[Poison] War Eagle, Arkansas

【Part 2】

障害を持つ思春期の少年同士の友情と葛藤がテーマなのでしょうが、脚本が拙いので巧く描き切れておらず、ただの子供同士のじゃれあいにしか見えません。実話もののほとんどがそうですが、現実に忠実に話を運べば実際に起らなかったことは入れられず、単調な物語にならざるを得ないという悩みがあります。しかし、それにしても事実の選び方に関する智慧というものはある筈です。

主人公Luke Grimesが初めて登場する場面で、彼は打者に対し一球もストライクを投げられずに交代させられます。その後は祖父とのキャッチボールばかりで、試合のシーンはしばらく出て来ません。それなのにスカウトがやって来るというんですから信じられません。彼がそんな素晴らしい投手に見えないからです。主役であり、その後奨学金で都会の大学へ行くかどうか悩むというシチュエーションであれば、観客に彼がかなりの名投手であることを印象づけるべきでしょう。この脚本は非常に拙劣です。

そして、町を出て都会の大学へ行くか、親友のもとに留まるかという悩みも描き切れていません。町に留まるなら就職の心配をすることになるのが普通でしょうが、そんな気配は全然ありません。

祖父Brian Dennehyが突如死んでしまいますが、劇的でも何でもなく、ただ「死にました。これが葬式です」という感じで素っ気なく描かれているので、折角の雨の中の埋葬シーンも何の感慨も湧きません。

エンディングの字幕で、「その後、二人は近くのカレッジに一緒に通った」と説明されます。なーんだ!そんな選択肢があり得たのなら、「町を出るか、親友のもとに留まるか」なんて悩むことはなかったじゃないの!映画の核心は奨学金の話をフイにしても身体障害の親友を捨てなかったという美談であるわけですが、その当時は美談であっても後から考えれば、只の若気の至りの未熟な決断だったということになります。例えばの話、ある母親が「もっと食べたい!」と泣き叫ぶ我が子に自分の夕食を全て与えたら、これは我が身を犠牲にした美談です。しかし、その後母親がそば屋からカツ丼を出前してむしゃむしゃ食ったらどうでしょう。結果的にさっきまでの話は美談でも何でもなくなります。この映画の物語も、私には同じようにしか思えません。

主人公Luke Grimesは親友との友情を回復するため、親友が欲しがっていた天体望遠鏡を買ってプレゼントします。父と子の関係じゃあるまいし、友情に「金や物品」が介在するのは邪道でしょう(事実だったとしても無視すべきポイント)。Luke Grimesが奨学金で大学へ行くのを断念すれば、それだけで友情は回復されただろうと思われます。

こんな映画でも地方映画祭では製作者や監督が賞を得ています。びっくりです。

なお、DVDにはWar Eagleの町の観光案内の短編も含まれているのですが、これを観るとこの町はとても風光明媚で観光地としても非常に魅力的な町作りをしていることが分ります。町の通りや建物もユニークで「行ってみたい!」という気にさせられました。映画の本編では全く窺い知れない部分で、映画だけで「行きたい!」という気にはなれません。War Eagleの町は随分損しています。

(May 11, 2010)





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