[Poison]

The Long Walk Home
『ロング・ウォーク・ホーム』


【Part 2】

開巻間もなくの挿話:Whoopi Goldbergが公園に雇い主の娘ほか二人の白人の子供達を連れて行き、警官から「この公園は白人しか入れない。すぐ出て行け」と云われるシーンがあります。雇い主の奥さんが警察のお偉方に抗議し、件の警官はわざわざやって来てWhoopi Goldbergに謝ります。これは雇い主の社会的地位および、彼と警察のお偉方が旧知だったから可能だったことで、ただの一般市民であれば警官が謝るという結果にはならなかったでしょう。

Whoopi Goldbergの娘がバスに乗るシーンがあります。これは、単に不良達が彼女をいびり、暴力を奮っているところへ弟が助けに来るというアクション・シーンに化けてしまい、母の苦労を無視した娘の後悔とかWhoopi Goldbergの無念さとなっていません。

上記二つの挿話は差別と迫害の実態を紹介する数例にはなっていますが、バス・ボイコットと深く結びついていないうらみがあります。

そもそも、人々によるバス・ボイコットのディテールがほとんど描かれていません。歩く人々の様々な姿と空っぽのバスの対比は感動的だと思うのですが、歩く人々が描かれていないのです。疲れて道端に座り込んでいる老人の姿などがあるべき筈なのに、ゼロです。空席の多いバスの車内から見た歩く人の列…というものもありません。この監督はイマジネーションが不足しています。もともとは'Woodstock'『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間』の撮影を担当したカメラマンの一人だったわけですから、ドキュメンタリー畑の筈なのに、駄目ですね。

観客の共感を呼ばなくてはならないWhoopi Goldbergですが、何故か素直じゃないような人柄に描かれています。例えば、雇い主の家に着いても「お早う」の挨拶もしない。主人が「メリー・クリスマス!」と云えばこちらも「メリー・クリスマス!」と応じるのが普通なのに、無言のまま。脚本が悪いにしても、現場で監督が足しゃあいいじゃないですかねえ。大体、この映画のWhoopi Goldbergはムッツリ、押し黙っているばかりで、こちらが感情移入出来ません。

この映画公開時の評判については知らないのですが、容易に想像出来る気がします。白人の雇い主の奥さんの行動が美化され過ぎているということと、黒人達の運動なのに白人のサポートの比重が多過ぎるということ。また、この奥さん一人だけが理解者であったかのような描き方。かくして、この映画は白人からも黒人からも批判されたのではないでしょうか。最後に差別主義者に囲まれた時も、Whoopi Goldbergのリーダーシップが感動を与えるというより、白人女性が黒人達の列に加わるということの方が感動的に描かれています。

いずれにせよ、この運動は事実あったことで、翌1956年11月連邦最高裁は「バスの人種隔離は違憲」という判決を下しました。その後、差別主義者によって四つの黒人教会、二軒の民家が爆弾で破壊されたそうです。しかし、アラバマの黒人達が勝ち得た成果は、この後全米の各州に影響を与えて行くことになりました。

(March 19, 2001)





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