軍兵士でなくてもこうなりますが)。それでも、“南軍兵士最後の生き残り”としてマスコミがやって来ます。観光名所となった家で、老いたCicely TysonとDiane Laneが記者たちに土産物を売りつけようとするシーンが可笑しい。

映画の最後は100歳になった主人公Anne Bancroft(=Diane Lane)が町の広場で祝福されるシーン。又もAnne Bancroftは云い淀むこともなく、まるで60歳の映画女優のように(?)すらすらとスピーチします(彼女はミス・キャストですね、結局)。

この映画で印象に残ったのは、Donald Sutherlandが他家のガラス窓を利用して、暗い表情の(娘時代の)Diane Lane相手に二人羽織の趣向で(彼女の脇の下から彼が手を出す)、彼女の歌と彼の手で踊りを見せるシーン。それによって彼女を笑わせ、二人は親しくなります。実はこれは、彼の親友と共に南軍の総帥リー将軍を楽しませた芸でもありました。二人羽織が外国にもあるとは知りませんでした。

Donald Sutherlandが長男に銃を教えるシーンの背後には蒲(がま)が沢山生えています。『大黒様』の白ウサギが穂綿を得た植物。こちらでは"cattail"(猫の尻尾)と呼ばれています(日本の猫の尻尾は長いですが、こちらの猫の尻尾は一般に短い)。私の少年時代、田舎にはどこでも蒲が生えていました。今や、よほど自然が残された地域にしか生えていないでしょう。アメリカの田舎ではあちこちで蒲が見られます。私はそれを見る度、嬉しく懐かしくなります。

Donald SutherlandとDiane Laneが結婚した頃は、彼の家は裕福だったのに、夫婦のベッドがいやに狭い。独身だったDonald Sutherlandのベッドに二人が寝るような感じで、かなりへんてこ。

Diane Laneが鬱病になってクレヨンを食べるのが妙。

「で、この映画は見応えがあるのか?」と聞かれれば、「うーむ」と唸らざるを得ません。「私の評価」の星の数で推察して頂くしかありません。私が☆を一つ半以上つけたら、「もう一回観てみたい」ということです。

(November 23, 2007)





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